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2-1 justice
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午前9時。
大監獄アルトラズ。
俺はここに居る。
それは神具と呼ばれる不思議なアイテムを使うことで、
超能力を使うことが出来るアイテム。
本来ならば、人間が使ってはいけない代物だ。
しかし、条件を満たすことで俺は使用を許可されてる。
その条件は神を殺すこと。
仮にできなくても捕獲さえすれば十分らしい。
しかし、神様を捕まえることの方が難しそうだが。
俺は大監獄のカギを使うことで、この異空間アルトラズに出入りすることが出来る。
まぁ、大監獄と言っても収容してる人間は1人だけだし、
監獄自体も大きいわけじゃない。
走って10分くらいで壁にたどり着くレベルだ。
冒険のしがいがない。
俺の名前は塩見青菜。
性格は面倒くさがりで、捻くれものの一面もある。
仮面をかぶってて、世界との関りを拒絶してる。
文字が見えにくい脳の病気らしい、
ディクレシアと言う病気にかかってる。
ディスレクシアという言い方もするらしいが、
どっちでもいいだろう。
言いやすい方で。
「おーいおいおい・・・・」
涙を流してる長身の男。
上下ジャージ姿の丸メガネのおじさん。
天使の羽が生えてるから、普通の人間とは言えない。
そんな彼が俺に神具を与えた張本人であり、
俺に目的を与えた人物と言える。
物語の始まりのきっかけを作った俺の人生のキーパーソンだろう。
「・・・」
俺は面倒で無視する。
大の男が泣いてるというだけで目を引くというのに。
それに泣いてる理由はどうせ大したことないのだろう。
そう思っての事だ。
「おーいおいおい・・・」
デナキウスは時折、こちらの方をちらと見る。
わざと泣いてるのではないか?
「・・・」
俺は適当に空でも眺める。
と言っても天窓があるわけではないので太陽の光は入ってこない人工的な光だけだ。
ルクスが低いのか、直接見ても眩しさは感じない。
安眠しやすい設計なのかもしれない。
「話を聞いてくれないと・・・世界を滅ぼしちゃうぞ」
「怖いことを言うなよ、仮にも神なんだろ?」
俺に異能を与えた人物だ。
そんなことも出来るのかもしれないと少し恐怖を感じる。
これは話を聞かなければならないかもなとため息をつく。
俺は面倒くさがりではあるが、死にたがりではないのだから。
「そうさ、生神は神さ、神だから傲慢でわがままを言うんだ。話を聞いてくれないと、脅すぐらいにね」
「それで何で泣いてたんだ?」
「聞いてくれよ、面白い映画があったんだそれでね、泣いてしまったんだ」
「はぁ」
やはりどうでもいいことだった。
映画は嫌いなわけではない。
字幕は見れないが、吹き替え版があるので文字が認識できない俺でも楽しもうと思えば楽しめる。
しかし、俺は感動を共有したいタイプの人間ではない。
面白いことがあっても内に秘めておきたいのだ。
誰かに報告することで己の感動が零れてしまうのが勿体ないからだ。心の中に閉じ込めておきたい。
そうすれば俺の感情は誰よりも美しいままなのだから。
「本当に良かった」
「感動する映画だったのか?」
「いいや、そんなことはない。どっちかと言えばサスペンスだから・・・感動という感じはないな」
「どういうことだ?」
サスペンスと言えば、殺人鬼だったり、精神患者が出てくるようなイメージがある。
感動する映画はもうすぐ死にそうな患者だったり、音楽で成功する瞬間を切り取ったそんなものが俺の思い描く感動だ。デナキウスは一体どこで感動したのだろう?
