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Scene27 魔術研究家シアカテルと俺の茶屋

第150話

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俺は湖の前まで戻ってきている。

「さてどうしたものか」

奥多摩湖は広い。
東西の距離はおよそ30キロメートルにも及ぶ。
この水の中、どこかにいる人間大のナメクジ。
どう探したものか。

「この湖の水、丸ごと気配を放ってるわ。
 本体の場所なんて探れないわ。
 水にも触れない方が良い」

キャンディーが言う。

そうだ。
この水に『Glaaki』の棘の成分が含まれてる。
呪いとでも呼ぶべきか。
この水に触れるか、口に入れてしまうとゾンビ化する。
そういう結論になったのだ。
湖の水面は山の緑を写し、美しい。
だが危険な水である。

「飛び込んで片っ端から探すか」

サイツォンが言う。

「バカバカ。
 だから、水に触れたらゾンビ化するって言ってるでしょ」
「そうか~。
 俺なら大丈夫じゃねーか」

確かにサイツォンの生命力なら簡単にヤラレはしないだろうが。
しかし、湖に潜って捜索。
いつまでも水を全身に浴び続ければどうなるか分からない。

キャンディーは既に四将に慣れている。
最初はサイツォンに驚き、ジージーマインを見て跳び上がっていた。
しかし既に普通の人間の様に接している。
さすがスペース刑事等と名乗るだけは有る。
円花や逆ではこうはいかないだろう。

シアカテルは恐縮している。

「すいません。
 私のミクトランテクゥトへの監督が甘過ぎました」
「いや、お前が反省する必要は無いだろう」


俺の胸のスマホが振動する。
ウツの衛星スマホ。

「真悟くん、どんな塩梅だい。
 …………
 もう奥多摩湖についてるの、だったら連絡しなくても良かったかな」
「何か用か?」

ウツが自分からスマホに連絡して来た事は無い。
珍しい行動だ。

「ゾンビの目撃情報や、町のカメラからの情報を集めてたんだけどね。どうも川崎辺りから大量に移動してるんだよね。慎吾くんがいた神奈川、横須賀や逗子三浦半島方面に向かってる」
「どういうコトだ」

「僕にもゾンビの行動理由なんて分からないよ。でもどちらと言うと神奈川方面には不自然に増えてなかったんだ。千葉方向には着実にゾンビが広がってる。埼玉や茨木にも広がる中、神奈川の横須賀より先当りだけあまりゾンビが移動してない。
 もしかしたら『Dagon』やその眷属が原因だったのかもしれない。クトゥルー神話の邪神てだいたいみんな争ってる。横須賀では『Dagon』が実体化、逗子ではDeep Onesが溢れかえってた。そのナワバリとして遠慮してたのかもしれない。ところが彼らが倒された。遠慮する理由の無くなったゾンビ達が民族大移動。まあこの推論が合ってるかどうかは分からないけどね。
 そう言えばゲルマン民族の大移動って、数十万人位の話らしいね。川崎市の市民って150万人超えるんだよ。どのくらいの割合でゾンビ化してるか不明だけど半分もゾンビ化してれば本当に民族大移動以上のゾンビが三浦半島に大移動って事になる。
 歴史に残るレベルのゾンビの大行進だね」
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