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第二章 迷宮都市はオドル

第86話 キキョウの災難その3

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片方は『名も無き兵団』の二人。
イヌマル、キジマル。
二人とも武器は持っていない。
何を思ったか、服を脱ぎ上半身ハダカだ。
鍛えられた肉体を晒している。

片方はショウマとハチ子、ハチ美の三人組。
ハチ子、ハチ美は槍と弓矢を持っている。

結局どちらも練習用のモノにはしていない。
真剣の凶器なのだ。
当ったら即大怪我じゃないの。
どちらの心配をしていいのか。
分からなくなる冒険者組合の主任キキョウだ。

ショウマはそんな二人の後ろに立っている。
武器は杖。
黒い革ローブ、フードを上げて顔を隠している。
やっぱり顔は隠すのね。
見られる訳にいかない事情があるのだ。
そう考えるキキョウである。

もちろんショウマは視線が集まるのがイヤなだけだ。
だって知らない人に注目されるんだよ。
寿命が縮むじゃん。


「『名も無き兵団』のイヌマル、キジマルと相手は誰だ?」
「知らない。見たことないぞ」

「あんな美人なら、見たら覚えてるだろ」
「おいおい、新人かよ」

「新人じゃ練習試合にならない。LVが違い過ぎるだろ」
「別の迷宮『野獣の森』辺りから、腕利きをサラさんが呼んだんじゃねーの」


『身体強化』


冒険者、イヌマルは叫んだ。
イヌマルは上半身裸だ。
逞しい肉体が見えている。
その肉体が一瞬一回り大きくなった。
キキョウにはそんな風に見えた。

そのイヌマルの肉体に矢がまっすぐ飛んでいく。
ハチ美から放たれた矢だ。
イヌマルの肉体に矢が刺さる。
だが、寸前で矢は受け止められていた。
イヌマルの手によって。
イヌマルは矢の中央部分を拳で掴んでいた。

「なんだありゃ?
 手で矢を受け止めたぞ」
「アレはスキルだ。
 武闘家特有の『身体強化』」

観客は冒険者だ。
訓練をしていた者達。
試合見物は好物だ。
高名な冒険者と美女の試合となれば訓練どころじゃない。
見物しなくては。

そんな野次馬な彼等だが、それでも戦闘のプロなのだ。
仲間の弓矢による攻撃を見ている。
矢で襲われた経験も有る男達である。
だから分かる。
時速200kmの矢を人間が手で受け止めるなど誰にでも出来る事じゃない。

「攻撃力も素早さも跳ね上がる。
 矢くらいは捉えられるんだ」
「武闘家といや、
 武器を持たずに戦う職業だろ、
 珍しいじゃないか」

「ああ、
 大地の神は父さんだよ教団で
 修行してきた本格派の二人だって聞くぜ」


武器を持たない武闘家!

じゃあ素手で戦うハンデなど最初から無い。
キキョウが蒼褪める。
ハンデが無ければLVが違い過ぎる。
試合にもならない。
大地の神は父さんだよ教団で修行してきた。
その言葉の意味まではキキョウに分からない。


『身体強化』


叫んでキジマルが走り出す。
速い。
ハチ子に向かって一直線に走る。

ハチ子も迎え撃つ。
キジマルに向かい、槍を構える。

キジマルは本気で走っている。
全速力だ。
あれだけ速度を出してたら、簡単には躱せない。
左右に躱すなら大きく体勢を崩す筈。
そうすれば再度槍で攻撃する隙が出来るのだ。
ハチ子はそう考える。

走って来る男に向かい女戦士ハチ子は槍を突き出す。
しかし。
キジマルは宙を跳ぶ。
ハチ子の槍を上に避けたのだ。
槍を避け、ハチ子の斜め後ろに着地して見せた。

振り返ろるハチ子。
キジマルに向き直るつもり。
が、間に合わない。
キジマルは槍の石附部分を捕える。
刃先の逆側の柄を手で掴んだのだ。
槍を掴まれたハチ子は距離が取れない。
その瞬間。
ハチ子にキジマルの蹴りが入っていた。


「ショウマさん!
 マズイです」

相手は武器を持たないハンデ戦だと思っていた。
でも違った。
キキョウはショウマに呼びかける。
大丈夫なんでしょうね。
アナタ腕利きの密偵でしょ。
この場を納める手は考えてあるの?

ショウマはフードで顔を隠してる。
キキョウには表情が見えない。
まだ何もする気は無さそうだ。


『足払い』


女戦士ハチ子の攻撃だ。
キジマルに蹴りを喰らったハチ子。
それでもダウンはしなかった。
蹴りを受けた時に強引に槍はもぎ取った。

相手の足元を槍で牽制する。
素早し攻撃を連発。
キジマルを寄せ付けない。

足元の槍を避けるキジマル。
軽い足捌きで左右に動く。
動きつつ、ハチ子と距離を詰めていくのだ。


『一点必中』


ハチ美の矢を手で受け止めるイヌマル。
観客には簡単に受け止めているように見える。

しかし、彼は恐怖している。
何故なら矢は武闘家の顔を目指してる。
いや、正確には目を狙って飛んでくるからだ。

いくら鍛えると言っても鍛えられない場所がある。
目玉だ。
矢は一直線に目を狙ってくる。
当ったら怪我ではすまない。
間違いなく失明だ。

正確に目だけを狙う矢が何本も飛んでくるのである。
身体から冷や汗が流れ出すのを感じるイヌマル。

「恐ろしい女だな」

腕の程もだが、練習試合だってのに。
躊躇いの無い急所狙い。
普通の神経では出来る事じゃない。
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