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第二章 迷宮都市はオドル

第82話 みんなでお出かけその3

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冒険者組合は喧騒に包まれている。
迷う霊魂レイス”が討伐された。
その情報を冒険者たちが知った翌日である。
昨日ほど殺気立ってはいないが、そこかしこで声がする。

「新しい迷宮が出来たって話聞いたか?」
「『竜の塔』に『静寂の湖』な」

「本当かな?」
「本当だとしても、危険度も稼げるかもワカらん。
 素直に『地底大迷宮』で稼ごうぜ」

「そういや、一階がおかしくねーか」
「その話、おれも聞いた」

「結局“迷う霊魂レイス”を倒したのは誰なんだよ」
「キョウゲツじゃねえの」

「相手が“迷う霊魂レイス”だとしたら
 武器は通用しないって言うぜ」
「そりゃ伝説だろ」


「ジャマするよ!」

ざわつく冒険者組合に大音響が響き渡る。
女性の声だ。
老女が組合に入ってくる。

「『名も無き兵団』のサラだ」
「構成員は1000人近い、地下迷宮で最大の冒険者チーム」

「まさか、あいつらが“迷う霊魂レイス”を倒したんじゃ」
「イヤ、『名も無き兵団』は人数こそ多いが、そこまでの腕利きは少ないぜ」

「わからんぞ。リーダーのサラはやり手だ。
 どこかから腕利きを呼んだかもしれんし」
「魔術師集団『暗き黄昏』と手を組みでもすれば」

「『名も無き兵団』と『暗き黄昏』が手を組む?!
 そんなコトあるか?」
「サラさんだけはな、やりかねないぞ」


老女サラは受付へと歩いていく。
けっこうな年齢にふさわしく、杖をついている。
しかし老人特有の弱々しい雰囲気は無い。
年老いてはいるが、気力に満ちている。

連れらしき男も二人一緒だ。
冒険者らしい逞しい男達。
背や体格では男達の方が大きい。
それでも老女の方がリーダーだという事が誰の目にも伝わる。
迫力が違うのだ。

受付に並んでいた冒険者達が道を譲る。
男達は敬老精神で譲った訳ではない。
触らぬ神に祟り無し。
それが理由だ。
みんな知ってるのだ。
サラがどんな人物か。

「久しぶりだね。小娘」
「はい。サラさま。
 お元気そうで、なによりです」

引きつった顔で答えるのは受付に居たアヤメだ。

何で?
何でアタシのとこに来るの?
アタシって運が悪い、と思ってる。


「用件は分かるね?」

ゴゴゴゴゴゴゴ!
背後に文字が現れそうである。
老女の迫力に圧されるアヤメだ。

「ええと、ええと、
 新しい迷宮の情報。
 または“迷う霊魂レイス”を倒したのが誰なのか?
 という話かなぁなんて
 ……思ったりするんですけど……」

最後の方は小声になってしまうアヤメ。

「そうだよ。
 今すぐ教えな!」

老女がドアップでアヤメに迫る。
勘弁してー!

「すいません。
 まだ分からないんです。
 今調べている所で……」
「なんだって?」

ゴゴッゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
迫力を増す老女なのである。

でも知らないの。
本当に。
昨日からその話ばっか。
みんな知らなくて困ってるの。

「あのあの、
 分かり次第ご連絡しますので……」
「お前じゃダメだね!
 支店長を呼びな」

支店長は今出張中なの。
知ってるでしょ。

「サラ様、お静かに。
 私が知ってる事ならお教えします」

キキョウ主任!
良かった~。
どうなるかと思った。

アヤメを助けてくれたのはキキョウ主任だ。
上司はサラ様を連れて別室へ向かう。


 

キキョウと向かい合ったサラは開口一番言った。

「組合の人数増やしな。
 受付も、警備員も、
 倍は必要だね」

「あの、サラ様?
 ……なんの……」
「キキョウは主任だったね。
 まだ資格不足か。
 議長宛ての書類作って持ってきな。
 アタシがサインしてやる」

「………」
「なんだよ。
 アタシが冒険者組合の役員だって知ってるだろ」

そうなのだ。
老女サラ。
地下迷宮で最大の冒険者チーム『名も無き兵団』のリーダー。
現役の冒険者だが、それだけではない。
サラソウジュ・シャクティ・ホウガン
迷宮都市一帯の領主貴族の一員でもある。

迷宮都市には市長という存在はいない。
議会で運営されているのだ。
議会は近隣の領主、貴族、商人組合、冒険者組合、他の代表で構成されている。
サラはその議員でもある。
冒険者組合の役員であり、商人組合の役員でも有るはずだ。
迷宮都市に市長はいない。
だが目の前にいる老女は市長という立場に一番近い人物なのかもしれない。
キキョウでは荷の重い相手だ。
サラに対抗できるのは支店長くらいのモノだ。

「何だよ。アンタものんきだね。
 この後、多分街は大変だよ。
 ボス魔獣が倒されたなんて話が世界中の冒険者に流れたんだ。
 腕自慢の冒険者がこぞって集まって来る。
 『地下迷宮』が『地底大迷宮』になったってんだから、
 各国から密偵やら情報部やらも来るさ。
 人が集まれば商売人だって来る。 
 貴族や王族だって顔を出す。
 奴らは利には聡いからね。
 アタシも商売人だし、冒険者だ。
 大忙しさね」

「分かりました。
 すぐに人を雇い入れます。
 支店長も呼び戻します」

「ああ、そうしな」

やっとキキョウにも分かった。
街は大変な事になる。
各国から人が来て大忙しになる。
今のうちに組合の体制を整えないと大変な事になる。
それだけではない。
貴族や王族もやってくる。
冒険者組合には貴族の相手が務まる人材は少ない。
頼りになる筆頭は目の前のサラだ。
本人が貴族なのだ。
いざという時には手を貸す。 
いざという時までは自分たちでやりな。
そんなコトをわざわざ言いに来てくれたのだろう。
この老女は。

「ありがとうございます」

キキョウは頭を下げた。
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