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Scene28 悶える闇の妖精と俺の湖の畔

第160話

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「待て待て、まだ終わりじゃ無いのか。
 ウソだろ。
 こんな……」

サイツォンが血相を変える。
信じられない量のナニカが自分の肉体に雪崩れ込む。
本来、自分が操れるモノではないエネルギー。

「落ち着きなさい。
 今、調整してます」

シアカテルが眉間に汗を垂らしながら言う。
闇の妖精。

「私とサイツォン、貴方様と三人の間を循環するように魔力を動かし安定させます」

良く分からんが、少し魔力の質が変わった気がする。
サイツォンの香りがするとでも言えば良いか。
俺の中で産まれたモノがサイツォンに同化。
サイツォンが操りやすいように変化し、又俺に流れて来る。
サイツォンの香りが着いたそれが更に俺の身体からシアカテルへ、そしてサイツォンへと流れる。

「おおっ、楽になって来た。
 やるじゃねーか、シアカテル。
 これならこの無茶苦茶な量のパワーを操れそうだぜ」

サイツォンが笑いながら言う。
シアカテルも今は落ち着いた表情。

良し、ならば。

「落ち着いたようだな。
 なら本格的に行くぞ」

「なっ?」
「どういう?!」

先程までのは序の口。
水道の蛇口を少しずつ捻り、チョロチョロと流れ出した程度。
俺はその蛇口をグイット回す。
そのまま大きく流れる方向へ回し続ける。

シアカテルの背が跳ね上がる。
形の良いヒップが踊り狂う。

「あああひゃひゃひゃ、あああああああああああああ!。
 しゅごい、しゅごいのー。
 はぁっ、はぁっ。
 あはっ、ああひゃあああああああーあんんんん。
 しゅごしゅぎるのほーほほほー」

いや、それはヤリスギだ。
闇の妖精は天空を仰いでいる。
どこを見てるか分からない様な瞳。

意識が飛んだように立ち尽くしている。
それでも、魔力の調整はなんとかこなしている様だな。

サイツォンは無言。
目を閉じ、流れ込む何かを必死で堪える。

俺は全開にした蛇口を中間程度に戻す。
こんなモノだろう。

現在、三人を流れる魔力は膨大。
シアカテルのおかげでなんとか暴発せずに済んでいる。
これ以上は暴走しかねない。

「こんな、こんな事って」

シアカテルは正気に戻ったのか。
その身に纏う力の膨大さに息を呑み、周囲を見つめる。

サイツォンが閉じていた、目を開ける。

「ははっ、とんでもないな。
 なんだか巨人にでもなった気がするぜ。
 周囲にある山々が違って見えるぜ。
 小さくなっちまったな」

見たコトが無いモノを見る様に夕暮れの山々を見渡すサイツォン。
新しい世界にワクワクしてる。
そんな表情。

「あの山、山がよ。
 俺が今パンチしたらぶっ飛んじまいそうじゃねーか。
 すげぇな。
 今俺はどれだけの力を持ってるんだ」

子供みたいに興奮した顔。
おいおい、ホントウにパンチなんかするんじゃ無いぞ。

「待てよ…………
 待て待て!
 オマエ、オマエよ。
 まさかずっとこんな気持ちだったのか。
 こんな風に世界を眺めてたのか」

サイツォンが俺の顔を見ながらそう言う。
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