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第一章 ハジマリの地下迷宮

第68話 地下迷宮最下層その4

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「あれはまさか……
 “迷う霊魂レイス”です!
 物語だけの存在かと思ってましたですよ!」

「“迷う霊魂レイス”は実体の無いアンデッドですよ。“歩く骸骨”のような物理的な実体がありません。何十年も遭遇した記録は無いはずです。
 みみっくちゃんの知ってる物語上の“迷う霊魂レイス”は亡くなった方たちの無念な気持ちや恨みが集まって出来た存在ですよ。
 実体が無いから物理的な攻撃、武器による攻撃は一切効かないです。
 そして“迷う霊魂レイス”からも物理的攻撃はありません。“迷う霊魂レイス”は魔法で攻撃してくるです」


迷う霊魂レイス”から声が馳せられる。
うつろな感情のこもらない響きだ。


『炎の乱舞』



「わわっ!」



『氷の嵐』


迷う霊魂レイス”から宙を飛んでくる幾つもの火。
それをショウマが水属性の魔法で消し去る。

「危なかった。
 “動く石像”に試してなかったら対応できなかったよ」
  
「だから魔法を使えない冒険者チームだったら一方的にやられるだけなんですよ」
みみっくちゃんが続ける。

「じゃあ王に任せて、我らに見物してろと言うのか」
「見物してろと言うんですか」

「それは戦士として納得いかんぞ」
「納得できないです」

「仕方ないでしょう。ハチ子とハチ美が何したって効かないですよ。二人とも役立たずですよ。みみっくちゃんと同じですよ。
 あれ、いけない。みみっくちゃん役立たずじゃないですよ」

ハチ子とみみっくちゃんが何か言い合っている。
ショウマには気にする余裕が無い。


『炎の乱舞』


今度はショウマから攻撃する。

うつろな声が木霊する。


『氷の嵐』


ショウマから飛び散る火が氷に消し止められる。

「うわ、おもしろい」
「よろこんでどうするんですか。こっちにも飛び火したらどうすんですか。みみっくちゃん木の鎧なんですよ。燃えちゃいますよ」

「ゴメンゴメン。
 でもまだ大きい魔法行くから、
 避けてね」


『舞い踊る業火』


『氷の嵐』


ショウマから火炎の柱が立ち昇り、“迷う霊魂レイス”へ向かう。
迷う霊魂レイス”からは氷が吹き荒れる。
だが火の勢いに氷が対しきれていない。
氷が押し負け、“迷う霊魂レイス”が燃え上がる。

ショウマの作った魔法表では『氷の嵐』は水属性のランク2。
『舞い踊る業火』は火属性ランク4。
上位の範囲攻撃魔法なのだ。
どうやらショウマの表は正しかった。
『氷の嵐』を『舞い踊る業火』が上回っている。
下位の魔法と上位魔法がぶつかれば上位魔法が勝つという事が分かった。



『氷の嵐』

今度は“迷う霊魂レイス”から唱える。


『舞い踊る業火』

対抗して唱えるショウマ。
これも炎の勢いが氷を消し去り、“迷う霊魂レイス”が燃え上がる。
ショウマにダメージは無い。

「んじゃ、
 風も行ってみよう」



『旋風(つむじかぜ)』


『落雷』


風が上空から降る雷に勢いが鈍る。
しかし押し切ったのか、“迷う霊魂レイス”が吹き飛ばされる。


「ええええ!
 何今の?
 ズルくない。
 僕知らないよ」







「キョウゲツ!
 なんでアンタがここに居るんだい?」

女冒険者カトレアは叫ぶ。
自分の所属するチーム『花鳥風月』のリーダーの登場に驚いている。

「フム。
 余計な事をしたでござろうか?」
「いや。
 コノハちゃんは嫁入り前の美少女だ。
 ケガしないに越したことは無いよ」

侍剣士キョウゲツが従魔師コノハを襲う“殺人蜂”を両断したのだ。
カトレアはこの男以外に“殺人蜂”を一撃で倒せる者を知らない。

「なんだ。キョウゲツ。
 いきなり走り出したと思ったら」

後ろから現れたのは『花鳥風月』の副リーダー、ガンテツであった。
その他古参のメンバーも一緒だ。

「なんだい。
 ガンテツ、新人はどうしたんだい?」
「新人は今日は休みだ」

「休み? 二人揃ってかい」
「休みを合わせたんだよ」

「新人に休ませて、時に俺らは下層に行っとかないとな。
 なまっちまうぜ」
「そういうやり方か。
 ウチは聞いてないよ」

「当たり前だ。
 休みの取らせ方くらい好きにしろって言ったろ」

他のメンバーも合流して世間話を始める。
コノハとタマモは挨拶して回ってる。

「へー。
 『花鳥風月』は四階まで降りたと聞いてたんですけど
 本当は地下五階にも行ってたんですね」

「そうだよ。
 でもあそこはまともに探索できるところじゃないのさ」
「四階だってまけず劣らずイヤなところだぜ」

その時、全ての冒険者に聞こえた。
機械的な音声だ。

「重要連絡、重要連絡 これより新ダンジョンが解放されます」







『旋風(つむじかぜ)』


『落雷』


「ええええ
 何今の?
 ズルくない、
 僕知らないよ」

ショウマは大慌てだ。
聞いた事の無い呪文。
『賢者の杖』を持っても心に浮かばないヤツ。
『落雷』
名前から言って雷属性?
雷属性ってだいたいカッコいいヤツじゃん。

「ご主人様、いい加減にしてください。こっちは寒かったり熱かったり大変ですよ」
「分かったよ。
 僕も疲れてきたし」

まだ試してない魔法が一つある。
ここで試すのがちょうどいい。
彼の魔法表上、火属性の魔法、ランク5。

ショウマは唱える。
それは現在の魔術師と呼ばれる人たちには使える者の居ない魔法。
長く紡がれた事の無い呪文。



『灼熱地獄』




輝く物。
大地から赤とオレンジに輝く物が噴き上げる。
どろどろとした奔流。
それは火なのか。
いや。
溶岩。
マグマ。
惑星の内部で渦巻くエネルギー。

鉄をも溶かす熱の奔流に“迷う霊魂レイス”が呑み込まれる。

『…………』
迷う霊魂レイス”はもしかしたら対抗魔法を使ったかもしれない。
でも見えない。
聞こえない。
熱の奔流に溶かされる。
熱気がショウマたちにまで届く。

熱が消えた後には何も残らない。
宙に飛んでいた光るもの。
その有った空間には何もない。


何故か下に落ちていたローブだけ残されている。


「アッツー。
 一瞬だったけど、
 すごい暑さだったね。
 サウナ?」

「……ご主人様……だからですね。ランク5の魔法というモノはですね……
 一日に何回も使うモノじゃないんですよ。分かりますか。言葉通じてますか……
 みみっくちゃんの言う事聞いてますか……
 ご主人様はみみっくちゃんの扱いが雑です……」
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