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第三章 亜人の村はサワガシイ

第130話 野獣の森入り口その2

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「その攫われたって言うのはいつ頃の話なんですかっ?」

「………」
「一ヶ月くらい前だ」

黙ってしまったコノハに替わってユキトが答える。
一瞬反応できなかったショウマ。
だがハチ子が言う。

「一ヶ月? 
 それは……コノハ殿、ハッキリ言って申し訳ないが母上は生きていないだろう」

「姉様、それは……」
「事実だろう。
 ウソを言っても仕方ない」


確かにハチ子の言う通りだ。
人間が飲まず食わずに生きられるのは3日がいいところ。
水だけでも飲めれば、一ヶ月くらいは生き延びられるという話も有る。
しかし埋められているのではそれも望み薄だ。


「……そうです。
 多分亡くなってます。
 でも母さんは石化しかけてました。
 すでに半分以上、身体が石になってたんです。
 石になりかけてご飯もだんだん食べる量が減ってたんです。
 だから、
 だから…………」

「オレ、戦士達に頼んでみたんだ。“埋葬狼セメタリーウォルフ”の巣に行けないかって。
 でも『野獣の森』のかなり奥の方らしい。
 下手に進んでいったら戦士達の方が全滅しちまうって……」

つまり石化が進んでれば食料は少なくて済む。
だから生きてるかもしれないってコト?


「……その例えばの話だけど、
 コノハさんのお母さんが完全に石化したとしたら治せるの」

「望み薄でしょうね、ご主人様。毒やマヒくらいなら、治療院に行けば母なる女神教団の神官が治してくれます。
 石化を治したと言う話はみみっくちゃん聞いた事ないです。
 女神教団の本拠地に行って高位の神官、聖女様や大教皇に頼めればあるいは……ってトコロです。それはでもなにかのツテが有るか、とんでもない大金でも無きゃ頼むことが不可能です」

ショウマの質問にみみっくちゃんが答えてくれる。

なるほどね。
でもさ……みみっくちゃん。

森でお母さんを見つけてみれば何故か石化が治ってた。
そんなシナリオはどうかな?

そんなショウマの目線に気付いてるみみっくちゃん。
ため息をついて肩をすくめる。
止めても無駄でしょうね。
そういうポーズ。


「頼む。
 ケロ子姉さん、変な兄ちゃん。
 サツキさんを見つけてやってくれ」

「“埋葬狼”に襲われたのはオレなんだ。
 サツキさん。
 自分が石になりかけてるのに、それでもオレを助けてくれたんだ。
 オレ、『野獣の森』を案内する。
 戦士達と一緒に荷物持ちで何度も付いていってるんだ」

ユキトがガッツリ頭を下げる。
少年の顔からは今にも涙が溢れそう。
そんな彼の肩に手を回しながら、コノハが話す。


「……ショウマさん。
 こんなあやふやな話に捲き込んですいません。
 本当は自分で何とかするつもりだったんです」

「私一人で『野獣の森』に探索に行くのは無理です。
 ……だからお母さんが全身石化してくれてる可能性にかけようと思いました」

「『迷宮都市』に行って、冒険者のLVを上げてお金を稼ぐんです。
 私とタマモが強くなれば、『野獣の森』の奥にも行けます。
 お金さえ稼げれば、他の冒険者を雇うことも出来るかもしれません。
 石化していてもお母さんを救い出せるかも……
 石化した人を元に戻せる可能性が少ないのは知っています。
 でも少ないって事は……ゼロじゃない!
 可能性が有るって事です」

うん。
分かった。
そう答えようとしたショウマ。
だけどなんだか表が騒がしい。

「……ううっ、ううぅー。
 なんて悲しいの。
 お母さんが……お母さんが死んじゃってるかもしれない。
 運が良くても石化してる。
 それでも挫けずに自分の力で助け出そうとしているその娘さん。
 感動だわ。
 アタシ、泣いちゃいそう」
「泣いちゃいそう、
 というか泣いてるぞ」

「シーッ、エリカ様、コザル。声が大きい」
「ミチザネ!
 なんでアナタ平然としてるのよ。
 可哀そうじゃない。
 しかも娘さんは毅然と悲しい運命に立ち向かおうとしているのよ。 
 良い話じゃない。
 これで泣かないなんてアナタ人の心は有るの?」

「いや、もちろんミチザネとて、母が生きている可能性が少ないと知りながら、
 何とかしようとする少女の思いには頭が下がる思いですが……」

扉を開けてみると3人の冒険者姿。

戦士姿の少女は泣いてる。
あからさまに目から涙をこぼしてる。
少女に食って掛かられて困った様子の男。
マントを纏った魔術師スタイル。

「ほら気付かれちまったじゃねーか、オレのせいじゃねーぞ」
後ろでそう呟いてる顔を隠した布装束。

誰?


「あ、あのいきなりスイマセン。
 表から話を聞くなんて失礼なマネを……」
「お初にお目にかかります。
 こちらにショウマさんが居ると聞いて来ました。
 何やら重大な話をしているようでしたので、表で待っておりました。
 ワタクシ、魔術師のミチザネと申します。
 キューピー会長の紹介で参りました」

ああ、キューピー会長が言っていた。
ツアーガイドの人達か。

「だから、なんでミチザネはアタシを押しのけるのよ。
 アタシがアイサツしてるのよ」
「エリカ様におまかせすると我々が盗み聞きしていたように相手に聞こえてしまいますので、
 ミチザネが上手く説明しておきました」

騒がしい人たちだ。

「コザルだ。コザルが助けたと分かるようにショウマ殿を助けるぞ」

もう一人目立たない雰囲気の人もアイサツしてくる。
この人も変だ。

しかし表に居たのは三人組だけじゃなかった。
さらに大柄な男がコノハの家に入ってくる。

「コノハ、なんで言わなかった?!
 戦士達とオレが『野獣の森』の奥に向かうぜ」
「キバトラさん!」

「ダメです!
 こんなアヤフヤな話に他の人達を捲き込めません。
 『野獣の森』の奥まで行ったら、どれだけ犠牲がでるか。
 そうしたら、たとえ母さんが助かっても意味がありません」
「……コノハ姉」

戦士達のリーダーという男キバトラだった。
顔に獣毛が生えてる。
キバが伸びてる。
獣毛は斑、鼻まで少しせり出してる。
トラ男、ワータイガーみたいになってるのだ。

「うわっ。みみっくちゃんびっくりしたですよ。色んな亜人さん見ましたけど、この人コワイ顔ナンバー1、一等賞ですよ。夜道で有ったら叫び声をあげる自信が有りますね」
「みみっくちゃん。失礼ですっ」

「スマン、スマン。
 興奮するとついな……」

キバトラの顔からは獣毛が消えていく。
キバも八重歯くらいのサイズに戻るのだ。

また泣き声が聞こえる。

「ううっ。いい話だわ。
 母さんが助かっても他の人が犠牲になったら意味がない。
 本当は母親が心配なはずなのに、そんなコトを言えるなんて……
 なんてステキなの」
「エリカ様、いい場面を壊してますよ。
 泣きながら解説するのはお止めなさい」

騒がしいと言うか人が多い。
人が多いのニガテなのに。
まだ朝なのに、すでに疲れてるショウマだ。
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