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第三章 亜人の村はサワガシイ

第164話 真昼の凶行その1

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従魔師コノハは自宅に来ている。

回復薬の調合をしているのだ。
ショウマのお陰であまり使わずに済んでいるが、残り少ない。
時間が有るうちに仕込んでおくつもりなのだ。

“妖狐”タマモがコノハにじゃれてくる。

「えへへー。
 どうしたの、タマモ」
「クォーン、クゥーン」

タマモが甘えている。
頭をコノハの身体に擦りつけるのだ。

毎日一緒に寝ていたコノハとタマモ。
ここ最近寝床が分かれているのだ。
コノハもタマモに抱き着く。

「そっかー。
 一緒に寝ないと淋しいかー。
 えへへー」

薬の調合は一区切り。
しばらく時間待ち。

タマモの背中を撫でる。
背中の茶色い毛は少し硬い。
そこから内側の白い毛へと指を伸ばす。
白い毛の方が柔らかくてモコモコしているのだ。

「クゥーン、クォォーン」

タマモが気持ちよさそうに目を細める。
タマモのブラッシングをしてあげようかな。

だけどタマモが唸り出す。
さっきまでの甘えたような声とは明らかに違う声。

「グルー、グルルルル!」

「どうしたの?」

喉の奥で唸り声、警戒してる声。

魔獣が溢れて来た?
『野獣の森』から出たなら見張りが太鼓を鳴らすハズだけど。

さっきケロコさんとミミックチャンさんが村を廻って帰って来たばかり。
彼女たちはユキトの家だ。

コノハはタマモと一緒に家を出る。
ユキトの家にいる二人に声をかけてみよう。

コノハが家を出ると表には男が立っていた。
コノハの目の前に立つのは村の戦士達の一人。
槍を持った男、イタチだ。

「……イタチさん。
 なにか御用ですか?」
「よう、コノハ。
 家にいるのはお前だけか」

イタチがコノハを見てニヤニヤ笑っている。
バカにするようなイヤな頬笑み。
いつもイタチは人を見る時、こんな顔をする。

タマモが前に進み出る。
主を守るようにイタチとコノハの間に入る“妖狐”。


「タマモ。
 お前に用は無いぜ」

いきなり矢が撃ちこまれる。
タマモの鼻先に。

当たりはしなかった。
が危ないところだった。
矢は地面に刺さっている。

コノハが見るとイタチの後ろに武装した男達がいる。
こちらを見ている。
そのうちの一人が矢を放ってきたのだ。

ドンッ。
音を立てタマモが倒れる。
うそ!
矢は当たらなかったハズ。

「心配しなくていいですよ。
 『気絶の矢』と言います。
 キズ付けずに気を失わせるのにちょうど良いスキルなのです」

後ろから男が言う。
この男が矢を放ったのか。
帽子をかぶって顔は良く見えない。
手には弓矢を持っている。

コノハの腕をイタチが掴む。

「他のヤツらはどうした?」
「なんのつもりですか?
 イタチさん。
 大声出しますよ」

「ああ、いいぜ。
 出しなよ。
 寄って来た爺さんどもが巻き添えでケガするだけだぜ」
「……クッ」

目的は分からない。
けどイタチは本気だ。
事件になる事を怖れていない。

ショウマさん達はベオグレイドに行った。
ケロ子さん、ミミックチャンは隣のユキトの家。
でも、コノハに教えるつもりは無い。

「反抗的な目つきだな」

イタチはコノハをバカにするように笑う。

肩に下げていた槍を取り出す。
槍の刃先を向ける。
コノハにではなかった。
倒れた“妖狐”に槍を向ける。

「タマモ!
 止めてください」
「じゃあ言え。
 あの聖者とか言うペテン師はどこにいる?」

「…………ショウマさんはベオグレイドへ行きました」
「ベオグレイド?
 チッ。
 運のいいヤツだ」

「女どもは?
 特に背の高い女」
「背の高い?
 ハチコさん、ハチミさんも一緒に街へ行ってます」

「なんだと?! クソッ」

「おい、家を調べろ」

後ろの男達がコノハの家に入って行く。

盾を付けた男が指令を出す。
コノハの家を土足で踏み荒らす。

コノハはまだイタチに腕を握られている。
痛いくらい強く握られ抵抗は出来ない。

紳士服の男が近付いてくる。
武装した男達とは少し雰囲気が違う。

「ホホウ。
 地味だが、なかなかの女じゃないか。
 化粧すれば人気が出るぞ」

コノハの事を言ってるのか。
人を商品みたいに見定める目。

「誰もいねーな」
「女も男もいねーよ」

男達が家から出てくる。

「エモノはこの女だけかよ」
「いや」

イタチは言う。

「さっき隣の家に入って行ったろう。
 子供みたいな女とそそる体つきをした女」
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