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第一章 ハジマリの地下迷宮

第38話 カトレアの闘いその1

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地下2階にも行ってみよう、と言い出したのはカトレアだ。
新人がLV5くらいにはなってからがいいんじゃない、と返したのは魔術師だ。

議論は他のメンバーも混じって白熱した。

だって6人チームだ。
経験値を6人で割ってたらいつまで経ってもLV5になんかならない。
2階はアンデッドが大量に出る。
休憩する場所も無い。
無理しちゃ元も子もないぞ。
ベテランが付いてるんだ。
普段は3階で戦っているメンバーが一緒だ。
4階でだって戦える。
あそこは罠が多いから3階をメインにしているだけだ。
今回4人新入りが来たのは試験だぜ。
今後も新人は入ってくるだろ。
俺たちは新人教育に慣れてない。
最初くらい慎重にやろうや。
新人だからこそ下の層に連れてかなきゃ経験にならないだろ。

そんな話をしていたら警戒を忘れた。
冒険者失格だ。

後ろからだ。
後ろから魔術師が狙われた。
巨大なクチバシが上から降ってきた。
魔術師もベテラン。
急所は避けた。
避けたと思う。
けど倒れたまま起き上がらない。

「なんだ!
 アレ?
 見たことないぞ」
「デッカイ鳥だ」

「そんな魔獣、一階にいないだろ」
背後攻撃バックアタック仕掛けてきたぞ」

隊列の後ろから魔獣が仕掛けてくる背後攻撃バックアタック
通常起きるのは三階より下だ。
一階で喰らうなんて予想もしていない。
 
ワヤクチャになった隊列を組みなおす。
斧戦士とベテラン剣戦士が前に出て、弓戦士のカトレアは後衛。


「なんだ、あれ。なんだよ!
 あんなデカイのと戦えるわけねーじゃねーか」
「どうしましょう。
 どうしたらいいですか?」

新入り剣戦士と従魔師コノハはパニックになりかけてる。

「魔術師をみてくれ。
 回復薬持ってきてるだろ」

戦力にならないのが隊列に入るよりいない方がマシだ。
カトレアにカバーできる余裕は無い。


この中でキャリアの一番長い剣戦士が話し出す。

「聞いたことある。
 “闇梟ダークオウル”だ」
「知らないよ、そんなの」

「ワシは聞いた事あるぞ。
 いつの間にかチームの最後衛が一人いなくなる。
 デッカイ梟が攫ってくってヤツじゃ」
「怪談話じゃないか」

フクロウが舞い降りてくる。

カトレアが意識するより先に手が勝手に動く。
弓に矢を番え引く。
獲物を見た時の猟師の習性だ。

矢は当たった。
当ったはずだが、フクロウが黒くて良く分からない。
確認する余裕は無い。

前衛の戦士をフクロウが襲う。
爪だ。
マジかよ。
笑ってしまうほど鋭く長い。

斧戦士が盾で受ける、がムリだ。
衝撃で跳ね飛ばされる。
剣戦士が切り込むが「カン」と固い音で跳ね返される。

カトレアは離れて行く黒いフクロウに矢を射る。
飛行する魔獣なら矢に特攻が付く。

上空に舞うフクロウ。
ザっと人間3人分くらいの大きさか。
矢は刺さった筈だが、どの程度のダメージかは分からない。


「ヤバくねーか。
 逃げた方がいい」
「逃げられたら逃げるさ!」

斧戦士は立ち上がってきたが、魔術師はまだひっくり返ってる。
見捨てて行くには貴重すぎる人材だ。
コノハは足が遅い。
これも捨てて行くのはダメだ。
カトレアには出来ない。

魔術師が最初にダウンしたのが痛い。
火属性の魔法を正面から当てるのが最もダメージを与えられる方法だ。
もっとも相手を避けられないようにしてからの話なのが難しい。
しかしあのデカイ図体だ。
何処かには当てられただろう。

「チックショウ!
 分かってて狙ったんじゃないだろうね」

闇梟ダークオウル”は上空で旋回している。
図体が黒くハッキリとは判別できないが、光の加減で動く翼が見える。
こちらのスキを狙ってるのだ。
カトレアは威嚇に矢を放つが、どの程度効果が有るものか。

「他のチームの助けは?」

「一階だよ。
 低LVのチームが来たって、足手まといが増えるだけだろ」

魔術師がフラフラしながら起きてきた。
コノハが回復薬を飲ませたのが効いたらしい。
肩を抑えてる。
血で装備が赤く染まっている。

「無事か?」
「無事じゃない」

「魔法は?」
「集中できん。
 威力は落ちるが、2,3発なら使える」
 
「それじゃ仕留めきれない。
 避けられて終わりだ」
「やるしかないだろ。
 他に手は無い」

「なんだよコレ。
 なんでこんな事に……
 みんな死ぬのかよ。
 おれも死ぬのか……」

魔術師の横には新入り剣戦士がついてきている。
すでに顔が青を通り越して白い。

その後ろにはコノハが心配そうについてきてる。
顔が青くなっている。
当たり前だ。
命の危機なのだ。
パニックにならないだけマシだ。
その後ろに“妖狐”がついてくる。

「……!
 コノハ、マヒ攻撃だ」

「あのデカブツが近付いてきたらマヒ攻撃を喰らわせろ!
 落っこちたヤツを全員で仕留める!」

カトレアは叫ぶ。
勝利の可能性が見えてきた。
なのにコノハは言うのだ。

「マヒの遠吠えは……
 タマモより大きい魔獣には効果が出ない事が多い……です」
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