「悲しくって泣いたのさ」
「死んだ飼い主を思って犬が駅前で待ってたとか?」
「そんな話ではない」
「じゃ、どんな話なんだ」
「話そのもので泣いたと言うわけじゃない」
「ますます分からない、早く結論を言ってくれ」
「面白すぎたからなんだ」
「はぁ」
「映画というのは面白いものを作ろうとするものだ。当然だ、そこに何の疑いもない、つまらないものは作ろうとしないだろう。生神だったら、間違えなく作らない」
「退屈すぎて欠伸で涙が出たってわけじゃないんだろ」
「あぁ、そうだ面白かった」
「なら問題ないじゃないか」
「問題も問題、大問題だ」
「はぁ」
「これほどまでに面白い作品に出会ってしまうと、ある問題が生じてしまう、それは次に見る作品が全て色あせて見えてしまうんだ」
「あぁ、なるほど」
「一体、いつになった生神の中での感動を超えられる作品に出会うのだろうか、それまでは退屈だ、涙が止まらない」
「何か思いついたら言ってくれ」
「面白い話はないか、青菜?」
「無い」
俺は開いてる牢屋に入って眠る。
受刑者用の固いベットだが、地面で寝るよりはマシだ。
「青菜、そう言わずにデナキウス様のために何か考えてくれよ、ほら、たばこやるから」
「生徒にタバコをやる先生が何処にいる?」
「ん」
赤毛の女性は自分を指さした。
北漸先生。
顔面にツギハギが入ってる変な顔。
美人と言えば美人だが、そのせいで余計に不気味に。
彼女は俺の担任の先生。
デナキウスが俺の人生を変えるキーパーソンならば、
彼女はそのキーパーソンに会わせた紹介者と言った所だ。
例えるならば、恋愛物語ならばヒロインがデナキウスで、結婚相談所の仲介人が北漸先生ということになる。
デナキウスが従えるディセトと呼ばれる10人のうちの1人らしいが、他は会ったことない。
いや、もう一人居たか。
「俺は面白い話とか苦手なんで」
「先生もだ」
「なら諦めてくれ」
「仕方ないな」
先生はタバコを吸い始めた。
諦めてくれたらしい、俺は眠ろう。
デナキウスも昔の映画を見て暇を潰していた。
先生もタバコを適当に吸っていた。
よほど暇だったのか、かなりの箱が空いていた。
3箱ぐらい開いてる。
中々煙臭かったし、むせるほどだ。
「げほっ」
実際、俺はむせた。
「あぁ、すまない」
「そう言う癖に止めないよな」
「そりゃそうさ、その場しのぎの謝罪だからね」
「水かけますよ」
「悪かった」
先生は距離を取ってくれた。
でも、タバコは吸っていた。
本当に好きだなと呆れてしまう。
「・・・」
牢屋で一人ぶつぶつ言ってる男が居た。
彼の名前は木高省吾。
大柄な体格でパーカーを目深に被ってる。
殺人を犯した罪というのもあるが、
許可なく神具を使ったため、ここに収容されてる人物。
特に会話する用事も無いので関わることは止めておこう。
かつての親友とかならともかく、
ほとんど関りの無い人物なのだから。
「さて、青菜」
「なんだ、デナキウス」
彼は泣き止んでいた。
「ラット・ボーイの噂だ」
「・・・」
ラット・ボーイ。
耳がネズミに齧られた痕がある男らしい。
そして、彼は神であり、俺にとっては倒すべき敵なのだとか。
どうして倒すのか、理由はまだ無い。
言われたからやる、ただそれだけのものだ。
それは、屠殺場の従業員のように。
でも、何も無く生きるよりかは他人に命令されたとしても少なくとも生きがいは感じる。
俺はだが。
「彼はどうやら・・・ジャンクタウンという所にいるらしい」
「ジャンクタウン?」
「地図を見せよう、トランス」
デナキウスは手を叩く。
「はい、デナキウス様」
タバコを吸いながら、彼女は地図をテーブルの上に置く。
「これが世界地図だ」
デナキウスは地図を見せてくれた。
「大きく分けて、5つの大陸に別れてるように感じるが」
「よく気付いたね、その通りだ。
やばゴットだよ」
「・・・」
彼のお気に入りの口癖らしい。
俺は好きではないが。
「雪の国、桜の国、紅葉の国、朝顔の国だ・・・以前君が行った木霊館は桜の国のこの辺かな」
デナキウスは指さす。
