上 下
174 / 289
第三章 亜人の村はサワガシイ

第174話 夕暮れの死闘その3

しおりを挟む
「みなさん、木陰に隠れた方がいいと思いますよ」

言ったのはムゲンだ。
弓士と言う男。
革のマントを着て帽子をかぶった戦士。
本人はすでに木に隠れている。

素早く反応する亜人の戦士イタチ。
ムゲンの近くの木に隠れる。

「分かるのか?」
「はい、弓に狙われています。
 アッチの男は剣で切るぞと言う殺気を飛ばすでしょう」

剣士、タケゾウを指して言う。
タケゾウもすでに木に隠れている。

「あそこまで派手に剣気を飛ばせば誰にでも分かる。
 弓に狙われても同じような気配が有ります。
 私は弓士ですから、狙われた気配は分かります」


ムゲンの言葉通り、矢が降ってくる。

反応し遅れた紳士服の男が足を貫かれる。
コイツは戦闘は素人なのだ。

矢は続けて振ってくる。
矢だけではない。
小型の投げナイフのような物も投げ込まれる。
反応の鈍いチンピラが喰らったようだ。
怪我をしていた男だ。
避けようにも体が言う事を聞かなかったんだろう。

しかしイタチは助けない。
死にはしないだろう。
スポンサーや、仲間とは言え自分が危険を冒して助けるような相手では無い。


続いて戦士が切り込んでくる。
剣を持った女戦士。
槍を持った女戦士も続く。
チンピラどもと切り結ぶ。


「ヘヘッ、出番が来たか」

楽しそうな声を上げて飛び出していったのはタケゾウ。
二本の刀を持った男だ。

腕の立つ人間がいるんだ。
相手も手強いらしい。
そんなことを店の人間に言われてついて来てみれば。
どうにも楽しくない仕事だ。

棒を持った女戦士はまぁまぁの腕だった。
しかし人間相手に戦った場数が少ないんだろう。
戦い方が単純で、素直過ぎる。
アッサリ終わっちまった。

後は女の子に刃物を突き付けて脅す。
そんなクソみたいな場面を見せつけられた。
ちょっとは立ち回りをして気分をスカッとさせとかないとな。

タケゾウは走りながら勢いに乗せて刀を振るう。
槍を持つ女戦士目掛けて。
女は反応した。
槍で受け止めようとする。
へへっ、嬉しいねぇ。
そう来てくれねぇとな。
……だが、その槍じゃあな。

木製の槍だ。
金属の刃先が木製の柄に取り付けられている。
相手の女は長い柄の部分で刀を受けようとした。

だが。
男の刀は止まらない。
木製の柄をキレイに斬り割いたのである。

そのままタケゾウはもう一本の刀を振るう。
左手は下から上へ切り上げた。

次は右手。
右手の刀を槍を持った女へと。
走って来た勢いはまだ殺されていない。
女の武器は両断されている。
この斬撃を受け止める事は出来ない。

一瞬タケゾウの手は止まる。

あれが上等の女だ。
背の高い美女。
高い値がつく。
キズを付けてくれるなよ。

このまま刀を振ったら殺しちまうな。

その迷いの時間。
女は叫んだ。

『聖槍召喚』

素手だった女の手に光が現れる。
光るモノ。

何だ?
分からん。
……分からんが迷うな。
斬る。
ムンッ!
タケゾウは右手を振る。

槍を抵抗なく切り落した斬撃。
その斬撃が再び振るわれる。

しかし。
刀は受け止められていた。
光るモノ。
白銀の槍によって。
女は白銀に輝く槍を手に持っていた。




ムゲンは弓の狙いを付ける。
相手は剣を持った女。
男達の中に切り込んでいる。

出来る。
あのチンピラ冒険者達に適う相手では無いだろう。
『気絶の矢』で気絶させようかと思ったが、女の動きは早い。

『気絶の矢』は便利なように見えるが難しい技だ。
相手の顔近くに矢を通過させなきゃならない。
ここは素直に胴体を普通の矢で狙おう。
胴体は人間の身体で最も大きな的。
矢が刺さっても当たり所がよっぽど悪くなければ死ぬ事は無い。

「お嬢さん。悪く思わないでください」
弓に矢を番える。

女はムゲンに背を向けている。
チンピラ冒険者と切り結んでいるのだ。
こちらが矢で狙っている事に気付く事は無い。

その時。
ムゲンは大きく避ける。
何かに狙われた。
自分が。

果たして。
小型のナイフのような武器。

苦無が木の幹に刺さる。
ついさっきまでムゲンのいた場所。

上手く避けたという安心感。

誰が!
どこから!

安心感と恐怖が体を駆け抜ける。

上!
ムゲンの上だった。

小柄な人影。
灰色の布装束。
手に先ほど投げた武器。
ムゲンを襲ってきたのだ。
木の上から。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~

桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。 両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。 しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。 幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

処理中です...