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第三章 亜人の村はサワガシイ

第160話 門番と指輪その3

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「その指輪は!
 少し見せてください」
「うん?」

ショウマの指輪を見た途端、ミチザネの眼つきが変わっている。

「これは……どうされたのですか?」
「貰ったんだよ」


『鑑定』

いきなりスキルを使うミチザネ。
その顔は興奮している。

「間違いない。
 ショウマさん、この指輪をはめてください」

なになに?
良く分からないけどミチザネの言うとおりにするショウマ。


「お待ちください。
 この方たちに下手な事はしない方が良いと思いますよ」

女隊長にミチザネは呼びかけている。

兵士達の隊長は振り返って言う。

「ミチザネさんよ。
 侯爵家に一筆持たされてるアナタ達と揉める気は無い。
 しかし、この女達はアナタとは関係ない。
 亜人の疑いが有るならタダで門を通すわけにはいかないね」

女隊長は怖い雰囲気になっている。

鋭い目つきをした女性兵士。
職務に口出しされるのは不愉快なのだ。


「私は忠告しているのですよ。
 帝国の兵士の方たちにはお世話になっていますからな。
 隊長に不幸な目に会ってほしくない。
 だから忠告です」

ミチザネはまったく怯んでいない。
言葉は丁寧だけど、態度も内容も完全に上から目線。
 
「なんだ。
 どういう意味だ?
 まさか帝国軍を脅してるんじゃないだろうね」

女隊長も先程までは気を使っていたのだ
そこから素が出てくる。

鋭い目が圧力を帯びる。
暴力のプロの顔になっているのだ。

ンだ、コラ!
誰にクチきいてやがる。
こちとら戦争屋だ。
一般人に脅されてビビると思ってんのか!

ミチザネも隊長のガンつけに応える。

戦争屋だ~?
ここ何年も実戦なんて無いだろうがよ。
こっちは正真正銘バケモノと毎日実戦詰んでる冒険者サマだ。
訓練して遊んでるだけのママゴト軍隊がナメんじゃねーよ!

ゴッゴゴゴッゴゴゴゴゴ!
凄まじい迫力で睨み合う二人。

いやまあ。
心の中でそんなやり取りが有ったかどうか知らないが。
ショウマの見たところそんなフンイキ。


女隊長の迫力ある目に睨まれているにも関わらず、ニヤリとミチザネは笑う。

「紋章官殿。
 この指輪を見てくだされ。
 誰の物かお分かりのハズ」


一歩離れたところで机に付いていた男がショウマの指輪を見る。

紋章官。
要するに貴族や王族の紋章を記憶し確認する仕事だ
だが誰の紋章か確認したり、ニセモノと判別するだけが仕事というワケでも無い。
今でいう、弁護士や交渉人に近い仕事もしている。
遺言状を託されることも有れば、貴族同士の結婚の証人になる事も有る。
新たな貴族の紋章デザインも行う。
争う貴族同士の仲を取り持つことも有った。
単に知識だけあればいい存在ではないのだ。

その紋章官が震えてる。

「こ、これはホウガン一族の紋章!
 ……それも……」

「ホウガンだと?!」
「ホウガンだって!
 大公クラスの貴族じゃねーか」

「何だってんだよ。
 帝国の貴族じゃねーんだろ。
 気にする事はないじゃねーか」

「アホウ。
 ホウガンと言えば、帝国に責められても、
 王国と争っても屈しなかった荒ぶる一族だ」
「ホウガン家を敵に回すのだけは避けろって言うぜ」

兵士達がざわつく。
興奮して言い合う。
ざわめきの中、紋章官は言葉を続ける。

「それも、小さな2対の沙羅の木が加わっている。
 サラソウジュ。
 辺境の猛女、サラソウジュ・ホウガンの紋章です」

ざわついていた兵士達が静まり返る。
誰かがゴクリと唾を呑み込む音が響く。

……サラ……
サラだって?!

俺達は……サラソウジュ・ホウガンを敵に回しちまったのか?!


兵士達が静まり返る中。
女隊長がいきなり頭を下げる。
90度、直角礼。


「サラソウジュ・ホウガン所縁の方とは知らずに失礼しましたっ!」

ショウマに頭を下げているのだ。

見事な手のひら返しである。
1mmの躊躇も無い。

兵士たちに向かって言う。

「お前ら、全員失礼を詫びろ!」

呆然としていた兵士達。
女隊長の言葉に今やるべき事を理解する。
頭を下げるのだ。

兵士達、全員直角礼である。

「失礼しましたっ!」
「失礼しましたっ!」
「失礼しましたっ!」

「どうぞお通り下さい」


頭を下げる兵士達を後にするショウマだ。

いい気分というよりはなんだコレみたいな。

「うむ。良く分かりませんが、
 さすがショウマ王」
「さすがショウマ王です」

ハチ子、ハチ美、僕も良く分かんないよ。
サラさんから貰った指輪であんなコトになるとは。
あのお婆ちゃん、一体何したんだ?

門を通るショウマ。
兵士たちはまだ直角礼でショウマ達を送ってる。

エリカやハチ子は鼻高々に歩いてく。
ドヤ顔である。

ショウマは違う。
メッチャ落ち着かない。
なんだコレ。
10数人の兵士達が最敬礼で見送ってるのだ。

いやサラお婆ちゃんとは知り合いですけど。
単に練習に付き合ってあげただけなんで。
指輪貰ったけどプロポーズじゃありませんし。
門を通していただければそれだけで。

別にオジキまでしなくても。
んじゃあ通させて貰いますね。

逃げるように先に進むショウマだ。
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