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第五章 アルク野獣の森
第255話 野獣の森ラスボスその1
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「なんだキサマラ」
「帝国軍は亜人の村へ進軍中だ。
関係ないモノはどいていろ」
「そりゃ、こっちのセリフだよ」
「この先には帝国軍が用事の有る様な場所はありませんよ」
帝国兵士500名。
その前に立ち塞がるのは二人の男。
侍剣士タケゾウと弓士ムゲンである。
「この先の亜人の村に用が有るのだ」
「冒険者に用は無い、どいていろ」
「それなんだよな。
亜人の村に何の用件なんだ」
「それを聞かなければ通す訳にはいきませんね」
兵士は呆れる。
小声で囁く。
何をカンチガイしてるか知らないが。
「あのな、悪いコトは言わん。
逃げとけ、こちらは帝国軍三個中隊だぜ」
「率いてるのはムラード大佐だ。
冒険者に気を使う様な男じゃねえ。
素直に逃げときな」
現場の兵士達だ。
なかなか話の分かりそうな真っ当な雰囲気の兵士達。
「何だ! 何を止まっている?」
あちゃ、兵士達は目を見合わせる。
下士官、貴族のバカどもが出てきちまった。
「なんだ、どうしたのだ」
「なぜ進軍を止めている」
タケゾウとムゲンの視界に現れたのは今までとは違う男達。
先ほどまで話していたのは軍人としての苦労もして来たであろう中年男。
今しゃしゃり出てきたのはピカピカの制服に苦労を知らぬげな若い男達。
現場の兵士達は下士官に敬礼姿勢で答える。
「はっ、一般人と接触しまして」
「今、どいて貰うよう交渉していた処です」
下士官はタケゾウを見ながら言う。
「一般人? 武装してるではないか」
「亜人じゃないのか」
「クツクック。脱がしてみたらどうだ。
亜人どもは獣との混血だからな」
「どこかに尻尾でも隠しているかもしれんぞ」
居丈高な若い下士官が四人。
兵士達はその後ろで目を見合わせる。
あーあ。
逃げちまえと言ったのに。
俺達はもう知らんぞ。
ガタン。
いきなり倒れる。
下士官の男達だ。
タケゾウの正面に居た男が二人座り込んでいる。
顔は青ざめ冷や汗を流している。
座り込んだ男の後ろに居た別の下士官が言う。
「おい、どうした?」
「……今、俺は斬られた……」
「俺の腕が切れて落ちたんだ……」
「何を言ってるんだ?」
下士官は訝しむ。
座り込んだヤツらは何を言ってるのか。
彼等はケガもしていない。
へたり込んでるだけだ。
原因はあの男か。
正面に立つ剣を二本下げた男。
剣を鞘から抜いてさえいない。
しかしコイツが何かした。
「キサマ、何かしたな!」
剣を持った男に下士官は言う。
槍を男に向ける。
その瞬間だった。
男から何かが飛んできた。
刃。
斬られた。
そう思った。
剣が疾風の様に飛んできた。
自分の胸がバッサリと斬られた。
血しぶきが上がった。
胸元からこの出血。
もう助からない。
膝を折って倒れ込む。
その視界に入る剣を持った男。
何かが変だ。
この男は剣を抜いていない。
男の剣は二本とも鞘に納められたまま。
自分の身体を見てみれば。
赤くなどなっていない。
体から飛んだ血しぶきで真っ赤に染められた筈の軍服。
黒くシワも無いまま。
切り傷など微塵も無いのだ。
しかし。
下士官は立てない。
斬られた、その記憶が鮮明に残っている。
胸元から今も血が流れている気がする。
精神が納得しない。
立ち上がろうとすることが出来ない。
「ほほう、前の剣気とは一味違いますね」
「ああ、ちっとばかりムカついちまったんでな」
ムゲンは訊ねる。
目の前の帝国兵士は倒れたまま動けずにいる。
タケゾウだ。
この男が剣気を飛ばしたのだ。
しかし以前ケロ子さんに使ったオドシのための物とは違う。
もっと凶々しい。
「ここまでやるとな。
本当に斬られた気になって自分の心臓を止めちまうヤツまで出て来る。
だから普段は抑えてるのさ」
タケゾウが言う。
ムゲンは座り込む帝国兵士に目をやる。
下士官だろうか。
若くて威圧的な態度が身に付いていた男。