地図で言うと下の方らへんだった。
「5つの大陸なんだろ、あと1つは?」
「あぁ、国として認められていないからね」
「どういうことだ?」
「絶界の孤島。通称廃墟の国。他の国からは隔絶されてる閉鎖的な場所、この大陸にはいかなる国の人間は立ち入ることは許可されていない」
「小さいのか?」
小さいのならば、領土として持っても意味はないのかもしれない。そんな風に思っての質問だった
「地図上で見ると小さく見えるが、そんなに小さな国でもない。面積は10万キロメートルは存在する。そうだな、住もうと思えば5000万人は住めるんじゃないか?」
「そこまで住めるなら立派な国になれるじゃないか。どうして他の国は放ってる?」
普通ならば資源が眠ってるかもしれないと他の国が開拓にやってきそうなものだ。
「他の国が欲しいからさ」
「争いの火種になると?」
「そう、戦争を避けるために周囲の大陸の人間が協力して大陸には無人でいるように通達してる、だからこの国は廃墟の国なんだ。
上陸を禁止してる国・・・ある意味で言えば自然動物たちの楽園とも言える。人間たちに侵されていない聖域だ」
「なるほどね」
「生神たちならば、入ろうと思えばいつでも入れるけどね。そこはほら、神だから」
「争いの原因になるのはごめんだ」
「そうだな」
デナキウスは笑っていた。
「それで、俺はジャンクタウンって所に行けばいいんだろ」
「そうさ、それは雪の国にある」
「分かった、どんな場所なんだ?」
「忘れたものが集まる場所」
「忘れたものが・・・」
「何かを失った人々がそれを取り戻しに集まる場所だ、さびれた場所で暗い雰囲気だ」
「暗い雰囲気は嫌いじゃない」
明るい場所より心地よさそうだ。
俺の捻くれた性格が出てるな。
少し自虐的になる。
「そうそう、行くならディセトを1人連れて行くといい」
「ミクリか?」
以前、木霊館に同行した女性の名前だ。
どことなくフワフワした印象で癒し系だと思う。可愛いことには違いないが、戦闘向きの性格とは思えない人物だ。
「彼女には別件があってね、今は外してもらってる」
「それじゃ、誰を」
「生神が思うに、ディセトの中で最強の人物を同行させよう」
「なんだって?」
最強という言葉には少し惹かれる。
どんな存在なのだろうか。
「少々、変わった子だが・・・まぁ、大丈夫だろう」
「どこにいるんだ?」
「イリンクス」
デナキウスは手を叩く。
すると、アルトラズ全体が揺れる。
「な、なんだ?」
いきなりのことで少し戸惑う。
次の瞬間、壁をぶち壊して1人の女性がやってくる。
「呼んだ?」
その子の初印象は、デカい。
ということだった。
紅に染まったボロマントを身にまとい、
身体に鎖が巻き付けてある。
それは背負ってるハンマーが地面に落ちないようにするためだろう。
身長308cm。
体重203kg。
おっぱいはIカップ。
服の上からでも、胸の膨らみが分かる。
「呼んだとも、彼の旅に同行してくれるね」
「うん」
「えっと、よろしく」
俺は手を伸ばす。
一応、握手はしてくれるようだ。
「ディセトってあと何人いるんだよ、無限にいるんじゃないか?」
俺は気になったことをデナキウスに尋ねる。
「無限には居ないさ、そうだな13人・・・いや、10人だけしか居ないから安心したまえよ」
「本当かな」
「イリンクス、ヒエログリフ、トランス、ミクリ、コマンド、エンハンス、フォームボイス、アレア、ボロウ、アゴン・・・この10人が生神の限界だからね」
「なるほど」
「この中で戦闘という意味で言うならば、最も強いのがイリンクスだ」
「今回の旅はそれほど危険なのか?」
「行ってみないことに判断はつかないが・・・ラットボーイが本当に居るのならば最高戦力で迎えうつことに何の問題もあるまい?」
「それはそうだな」
デナキウスの言い分は間違ってるとは思わなかった。
「もしも戦闘が厳しいものになったら、君の持つカギでアルトラズに戻ってくるといい、トランスに全て報告し、残りのディセトを集めさせてラットボーイを殺し尽くそう、いいね?」
「あぁ」
「よろしい、それでは、向かいたまえ。
