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第二章 迷宮都市はオドル

第90話 キキョウの災難その7

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「えー。
 扱い悪くない?
 お婆ちゃんのワガママに付き合ってあげたのに~」

ブツブツ言いながら組合に戻るショウマである。
ハチ子、ハチ美も一緒だ。
ケロ子やみみっくちゃんは組合で待ってる。
訓練場のスペースが限られてるとキキョウが言うから待っててもらったのだ。
でもあんなに観客いたじゃん。
来てもらって良かったじゃん。

ハチ子とハチ美は恐縮している。

「王よ、我らが不甲斐ないばかりに申し訳ない」
「申し訳ないのです」

「いや、
 ハチ子とハチ美は良くやったよ」

ショウマとしては、従魔少女達が普通の冒険者に負けてない事が分かれば十分だ。

相手の冒険者、LV25と言ってたっけ。
LV25がどの位か分からないけど、
周りの冒険者の反応を見るに弱い方では無さそうだった。
相手が特殊能力を使うまで、ハチ子ハチ美は互角に戦っていたのだ。
あの特殊能力の事、覚えておこう。


従魔師コノハは見ていた。
冒険者の訓練場。
そこには宿泊施設が有る。
彼女はそこを宿としていた。
宿屋に比べてかなり安価で寝泊まり出来る。
タマモを連れ込む事を許される。
普通の宿屋では難色を示されるだろう。
コノハとしては他の宿屋はあり得ない。

今日は迷宮探索は休み。
『花鳥風月』古参メンバーで会議を行うらしい。
だから訓練場に来てみたのだ。
タマモも一緒だ。
そうしたら試合をしていた。

『名も無き兵団』
コノハでも知ってるチーム。
それと誰か知られていないチームらしい。

「あれは確か……」

あの黒い革ローブ。
見た気がする。
一緒に買い物をした。

そして見た事の無い氷の魔法。
彼の先にあったモノ全てが凍り付く。
そんな事があり得るの。

そんな力が有るなら。
そんな力が有るなら。
もしかして……




「あっ、帰ってきた。
 大丈夫だった?」

ショウマが組合の別室に帰ってきた。
アヤメは受付から別室に戻ったら、ショウマとキキョウがいなくなってたのだ。
残されていたのはケロコちゃんとミミックチャンさん。
タキガミさんもいた。
サラ様と練習試合になったと言う。
ハチコさん、ハチミさんは今日冒険者組合に加入したばかりだ。
『名も無き兵団』と試合なんてムチャだ。

「タキガミさん。止めてくださいよ」
「いや、サラ嬢ちゃんの言う事じゃ。
 止められんよ」

嬢ちゃん!
嬢ちゃんて誰?

「ハチ子ちゃんっ、ハチ美ちゃんっ
 ケガしてないっ?」

「ああ。ケロ子殿、大丈夫だ」
「ケロ子殿、大丈夫です」

「ご主人様も平気みたいですね。無事に終わったんですか?まあ冒険者なんて荒くれものが多いですからね。腕試しなんて通過儀礼みたいなモノですよ」

ケロコちゃんはやっぱり心配してた。
当然だ。
アヤメもだ。
なんだかミミックチャンさんは落ち着いてる。
小さいのに、大人みたい。
アヤメは文句言ってやろう。
人に心配させて。

「ショウマ。『名も無き兵団』と試合なんてムチャよ」

「いや、なんか
 お婆ちゃんに一緒に練習しろって
 ワガママ言われたんだよ」
「お婆ちゃんって、サラ様のコト?
 ショウマ、サラ様って呼びなさいよ」

「えー、
 あのお婆ちゃん偉い人?」
「そうよ。
 『名も無き兵団』のサラ様」

「名も無き兵団?」
「何で知らないのよ!」

迷宮都市で一番大きい冒険者チームなんだよ。
受付になる前から、アヤメだって知っていた。

「サラ様と言ったら、誰でも知ってる有名人よ
 『女冒険者サラ』って絵物語にもなってるでしょ」
「絵物語?」

「そうよ。
 知らない?
 辞書とは違う、絵の多い物語本」

アヤメの想いとは別のところにショウマは食い付く。

ラノベ!?

ショウマは飢えていたのだ。
マンガ、ラノベ、ゲーム、アニメ。
全部この16年触れてない。
生まれ育った家には本の一冊も無かった。
村の教会で本を見つけた時は、夢中で読んでしまった。
まだ字も知らなかったのだけど。

キタ!キタキタ!ラノベキター!

「その絵物語ってどこで売ってる?」
「どこって絵草紙屋さんよ。
 雑貨屋にも少しならあるかしら」

「ありがとー。
 行ってみるよ」

すぐに出かけようとするショウマだ。

「ええっ。もう行っちゃうの?」
「うん」

なんだ。
もう帰っちゃうのか。
少しガッカリするアヤメ。
いや、別に淋しいとかじゃないのだ。
ショウマが行ったら、また受付に戻らないといけない。
また冒険者と同じ問答の繰り返しになるし。
それがイヤなだけ。

「ドロップ品とかは?
 何も無いの」
「カエルはキキョウさんに買ってもらった。
 他にも色々あるね…
 買い取ってもらえる?」

アヤメの仕事である。
ドロップ品の買取。
ショウマが差し出してきたのはいろいろ。

『ハチの針』×9
『アリの外骨殻』×8
『アリのキバ』×36

「えーっ。
 すごい量じゃない。
 ええと、『アリのキバ』が200G、『アリの外骨殻』500G、『ハチの針』は400Gね」

ちょっと、ちょっと。
14800Gにもなってる。

「これももう一個だけじゃないし、
 売っちゃおうかな」

ショウマは何かをさらに出してきた。

『梟の嘴』×5
『梟の羽』×2

「これ……」

これは。
『梟の嘴』
『梟の嘴』をじっと見つめるアヤメ。

だって、ずっと気になっていたのだ。
1階に“闇梟”が出るって。
続けてもっと出るかもしれないって。

カトレアさん達でも苦戦する。
そんな魔獣だ。
1階にはLVの低い冒険者がいるのだ。
LVの低い冒険者が襲われたら……。
みんなそんな強敵がいるなんて思ってないハズ。
襲われたらどうなるの……

刺さって抜けないトゲみたい。
忘れてるんだけど、時々痛い。

アヤメは尋ねる。
『梟の嘴』を見ながら。

「ショウマが倒したの?」
……倒してくれたの……

「うん。
 もう少し倒せないかと思ったんだけど、もういないんだよね」

「もう、いない?」
……いないって……

「一階にはもう一羽もいないよ」

……いないって……
一階にはもういない。
一羽もいない。

「そう。
 そうなんだ!」

そうなんだ。
“闇梟”はもう出ない。
誰かが犠牲になる事も無い。
倒してくれたのだ。
ショウマが。

「へへへ。
 やるじゃん、ショウマ」

へへへ。
アヤメは笑う。
笑ってしまう。
顔が勝手に笑みの形になる。
抜けなかったトゲが溶けてなくなったのだ。



【次回予告】
ある画家は言った。
誰しもが芸術を理解しようとする。ならばなぜ鳥の声を理解しようとはしないのか。
人は夜や花を、自然を理解しないで愛せるではないか。なぜか芸術に限って、人は理解したがるのだ。
「ええーっ。そんなコトされたら、今月の家賃が払えません」
次回、シロツユは描く。 
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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