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第四章 地底大迷宮と暴走する英雄と竜の塔と鋼鉄の魔窟と

第204話 ショウマのいない迷宮都市その5

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「ガンテツ殿にはより良い移動方法をご用意しましょう。
 王国の飛行船にお乗りください。
 我々は『地底大迷宮』探索をしたら王国へ帰ります。
 馬車で移動するよりも早くスクーピジェへ辿り着けるでしょう」

ブルーヴァイオレットがガンテツに言う。

なんだって?

「あの空飛んでたヤツに乗せてくれんの?
 ええっ!どうしよう。
 ちょっとコワイけど乗ってみたいねぇ」

カトレアは子供みたいにはしゃいでいる。

いや、絶対怪しい話だ。
飛行船だぞ。
王国だってまだ研究中のシロモノ。
軍事機密品だろう。
そこに素性も分からん冒険者を乗せるってのか。

「ガンテツ殿。
 変なウラなど有りはしません。
 王子のワガママなのです。
 『花鳥風月』のキョウゲツ殿は有名です。
 彼と一緒に迷宮探索できるならどんな方法を取っても良いと。
 ワガママに付き合わされる私も大変なのですよ」
「へー、やっぱり王子様なんてワガママなモンなんだね。
 ブルーヴァイオレットさんも大変だ」

「カトレア殿、分かっていただけますか」
「もちろん。
 ウチも急に遠出するなんて言い出すリーダーに振り回されてんだ。
 ウチの弟もとんでもなくマイペースなワガママ野郎で、
 いつも迷惑こうむるのは常識人のウチなんだ」

「そうですか、カトレア殿も大変ですね。
 だいたい世の中、常識人が苦労するようになってるんですよね」
「そうとも、ブルーヴァイオレットさん。
 カトレア殿はよしてくれよ。
 カトレアでいいよ」


盛り上がってるカトレアをよそにガンテツは考える。

キョウゲツはなんて言うだろう。
アイツも強いヤツには興味がある。
引き受ける可能性が高い。
王族、貴族なんて連中と関わりになりたくは無いが相手は西方神聖王国第一王子。
一般的に言ったら世界一強い冒険者なのだ。

西方神聖王国迷宮探索部隊、冒険者の功績順位で二位の常連だ。
そのリーダーなのだ。

一位はと言うと母なる海の女神教団。
リーダーは聖女様。
回復役である。
一般的な強い冒険者と言うカテゴリーからは外れるだろう。
自動的に繰り上がり、世界一強いのは西方神聖王国迷宮探索部隊リーダーレオン王子となる。

もちろん、チームの順位だから個人の強さとは別物。
金にモノを言わせ腕利きを集め、その功績を自分のモノにしている。
そう見れないコトも無い。
功績順位三位のバルトロマイ皇子なんかはその典型と思われている。
皇子自身がどんな人物であるか、どんな戦い方をするのか全く知られていないのだ。
バルトロマイ皇子の力では無くて、帝国の冒険者達そのチーム構成員の力。
そう思われて当然だ。

そこへ行くとレオン王子は違う。
本人がしょっちゅう迷宮探索に出かけてるのは有名だ。
王国から近い『不思議の島』はもちろん、『地下迷宮』『野獣の森』に遠征にも来ている。

戦い方も知られている。
その職業は聖戦士。
自ら聖剣を持ち、正面切って戦うのだ。
正に英雄の名にふさわしい職業で戦い方だろう。
太陽の王子、そんな名前で呼ばれるのも納得だ。

LVは40を越えていると言われる。
おそらくは世界で最も高いLV。

ガンテツはLV33。
LV30を越えると本当にLVアップはしなくなる。
33になったのは何年前だったか。
キョウゲツがLV37。
どうすると40なんぞという数字になるのか見当もつかない。


あくまでウワサだ。
世の中で一般的に言われてる話だ。
絵物語の主役にも使われてる。
物語に出てくる王子はさらにファンタスティック。
金髪、碧い瞳の美青年で王子様。
剣を使い戦うだけでなく、炎の魔法まで使いこなす。
聖剣と呼ばれる武器を手に、恐ろしい魔獣と戦う英雄。

その一方で知っている者は知っている。
黒い噂。

王国の王子はレオンだけではない。
レオン王子がここまで名を上げる前。
王子と言う身に有りながら、迷宮に行って冒険者の真似事とは酔狂が過ぎる。
そんな事を言われていた頃も有った。
その頃に王子のライバルであったはずの第二王子、第三王子が次々と醜聞沙汰で王位継承権を剝奪されているのだ。
結果的に第一王子レオンは不動の王位継承者。
いつの間にか大陸でもっとも知られる英雄。
王国民に最も人気の有る王族だ。

そこに暗闇を感じないモノがいるだろうか。
その暗闇を引き受けていると言われている者こそ、ブルーヴァイオレット。
目の前にいる女性だ。
飾りの無い服装で目立たない様にしている女性。
無駄の無い挙動と冷たい視線。

彼女は王国のしがない辺境貴族でしかなかった。
それが王子が冒険者チームを立ち上げ彼女が参加して以来、あれよあれよと言う間に出世した。

すでに親衛隊の隊長である。
王子の用件を一手に引き受けている切れ者。
男女の仲を疑う者もいるが、王子ともなれば如何なる美女も選り取り見取り。
ブルーヴァイオレットもブスでは無いが容姿は並の上程度。
それだけで出世したとは思えない。

王子が太陽なら、彼女は青い闇。
王子を英雄に仕立て上げ、自分はその下で旨い汁をすする。
そんな陰謀魔女と見られている存在なのだ。


「……では二日後の午後、『地底大迷宮』の前で。
 『花鳥風月』からはキョウゲツ殿、ガンテツ殿、カトレアさんが参加。
 そういう事でよろしくお願いします」
「おう、分かった。
 キョウゲツにはしっかり伝えとくよ」

そう言ってブルーヴァイオレットは部屋を出ていく。
キビキビとした歩き方。

えっ、アレ。
エッ、どうなったんだ?

ガンテツは慌てる。
つい自分の思考に夢中になった。

「おい、カトレア。
 何の話だ」
「何のって……王子と一緒に『地底大迷宮』探索だよ。
 王子様、明後日パレード参加なんだって。
 午前中パレードで午後にはもう迷宮行くってさ」

「んん?
 オレ達も行くコトになったのか」
「なに、ボケてんだよ。
 目の前で話してただろ。
 『花鳥風月』からはキョウゲツとアンタとウチ。
 『名も無き兵団』からイヌマルが来る。 
 『獣の住処』、『誇り高き熊』にも声かけてる。
 それ次第で王子様のトコは人数が変わるってさ」

何時の間に!
今から断ろうにもブルーヴァイオレットはとっくに部屋を出ている。
呼び戻して断るのはさすがに厳しい。
相手は王国の貴族。
それも第一王子の遣いとして来ている。

「なんてこった」

頭を抱えるガンテツだ。
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