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第二章 迷宮都市はオドル

第110話 カトレアの帰郷その1

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女冒険者カトレアは道を歩いてる。
迷宮都市から近くの村へ向かう道。


ガンテツには言ってある。

「ちょいと里帰りしてくる」
「…………」

「数日だよ。知ってるだろ。ウチの実家は隣の村さ。一日で歩いて行ける」
「分かった」

「『不思議の島』に出発するのは一週間後だろ。それまでに戻ってくる」
「そうだな」

ガンテツは言葉少なく答えた。


見えてくる故郷。
畑に果実の成る樹木。
簡単な木の柵。
カトレアが村を出て数年経ってるのに全く変わってない。

カトレアは革鎧に弓を担いだ戦士姿。
村人じゃないのは一目で分かる。
それでも警戒されることは無いだろう。
旅人が通る事の多い村だ。
近くには迷宮都市がある。
迷宮に向かう冒険者も通る。
戦士姿の人間が通っていくのには慣れた村人達なのだ。

カトレアは街道沿いから村の奥の方へと入って行く。
カトレアの実家は猟師。
裏山に近い村の奥の方に住んでるのだ。


「あなた、どっちへ行くつもり?
 街道は向こうの方よ。
 そっちに行っても何も無いわ」

カトレアは声をかけられた。
街道から外れて、村の奥へ向かう戦士姿を不審に思ったのだろう。

「ああ、気にしないでくれ。
 元々、地元のモンだよ」

カトレアは軽く手を振って見せる。

「あなた!
 カトレアじゃない」
「ユリか!」

「久しぶりね」
「おう、しばらくだな」

ユリ。
村長の孫娘だ。
カトレアとは同い年。
気の強い女子同士、気が有った。

カトレアが村を出てからも、何度か会ってる。
ユリが迷宮都市に来て、顔を合わせたのだ。
別にカトレアに会いに来た訳では無いだろう。
村からは定期的に街に馬車を出して、作物を売っている。
逆に街でしか手に入らない物を買いだして、村に持ち帰りもする。


「なに?
 カトレアが村に来るなんて。
 何年振りよ」
「うーん。16の時村を出たんだから、6年振りかな」

「じゃあ、両親のところ行ってあげなさいよ。
 私は後でそっちの家にオジャマするわ」
「よーし。
 待ってるぜ」


カトレアの帰宅に両親は驚き、喜んだ。
6年間まったく会わなかった訳では無い。
父も母も迷宮都市にたまに訪れている。
例えば、もうしばらくすると収穫祭が有る。
村では素朴な祝い事だが迷宮都市では大型イベントだ。
両親も毎年では無いが収穫祭に参加しに迷宮都市までやってくる。
カトレアが村に来ることが無かっただけだ。

カトレアは土産に菓子や布を渡す。

「アンタがこんな気遣いできるようになったなんてねぇ」

母親は涙もろくなってるみたいだ。
まだそんな年でも無いだろうに。

なんだか小さい女の子が家を覗き込んでる。

「お前、もしかしてコギクか!
 覚えてるか?
 カトレアさんだぞー」

ダッシュで近寄ったら逃げてしまった。

コギクはお隣さんの娘だ。
コギクとは何時以来だろう。
多分コギクが5歳くらいの時に会ったのが最後、それ以来6年ぶりだ。
覚えていなくても無理は無い。


「あのあの」

逃げてしまったと思ったら、少し離れたところで隠れながらこっちを見ていた。

そういやカトレアは弓戦士スタイルのままだ。
怖がらせちゃったかな。


「カトレアさん。
 お久しぶりです」

小っちゃい声だけど聞こえる。
覚えててくれたかー。

カトレアは精一杯笑って見せる。

ニッコリ。
ほーら怖くないよ。


「あのあの。
 カトレアさんは迷宮都市で冒険者をしてるんですよね」

そうだよ。
なんだろう。
村ではどんなウワサになってるんだろう。

あそこの娘は家出して迷宮都市で冒険者をしてるんだって。
まぁコワイ。
冒険者なんてチンピラみたいなもんでしょ。
あそこの娘は図体もデカくて気性も荒かったからね。
いつもケンカばかり。
ショウマちゃんは大人しくて勉強も出来るのにね。

ムカッ!
カトレアは自分の想像に腹を立てる。
村の住人の名誉のために言っておくとカトレアの勝手な想像である。
特に最後の一行なんて誰も言っていない。

ビクッ!
コギクが怯えた顔で後退る。
カトレアの顔に気分が露骨に出てしまったらしい。

「ああ
 ゴメン、ゴメン」
ニッコリ
ほーら怖くない怖くない。

コギクは遠巻きに尋ねてくる。

「迷宮都市でショウマ兄ちゃんに会いましたか?」

……ショウマ!

冒険者の週間功績順位。
1位は天翔ける馬ペガサス
「知ってます。ショウマのチームです」

チックショウ!

カトレアの顔色が変わったのが見えたのだろう。
今度は本当にコギクはいなくなってしまった。
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