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Scene12 七鮎川円花と俺の部室棟

第71話

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「真悟さん、わたしと一緒に行きましょう」

円花は俺の目を見て言う。

「両親にも逢わせますわ。
 わたしの命の恩人と言えば、両親だって文句は言いません。
 七鮎川の親族にはタチの悪いのも混じっていますが、両親がうんと言えば支障は無い筈です」

「米軍の空母ですわ。安全なのは間違いありません。
 この学校だって安全かもしれませんが、地下施設です。
 地震でも起きたらどうなるか。
 それに昨夜の人達もいます。
 あの魔王の関係者は怪しげな術で移動してきます。
 地下でも安全かどうか」

円花がそんなに米軍贔屓とは。
まあ世界一の軍隊なのは間違いないらしい。
だが彼らが守らなきゃいけないのは米国人だ。
今回ゲストとして載れるのは友好国の財界の要人としてだ。
その保護の手が俺まで大事にしてくれるかは怪しい所だろう。

円花は俺の方を見ている。
何か願うような表情。
断りにくい雰囲気。

「円花、気持ちは有り難い。
 が、俺はここに戻るとしよう」

「君には逆もついてる。ご両親も居るのだろう。
 ここには他の人間はいない」
 
ウツなら一人でも平気で生きているとは思う。
しかしここの方が自由度が高い。
米軍の空母などに載ってしまったら自由には行動できないだろう。
俺には気になってる事もやりたい事も有るのだ。

「安心してくれ。
 横須賀までは間違いなく送り届ける」

そう言った。

そう言ったが、円花は俺の顔を見て硬直している。

「……はい……はい。
 先輩。……なんで……」

彼女の目から一筋、雫が流れる。

何だ、どうした。
円花は泣き出してしまった。
確かに彼女の誘いを断ったが、泣くような事か。

泣いている円花の肩を逆が抱く。

俺は円花にハンカチを差し出すが、受け取ろうとしない。
下を見て俯いたまま、嗚咽を洩らしている。

「ま、しょうがねーよ。
 今回の勝負は円花の負けだ。
 だけどよ、勝負なんて一回とは限らないんだ。
 逆転する日が来るかもしれないぜ」

「何か、俺マズイ事言ったか?」

俯いた円花の頭越しに逆に尋ねる。

「いや、草薙の。
 アンタは正直に答えたんだろ。
 なら何も気にする事は無い」
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