6 / 7
第6話 ……に似た少女
しおりを挟む
「落ち着いてくれ。
あのペンダントは実は……
教師に取り上げられたんだ。
職員室にある筈だ」
良くそんな言葉が自分の喉から出てきたものだ。
進藤桜は自分自身に感心する。
そして桜は懐中電灯を手に、一階を目指して階段を下りていくのだ。
意識を向けると後ろに茉央に似た存在が着いてくるのが感じられて。
恐ろしくて振り向けない。
桜が階段を踏むトントンと言う音に続いてトントン降りて来る。
木の床を踏みしめるキィーー、という不気味な音も続く。
幽霊なのに足はあるのか。
いや身体は御門茉央なのだ。
超自然的存在なのはその精神の中にいる。
そうだ。
茉央も桜も高校生。
思春期の少女が精神のバランスを欠いて。
不安に取り憑かれるなんてよく聞く話。
現状もそれなのでは無いだろうか。
そんな事を思って見ても。
木造の建物を一人で歩いて行く自分。
その後ろを何も言葉を発しない存在が着き添うように歩いてくる。
この状況は何も変えられない。
職員室に辿り着いて。
先程似たようなペンダントを見たのは何処だったか。
桜が辺りを見回すウチに。
茉央に似た存在が机の上から何かを取り上げた。
それは瑪瑙のペンダント。
茉央だった存在の胸に揺れているそれと全く同じ造り。
茉央だった存在、その髪の毛から覗く気配が桜に焦点を当てて、その手に持ったアクセサリーを差し出して来る。
「えーと、
着けなきゃ駄目かな?」
何かを期待してる気配を感じて訊いてみる。
目の前の存在は頷いている。
えーと。
冷静に考えると……茉央がおかしくなったのはあの教室で見つけたペンダントを着けてからの様な気がする。
すなわち……これを首に着けると……桜も危ないのでは。
桜が逡巡していると。
目の前から注がれる視線が厳しくなったような気がする。
「分かった!
着ける、着けるよ」
もうどうにでもなれ。
そんな気持ちでロケットペンダントを頭から通す。
少し冷えたそれは桜の頭をするりと通って首元に。
「お姉さま!
嬉しい、やっとお姉さまに逢えた」
茉央だった存在が桜の胸に飛び込んできて。
フワリと髪の毛から立ち昇る香りが桜を少し幸せな気持ちにするのだけれど。
この黒髪の持ち主は現在茉央では無かった。
空洞のような瞳の真っ黒な存在。
少女の肩に手をやって少し距離を取ろうと押しやる。
すると黒髪の持ち主は顔を桜の方に少し持ち上げて。
それは。
整った顔立ちの可愛らしい少女だった。
真っ黒な顔では無くて綺麗な少女。
御門茉央に似ている。
見惚れてしまうような目鼻立ち。
でも少し違う。
前を睨む、光が漏れるような意思の強い瞳では無く。
そこはかとなく不安そうな面差し。
彼女が桜の間近から見上げる。
「お姉さま!
やっとお会いできた。
ずっと淋しかったんです。
一人きりで……
この校舎で……」
ああ、茉央じゃない。
と桜は納得する。
淋しかったなんて、そんな弱音を茉央が吐くところなんて、想像も出来ない。
「何故……
わたしを一人にしたんです……
……お姉さま……」
「何故いないの。
貴方はこの校舎に……」
先程まで泣きだしそうな顔をしていた少女。
少女の様子が少しばかり不穏だ。
また、目が暗く、黒くなっていくような気がする。
「私を一人にして……
お姉さまは何処に行ってしまったの?
……いない……いない……
どこにもあの人がいない……
何故、これで二人きりになれる……
そう言ってくれた筈なのに……」
そうだ。
茉央が言っていた。
二人の心中した少女。
ところが三年生は生き延びて、二年生は亡くなった。
その二年生の霊が出ると。
……すると。
桜がその二年生を騙して自殺させて、自分だけ生き延びた先輩だと思われている?!
