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第三章 亜人の村はサワガシイ

第200話 亜人の村 転章

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母なる海の女神教団。
その聖都と呼ばれる街、テイラーサ。
ここには大陸最大の神殿がある。
教団本部の建物や聖女の塔も有るのである。


今日は教団で定期的に開かれる儀式の日。

多くの教徒が集まっている。
神殿は大入り満員。
すでに儀式は終わろうとしている。

大教皇様が挨拶をし、全員で祈りを捧げた。
女神様への聖歌が歌われ、音楽が演奏された。
聖女様による回復の義。
教徒たちの前で、重傷者が見る間に回復していく。
目を見張る教徒たち。
感極まって泣いている者もいる。

この後は聖女が女神へ祈りを捧げる。
大教皇が締めの言葉を言って終わりだ。

しかし。
聖女の付き人が騒いでいる。
聖女エンジュ、その側女の三級神官が大教皇に訴えているのだ。

「大教皇様。
 おかしい、おかしいんです」
「落ち着き給え。
 今エンジュが祈りを捧げたらもう儀式が終わる。
 それまで待つんだ」

「そのエンジュです。
 あれはエンジュじゃないんです」
「……何だと?!
 何を言ってるんだ」

この三級神官は確か、カリンとか言ったか。
聖女エンジュの願いで特別に付き人となった筈。
エンジュにも年齢相応の女性友達の一人くらいはいてもよかろう。
そう思って許可した娘だ。
雰囲気こそ子供っぽいがなかなかしっかりした娘だった。

「雰囲気が、話し方がエンジュじゃない。
 まるで別人なんです」

そう訴えるカリン。

しかし既に聖女エンジュは壇上に上がってしまった。

教徒たちの前で女神に捧げる祈りを唱える場面。


「おい、私に続け」

大教皇は周囲の男達を連れて壇上へ進む。
ただ事じゃない。
傍観して見ている場面じゃない。
そんな雰囲気を感じ取ったのだ。
場合によっては力で聖女を抑える。


教徒達の視線が聖女に集中する。

テイラーサ近辺に住み、毎回儀式に参加してる者。
遠方からわざわざ儀式に一度は参加しようとやって来た若者。
年老いて、生きてるうちにこの目で聖女を拝みたいと訪れた老人。
さまざまな視線が聖女エンジュに注がれる。

彼女は壇上で言った。

「ヤッホー。
 元気でやってるかいなー。
 みんなの女神様、ティアマーさんやでー」


「聖女を取り押さえろ」
大教皇は小声で指示を出す。
会場の教徒には聞こえない声。
しかし。
周りの男達はぼうっとしている。


「みんなー、いい知らせがあるんや。
 『海底に眠る都』が久々に動き出したんや。
 迷宮やでー。
 迷宮が増えたんやー。
 冒険者に伝えといてー。
 探してーな。
 せっかく動き出したんや。
 冒険者が来てくれんとしょうもないからなー」

教徒達がざわつく。
聖女様は何を言っている。
迷宮?
迷宮が動き出した。


大教皇は自ら動く。
エンジュに近付こうとする。

しかし見てしまった。
エンジュ、神官の衣を着た少女。

それに重なる人影。
薄い衣を幾重にも纏った髪の長い女性。

目の前の少女からは青い光が発せられている。


「そいでなー。
 『海底に眠る都』を動かすのに助けてもろたんや。
 ショウマはんて名のニィさんや。
 『野獣の森』近くにおるわ。
 亜人の村で聖者サマと呼ばれとる。
 ウチ借りがあるんや。
 みんな恩返ししたってやー」

「以上やで。
 ほな、まったなー」

セリフが終わるとエンジュは壇上で倒れ込んでいた。

三級神官カリンが慌てて近寄る。
彼女を抱き起している。

大教皇はいつの間にか額に浮かんでいた汗を拭う。
今の人影は……まさか……


教徒達はざわつく。

「……今のはいったい?!」
「なんだったんだ」

「女神様だ、オレは見た」
「聖女様に重なって光り輝く女神様」

「間違いない。母なる海の女神様だった!」

何を言ってるかは良く分からなかったが。
神の言葉だ。
簡単に人間には意味が分からないモノなんじゃないか。
女神様の言葉よ。
女神、ティアマー様。

ショウマ。
『野獣の森』近くの亜人の村にいる。

聖者様。
女神様が聖者と認めた男。
聖者のために何かしなくては。

そんな言葉が無数の人間達の間で語られる。

壇上から教徒達の言葉を聞いている大教皇。
これは……既に……私でも止められない……
いや、本当に女神様の意志ならば、止めるべきでは無い。


そんな事が起きてるなんて、ショウマはもちろん気付いて無かった。






















ここまで読んでいただいた皆様
ありがとうございます。

ここで第三章、終わり。
四章は少し趣向を変えて、番外編的エピソードをお送りします。
楽しんで戴ければ。

ご意見、ご感想お待ちしてます。
文句やリクエスト等も是非。
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