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第四章 地底大迷宮と暴走する英雄と竜の塔と鋼鉄の魔窟と

第220話 三又根食肉植物その4

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そうだ、今回は神官がいる。

「神官ちゃん。
 神聖魔法で状態異常は何とかなんないのかい?」

カトレアは弓を放ちながら訊いてみる。

「私はランク2『休息の泉』まで使えます。
 ケガや状態異常のマヒなら治るんですが、
 毒は治せません。
 混乱に関しては試した事ないです」

効果が無いとは限らないってコトか。

「じゃあ、試してみてよ」
「分かりました。
 やってみます」

女神官は素直に言う。


『休息の泉』


辺りにフワッと柔らかい空気が流れた気がする。
ボコボコに殴られてたメナンデロスの顔の腫れた部分が引いていく。
カトレアも疲れてたのが少し回復した気がする。

しかし、ビャクランもジョウマ大司教も正気に戻らない。
ビャクランはガンテツと斧を奪い合ってる。
筋肉ジジィはメナンデロスの回復した顔をまたボコボコと殴りつけていく。

「ダメみたいです」
「うーん。
 しょうがないね。
 神官ちゃんは頑張ったよ」

「はいっ、ありがとうございます」

カトレアと女神官は和やかに会話する。

メナンデロスは横でボコボコにされてる。

「ちょっ、マジでいい加減助けてくださいよー」

メナンデロスは音を上げる。

このジジィ、本気でパワーだけはハンパじゃない。
鉄拳が降ってくるのだ。
並の拳では無い。
大地の神は父さんだよ教団で鍛えた拳。
魔獣を素手で殴りつけて成仏させる凶器。

拳の振られる方向にタイミングを合わせて動かす。
喰らうダメージを最小限に殺す技術。
打点をズラして急所には喰らわないようにする。
メナンデロスならではの芸当。

そんな芸当もそろそろ限界。
下から腹筋で跳ね上げ、なんとか態勢を変えようとする。
しかし筋肉ジジィはビクともしないのだ。

やばい。
モロに喰らったらあの拳はメナンデロスの骨くらいは叩き折るだろう。
ジジィが拳を振りあげる。

誰かが拳を受け止めていた。

「うぬ」
筋肉ジジィが振りほどこうとする。
メリメリッと上腕二頭筋が音を立てて盛り上がる。
並の人間の太腿を越える太さの腕。

しかし腕は動かない。
「むう」
大司教と受け止めた男は睨み合う。

受けて止めた人物は。
その男も鍛えられた肉体をしている。
武道家イヌマルであった。

「ジョウマ大司教!
 大司教ともあろうものが情けないですぞ」

 
キョウゲツはツタを全て切り払っている。

「キリが無いでござる」

いくらツタを切り落としても、またツタが向かってくる。
三又根食肉植物トリフィド”から伸びてくるのだ。

「本体を何とかしないと終わらないでござる」
「やめろ、キョウゲツ!
 “三又根食肉植物トリフィド”に近付くんじゃねえ」

ガンテツがビャクランと揉み合いながら言う。

「そうだよ、キョウゲツ。
 アンタが混乱にやられたら、シャレになんねー」

カトレアも言う。

「ちょっと待ちな。
 ウチ、試してみる」


『気絶の矢』


相手が状態異常を使ってくるならこっちだって。

カトレアは敵を気絶させる矢を放つ。
あまり使ったコト無いスキル。
敵を動かなくはさせるがダメージを与える事は無い。
まだるっこしいのだ。
どうせ攻撃するならダメージを与える方がいい。


しかし。
三又根食肉植物トリフィド”からツタの攻撃が止む。
三又の脚に似た根で歩いて近寄ってくるのもストップ。
どうやら気絶が効いたようだ。
あまり使ったコトないスキル。
どの魔獣にどの程度効果を発揮するか分かってない。
自信は無かったカトレアなのだ。


「おーい、カトレア」

見ると呼んだのはガンテツ。
ビャクランを抑えつけてる。

「今のヤツ、
 こいつにも使ってくれ」

ツタを迎撃する必要の無くなったキョウゲツも女重戦士を抑えつけるのに協力してる。
といっても相手は敵じゃない。
混乱してるだけの女冒険者。
タコ殴りにするわけにもいかない。

ウチのスキルで気絶させるってのは確かにいい手だ。

ガンテツとキョウゲツが二人でビャクランを抑えつけてる。
ビャクランの奴は暴れてる。

ガンテツは堂々たる体格の重戦士。
レオン王子の重臣クレイトスのような見上げる大男では無いが、平均よりはゴツイ。
鍛えてることが分かるだけのパワーの持ち主。

キョウゲツの奴は男にしては細い。
下手したらカトレアより細い。
「無駄な筋肉は体が硬くなるのでござる。
 剣を自在に扱えるだけの力が有ればいい」
キョウゲツはそう言ってる。

だけど腕力が弱い訳じゃない。
腕相撲をやらせたら、ガンテツや斧戦士にも引けは取らない。
力の入れ処にコツが有るらしい。

そのガンテツとキョウゲツが二人掛かりにも関わらずビャクランを抑えきれてない。

ビャクランは大した体格じゃないのだ。
ゴテゴテしたヘビープレートアーマーを着こむのでゴッツク見える。
でも鎧を脱いでしまえばカトレアより少し小さいくらい。
多分女子の平均程度の身長、体格しか無いのだ。
そこまで力が有りそうに見えない。

ビャクランは獣系亜人。
獣化すると熊っぽくなると聞いた事が有る。
熊と言えばパワーの有る動物の代表格だろう。

鎧の中でメッチャゴツい熊女になってるのかもしれない。
鉄兜で顔の見えない女戦士の中身をカトレアは想像する。
おもしろそうだ。
兜の中を確認してやれ。

「ガンテツ、キョウゲツ。
 頭を下げてな。
 アンタ達まで気絶を喰うよ」


『気絶の矢』

カトレアは二人に注意してからスキルを使う。
狙いたがわず、暴れていた重鎧の女は動きを止める。
そのまま音を立てて崩れる。

ガンテツがホッとした顔で座り込む。

「まいった。
 大したパワーだ。
 さすが『誇り高き熊』のリーダーだな」

ヒヒヒー。
この隙に。
倒れ込んでるビャクランに近付く。
鉄兜をそっと外す。
なんだこりゃ。

ビャクランは獣化してた。
確かに熊っぽい。
情報通りだ。

でもなんか違う。

カトレアが期待してたのは狼男の熊女版。
顔中に獣毛が生え、凶悪なキバが突き出る。
バケモノちっくなヤツ。

確かに獣毛が生えてる。
モコモコとして黄色っぽい。
黒い丸っこい鼻とつぶらな瞳。

テディベアじゃん。
ぬいぐるみのクマだ。
チックショウ。
なんだ、このカワイイ生き物。
卑怯だぞ。

カトレアは鉄兜を戻す。
見なかったことにしよう。
こんなカワイイのだと思ったら憎まれ口が叩けなくなる。
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