違う。
違う。
桜にそんなサスペンスドラマの悪役のような真似は出来はしないのだ。
平和な生活になれた小市民なのだ。
少しばかり御門茉央やクラスメイトに辟易としていたところで殺すなんて単語は頭から出て来やしない人間なのだ。
そんな言葉はスラスラと喉から出てきてはくれない。
暗い何も映さない瞳に気圧されて黙り込むだけの桜なのだ。
あのペンダントは実は……
教師に取り上げられたんだ。
職員室にある筈だ」
良くそんな言葉が自分の喉から出てきたものだ。
進藤桜は自分自身に感心する。
そして桜は懐中電灯を手に、一階を目指して階段を下りていくのだ。
意識を向けると後ろに茉央に似た存在が着いてくるのが感じられて。
恐ろしくて振り向けない。
桜が階段を踏むトントンと言う音に続いてトントン降りて来る。
木の床を踏みしめるキィーー、という不気味な音も続く。
幽霊なのに足はあるのか。
いや身体は御門茉央なのだ。
超自然的存在なのはその精神の中にいる。
そうだ。
茉央も桜も高校生。
思春期の少女が精神のバランスを欠いて。
不安に取り憑かれるなんてよく聞く話。
現状もそれなのでは無いだろうか。
そんな事を思って見ても。
木造の建物を一人で歩いて行く自分。
その後ろを何も言葉を発しない存在が着き添うように歩いてくる。
この状況は何も変えられない。
職員室に辿り着いて。
先程似たようなペンダントを見たのは何処だったか。
桜が辺りを見回すウチに。
茉央に似た存在が机の上から何かを取り上げた。
それは瑪瑙のペンダント。
茉央だった存在の胸に揺れているそれと全く同じ造り。
茉央だった存在、その髪の毛から覗く気配が桜に焦点を当てて、その手に持ったアクセサリーを差し出して来る。
「えーと、
着けなきゃ駄目かな?」
何かを期待してる気配を感じて訊いてみる。
目の前の存在は頷いている。
えーと。
冷静に考えると……茉央がおかしくなったのはあの教室で見つけたペンダントを着けてからの様な気がする。
すなわち……これを首に着けると……桜も危ないのでは。
桜が逡巡していると。
目の前から注がれる視線が厳しくなったような気がする。
「分かった!
着ける、着けるよ」
もうどうにでもなれ。
そんな気持ちでロケットペンダントを頭から通す。
少し冷えたそれは桜の頭をするりと通って首元に。
「お姉さま!
嬉しい、やっとお姉さまに逢えた」
茉央だった存在が桜の胸に飛び込んできて。
フワリと髪の毛から立ち昇る香りが桜を少し幸せな気持ちにするのだけれど。
この黒髪の持ち主は現在茉央では無かった。
空洞のような瞳の真っ黒な存在。
少女の肩に手をやって少し距離を取ろうと押しやる。
すると黒髪の持ち主は顔を桜の方に少し持ち上げて。
それは。
整った顔立ちの可愛らしい少女だった。
真っ黒な顔では無くて綺麗な少女。
御門茉央に似ている。
見惚れてしまうような目鼻立ち。
でも少し違う。
前を睨む、光が漏れるような意思の強い瞳では無く。
そこはかとなく不安そうな面差し。
彼女が桜の間近から見上げる。
「お姉さま!
やっとお会いできた。
ずっと淋しかったんです。
一人きりで……
この校舎で……」
ああ、茉央じゃない。
と桜は納得する。
淋しかったなんて、そんな弱音を茉央が吐くところなんて、想像も出来ない。
「何故……
わたしを一人にしたんです……
……お姉さま……」
「何故いないの。
貴方はこの校舎に……」
先程まで泣きだしそうな顔をしていた少女。
少女の様子が少しばかり不穏だ。
また、目が暗く、黒くなっていくような気がする。
「私を一人にして……
お姉さまは何処に行ってしまったの?
……いない……いない……
どこにもあの人がいない……
何故、これで二人きりになれる……
そう言ってくれた筈なのに……」
そうだ。
茉央が言っていた。
二人の心中した少女。
ところが三年生は生き延びて、二年生は亡くなった。
その二年生の霊が出ると。
……すると。
桜がその二年生を騙して自殺させて、自分だけ生き延びた先輩だと思われている?!
