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Scene11 シアカテルと俺の夜の保健室

第60話

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逆が死霊術師を蹴りつける。
右に左にハイキックを見舞う。
黒いフードの男はサンドバック状態。
フードがズレその下の顔が見える。

「うわっ、骸骨。
 お前、顔が骨だけじゃんか。
 何かの病気か、大丈夫かよ。
 やべー、足で蹴っちまった。
 オレの足大丈夫か」

「くっくっく。
 そう、我はミクトランテクゥト。
 死霊術師ミクトランテクゥト。
 死霊術の奥義により我は我の肉体をアンデッドと化したのだ。
 その奥義により栄えある魔王様の四将の一員と認められたのだ」
「ほほう、さすがだな。
 そのミクトランテクゥト殿が何故、
 “水流のブレスレット”を狙う」

「フッ、知れた事よ。
 あれは忌まわしき勇者の装備。
 三つの神器の一つだ」
「勇者、神器?
 ミクトランテクゥト殿。
 御存じの事を教えてくれないか。
 是非無知な我らにご教示戴きたい」

死霊術師に頭を下げたのは俺だ。
どうも状況がイマイチ呑み込めない。
コイツら何を何処まで分かって行動してるんだ。

「くっくっく。
 その素直な態度、良かろう。
 愚昧な其方らに少しばかり教えてやろうではないか」
「是非、お願いしたい」

円花と逆が俺の方を呆れたように見てるのを感じる。
仕方ないだろ。
必要な事だ。

「我らは魔王様復活の為に行動している。
 偉大なる魔王様。
 この異世界より離れた世界をその賢明な頭脳と比類なき慈悲の心で統括なされていた魔王様。
 それがあのような色魔の勇者に封印されるとは」

「魔王様はその魂を逃した。その行く先を我らは探し求めた。
 そして辿り着いたのがこの異世界。
 シアカテルめの占いではすでに魔王様はこの世界に受肉なさっておられる。
 だが魔王様は見つからない。
 おそらく、勇者の神器。
 勇者の神器が魔王様の御力を封印しているのだ」

「我らの行動を見て、あの発情狂の勇者も気付いたのだ。
 魔王様がこちらに居ると。
 勇者も勇者の神器もこの世界に来ている。
 どこに居るかは不明だが、おそらく遠く無い所に居るはずだ」


「勇者もこちらの世界に居るんですの?」
 
「そうだ。我らはジージーマインの身体に内蔵する失われた古代文明の力で転移して来た。
 しかし勇者は聖女の力を借り、この世界に来たはずだ。
 身体そのものを転移は出来ない。魂、精神だけの存在としてこの世界の人間に受肉している」

「三種の神器。貴様の持つ“水流のブレスレット”、“炎のネックレス”の在処は分かっている。
 あと一つ、“大地のイヤリング”は不明だ。
 勇者本人が持っているのかもしれん」

「魔王と言うのも場所が不明なんですのよね」

「そうだ。
 魔王様と勇者は精神だけの存在としてこの異世界に来ている。
 場合によっては記憶に混乱を生じている。
 その可能性が高いとシアカテルは言っていた。
 おそらく時間が経てば魔王様も自分の記憶を取り戻されるはずだ」
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