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Scene29 女教師と俺の校舎脇

第175話

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「お見事、気づいたのね。
 でも本当はずっと分かっていなかったでしょう」

「ああ、異様な欲望を抱え込んだ女とは思っていた。
 『女勇者』と気づいたのは今だ」

俺は正直に言う。

勇者。
コイツはあの世界でも不思議な女だった。
女性が勇者に選ばれたと聞いたときは耳を疑った。
人間族の中に現れる英雄。
魔族に対抗するための特殊存在。

女性が政治や学問の世界に現れる事は有っても。
戦の場に女が台頭するなど常識外。

「アナタのとこだって四将に女が居るじゃない」
「シアカテルは俺が魔術師、研究家として強引に採用したからな」

人間の中でも反対は多かった筈。

「そうよ。
 でもトップの人間を数人狙って、寝たらば静かになったわ」

クククと笑う女。
 
「キサマ、サキュバスの血が混じってるな」
「さあね、自分の親の顔だって知らないのよ。
 どこでどんな血が混じってるか分かりはしないわ」

三級市民と言っていたな。
俺の知識では人間社会で最下層、奴隷の様なモノだったハズだ。
通常の市民では無い。
魔族の血が混じってるような人間。
はたまた犯罪者や王家への反逆者。

「そうよ。
 そこから成りあがったの。
 この女も容姿はまあまあだけれど。
 あの世界の私は桁違いだったでしょう」

確かに、黄金の髪の毛。
白く抜けるような肌。
紅い瞳。
一目見たら忘れらない様な容姿の持ち主だった。

「美人だと勇者になれるのか。
 人間社会には変わった風習があるな」
「元三級市民が貴族扱いされる為には、それ位しか方法が無かったのよ。
 貴族と寝るだけじゃあね。
 良いところ第三婦人、その貴族が死ねば三級市民に逆戻りだわ。
 幸い私には魔術の才能が有ったわ」

そう、女勇者は人間として信じられないクラスの魔術の使い手だった。
それで魔族の軍勢を打ち破り、魔王をも封印して見せたのだ。

「今サキュバスと言ったわね。
 私は男と寝ると膨大な魔力が身体に産まれるの。
 普通の魔術師の何十倍もの力で魔術を行使出来る。
 そんな力がサキュバスには有るのかしら」

「……無い。
 サキュバスは寝た相手を魅了する。
 多少の生命力は奪うが、その程度。
 何十人分もの魔力を産み出すなど聞いた事が無い」

「ならば私は何者なのかしら。
 アナタなら答えを知ってるんじゃない。
 私だって調べたのよ。
 勇者になってありとあらゆる文献にアクセス出来るようになったわ。
 ある書物に記されていたの。
 通常の魔族の何十倍、もしかしたら千人分もの魔力を産み出す一族。
 男女の交合でさらに強大な魔力を発生させる一族。
 その一族はその特殊にして強大過ぎる力で代々、魔族の王となる。
 それがアナタね」
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