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第一章 ハジマリの地下迷宮

第10話 少女の名はその2

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『氷の嵐』


ショウマに飛んで来た毒水が凍って、地面に落ちていく。

「これも範囲攻撃だね。
 威力は『氷撃』と同じくらいかな」

巨大猛毒蟇蛙ジャアントポイズントード”は涙目である。
逃げようとするが、下半身が凍りついている。


「まだ試せそうだね。
 じゃ、本命行くよ」

名前的にヤバそうな魔法がまだ残っている。
ショウマはそれを試すつもりなのだ。



『絶対零度』


ショウマの耳から音が消える。
先ほどまで巨大カエルが暴れる音、足元の氷が割れる音が五月蝿かったのだ。
今周囲には一切の音が無い。

巨大猛毒蟇蛙ジャアントポイズントード”は氷像になっていた。


「うわ!
 さっぽろ雪まつり」


巨大なカエルの氷像が崩れだす。
無数の氷の結晶が周囲に舞い落ちる。

「寒っ。
 もしかしてもっと離れて使うべきだった?」
 
後には何も残っていない。

ショウマは辺りを見回す。
 
「範囲攻撃だったが、単騎攻撃だったか、良く分からないな~」


「ケロッ……」

「うん?」

見るとカエルが倒れている。
“毒蛙”だ。
巨大ジャイアント”ではない。
仰向けに倒れ弱々しくもがいている
今にも死にそうに見える。


「……ケロッ……」

「先刻の『絶対零度』受けたんなら死んでるよね。
 ならその前の範囲攻撃の巻き添えを食ったんだな」

ショウマはカエルを放置していこうとする。
今日はたくさん魔法を試した。
これ以上やるのはオーバーワークというモノだ。


『LVが上がった』
『ショウマは冒険者LVがLV5からLV12になった』

「ええっ、7LVアップ? 経験値大きかったんだ」

ショウマは知らない。
この世界の従魔能力発動には条件が有ると言われている。
その条件は二つ。
従魔師のレベルがそのモンスターのレベルを上回る事。
魔獣の体力を大きく削る、およそ10分の1以下にする事。
ショウマは知らない。
無数の冒険者の努力、永年の研究者の叡智で創られた記録によると“毒蛙”の魔獣レベルは5。
そして目の前の“毒蛙”は瀕死の状態になっていた。


「えっ?!」

ショウマに何かが語りかけたような気がした。

「……主さま、助けて……」

小さな声、いや本当に音が聞こえたわけではない。
心に語り掛けられた、そんな気がした。
カエルが仰向けになってもがいている。

「……ケロ……」

「今のって?」

ショウマはカエルを見つめる。
さっきも思った事を口に出す。

「カエルって内側から見ると意外とスベスベしててキレイだよね」


『“毒蛙”を仲間にしますか?』

突然機械的な声が鳴り響く。

「えっ。これ、もしかして?」

「えーっ? でもどうしよう。
 最初の仲間がカエル?
 最初はやっぱりオオカミとかネコじゃないの」

「……ケロ……」

カエルのもがきが弱くなっている。
先ほどまでバタバタしていた足の動きが遅い。

「うわ、仲間にする仲間にするよ~。
 どうすればいいの?」

心の中に呪文が浮かび上がる。
いままでは浮かんだことの無い呪文。


『我に従え、獣よ』

ショウマは目を見開いていた。
この瞬間を見逃したくない。

目の前にいる倒れたモンスターの身体が青い光に包まれ、見えなくなる。
光が溢れて来る。
ショウマは眩しさに瞳の前に手をかざす。
と、それは起こった。
青い光の中に少女はいた。
輝く頬、長い睫毛、腰はくびれ胸は大きく丸みを帯びている。
健康そうな美少女であった。


「キタ!キタキタ! キィータァー!」
ショウマは心の中で叫び声を上げる。

少女はゆっくりと瞼を開ける。
ショウマの方を見て全開の笑みを浮かべる。

「主さまですか。はじめまして」

「あ、ああ。
 はじめまして、ショウマです」

「ショウマ……さまですか。
 ワタシ、ショウマさまの事が好きです。
 ショウマさまの言う事なら何でもします」

「これだ!これこれ! こォーれェー!」
勢いあまって声に出して叫んでしまう。

「!」
少女は一瞬ビックリした顔をする。
ショウマが近づいて少女を抱きしめていたからだ。

「主さま……」
少女は光り輝くような笑顔になっている。

ショウマは抱きしめておいて、慌てて飛びのいて離れる。

「まずい?!
 今の痴漢?
 セクハラ?
 事案発生?」
 
ショウマは少女の顔を窺がう。
怒った表情では無い。
きょとんとした顔だ。
なんで離れちゃったのかなぁ?という雰囲気。
首をかしげているのがカワイイ。


「ええと、ええと、キミは僕の従魔ってことでいいんだよね?」

「従魔? 多分そうなのかな。
 そうだと思います」

「うん。じゃあ名前を教えてくれる?」

「ナマエ……名前、ドクガエルです?」

「それは種族名かな。僕はショウマ、君は?」

「?」

また少女は首をかしげる。
ナナメ45度の角度で首をかたむけて、頬に指を当てている。
背景に ? という文字が浮かんでそうだ。
カワイイ。

「これはアレかな。僕が名付けるとかいう仕組み?
 どうしよう。何も考えてないよ。
 ええと、綾波〇イ、禰〇子。
 でもカエルに禰〇子ってどうなの?」

「?」
少女は首をかしげている。

ショウマはとりあえず提案する。

「ええと ケロ子 で…」
「……ど、どうかな?……なんて……」

「ハイっ。ワタシはケロ子ですっ」

少女は満面の笑みで応える。
やっぱ今の無し、キャンセルとか言える雰囲気では無い。

「あはははっ。じゃあ、そういう事でよろしくね」

「はいっ、ショウマさま。よろしくお願いします」
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