ジャンクタウンへと」
「来てくれ、イリンクス」
俺は彼女を誘う。
「はい、管理者」
彼女は俺の手を手にとった。
「ライフネーム」
北漸先生は手を宙に伸ばす。
すると、空間が歪んでいく。
手を中心に高さが3mぐらいの大きさのツギハギが出現。
そして、そのツギハギのヒモが解けて中から、
別世界の景色が見えたのだった。
「それじゃ、行ってくるよデナキウス」
「あぁ、気を付けて。お土産を期待してるよ」
「神具があれば回収するよ」
「それもいいが、観光的なアレだ」
「分かったよ」
俺は苦笑する。
そして、イリンクスの手を引いて
ツギハギの中へと入っていった。
大監獄アルトラズ。
俺はここに居る。
それは神具と呼ばれる不思議なアイテムを使うことで、
超能力を使うことが出来るアイテム。
本来ならば、人間が使ってはいけない代物だ。
しかし、条件を満たすことで俺は使用を許可されてる。
その条件は神を殺すこと。
仮にできなくても捕獲さえすれば十分らしい。
しかし、神様を捕まえることの方が難しそうだが。
俺は大監獄のカギを使うことで、この異空間アルトラズに出入りすることが出来る。
まぁ、大監獄と言っても収容してる人間は1人だけだし、
監獄自体も大きいわけじゃない。
走って10分くらいで壁にたどり着くレベルだ。
冒険のしがいがない。
俺の名前は塩見青菜。
性格は面倒くさがりで、捻くれものの一面もある。
仮面をかぶってて、世界との関りを拒絶してる。
文字が見えにくい脳の病気らしい、
ディクレシアと言う病気にかかってる。
ディスレクシアという言い方もするらしいが、
どっちでもいいだろう。
言いやすい方で。
「おーいおいおい・・・・」
涙を流してる長身の男。
上下ジャージ姿の丸メガネのおじさん。
天使の羽が生えてるから、普通の人間とは言えない。
そんな彼が俺に神具を与えた張本人であり、
俺に目的を与えた人物と言える。
物語の始まりのきっかけを作った俺の人生のキーパーソンだろう。
「・・・」
俺は面倒で無視する。
大の男が泣いてるというだけで目を引くというのに。
それに泣いてる理由はどうせ大したことないのだろう。
そう思っての事だ。
「おーいおいおい・・・」
デナキウスは時折、こちらの方をちらと見る。
わざと泣いてるのではないか?
「・・・」
俺は適当に空でも眺める。
と言っても天窓があるわけではないので太陽の光は入ってこない人工的な光だけだ。
ルクスが低いのか、直接見ても眩しさは感じない。
安眠しやすい設計なのかもしれない。
「話を聞いてくれないと・・・世界を滅ぼしちゃうぞ」
「怖いことを言うなよ、仮にも神なんだろ?」
俺に異能を与えた人物だ。
そんなことも出来るのかもしれないと少し恐怖を感じる。
これは話を聞かなければならないかもなとため息をつく。
俺は面倒くさがりではあるが、死にたがりではないのだから。
「そうさ、生神は神さ、神だから傲慢でわがままを言うんだ。話を聞いてくれないと、脅すぐらいにね」
「それで何で泣いてたんだ?」
「聞いてくれよ、面白い映画があったんだそれでね、泣いてしまったんだ」
「はぁ」
やはりどうでもいいことだった。
映画は嫌いなわけではない。
字幕は見れないが、吹き替え版があるので文字が認識できない俺でも楽しもうと思えば楽しめる。
しかし、俺は感動を共有したいタイプの人間ではない。
面白いことがあっても内に秘めておきたいのだ。
誰かに報告することで己の感動が零れてしまうのが勿体ないからだ。心の中に閉じ込めておきたい。
そうすれば俺の感情は誰よりも美しいままなのだから。
「本当に良かった」
「感動する映画だったのか?」
「いいや、そんなことはない。どっちかと言えばサスペンスだから・・・感動という感じはないな」
「どういうことだ?」
サスペンスと言えば、殺人鬼だったり、精神患者が出てくるようなイメージがある。
感動する映画はもうすぐ死にそうな患者だったり、音楽で成功する瞬間を切り取ったそんなものが俺の思い描く感動だ。デナキウスは一体どこで感動したのだろう?
