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Scene02 七鮎川円花と俺の部屋

第10話

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「ほぐれてないです。
 腹が立つだけですわ」

でも七鮎川円花の顔はシャンとしてる。
さっきまでの呆けた顔じゃない。
目の焦点が合ってる。

「草薙先輩、これはもしかすると。
 ほんとに魔物の仕業なのでしょうか?
 まさか、魔王の影響……
 魔物達は魔王が近く復活すると言っていました」

言葉もしっかりしている。
学業優秀、容姿端麗、優等生のお嬢様らしい言葉使いに戻っている。

魔王の影響かどうか俺に分かる訳無い。
しかしこの非常識な事態に理由をつけるとしたらそれ位しか思い浮かばない。

「なんとも言えないな。
 魔物とは関係なく、何かのウイルスが巻かれたのかもしれない」

正直俺はそんなにゾンビ映画に詳しくない。
けど日本のゲーム原作の映画くらいは見てる。
あれは確か人間の作ったウイルスが原因だったはず。

ガンガン、ガンガン。
その時部屋の扉が叩かれる。
さっきまで聞こえてた鈍い音じゃない。
大きい打撃音。
すぐそこ、扉まで来て扉を叩いている音。

円花が俺に縋りつく。

「やだやだやだやだ」
「落ち着けよ、
 もし本当に魔物の仕業なら魔法少女の出番だろ」

「魔犬なら怖くないですけど。
 さっきの血が噴き出るとか家政婦さんの首が折れるとか。
 あーゆーのわたし駄目なのですわ」

お嬢様はホラーやスプラッターに弱いらしい。

俺はバットを構える。
パッと思いついた武器。
小学生の頃使ってた物だが、大きさは大人用と変わらない。
棒の周りはラバー仕様。
少し柔らかさがある。
しかし芯はズッシリとした物が通っているのだ。

円花は剣を持ってる。
剣に比べるとバットは弱いが使えそうな物は他にない。
一階のキッチンなら包丁が有るな。
後はDIY工具の箱があった気がする。
それも一階だな。

そう考えてる間にもガンガンガンと扉は鳴る。
ガンガンドンドンガスン!
激しい音になってくる。
これはなんだ。
扉を叩く音が激しさを増してくるのだ。
俺は外の様子が知りたいけど知るすべがない。

「魔法で何とかならないか?」
「ええっ……
 やってみますわ!」

意外と円花は乗り気だ。
彼女なりにこの状況に怯えながら、自分に何か出来ないか考えていたのだろう。

ウォーターエクスプロージョン!
聖なる水の流れよ、目の前の悪しき物を破壊せよ!
 
円花のこの技は扉を通過するのだ。
実は彼女は別の技も使える。
アイスビュレット
氷の礫よ、敵を撃て!
と言う技。
これは扉に当たると扉が凍り付き、その先には何もダメージを与えない。
ウォーターエクスプロージョンの方は実態の有る壁や扉を通過し、その先の魔物を撃つのだ。
この2か月ばかり彼女に付き合ってた俺もそれくらいは既に知っている。

扉からは音がしなくなった。
ウォーターエクスプロージョンが効いたと思いたいところだ。

「扉を開けるぞ」
俺は円花に合図する。
扉を内に引き開ける。

バタン!
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