下半身が濡れている。
ズボンのシミは大きくなる。
座り小便をしたらしい。
「帝国軍は亜人の村へ進軍中だ。
関係ないモノはどいていろ」
「そりゃ、こっちのセリフだよ」
「この先には帝国軍が用事の有る様な場所はありませんよ」
帝国兵士500名。
その前に立ち塞がるのは二人の男。
侍剣士タケゾウと弓士ムゲンである。
「この先の亜人の村に用が有るのだ」
「冒険者に用は無い、どいていろ」
「それなんだよな。
亜人の村に何の用件なんだ」
「それを聞かなければ通す訳にはいきませんね」
兵士は呆れる。
小声で囁く。
何をカンチガイしてるか知らないが。
「あのな、悪いコトは言わん。
逃げとけ、こちらは帝国軍三個中隊だぜ」
「率いてるのはムラード大佐だ。
冒険者に気を使う様な男じゃねえ。
素直に逃げときな」
現場の兵士達だ。
なかなか話の分かりそうな真っ当な雰囲気の兵士達。
「何だ! 何を止まっている?」
あちゃ、兵士達は目を見合わせる。
下士官、貴族のバカどもが出てきちまった。
「なんだ、どうしたのだ」
「なぜ進軍を止めている」
タケゾウとムゲンの視界に現れたのは今までとは違う男達。
先ほどまで話していたのは軍人としての苦労もして来たであろう中年男。
今しゃしゃり出てきたのはピカピカの制服に苦労を知らぬげな若い男達。
現場の兵士達は下士官に敬礼姿勢で答える。
「はっ、一般人と接触しまして」
「今、どいて貰うよう交渉していた処です」
下士官はタケゾウを見ながら言う。
「一般人? 武装してるではないか」
「亜人じゃないのか」
「クツクック。脱がしてみたらどうだ。
亜人どもは獣との混血だからな」
「どこかに尻尾でも隠しているかもしれんぞ」
居丈高な若い下士官が四人。
兵士達はその後ろで目を見合わせる。
あーあ。
逃げちまえと言ったのに。
俺達はもう知らんぞ。
ガタン。
いきなり倒れる。
下士官の男達だ。
タケゾウの正面に居た男が二人座り込んでいる。
顔は青ざめ冷や汗を流している。
座り込んだ男の後ろに居た別の下士官が言う。
「おい、どうした?」
「……今、俺は斬られた……」
「俺の腕が切れて落ちたんだ……」
「何を言ってるんだ?」
下士官は訝しむ。
座り込んだヤツらは何を言ってるのか。
彼等はケガもしていない。
へたり込んでるだけだ。
原因はあの男か。
正面に立つ剣を二本下げた男。
剣を鞘から抜いてさえいない。
しかしコイツが何かした。
「キサマ、何かしたな!」
剣を持った男に下士官は言う。
槍を男に向ける。
その瞬間だった。
男から何かが飛んできた。
刃。
斬られた。
そう思った。
剣が疾風の様に飛んできた。
自分の胸がバッサリと斬られた。
血しぶきが上がった。
胸元からこの出血。
もう助からない。
膝を折って倒れ込む。
その視界に入る剣を持った男。
何かが変だ。
この男は剣を抜いていない。
男の剣は二本とも鞘に納められたまま。
自分の身体を見てみれば。
赤くなどなっていない。
体から飛んだ血しぶきで真っ赤に染められた筈の軍服。
黒くシワも無いまま。
切り傷など微塵も無いのだ。
しかし。
下士官は立てない。
斬られた、その記憶が鮮明に残っている。
胸元から今も血が流れている気がする。
精神が納得しない。
立ち上がろうとすることが出来ない。
「ほほう、前の剣気とは一味違いますね」
「ああ、ちっとばかりムカついちまったんでな」
ムゲンは訊ねる。
目の前の帝国兵士は倒れたまま動けずにいる。
タケゾウだ。
この男が剣気を飛ばしたのだ。
しかし以前ケロ子さんに使ったオドシのための物とは違う。
もっと凶々しい。
「ここまでやるとな。
本当に斬られた気になって自分の心臓を止めちまうヤツまで出て来る。
だから普段は抑えてるのさ」
タケゾウが言う。
ムゲンは座り込む帝国兵士に目をやる。
下士官だろうか。
若くて威圧的な態度が身に付いていた男。
下半身が濡れている。
ズボンのシミは大きくなる。
座り小便をしたらしい。
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