上 下
89 / 289
第二章 迷宮都市はオドル

第89話 キキョウの災難その6

しおりを挟む
ショウマが言った。

「ハチ子、ハチ美
 大きいのいくよ。
 避けてて」


ハチ子とハチ美は良く知ってる。
主のこのセリフの後、何が起きるのか。

毛が逆立つ。
頭の黒毛では無い。
全身の毛が逆立つのだ。
鳥肌が立ってる。
倒れてる場合じゃないのだ。

ワタワタとハチ子が宙に飛ぶ。
槍をほったらかしたまま。

バタバタとハチ美は宙に逃げる。
殴られたくらい気にしてられるか。

一瞬呆気にとられる『名も無き兵団』のイヌマルとキジマル。
逃げるにしても逃げ方が有るだろう。
何だアレ。
地震、雷、火事が同時に来たとでも言うのか。
彼らからは聞こえない。
フードを被った男が何を言ったのか。
それはこう言っていた。


『全てを閉ざす氷』


水属性のランク4
一応ショウマなりに考えたのだ。

ランク5は多分マズイ。
みみっくちゃんも言ってたし。
ランク2は弱くない?
アリすら一発じゃ倒せない。

訓練場は木の床だ。
火属性はマズイ。
風属性でもいいけど、
見物人を巻き込みそう。
凍らせるなら大した問題無いでしょ。


観客は見ていた。
イヌマル、キジマルの後ろから見物していた者達だ。
彼らの前方にイヌマル、キジマルが居る。
その先に、美人の女戦士が二人。
さらに先に魔術師らしき黒いローブの男。
後ろにいた魔術師が何か言った。 
聞いた事の無い呪文。
前にいたイヌマル、キジマルの動きが止まる。
凍ってる。

『氷撃』?
『氷撃』なら見たことある。
観客も冒険者だ。
魔術師の絶対数は戦士に比べて少ない。
それでも冒険者を続ければチームに一人くらいは加わる。
珍しくはない魔法だ。
相手にダメージ与えるだけじゃない。
半分凍り付かせる。
“狂暴犬”なんかを相手するにはちょうどいい魔法だ。
その上位魔法も知ってる。
『氷の嵐』
使いこなせるヤツは『氷撃』に比べてグッと減る。
LV10は越えた魔術師でないと。
それでも使ってるのを見たこと位は有る。
範囲攻撃で複数の敵を凍らせる。
でも『氷の嵐』じゃない。
あれで凍り付くのはせいぜい魔獣の半分くらい。
逃げられなくするのに便利な程度。
これはだって。
イヌマル、キジマルの全身が凍り付いてるのだ。
そして、
さらには……
観客はもう考える事が出来ない。
何故なら。
観客が凍り付いてるから。


「ストーップ!
 そこまで! そこまでです!!」

キキョウはありったけの声で叫ぶ。
何よこれ?
凍ってるじゃない!
試合の参加者だけじゃない。
見物に集まってた冒険者達。
練習試合の会場。
黒衣の魔術師から先。
その正面が全て凍り付いてるのだ。

何よこれは。
……どうしよう。
……どうするといいの。

狼狽えてる場合じゃない。
訓練場の人間に指示を出す。

「治療院にすぐ連絡、
 連れてはいけない。
 出来るだけ早く来てもらって」


「おーやおや。
 こりゃ凄いねぇ」
「サラ様っ
 これを予想してたんですかっ」

キキョウは惨状を指さして言う。
冒険者の訓練場。
凍り付いてるのは数人ではない。
数十人だ。
試合場から後ろの壁まで凍り付いているのだ。
見物人が集まっていたのが災いした。

「予想するワケないだろ。
 アッハッハ」
「笑い事じゃないですっ!
 重傷者が何名いる事か」

「大丈夫さ、
 全員タフな冒険者だよ。
 お湯でもかけときゃ治るさ」

老女サラは笑ってる。
キキョウはそんなに達観できない。

大事故だ。
重傷者は組合が治療費を出さねばならないだろうか。
本来訓練場で起きたことだ。
訓練場での事故は冒険者の自己責任。
組合は関知しない。
訓練でケガする事まで組合が面倒見ていられるものか。
しかし、今回は巻き添えになった者が多過ぎる。
しかもキキョウが試合に関与していた事を大勢に見られているのだ。


「ねー、
 試合終わり?
 僕の勝ちって事だよね」
「ショウマさんっ!」

そこに黒いローブを着た魔術師が現れる。
声が楽しそうだ。
この状況が分かっているのだろうか。
怒って何か言おうとするキキョウ。
だが、言葉が出てこない。
少年はフードの下で笑顔を浮かべてるのだ。

「ハー。
 もういいです」

「いいですか、ショウマさん!
 そのまま顔を隠して、組合の部屋に戻ってください」
 
「早く行って!
 チームメイトを凍らせられた冒険者が騒ぎ出すかもしれません。
 騒ぎが大きくならないうちに早く行って」

ショウマが去っていくのを確認するキキョウ。
さあ後始末をどうしよう。
考えるだけで頭が痛い。
とにかく、治療。
凍ってる人たちを救う。
それからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

お気楽少女の異世界転移――チートな仲間と旅をする――

敬二 盤
ファンタジー
※なろう版との同時連載をしております ※表紙の実穂はpicrewのはなまめ様作ユル女子メーカーで作成した物です 最近投稿ペース死んだけど3日に一度は投稿したい! 第三章 完!! クラスの中のボス的な存在の市町の娘とその取り巻き数人にいじめられ続けた高校生「進和実穂」。 ある日異世界に召喚されてしまった。 そして召喚された城を追い出されるは指名手配されるはでとっても大変! でも突如であった仲間達と一緒に居れば怖くない!? チートな仲間達との愉快な冒険が今始まる!…寄り道しすぎだけどね。

国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介
ファンタジー
オンラインゲームをプレイしながら寝落ちした佐藤綾人は 気が付くと全く知らない場所で 同じオンラインゲームプレイヤーであり親友である柳原雅也と共に目覚めた。 そこは剣と魔法が支配する幻想世界。 見た事もない生物や、文化が根付く国。 しかもオンラインゲームのスキルが何故か使用でき 身体能力は異常なまでに強化され 物理法則を無視した伝説級の武器や防具、道具が現れる。 だがそんな事は割とどうでも良かった。 何より異変が起きていたのは、自分自身。 二人は使っていたキャラクターのアバターデータまで引き継いでいたのだ。 一人は幼精。 一人は猫女。 何も分からないまま異世界に飛ばされ 性転換どころか種族まで転換されてしまった二人は 勢いで滅亡寸前の帝国の立て直しを依頼される。 引き受けたものの、帝国は予想以上に滅亡しそうだった。 「これ詰んでるかなぁ」 「詰んでるっしょ」 強力な力を得た代償に 大事なモノを失ってしまった転生者が織りなす 何かとままならないまま チートで無茶苦茶する異世界転生ファンタジー開幕。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

処理中です...