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第四章 地底大迷宮と暴走する英雄と竜の塔と鋼鉄の魔窟と

第206話 ショウマのいない迷宮都市その7

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「良く居るんだよ。
 酒場でウェイトレスさんにいいとこ見せようと思って。
 オレあの魔獣何匹も倒してるぜ。
 一階に魔獣が出なくなったのは俺達が倒しすぎたからなんだぜ。
 みたいな適当な事を吹かすヤツ。
 酒の上のイキオイってヤツだな」

「なるほど。
 男ってバカですね」

寝言言ってんじゃねぇよ。
普通ならそのヒトコトで済む話だ。

今回そのヒトコトで済まないのは相手がお偉いさんだからだ。
ジョウマ大司教。
大地の神は父さんだよ教団の大司教なのだ。
誰もが胡散臭いと思っても、気軽に寝言は寝てから言えとは言えない。


そう思って見ると群衆の反応も先程とは少し違う。
指笛や歓声の中にブーイングも混じってるのだ。
腕を上げて、親指を下に向けてる人もいる。

「大司教ってのが良く分かんないんだよな。
 どのくらい偉いんだ?
 聖女様より偉いのか?」

カトレアさんが聞いてくるけど、アヤメだってそんなの知らない。

「うーん。
 響きだけ聞くと偉そうですけど。
 聖女様はそういった役職とか階位とはまた違ったモノだと思いますよ」


馬車がアヤメ達に近付いてきてよく見える。

上半身ハダカの男達。
筋肉を誇示するポージングをしてるのだ。
大司教に至っては、下半身まで股間に白い布を巻いただけ。
足の筋肉を見せつけ、胸の筋肉をヒクヒクさせてる。

アヤメは目をそらす。
わいせつ物陳列罪に当たらないのか。
パレードは女の子だって見に来てる。
少なくとも危険物が通りますよ。
そのくらいの案内は出すべきじゃ無いの。

「適当にフカシたあげく、
 ウワサが大きくなりすぎたんじゃねーの
 今頃、本人たちも困惑してたりしてなー」

カトレアさんはそういうけど、あの気持ち悪い男どもにそんな細やかな精神有りそうに無い。
絶対アイツら何も考えてない。


そうでもない。
大司教の御付きの二人。
腕の筋肉を観客にアピールしてる男。
背中の筋肉を動かして見せる男。
その二人は実は困惑していた。

指令だったのだ。
大地の神は父さんだよ教団本部からの。
教徒を増やせ。
迷宮都市は自由都市。
母なる海の女神教団の影響も少ない。
何の教徒でも無い人間が大勢いる穴場だ。
そう言われて来てみたモノの何の成果も無い。

そこで聞きつけたのがチーム『天翔ける馬』
“迷う霊魂”を倒したと言う冒険者。
どちらも正体不明だと言う。

チーム名を『天駆ける馬』にしてみよう。
“迷う霊魂”を倒したのは我々です。
そんなウワサを流してみよう。
もしも本物が出てきたら。
すいません、カンチガイでした。
謝ればいい。
注目を浴びれば入団する者もいるだろう。

その位のつもりだったのだ。
ところがアレヨアレヨとウワサは広まってしまった。
しかもである。
何を勘違いしたのか。
パレード参加要請を大司教は受けてしまった。


男の一人が上腕二頭筋と前腕屈筋を浮かび上がらせる。
筋肉が言っている。

「「おい、話が大きくなりすぎてしまった。マズくないか」」

もう一人の最長筋が凹み、そして浮き上がる。
その筋肉の言葉を男は読み取る。

「「マズい。大司教様がまさかパレード参加を受けてしまうとは」」

筋肉会話である。

男達は筋肉を動かし、お互いの意思を伝達しているのだ
日々、筋肉と向き合って来た者だけが可能な芸当であった。

「「大司教様なんだが、おかしくないか」」
「「自分もそう思う。酒場で作り話をしてるウチに自分自身も“迷う霊魂”を倒したような気になってるのでは」」

男が腹直筋を凹ませ、盛り上げる。
外腹斜筋も反応する。
もう一人は僧坊筋と広背筋が反応する。

「「オマエもそう感じたか。実はオレもそう思っていた」」
「「ウム。造り話はドンドン、エスカレートしていくしな」」

男達の努力はそれとして細かく聞きたくは無い者も多いだろう。
これ以上は詳しく書くのを止めておこう。


「「そうなのだ。この間は入団希望者に十数体の“迷う霊魂”を千切っては投げして全員一人で倒したと言っておられた」」
「「ムゥ、大司教もお年だ。少し脳の働きが鈍くなっておられるのでは」」

「「これはバレた場合、犯罪になってしまうのでは」」

入団希望者が既に来ているのだ。
入団料こそ無いが、大地の神への供物は貰っている。
そして、教徒には訓練参加が必須なのだ。
訓練に参加した者からは指導料を取っているのである。


「「ううーん。どうしたものか……」」

男達はポージングをしながら悩んでいる。



「カトレアさん!
 大丈夫ですか?」

アヤメの隣で舌打ちしながら教団の男達を見ていたカトレア。
そのカトレアがいきなりフラッとしたのだ。

「ウウッ。
 筋肉が、筋肉が会話してる……
 大司教様が……」

カトレアさんは筋肉がどうとか言いながら目を回してる。
アレを見すぎたんだ。
おかしくなっても何の不思議もない。
アヤメは早いうちから目を逸らしておいて良かった。
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