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Scene09 五古河逆と俺の夜の保健室

第52話

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「真悟くん、マズイ事態みたいだよ。保健室に何かが侵入した」

俺はウツのタブレット画面を覗き込む。
が、画面は暗くて良く分からない。

「分からんぞ」
「ん-、モニタールームに行こう。
 赤外線と暗視カメラで見た物、それを組み合わせた解析画像を映し出せる。
 それなら見えるよ」


俺は手早くジーンズを履き、革ジャンを羽織った。
モニタールームはすぐそこ。
ウツは下着だけ着けてグレーのパーカーで上半身隠した姿。
モニターに向かい何やらキーボードを叩く。
パーカーの下からイエローの下着が覗いてる。

「真悟くん、何処を見ているんだい。モニターを見るんだよ」

校内のアチコチが映っているモニター。
暗くなった校庭ではまたゾンビたちが蠢く。
モニターの中心に大きいウインドウが開く。
保健室。
立っているのは五古河逆。
身に着けてるのは下着だけ。
下着で寝ていた所を侵入者に起こされたのかもしれない。
それに対するのは女性。
カメラ画像では背中のみなので良く分からないが、黒い服装。
長い髪の女性。
この髪、この服、この体形。
知っている。
女性が七鮎川円花に近付く。
円花は怯えているのか。
動揺した表情。
逆はそれを阻止しようと動く。
黒い服の女を蹴り上げる。

逆が左足を踏み込む。
右足が高い軌道を描く。
上段回し蹴り。
黒い服の女性が衝撃で後ろへ。
体勢が崩れる。
その顔がカメラに映し出される。

それは猫屋敷三毛寝子の顔だった。

円花が彼女に向かって叫ぶ。
音声は聞こえない。
聞こえないが、だいたい予想は付く。
「ネコ、ネコ! どうしたのです。正気に戻って」
そんな事を言っている。

「……ゾンビ化したのか」

俺はモニターを見ながら呟く。
ネコは死んでいた。
胸から腹まで斬られた。
心臓まで届いただろう斬撃。
凄まじい血の量。
生きていた可能性は無い。

円花と逆は男に斬られたと言っていた。
ネコはゾンビには一切触れられていない。
ならば、ゾンビに噛まれなくとも死体は空気感染ですらゾンビ化すると言う事なのか。
そこまで行くと防ぎようが無い。

「真悟くん、ゾンビ化したんじゃないかもしれないよ」

何を根拠としたモノか。
ウツはそんな事を言う。
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