上 下
98 / 191
Scene16 五古河逆と俺のビジネスホテル

第98話

しおりを挟む
ボロボロの逆を俺は近くのホテルに連れ込んだ。
ビジネスホテル。
フロントに人はいなかった。
ゾンビが数体いたが、シアカテルとサイツォンの敵ではない。

獣人魔将サイツォンが爪を光らせ走る。
一瞬で数体のゾンビが頭部を切られ倒れる。

『ダークビュレット』
闇の妖精、シアカテルが遠方の敵を仕留める。

邪魔の少ない最上階へ俺は向かう。
ホテルの部屋には鍵がかかっていた。
古代兵器ゴーレム、ジージーマインが指差す。
何かの文字が浮かび上がったと思うと鍵は開いていた。

「確か、サイツォン。
 回復魔法が使えたよな」

「回復魔法ってわけじゃないんだ。
 自身の体力、生命力、回復力を増幅させる技だ」

「要するに傷が回復するんだろ。
 なら同じだ。
 やってくれ」

逆をベッドに寝かせる。

シアカテルも手伝い、彼女の服を脱がせる。
何だこれは。
皮膚が破れてる?
よく見たら皮膚じゃない。
人間の皮膚のように見える素材。
それを肉体の上に着てる。
実際の生身と素材の中にロープや凶器。
こういう仕組みか。
暗殺術と大層に言っていたが、意外と科学的。
しかしこの仕掛けだけでは、体に何か隠してるのは外から分かってしまう。
それだけじゃ無い技術も勿論あるのだろう。

全部引っぺがすと見えてきたのは。
逆の細身の身体。
筋肉質ではあるものの女性らしいライン。
なかなかに美しい。

「ジロジロ見過ぎです」
「芸術品の様じゃないか。
 一流のスポーツ選手の様な肉体だ。
 キレイな物には惹かれるだろ」

「嘘です。
 明らかに欲情の眼つきでした」

相手は傷ついた女性だぞ。
そんな事は無い。
とも言い切れない。
それが男のサガだな。

「殴られただけじゃないです。
 ところどころ身体が黒くなっています」

シアカテルが言う。

逆の肉体には傷痕。
青痣だけじゃない。
凌は言っていた。
臓器を傷つけた。
普通の人間なら三日と保たずに死ぬ。

俺はサイツォンに向き直る。

「どうだ、治せそうか?」
「フン、コイツ次第だな」

「俺のは正確には回復術じゃない。
  悪い所を何とかするんじゃないんだ。
 生物の持つ、回復能力、自己治癒力を活性化させるんだ。
 病原菌なんかに対しては免疫力がパワーアップして追い出しちまうし、
 簡単なケガなんざ、細胞が新しく出来てすぐ治る」

逆の身体を指して言う。 

「このケガはどうかな。
 普通の傷じゃねえ。
 しかし、本人の体力、生命力が強ければ何とかなるだろうよ」
しおりを挟む

処理中です...