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Scene.EX01 華沢香奈と俺のいない夜の屋上

第34話

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EX EPISODE 05

「お前ら、互いの体をチェックしろ。
 傷痕が無いかどうか」

柔道男と部長。
僕とミリオタ。
香奈さんと大人しそうな女子。

お互い上半身脱いで、体をチェック。
僕の背中を見て、ミリオタが声を上げる。

「オマエ…これ!」

僕の背筋にヒヤっとしたモノが流れる。
噛みつかれたりしてない。
してないと思うけど、乱戦状態でゾンビを屋上から追い出した。
どこかで自分では気づかずにやられてた?

「えっ、嘘だろ。
 止めてくれよ」

僕は背中を見ようとする。
けど見えない。
手を伸ばして触ってみる。

「ワリイ、ただの返り血だったみたいだ」

何だよ!

部長も近づいて来て僕の背中を見るけど。
返り血を擦り落とした僕の背中は何ともない。

「ふざけんなよ。
 ビックリしただろ」
「ゴメン、ゴメン。
 本当に血が傷痕に見えたんだよ」

アハハアッハハハ。
笑えないけど、笑ってしまう。
部長や香奈さんも笑う。
柔道男までニヤっとする。

助かった。
やっとそんな実感が湧いてきた。

僕は屋上から校庭を見てる。
街はもう真っ暗。
あれから数時間が経ってる。

グラウンドはLED照明が点きっぱなし。
明るい校庭には何もいない。
そこから暗がりへ目をやると蠢く人影。
紅く光る眼。

僕は校庭を見るのを止める。
スカイツリーが遠くに煌めいてる。

「どうしたの、大丈夫」

香奈さんが僕の隣に来てくれる。

「救助が来ないなって」

これだけの騒ぎなんだ。
近所の人はとっくに気付いてるだろう。
もう警察が来ていい筈じゃないの。
香奈さんは俯きながら言う。

「警察は来ないかもしれない」
「ええっ、どういう事なの?」

「この騒ぎ、学校だけじゃ無いのかも。
 他の所でも、街全体で起きてるのかもしれない」
「……!……」

これが、このゾンビたちが街にも溢れてる。
そうしたら、警察なんかじゃ手に負えない。

「大丈夫だって、自衛隊が緊急出動するさ。
 へへっ、M9が見られるかな。ロクヨンかハチキュウかな」

ミリオタは楽しそうだ。
こんな時だってのに、自衛隊の装備がどうとか話し始めてしまった。
大人しそうな女子が付き合わされてる。

香奈さんが俯き加減に目を伏せる。
いけない。
僕だけが不安なんじゃない。
彼女だって不安で怖いに決まってる。

「大丈夫ですよ、香奈さん。
 明日になれば助かります。
 ほら校庭を見て。 
 ゾンビたちはライトの照らす明るい所を避けてる。
 朝になればきっと逃げて行きます」

「うん……そうだね……」

香奈さんが僕に近付く。
肩が触れ合うくらいの距離。

チラっと後ろを見れば。
ミリオタは女子とトーク、部長と柔道男もトーク。
こちらを見てない。

もう冬なんだ。
夜の屋上は寒い。
僕は自分のコートを脱ぐ。

「寒いですよね。
 使って下さい」

肩に掛けてあげるようなスマートなマネを出来たらいいけど。
そんなの僕には無理ムリ。
コートを不器用に差し出す。

香奈さんはショートコートを持ってるけど。
スカートが壊れてしまった。
今ショートコートを撒いてスカート風に足を隠してる。
上半身は上着無し。
寒いに決まってる。

「それじゃ、貴方が寒いじゃない。
 そのコートけっこう大きいよね。
 二人で着よう」

一つのコートを僕と香奈さんでくるまる。
距離は凄く近い。
僕が香奈さんを抱きしめてるみたい。
ナニコレ、天国?!
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