上 下
58 / 191
Scene10 ネコ耳メイドだったモノと俺の夜の保健室

第58話

しおりを挟む
「キサマ、このミクトランテクゥト様が炎に弱いと知ってのマネか」

黒いフードを纏った死霊術師が言う。
自分の弱点をさらけ出してどうする。

俺は放っておいて円花を胸に抱く。
しゃがみ込んでいた彼女を抱え上げるように立たせる。

「草薙先輩! ……草薙せんーーぱーーいーー……」

円花は泣きながら俺の胸に飛び込む。
もちろんシャツと下着だけの無防備な恰好でだ。

「白のレースか、花柄が可愛いぞ」
「!!草薙先輩、どこを見てるんですかー」

褒めたのに何故怒るんだ。

「円花、魔法少女になるんだ。
 どうやら、アイツは魔王の手先。
 魔法少女の出番だろう」
「はい、草薙先輩」

円花は言うが、まだ変身しない。
ネコだった死体を眺めている。
仕方ない。


「円花、ネコの遺体を燃やすぞ」
「……先輩?!」

「あれはもう猫屋敷三毛寝子じゃない。
 ネコだった物だ。
 火葬にするんだ。
 そう考えてくれ」
「……分かりました。
 真悟さんにおまかせします」

俺は逆の方を向く。

「逆、あの死体を窓の外に蹴り出せるか?」
「あの窓は防犯用のガラスだぜ」

「そうか、出来ないか」
「チッ、誰が出来ないと言った。
 良いか、五古河の技ってのは暗殺術だ。
 人に気付かれないウチに入り込み、一瞬で仕留める。
 それが極意なんだ。
 吹っ飛ばすような派手なマネは流儀じゃねえ」

「つまり、出来ないんだな」
「出来ると言ってるだろ」

どっちなんだ。
御託の多い女だな。

「五古河逆。
 あの死体を部屋の外へ蹴り出してくれ。
 ここに居る中でそんな事が出来るのはキミだけだ。
 頼む、逆」

逆がニヤッと笑う。

「フッ、最初からそういう風に言えば良いんだよっ。
 任せろ、草薙の」

逆がネコだった死体に向かって立つ。
呼吸。
何かの準備。

「五古河・裏技の八式」


『宿禰』


何が起きたか、俺の目では捉えられなかった。
見えたのは一瞬、宙に浮いたメイド服を着たモノ。
モノが飛んでいく。
防犯ガラスを突き破る。

おそらく、逆が死体を蹴り上げた。
宙に浮いた死体に掌底による打撃をかました。
もちろん普通の打撃では無い。
それだけで死体があそこまで飛ぶ筈も無い。
頑丈な窓ガラスを破る筈も無い。

しかし考察している程、俺は暇ではない。
窓に駆け寄る。
視界に飛び込む動く死体。
メイド服を着たモノ。
即席の火炎放射器を向ける。

メイド服は燃え上がった。
しかし動いてくる。
窓に向かい近付いてくる、燃える服を着たモノ。

俺は投げつける。
非常用倉庫に備蓄されていた物。
コンロに使える100円ショップで売られてるアレ。
カセットガスボンベ。
穴を開け、メイド服を着たモノに投げつける。
しおりを挟む

処理中です...