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Scene12 七鮎川円花と俺の部室棟

第70話

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俺たちは運動部の用具入れを見て回る。
剣道部の物だろう、竹刀に木刀。
模造品だろうが薙刀も有る。

薙刀は2メートル近くある。
リーチの有る武器。
ゾンビを近づけさせないのに丁度良いんじゃないか。

「扱いが難しそうですし、わたしは木刀だけ拝借しますわ」

魔法少女スタイルになると剣を振るう円花。
確かに刀の方が扱い慣れていそうだ。

「弓でも有れば良かったのにな」
「ウチの学校に弓道部は有りませんわ」

俺はバットも新調する。
愛用のバットは使い過ぎてボロボロ。
返り血も大分浴びてる。
黒く塗ってある、少し長めのバットを拝借する。
イチロー風ってヤツだな。

拳銃も持ってはいるが、弾丸には限りがある。
替えの弾丸を手に入れる機会はなかなか無いだろう。
バットも必要だ。

「なんだ、真剣は無いのかよ」
「有る訳有りませんわ、高校の部活ですのよ」

「じゃあ真剣の扱いに何処で慣れるんだよ。
 高校だろ、昔だったら元服過ぎてんだ。
 真剣くらい扱わなくてどうするよ」

逆の奴も思ったより常識が無いな。

「実戦練習となったら、無料で出来る筈が無いだろう。
 金を出さなきゃ真剣など扱えないのだ」
「そういう事かよ。
 なんでも金の世の中だもんな」

「何か違う気がします。
 わたしも自分が少し世間とズレてる事は承知してます。
 だけど、この方々は更に違う気がしますわ」

バタバタとしながら第二校舎に戻る。
俺の車を出す。
地下からインスタント食品や紙パックのジュース等を少し積む。

ここから横須賀まで順調に行けば3時間、往復して6時間か。
10時に出れば暗くなるまでに帰って来れる。
江の島の勇者の装備はどうするか。
ウツの情報次第だな。

そんな事を考える俺。
円花は俺に何か訊きたそうにしている。
が言い出せない。
俺の方を見たまま、止まっている。

逆が円花の肩を叩く。

「オレから訊くか」
「いえ、わたしが自分で」

「あの、草薙先輩。
 …………真悟さん」

円花は俺の目を見る。
真剣な表情。
なんだか一生モノの相談でもする風情。
俺も釣られて緊張する。

「な、何だ、どうした?」

「あの……真悟さんはこの学校に戻ってくるつもりなのですわよね」

「そうだ」

この地下施設は大分安心な場所だ。
非常用食料や水も大量に有る事が分かった。
丁度いい生活の場と言える。

「わたしと一緒に行きませんか。
 両親は米軍の空母で避難する。
 おそらく一番安全な場所です。
 海上に居て、この騒ぎが有る程度収まったなら戻って来ればいいのです」

「俺まで米軍が受け入れるかな」

「わたしの関係者と言う事にすればいいのです。
 ネコだって一緒に行くと言っていた。
 ならば使用人の数人は連れて行ける筈です」

円花はやたら真剣な表情で俺を見る。

「真悟さん、わたしと一緒に行きましょう」
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