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Scene27 魔術研究家シアカテルと俺の茶屋

第152話

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「何時まで捕まえとくんだよ」

獣人魔将サイツォンが喚く。
その腕の中でゾンビが暴れる。
体力では圧倒的にサイツォンが勝るハズだが。
ゾンビは遠慮と言うモノが無い。
自分の身体が損傷しようが暴れるのだ。
今も強引に自分の腕の骨が壊れても、体の向きを変えサイツォンに噛みつこうとしている。

「このヤロウ」

サイツォンがゾンビを殴りつける。

「ジージーマイン、手伝ってやれ」

ジージーマインがゾンビの両肩を踏みつける。
ゾンビは頭部だけで暴れるが身体は動かせない状態。

「ジージーマイン、お前の電撃はどうだ。
 奥多摩湖に電流を流したら『Glaaki』を倒せないか」

純粋な水は電気を通さない。
しかし自然界に純粋な水など存在しない。
湖にいる生物はダメージを喰らう筈だ。

ジージーマインはゾンビを踏みつけながら答える。

「残念ナガラコノ湖ノ広サデハホトンド影響シナイデショウ」

そうか、まあそうだろうな。

ゾンビから離れるサイツォンに俺は尋ねる。

「サイツォン、お前このゾンビを回復出来ないか」
「よせやい、俺はアンデッドに対抗スキルなんか持っちゃいねえぜ」

「『ワイルドビート』のコトだ」

生命力を上昇するワザとサイツォンは言っていた。
病原体と戦う力、負傷した箇所を回復する能力を上昇させる。
『Glaaki』の棘にも効かないか。

結論を言うと効果は有った。
全身が蒼黒かったゾンビの皮膚。
人間の肌が入り混じったのだ。

『ワイルドビーティング』
野生よ、鼓動を打ち鳴らせ!

獅子の顔をした男が屍人の身体に拳を打ちつける。
ゾンビはムチャクチャに暴れた。

ギャーーーー、グギャグギャ、ギャァァァァ!!!

それでもジージーマインに踏みつけられた下から抜け出せるモノでは無い。
皆に見守られ、やがて動かなくなった。

動かなくなった屍人の身体を調べる。
血に塗れた服を引っぺがすと見えて来た。

全身が蒼黒いゾンビの身体。
斑に通常の人間の肌色が存在している。
見ている内にも肌色が増えていく。
少し肌色の部分があるゾンビから、逆に蒼黒い部分が少しある人間の肉体へ。

「効果は有る様だな。
 しかし完全には治らないか」
「相手次第だと思うぜ」

疲れた顔をしたサイツォンは言う。
息を切らせ、獅子の頭部は汗に濡れる。
そんなに疲れる技なのか。

「前にも言ったな。
 生命力を強化するんだ。
 元々健康で元気なヤツなら効果も大きい。
 この棘だか呪いだかが、ケガなんかと同じと考えるならその程度にもよるだろ
 この男は大分年配だ。
 若い奴なら完全に回復する可能性も有るんじゃないか」

要するにゾンビ化して日が浅いかどうか。
元の身体か健康かどうか。
それで効果も変わるという事か。

「充分だ」
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