上 下
134 / 289
第三章 亜人の村はサワガシイ

第134話 野獣の森入り口その6

しおりを挟む
『野獣の森』で戦っている従魔少女達。

それにしても魔獣が多い。
既に何体倒しているだろう。

“化け狸” ×3
“飛槍蛇” ×4
“鎌鼬” ×11
“火鼠” ×3
“暴れ猪” ×2

そのくらい。
“鎌鼬”が多いのは気配を感じ次第、ハチ美が仕留めてるからだ。
そろそろ覚えられない。


“土蜘蛛”が姿を現す。
人間大のクモの魔獣だ。

ショウマが居たら、キモチワルッと騒ぐところだが、少女達は気にしない。


「気を付けて、“鴆”の猛毒ほど強くないけど毒を持ってる。
 糸も吐いてくるんだ。
 身体にくっつくと動きが鈍くなる」

村の少年ユキトが解説してくれる。
たまにとは言え村を襲ってくる魔獣なのだ。
覚えておかないと命に拘わる情報、年若い少年でも頭に叩き込んでいる。

ハチ子が槍で攻撃する。
中距離から一撃。
刃先で刺すが、まだ“土蜘蛛”は倒れない。
その身体から糸が吐き出される。

「うわ、なんだなんだ、これは?
 ネバネバするでは無いか」
「ハチ子ちゃんっ!」


んがっ

不思議な音がして、“土蜘蛛”がハチ子の目の前から姿を消す。

「んぐんぐ……んがが。んぐんぐ」

なんと、みみっくちゃんが『丸呑み』したらしい。

以前は至近距離でしか呑み込めなかったハズだが。
中距離でもイケるようになったようだ。


「……ペッするから誰か仕留めるですよ」
「よし、糸のお返しをするぞ」

ペッ

“土蜘蛛”。
身体のアチコチが溶けた姿の魔獣が現れる。
その動きが弱っている風情。

「ハァッ!」

槍を構えるハチ子。
短い金髪の髪をなびかせて突進する。
その勢いを乗せて、刺し貫くのだ。
“土蜘蛛”は消えていった。


『LVが上がった』
『ハチコは冒険者LVがLV6からLV7になった』 
『ハチミは冒険者LVがLV6からLV7になった』 


「……うーむ。
 レベルが上がるのは有り難いが、そろそろ休憩もしたいところだ」
「休憩したいのです」


従魔少女達はずっと戦ってるのだ。
さすがに疲れてきている。

しかし休憩しようにも、魔獣が襲ってくるのだ。
こちらが進まなくても、魔獣からやってくる。


「ユキトくんっ、襲われない場所って有るの?」
「無い。
 一度森を出ないと襲われない場所は無いよ」

とか言ってるうちに少女達の居る場所を火の玉が襲う。
“火鼠”だ。


『氷撃』


みみっくちゃんが対抗。
ハチ美が弓矢でネズミを狙い撃つ。

「姉ちゃん達。
 オレが一体仕留めてもいいかい?」
「大丈夫なのっ?」

ユキトは山刀を手に構えてる。
ショウマが見たらサバイバルナイフかなと言うだろう。

刃は広く曲線を帯び、裏側は鋸状。
護身用にも使えるが、山菜獲りや小枝を斬るのにも使える。
アウトドアに必須の便利グッズだ。

日本では一つ間違えると銃刀法違反で捕まったりする。
その昔、『デ〇ノート』の漫画家さんが捕まったりしたよね。
あれは刃渡り8~9センチのアーミーナイフ。
ユキトが構えてるのは刃渡り20センチ近い。

「うむ。子供とはいえオトコだ。
 その意気や良し。仕留めて見せろ」
「仕留めて見せなさい」

心配するケロ子をよそに、けしかけるハチ子とハチ美。

ユキトは山刀を手に“火鼠”に近付いていく。

火を吐き出してくるネズミ。
素早く避けて、少年はダッシュする。

小さな魔獣ミを山刀が刺し貫く。
“火鼠”はアッサリ動かなくなった。

「おおっ。ヤルではないか」
「お見事です」

ニヤっと笑って見せる少年、ユキト。
獣化なんかしなくても、この程度の魔獣なら。
オレだって亜人の村の男なのだ。
そんな誇りに満ちた男の笑み。
しかし。

「ユキトくんっ。
 ケガしてないっ」

ケロ子が少年を抱き寄せる。

「……大丈夫……大丈夫……です。
 “火鼠”くらいなら前にも仕留めてるんだ。
 平気だよ……平気ですよ。
 ケロ子さん」

男の誇りもどこへやら、顔をが真っ赤にしているユキトなのである。





「うわ
 ミストシャワー?」

木と木の間に白いモヤが立ち込めてる。
その先がモヤで見えない。
これが『野獣の森』の入り口らしい。

ショウマは『野獣の森』入り口に来ていた。

村から10分程度の徒歩。
途中には壊れた見張り台が有った。
昨日“暴れ猪”に壊されたらしい。

『野獣の森』からは魔獣が溢れてくる。
見張りを置いてるのだ。
数はともかくほとんど毎日出て来るらしい。
よくそんな場所の近くに住もうと思えるね。
迷宮都市だったら、魔獣が溢れたら一匹だけでも大騒ぎになりそうだ。


