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Scene.EX04 女社長七鮎川円花と俺のいない世界

第183話

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「円花、着いたぜ」

逆が言う。
車はもうわたしのビルの前に止まっていた。
わたしは随分と物思いに耽っていたらしい。

「あんまり、気落ちすんなよ。
 ウツのヤツとは連絡取れたのか」
「ダメよ。
 保健室で何度もカメラに呼びかけたんだけど。
 応答なし。
 ホントに今でもあの地下室にいるのかしら」

ずっとウツとは連絡が取れていない。
考えて見れば、電話番号さえ交換していなかった。
ウツと思しきメールに返信してみたけど、これも反応無し。
『草薙真悟』という患者に会いに行くわよ。
ウツも一緒に行かないかしら?
今日はそんな事を保健室のカメラに言って見たのだけれど。
それさえも反応無し。

あの保健室に地下室が有った。
学校を無数のカメラが撮影していた。
本当なのかしら。
数ヶ月経った今では夢の様にも思える。


「円花様、やっと会えた。
 話を聞いてください」

ビルの前では男がわたしを待ち構えていた。
警備員はどうしたの。
と、思うと警備員らしき人物が倒れているのが目に入る。

サッと逆が男とわたしの間に入る。

「なんだ、逆。
 どいていろ。
 俺は円花様に用が有るんだ」
「凌、落ち着けよ」

五古河凌【ごふるかわしのぐ】。
逆の兄だ。

「凌さん、あなたのお話はもうお断りした筈です。
 これ以上しつこくするなら、正式に五古河に抗議しますよ」

「円花様、自分は貴方のお役に立ちたいだけです。
 貴方のおそばに置いてください」
「わたしの側には逆が居てくれます。
 これ以上五古河の方は必要有りません」

わたしはキッパリ言う。

五古河凌の目が怖くなる。
わたしに近付こうとする。

「やめとけよ、凌。
 フツーに歩けるだけでもさすがだけどよ。
 その義足、まだ慣れて無いだろ。
 現在のアンタじゃオレにだって勝てない」

五古河凌の右足は複雑骨折を負い義足と取り換えている。
知らない人が見たら何も気づかないだろう。
違和感なく歩いているだけでも奇跡の様な体術のおかげと言える。


「そこの男、大人しくしなさい」
「五古河様、七鮎川様、ご無事ですか」

警備員の応援が来たらしい。
揃いの制服を着た男達がこちらに走ってくるのが見える。

「クッ、後悔するぞ」

五古河凌は走り去った。
義足とは信じられない様な速度。

「円花、エライのに惚れられたな。
 美少女ってのもタイヘンだよな」
「やめてよ、逆」

アレだ。
あれこそわたしを見ていない。
七鮎川の金、権力しかみていない人間の典型。
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