「悲しくって泣いたのさ」
「死んだ飼い主を思って犬が駅前で待ってたとか?」
「そんな話ではない」
「じゃ、どんな話なんだ」
「話そのもので泣いたと言うわけじゃない」
「ますます分からない、早く結論を言ってくれ」
「面白すぎたからなんだ」
「はぁ」
「映画というのは面白いものを作ろうとするものだ。当然だ、そこに何の疑いもない、つまらないものは作ろうとしないだろう。生神だったら、間違えなく作らない」
「退屈すぎて欠伸で涙が出たってわけじゃないんだろ」
「あぁ、そうだ面白かった」
「なら問題ないじゃないか」
「問題も問題、大問題だ」
「はぁ」
「これほどまでに面白い作品に出会ってしまうと、ある問題が生じてしまう、それは次に見る作品が全て色あせて見えてしまうんだ」
「あぁ、なるほど」
「一体、いつになった生神の中での感動を超えられる作品に出会うのだろうか、それまでは退屈だ、涙が止まらない」
「何か思いついたら言ってくれ」
「面白い話はないか、青菜?」
「無い」
俺は開いてる牢屋に入って眠る。
受刑者用の固いベットだが、地面で寝るよりはマシだ。
「青菜、そう言わずにデナキウス様のために何か考えてくれよ、ほら、たばこやるから」
「生徒にタバコをやる先生が何処にいる?」
「ん」
赤毛の女性は自分を指さした。
北漸先生。
顔面にツギハギが入ってる変な顔。
美人と言えば美人だが、そのせいで余計に不気味に。
彼女は俺の担任の先生。
デナキウスが俺の人生を変えるキーパーソンならば、
彼女はそのキーパーソンに会わせた紹介者と言った所だ。
例えるならば、恋愛物語ならばヒロインがデナキウスで、結婚相談所の仲介人が北漸先生ということになる。
デナキウスが従えるディセトと呼ばれる10人のうちの1人らしいが、他は会ったことない。
いや、もう一人居たか。
「俺は面白い話とか苦手なんで」
「先生もだ」
「なら諦めてくれ」
「仕方ないな」
先生はタバコを吸い始めた。
諦めてくれたらしい、俺は眠ろう。
デナキウスも昔の映画を見て暇を潰していた。
先生もタバコを適当に吸っていた。
よほど暇だったのか、かなりの箱が空いていた。
3箱ぐらい開いてる。
中々煙臭かったし、むせるほどだ。
「げほっ」
実際、俺はむせた。
「あぁ、すまない」
「そう言う癖に止めないよな」
「そりゃそうさ、その場しのぎの謝罪だからね」
「水かけますよ」
「悪かった」
先生は距離を取ってくれた。
でも、タバコは吸っていた。
本当に好きだなと呆れてしまう。
「・・・」
牢屋で一人ぶつぶつ言ってる男が居た。
彼の名前は木高省吾。
大柄な体格でパーカーを目深に被ってる。
殺人を犯した罪というのもあるが、
許可なく神具を使ったため、ここに収容されてる人物。
特に会話する用事も無いので関わることは止めておこう。
かつての親友とかならともかく、
ほとんど関りの無い人物なのだから。
「さて、青菜」
「なんだ、デナキウス」
彼は泣き止んでいた。
「ラット・ボーイの噂だ」
「・・・」
ラット・ボーイ。
耳がネズミに齧られた痕がある男らしい。
そして、彼は神であり、俺にとっては倒すべき敵なのだとか。
どうして倒すのか、理由はまだ無い。
言われたからやる、ただそれだけのものだ。
それは、屠殺場の従業員のように。
でも、何も無く生きるよりかは他人に命令されたとしても少なくとも生きがいは感じる。
俺はだが。
「彼はどうやら・・・ジャンクタウンという所にいるらしい」
「ジャンクタウン?」
「地図を見せよう、トランス」
デナキウスは手を叩く。
「はい、デナキウス様」
タバコを吸いながら、彼女は地図をテーブルの上に置く。
「これが世界地図だ」
デナキウスは地図を見せてくれた。
「大きく分けて、5つの大陸に別れてるように感じるが」
「よく気付いたね、その通りだ。
やばゴットだよ」
「・・・」
彼のお気に入りの口癖らしい。
俺は好きではないが。
「雪の国、桜の国、紅葉の国、朝顔の国だ・・・以前君が行った木霊館は桜の国のこの辺かな」
デナキウスは指さす。
地図で言うと下の方らへんだった。
「5つの大陸なんだろ、あと1つは?」
「あぁ、国として認められていないからね」
「どういうことだ?」
「絶界の孤島。通称廃墟の国。他の国からは隔絶されてる閉鎖的な場所、この大陸にはいかなる国の人間は立ち入ることは許可されていない」
「小さいのか?」
小さいのならば、領土として持っても意味はないのかもしれない。そんな風に思っての質問だった
「地図上で見ると小さく見えるが、そんなに小さな国でもない。面積は10万キロメートルは存在する。そうだな、住もうと思えば5000万人は住めるんじゃないか?」
「そこまで住めるなら立派な国になれるじゃないか。どうして他の国は放ってる?」
普通ならば資源が眠ってるかもしれないと他の国が開拓にやってきそうなものだ。
「他の国が欲しいからさ」
「争いの火種になると?」
「そう、戦争を避けるために周囲の大陸の人間が協力して大陸には無人でいるように通達してる、だからこの国は廃墟の国なんだ。
上陸を禁止してる国・・・ある意味で言えば自然動物たちの楽園とも言える。人間たちに侵されていない聖域だ」
「なるほどね」
「生神たちならば、入ろうと思えばいつでも入れるけどね。そこはほら、神だから」
「争いの原因になるのはごめんだ」
「そうだな」
