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第四章 地底大迷宮と暴走する英雄と竜の塔と鋼鉄の魔窟と

第223話 三又根食肉植物その7

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「あーっはっはっはっはっ」
レオン王子が聖剣を振り回す。

『疾風居合』
侍剣士キョウゲツがツタを切り割く。

「喰らえっ」
弓士カトレアが矢を放つ。

重戦士ガンテツは様子見。
戦鎚で殴れる距離まで近づいたら混乱の花粉にやられかねない。
もしもレオン王子が混乱にやられて、こちらを攻撃してくるようなら取り抑えないと。

しかし、王子は暴れている。
三又根食肉植物トリフィド”に向かって。
聖剣を植物型魔獣に突き刺す。
火の玉を飛ばす。
「あーっはっはっはっはっ。
 ぎゃーっはっはっはっはっ」


Wowowowowwowoooo!woooooo!

三又根食肉植物トリフィド”は音を立てて倒れた。
デカイ植物魔獣が消えていく。

レオン王子の活躍である。
火魔法に似た攻撃を多用したのも良かったのだろう。
普通、植物は火に弱い。


カトレアが危惧したよりメンバーのダメージは少ない。

三又根食肉植物トリフィド”のツタ攻撃はキョウゲツが全て切り落した。
混乱にやられた女重戦士ビャクランも気絶からしばらくすると醒めた。
同時に混乱からも覚醒したらしい。

大ダメージを喰ったのは、ジョウマ大司教にぶっ飛ばされた付き人の二人くらい。

「いや、オレもヒドイ目にあったすよ。
 というか一番ボコボコにされたのオレッす。
 カトレアちゃん、慰めてくださいっすよ」

もう回復してもらってるじゃんか。
メナンデロスの顔には傷も残ってない。

ジョウマ大司教も倒れちゃいるがケガは無い。
「すぴー、ぐがー」
のんきにいびきをかいてやがるのだ。

大地の神は父さんだよ教団の二人は気を失っていたが女神官が回復させた。

「はっ」
「ここは」

もともと頑丈な筋肉ダルマ達だ。
天井までぶっ飛ばされたけど大したケガじゃない。



「そこの二人。
 ここに立て!」

『名も無き兵団』のイヌマルが厳しい声を上げる。
顔が険しい。
明らかに怒っている。

「はいっ」
「はいっ」
二人は直立不動になる。
目の前の武道家の男に気圧される。
この男はあのジョウマ大司教とマトモに拳を交わして立っている恐るべき手練れなのだ。

「私も大地の神は父さんだよ教団で修行した同門だ。
 私の方が兄弟子になるだろう」

「兄弟子としての質問だ。
 心して答えよ。
 嘘は許さん、いいな」

「はいっ」
「はいっ」

「ジョウマ大司教が“迷う霊魂レイス”を倒したと言う噂は本当か?」

「……そっ!……」
「……それは!……」

「先ほど拳を交えてわかった。
 大司教は肉体は間違いなく鍛えておられる。
 身体能力はこのお年でも冒険者として通用するだろう」

「しかし精神は鍛えておられない。
 自分の知らない特殊なスキルでもお持ちなのかと思ったが、
 そんな様子も無い」

「“迷う霊魂レイス”は物理的攻撃は効かない魔獣の筈だ。
 大司教おひとりで何体もの“迷う霊魂レイス”を倒せるとは思えない」

「……お前達、その動揺っぷり。
 なにか知っているな。
 洗いざらいここで話せ」

イヌマルの気迫の込められた言葉に逆らえない二人だ。 

二人は全て暴露した。
大地の神は父さんだよ教団の教徒を増やすため。

迷宮都市では『天翔ける馬』と“迷う霊魂”を倒した何者かが話題になっていた。
どちらも正体不明。
『天翔ける馬』関してリーダーはショウマという名前らしいと噂が有った。

大司教はジョウマという名前。
そこで閃いたのだ。
迷う霊魂レイス”を倒したのはジョウマ大司教。
そんな噂を流してみよう。
冒険者としてのチーム名を“天駆ける馬”にしてみる。
単に注目を浴び、人々の目を向けてもらうだけのつもりだったのだ。

大地の神は父さんだよ教団は素晴らしい。
きっと注目さえ浴びれば、その素晴らしさを分かってもらえる。
それだけで悪気は無かったのだ。

二人は平身低頭して言った。



「なんだ、なんだなんだ。
 “迷う霊魂”を倒した冒険者じゃ無かったの」

「ガッカリだね、ガッカリガッカリ」

レオン王子はつまらなそうに言った。
騙されて怒ってる風ではない。


「まあ収穫はあったよ。
 侍剣士キョウゲツの剣技も見れたし。
 重戦士ガンテツ、ビャクランの攻撃力も。
 武闘家イヌマルの力も、弓士カトレアの技の冴えも。
 始めて見る“三又根食肉植物トリフィド”とも戦えた」

「はい、王子。
 では引き上げましょう」
「それがいいっす。
 帰るっすよ」

ブルーヴァイオレットは言う。

王子が駄々を捏ねないうちにサッサと帰ろう。
18階まで行こうと又言い出されたら面倒くさい。
帰れる雰囲気のウチに早く引き上げよう。

カトレアは若干フに落ちない。
キョウゲツの剣技を見た~?
お前!暴れてるだけで他の冒険者なんか目もくれてなかったじゃんか。


「キサマラ、なんと愚かな事を。
 ジョウマ殿も。
 大司教という身に有りながら。
 この事は教団本部に報告する。
 キサマラは一度、教団に帰れ」

イヌマルは二人と大司教に対して怒り心頭である。


カトレアはイヌマルに教えてもらった。
大司教はやはり一番エライ訳じゃないらしい。

普通に教団で働いてるのが1級神官から3級神官。
司祭、助祭とも呼ぶらしい。
その上に司教がいる。
中でも偉い人やベテランなのが大司教。
司教、大司教から選ばれた代表者が枢機卿。
その上、最高位が教皇という事になるらしい。
教団や宗教によっても呼び方や仕組みは違うが基本はそんなカンジのようだ。

ってことは大司教は3番目くらいにエライ人。
なんだ。
大したことないな。
納得するカトレアだ。
その下に何人くらい人がいるのか、そこまでは考えない。

イヌマルは教団本部で修行した事が有る。
その頃からジョウマ大司教は筋肉の鍛錬こそ怠らないが精神修行が足りない人物として悪評が有ったらしい。

そんなの外に出すなよ。
迷宮都市が迷惑すんだろ。
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