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第三章 亜人の村はサワガシイ

第166話 真昼の凶行その3

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苦しそうに喘ぐ革鎧の女戦士。
ケロ子だ。
男の蹴りが腹にキレイに決まった。
呼吸が出来ない。


腕に盾を付けた男は理解していた。

フェイントだ。
刀を持った男、タケゾウが殺気を飛ばした。
反応せずにはいられないほどの剣気。

女は切られると思って棒でかばった。
その瞬間には切りつけない。
攻撃が来ない事に女は力を抜く。
力を抜いたタイミングを切り付けたのだ。

盾を付けた男は冒険者チームのリーダー。
冒険者と言ってもマジメに迷宮探索するほどウブじゃない。
迷宮探索から帰ってきた、疲れたチームを襲う。
ドロップ品も持ってるから好都合だ。
まだ弱い初心者を脅してエモノをかすめ取る。
なんでもやるチンピラだ。
金で酒場の用心棒のような事もやる。
馴染みの店から声をかけられた。
彼の特技を知って声をかけてきたのだ。

タケゾウとは初対面。
同じように店に雇われた暴力沙汰のプロだろう。
変な服装の男だと思ったがなかなか出来る。


「オレの仕事はこんなもんか」

タケゾウは手で凶器を振って見せる。
これ以上やったら刀で傷をつけちまうぜ。
そんなポーズ。
手の付けられなかった女を蹴り飛ばして棒も切った。
ちゃんと仕事はしたぜという事だろう。


「おい、お前たち」

リーダーの命令で周りの男が女戦士を抑えつける。
盾を付けた男は布を女の顔に近付ける。
男達の手から逃れようとする女。
だが倒れた態勢で複数の手で抑えつけられている。

「クッ」
「安心しな。
 ただの眠り薬だ。
 グッスリ寝な」

そう。
男の特技は薬。
職業に薬師を持ってる。
傷付けずに女を捕えたいと言うので呼ばれてきたのだ。
怪しい仕事だが、それなりの金を貰っている。


ケロ子は意識が暗くなる。
手に力が入らない。
前が見えなくなる。


「……ケロコさん!」

コノハは暴れる。
ケロコさんが男達に捉えられた。
彼女はコノハを助けようとしてくれたのに。
コノハは腕を掴まれている。
掴むイタチの手を逃れようとする。

「大人しくしろ」

イタチがコノハの頬を打つ。
平手打ち。
掴んだ腕に力を込めて握りしめてくる。

「ケロコさんを放してください。
 彼女は関係ありません」
「それはなにか勘違いしてるな。
 目的はコノハ、お前じゃない。
 アッチが獲物だったんだ。
 あの女とホントウは背の高い美人も高い値が付いたハズだったんだがな」

「高い値?」

値段。
美人に高い値が付く?
人間を売る気?

「イタチ、アナタ……
 仲間を売る気なの?!」

コノハは叫ぶ。
同じ村の住人のハズ。
イタチは少しイヤな男ではあるが。
人間を売買するなんて。

イタチは全く怯んだ様子が無い。

「仲間? 誰が仲間だって」

「おい、その薬。
 コイツにも嗅がせろ」

コノハに笑って見せるイタチ。

盾を持った男が近付いてくる。
布を口元に差し出す。
コノハは顔をそむけるけど、無理やり鼻先に押し付けてくる。
呼吸を止めるのはいつまでも続かない。
少し息を吸い込んでしまったコノハは意識が暗くなっていく。



コノハを襲った男達。
彼らはユキトの家にも押し入った。

イタチがイチゴを襲う。
童女に剣を突き付ける。
怯えた彼女は男達に従った。

母親のナデシコは一目で石化にやられてるのが分かった。
売り物にならない。

魔法を使って来た小柄な女。
男達は彼女も捕まえた。

イチゴに剣を突き付けたのだ。

「大人しく出て来な。
 出てこなきゃこのガキの耳を切り落とす」
「やだ、やだ。
 怖い、いやあああ。」

耳くらいは無くても商売物にはなるんだ。
そう言われて小柄な魔術師は投降した。

「イチゴちゃん。大丈夫だから泣かないでですよ」
「ミミックチャンー。
 ごめんなさい、アタシのために……
 うっうっう……うぇーん えっえーん」

泣く子供も含めて全員薬で眠らせてある。
男達の前に眠っているのは4人。
革鎧の女戦士、小柄な魔術師、従魔師らしいコノハという女、童女イチゴ。


「チッ。
 一番高い値が付きそうなのが二人いない」
イタチは悔しがる。
生意気そうな剣戦士もいない。
アイツは痛めつけてやりたかった。

「いや、充分だ」
紳士服の男が言う。

「特にその小柄な魔術師とイチゴちゃんは高い値が付く。
 いくらでも金を出す客が出るだろう。
 人気が出る。間違いないぞ」


「……オマエやっぱり」
「アンタ……やっぱりそういうシュミか」

「アイツ……そういうシュミだったんだ」
「アイツ……やっぱりか」

「違うー! だからオレの趣味じゃない。
 ホントウだって。
 客がつくんだよ。
 オレの趣味じゃない!
 商売だってば」

紳士服の男の言葉は知らんぷりするチンピラ達だ。

それはともかく。

「で、どうやって店まで連れて行くんだ。
 いくら亜人と言っても、意識の無い女を四人だ。
 連れて門を通る事はムリだ」
 
「大丈夫だ。
 まかせておけって言っただろ」

イタチはニヤリと笑う。

数秒後、男達は目を見開く。

「まさか、そんなことが出来るとはな……」
「始めて知ったぜ」
「オレも知らなかった」
 
意識を無くしたケロ子たちの姿は無い。
男達だけが立っている。
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