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Scene27 魔術研究家シアカテルと俺の茶屋

第156話

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「バカバカ。
 何やってんのよ、アンタ」

俺は先ほどの茶店に戻ってる。
椅子に腰かけ革ジャンに着いた泥を払う。
クリーニングに出さないとダメか。
この辺のクリーニング屋は営業してないだろうな。

キャンディーがプンスカしながら俺に言う。
ミニスカ姿で足を上げ、俺のイスの横を踏みつける。
ケンカを吹っ掛けるようなポーズ。
ミニスカでそんなマネすると下着が丸見え。
まあ、昨日さんざん見たビキニ水着なのだが。

「ビックリするじゃ無いの。
 ゾンビ化したらどうするつもりだったの」
「薬が出来たんだ。
 試してみただけさ。
 この肉体が一番普通の人間だ」

ジージーマインやミクトランテクゥトはまともな生物と言え無い。
シアカテルもダークエルフ。
デックアールブだったか。
人間と似てはいるが構造は少しばかり違う筈。
キャンディーは多次元特捜官だがスペース刑事。
普通の人に見えるが、良くは分からん。

「俺は普通の高校生だからな」

「良く言うぜ、オマエが普通の人間の訳無いだろ」
「ウム、サイツォンノ言ウ通リデス」

肉体は普通の高校生の筈だが。

「オマエな。
 確かに見た目じゃ何も分からねえ。
 しかし体中には魔力が満ち溢れてんだろ。
 普通の人間と言えるかよ」

「そうです。
 まだ出来たばかりのモノ。
 効かなかったらどうするんです」

シアカテルの目はまだ潤んでる。
俺の身体に抱き着き、興奮のあまり涙をこぼしていたのだ。
俺は彼女の目を見て言う。

「シアカテル。
 キミが作った物だ。
 効果が無い訳はない。
 信じていたからこそ試したんだ」

彼女が再度、俺に抱き着く。
俺の革ジャンはまだ泥だらけ。
泥が着いてしまうぞ。

シアカテルの造った水は良く効いた。
一瞬で俺の身体を駆け巡った呪い。
それはもう一欠片も残っていない。
俺は五体満足だ。

「まあ『Glaaki』の棘に効く薬が出来たのは分かった。
 しかしよ。
 それを一杯一杯全員に飲まして回るのか。
 どれだけかかるんだよ。
 犠牲者が増える速度の方が早いんじゃねーか」

サイツォンが言う。
コイツは脳味噌まで筋肉で出来てるように見える。
だが一応は本人の言う通り王族としての高等教育も受けてるのだ。
マトモに考える能力も有る。

「もちろん、元から潰す」

俺は答える。
最初からそのつもり。

「そこの湖。
 湖の水を全部、この『Glaaki』の呪いに抵抗する水に替えるぞ」
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