ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。

Scene22 七鮎川円花と俺の儀式の場

第126話

俺は涙を堪える女性の肩を抱こうとする。
が、キャンディーは気にしないでと言う。

「大丈夫よ。
　この男とは単に仕事上の付き合い。
　目の前で同僚に死なれるのは初めてだからね。
　少し驚いたの、それだけよ」

ショックは受けて無いと言いたいのか。
俺はそれ以上余計な事は言わない。
ハンカチを差し出すとキャンディーは受け取った。


「真悟さん、あの男は……」
「既にゲンはこの世にいない。
　気にするな」

円花が少し不穏な表情をしている。
猫屋敷三毛寝子を死体に変えた男。
円花は許さないと言っていた。

「あの女も仲間ですか」

「彼らはこのDeep Onesやゾンビ騒ぎを調査に来ていた。
　ネコの事は不幸な事故だ」
「事故では済まされないでしょう」

「落ち着け、円花」

俺は魔法少女姿の円花の肩を抱く。

「いいか、この騒ぎで死人は既にたくさん出ている。
　ゾンビになった人たちだって、元は生きた人間。
　ネコがその一人になった事は哀しい事だ」

「しかしキャンディーまで恨むな。
　ゲンは女性を助けようとして命を落とした。
　事故を起こした人間ではあるが、立派な男でもある。
　そのゲンも死んだ。
　無駄な憎しみを引きずるな」

円花の瞳が揺らぐ。

ウツが聞いたならば。
心の籠ってない言葉だね。
そんな事を言いそうな適当な演説。
だが、世の中にはタテマエとか筋と言うモノも必要なのだ。

「はい、真悟さんの言う通りです」

唇を噛みしめそう言う少女。
優等生の顔。

親しい者を殺された感情。
復讐心てヤツはそう簡単に収まるモノでは無い。

俺は円花を抱く手に力を込める。
彼女は俺の胸に飛び込んで来た。

「真悟さん……」
「円花。
　無事で良かった。
　俺だってキミが攫われて気が気じゃ無かったんだ」

「でも真悟さんが助けに来てくれました」
「当たり前だ。
　キミを守ると約束しただろう」

俺と円花は抱き合う。
人間の精神ってのは他人と抱き合うだけで満たされる事が有る。
理屈じゃない。
温かいモノが流れるのだ。


「おっ大人だぜ。
　生のラブシーン、初めて見るぜ。
　チューすんのかな」

由羅が興味津々と言う目でこっちを見てる。

「するでしょう。
　ここはキスシーンよ。
　行くべきよ」

キャンディーまで加勢する。

お前ら。
男女が抱き合ってる時は、眼を逸らす位の礼儀は知らないのか。