デナキウスは笑っていた。
「それで、俺はジャンクタウンって所に行けばいいんだろ」
「そうさ、それは雪の国にある」
「分かった、どんな場所なんだ?」
「忘れたものが集まる場所」
「忘れたものが・・・」
「何かを失った人々がそれを取り戻しに集まる場所だ、さびれた場所で暗い雰囲気だ」
「暗い雰囲気は嫌いじゃない」
明るい場所より心地よさそうだ。
俺の捻くれた性格が出てるな。
少し自虐的になる。
「そうそう、行くならディセトを1人連れて行くといい」
「ミクリか?」
以前、木霊館に同行した女性の名前だ。
どことなくフワフワした印象で癒し系だと思う。可愛いことには違いないが、戦闘向きの性格とは思えない人物だ。
「彼女には別件があってね、今は外してもらってる」
「それじゃ、誰を」
「生神が思うに、ディセトの中で最強の人物を同行させよう」
「なんだって?」
最強という言葉には少し惹かれる。
どんな存在なのだろうか。
「少々、変わった子だが・・・まぁ、大丈夫だろう」
「どこにいるんだ?」
「イリンクス」
デナキウスは手を叩く。
すると、アルトラズ全体が揺れる。
「な、なんだ?」
いきなりのことで少し戸惑う。
次の瞬間、壁をぶち壊して1人の女性がやってくる。
「呼んだ?」
その子の初印象は、デカい。
ということだった。
紅に染まったボロマントを身にまとい、
身体に鎖が巻き付けてある。
それは背負ってるハンマーが地面に落ちないようにするためだろう。
身長308cm。
体重203kg。
おっぱいはIカップ。
服の上からでも、胸の膨らみが分かる。
「呼んだとも、彼の旅に同行してくれるね」
「うん」
「えっと、よろしく」
俺は手を伸ばす。
一応、握手はしてくれるようだ。
「ディセトってあと何人いるんだよ、無限にいるんじゃないか?」
俺は気になったことをデナキウスに尋ねる。
「無限には居ないさ、そうだな13人・・・いや、10人だけしか居ないから安心したまえよ」
「本当かな」
「イリンクス、ヒエログリフ、トランス、ミクリ、コマンド、エンハンス、フォームボイス、アレア、ボロウ、アゴン・・・この10人が生神の限界だからね」
「なるほど」
「この中で戦闘という意味で言うならば、最も強いのがイリンクスだ」
「今回の旅はそれほど危険なのか?」
「行ってみないことに判断はつかないが・・・ラットボーイが本当に居るのならば最高戦力で迎えうつことに何の問題もあるまい?」
「それはそうだな」
デナキウスの言い分は間違ってるとは思わなかった。
「もしも戦闘が厳しいものになったら、君の持つカギでアルトラズに戻ってくるといい、トランスに全て報告し、残りのディセトを集めさせてラットボーイを殺し尽くそう、いいね?」
「あぁ」
「よろしい、それでは、向かいたまえ。
ジャンクタウンへと」
「来てくれ、イリンクス」
俺は彼女を誘う。
「はい、管理者」
彼女は俺の手を手にとった。
「ライフネーム」
北漸先生は手を宙に伸ばす。
すると、空間が歪んでいく。
手を中心に高さが3mぐらいの大きさのツギハギが出現。
そして、そのツギハギのヒモが解けて中から、
別世界の景色が見えたのだった。
「それじゃ、行ってくるよデナキウス」
「あぁ、気を付けて。お土産を期待してるよ」
「神具があれば回収するよ」
「それもいいが、観光的なアレだ」
「分かったよ」
俺は苦笑する。
そして、イリンクスの手を引いて
ツギハギの中へと入っていった。
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それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
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せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
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元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
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そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
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アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
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最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
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※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
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