「気を付けてください。
 中に入った途端、襲われるコトも有ります」

コノハのセリフだ。


「大丈夫よ。
 一層でしょ。
 手強いのはいないわ」

エリカは自信満々に言う。

「これでも毎日『野獣の森』探索してるプロよ。
 まかせておいて」


最初はコザル、エリカが入る。
続いてミチザネ、ショウマ。
最後にコノハ、タマモだ。

よく分からないけど、『野獣の森』に慣れてる人に任せよう。

「こっ!これは……」


エリカが『野獣の森』に入るとコザルは黙ってしまった。
元々コイツは言葉数が少ない。
だからエリカも気にしない。

当たりを眺める。
へー。
広場みたいになってる。

ベオグレイドの入り口から『野獣の森』に入ると一本道になってる。
左右は木々が生い茂って通れない。
人間が2~3人並ぶのが限界。
それくらいの道を進んでいくのだ。

こっちは開放的な空間。
森の中だ。
どこでも通れる。

ミチザネとショウマが現れる。
続いてコノハ。
最後にタマモ。


「グルー、グゥゥゥー」

タマモは唸り声を上げてる。
警戒してる。

「……皆の者!
 静かに、ゆっくりと下がれ!」

コザルが押し殺した声で言う。


「なに?
 どうしたのよ、コザル」

コザルは横を見ている。
視線の先をエリカは追う。

「うわ!大きいクマ」
「“双頭熊”!
 『野獣の森』でも最大級の魔獣です!」

「コワッ。
 クマモンとかリラックマとチェンジしてくれない?」
「戦士達が10人がかりでも返り討ちに会う魔獣です。
 一端逃げましょう」


「なーんだ」

エリカはさらっと言う。

“化け狸”だ。
一層目に出てくる魔獣。
良く“双頭熊”に化ける。
慌てて攻撃すると、正体は小柄なタヌキ。
魔法やスキルをムダ撃ちさせられるのだ。

ホンモノの“双頭熊”が出てくるのは『野獣の森』5層目。
まだエリカ達が辿り着いてもいないトコロだ。
チームが平均LV30はいかないと厳しいと言われてる。

こんな入り口に“双頭熊”が居るワケ無いじゃない。

エリカは剣を手に魔獣に近付く。
“化け狸”は化けるだけ。
大した攻撃力は無い。
一応、攻撃はしてくるけど。
エリカは鉄の胸当てを着てる。
ダメージは食わないレベルだ。


「エリカ様!」

ミチザネだ。
また、アタシより先に攻撃するつもり?
ここはアタシの出番よ。
多分この辺。
デカイ魔獣の下の方。
ホンモノの“化け狸”はこの位のサイズ。
エリカは剣を振るおうとする。

「グゥアーガアアアーー!」

クマの前足がエリカを襲う。
肩に盛り上がった筋肉。
左前足を振っただけで、エリカはブッ飛ばされる。

ナ、ナニが起きたの?
エリカはまだ事態が呑み込めてない。
でも胸当てがひしゃげてる。
エリカの肩が切れてる。
血が流れてる。
血?!
血が出てる。
マボロシじゃない。
ニセモノじゃない。

というコトは……
このエリカの前で咆哮を上げてる巨大なヤツは。


「ググァアアアー!!」

双頭熊ダブルヘッドベアー”。
エリカがいままで出会った事さえない魔獣。
『野獣の森』最強クラスの敵がエリカを睨みつけていた。


【次回予告】

『野獣の森』
亜人の村の入り口から入って広い。その奥に通れない場所がある。ゲートが有って、そこ以外通れない。ゲートから入って行くと『野獣の森』の奥部分。
戦士達は誰も入った事が無い。ウワサではさらに危険な魔獣がいると言う。最大最強の“双頭熊”、石化の呪いを使う“蛇雄鶏コカトリス”、猛毒の“鴆”。全て奥にはウヨウヨ居ると言われてる。入り口側には普通いない。がなにかのハズミでたまに出てくるのだ。

「ショウマさまになにをするっ」

次回 『双頭熊』 
チート魔獣現る。

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神がアホの子じゃだめですか? ~転生した適当女神はトラブルメーカー~

ぶらっくまる。
ファンタジー
魔王が未だ倒されたことがない世界――ファンタズム大陸。 「――わたしが下界に降りて魔王を倒せば良いじゃない!」 適当女神のローラが、うっかり下界にちょっかいを出した結果、ヒューマンの貧乏貴族に転生してしまう。 しかも、『魔王を倒してはいけない』ことを忘れたまま…… 幼少期を領地で過ごし、子供騎士団を作っては、子供らしからぬ能力を発揮して大活躍! 神の知識を駆使するローラと三人の子供騎士たちとの、わんぱくドタバタ浪漫大活劇を描くヒューマンドラマティックファンタジー物語!! 成長して学園に行けば、奇抜な行動に皇族に目を付けられ―― はたまた、自分を崇めている神皇国に背教者として追われ―― などなど、適当すぎるが故の波乱が、あなたを待ち受けています。 ※構成の見直しを行いました。完全書下ろしは「★」、大部分を加筆修正は「▲」の印をつけております。 第一章修正完了('19/08/31) 第二章修正完了('19/09/30)⇒最新話、17話投稿しました。

女王直属女体拷問吏

那羽都レン
ファンタジー
女王直属女体拷問吏……それは女王直々の命を受けて、敵国のスパイや国内の不穏分子の女性に対して性的な拷問を行う役職だ。 異世界に転生し「相手の弱点が分かる」力を手に入れた青年セオドールは、その能力を活かして今日も囚われの身となった美少女達の女体の弱点をピンポイントに責め立てる。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

神々の仲間入りしました。

ラキレスト
ファンタジー
 日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。 「私の娘として生まれ変わりませんか?」 「………、はいぃ!?」 女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。 (ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい) カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...