違う。
違う。
桜にそんなサスペンスドラマの悪役のような真似は出来はしないのだ。
平和な生活になれた小市民なのだ。
少しばかり御門茉央やクラスメイトに辟易としていたところで殺すなんて単語は頭から出て来やしない人間なのだ。
そんな言葉はスラスラと喉から出てきてはくれない。
暗い何も映さない瞳に気圧されて黙り込むだけの桜なのだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
1分で読める!ビックリもゾクっも味わえるショートショートシリーズ
安恒 亮
ホラー
ゾクっもあり、ちょっとびっくりな風刺的なオチあり、奇抜なショートショート集です。思いつき次第更新していきます。(少しでもいいなと思っていただければ、お気に入り登録.感想お願いします。)
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
好きになっちゃったね。
青宮あんず
大衆娯楽
ドラッグストアで働く女の子と、よくおむつを買いに来るオシャレなお姉さんの百合小説。
一ノ瀬水葉
おねしょ癖がある。
おむつを買うのが恥ずかしかったが、京華の対応が優しくて買いやすかったので京華がレジにいる時にしか買わなくなった。
ピアスがたくさんついていたり、目付きが悪く近寄りがたそうだが実際は優しく小心者。かなりネガティブ。
羽月京華
おむつが好き。特に履いてる可愛い人を見るのが。
おむつを買う人が眺めたくてドラッグストアで働き始めた。
見た目は優しげで純粋そうだが中身は変態。
私が百合を書くのはこれで最初で最後になります。
自分のpixivから少しですが加筆して再掲。
変貌忌譚―変態さんは路地裏喫茶にお越し―
i'm who?
ホラー
まことしやかに囁かれる噂……。
寂れた田舎町の路地裏迷路の何処かに、人ならざる異形の存在達が営む喫茶店が在るという。
店の入口は心の隙間。人の弱さを喰らう店。
そこへ招かれてしまう難儀な定めを持った彼ら彼女ら。
様々な事情から世の道理を逸しかけた人々。
それまでとは異なるものに成りたい人々。
人間であることを止めようとする人々。
曰く、その喫茶店では【特別メニュー】として御客様のあらゆる全てを対価に、今とは別の生き方を提供してくれると噂される。それはもしも、あるいは、たとえばと。誰しもが持つ理想願望の禊。人が人であるがゆえに必要とされる祓。
自分自身を省みて現下で踏み止まるのか、何かを願いメニューを頼んでしまうのか、全て御客様本人しだい。それ故に、よくよく吟味し、見定めてくださいませ。結果の救済破滅は御客しだい。旨いも不味いも存じ上げませぬ。
それでも『良い』と嘯くならば……。
さぁ今宵、是非ともお越し下さいませ。
※注意点として、メニューの返品や交換はお受けしておりませんので悪しからず。
※この作品は【小説家になろう】さん【カクヨム】さんにも同時投稿しております。 ©️2022 I'm who?
感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~
楠富 つかさ
青春
落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。
世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート!
※表紙はAIイラストです。
女装男子は百合乙女の夢を見るか? ✿【男の娘の女子校生活】学園一の美少女に付きまとわれて幼なじみの貞操が危なくなった。
千石杏香
ライト文芸
✿【好きな人が百合なら女の子になるしかない】
男子中学生・上原一冴(うえはら・かずさ)は陰キャでボッチだ。ある日のこと、学園一の美少女・鈴宮蘭(すずみや・らん)が女子とキスしているところを目撃する。蘭は同性愛者なのか――。こっそりと妹の制服を借りて始めた女装。鏡に映った自分は女子そのものだった。しかし、幼なじみ・東條菊花(とうじょう・きっか)に現場を取り押さえられる。
菊花に嵌められた一冴は、中学卒業後に女子校へ進学することが決まる。三年間、女子高生の「いちご」として生活し、女子寮で暮らさなければならない。
「女が女を好きになるはずがない」
女子しかいない学校で、男子だとバレていないなら、一冴は誰にも盗られない――そんな思惑を巡らせる菊花。
しかし女子寮には、「いちご」の正体が一冴だと知らない蘭がいた。それこそが修羅場の始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる