チート能力「看守」を使って異世界で最強と言われる

唐草太知

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大生に向かって話しかけてくる男が居る。
彼の名前は青菜・・・と言ったか。
「何処で手に入れた?」
「何のことだ」
「惚けるなよ、それが人間社会にあって当然の品じゃないのは理解できるはずだ」
「大生の話を聞きたいと?」
「あぁ」
「そうだな・・・別に隠す理由も無いし、暇つぶしがてら話そうか。
普通、刑務所ってのは他に囚人が居るものだ。
お喋りでもしてそうしたかったが、あいにく誰も居ないからな」
「まだ、出来たばかりなんだ」
仮面を被った男は表情こそ分からないが、
なんとなく顔の形がどんな風になってるか想像できた。
「そうだな、せっかくだ。
むかし話をしよう・・・子供の時から行こうか」
一人称が大生なのは、小生をもじってのことだった。
小生ってのはへりくだる時に使う言葉らしい。
自分は小さい生物ですと言って歩く。
ということなのだろう。
だけど、それは何と惨めなことだろうか。
どうしようもない巨大な敵を前にして頭を下げるならともかく、
まだ見ぬ敵に対してもへりくだって生きていくのは馬鹿馬鹿しい。
せっかく生まれたのだ。
大きく、生きるべきだろう。
だから、大生と自分を名乗ることに決めた。
ことわざで、枯れ木に花咲く。
というものがある。
これは枯れ木にどれほど水をやろうとも、
決して花が咲くことは無い。
つまりは滑稽だと。
無意味な努力をしてる人間をあざ笑う意味だと聞いた。
だが、大生はそうは思わなかった。
枯れ木に花が咲く。
それは奇跡なのだ。
諦めず、水をやり続けた人間こそが美しい花を見ることが出来る。
滑稽なのは水をやる人間じゃない。
あざ笑ってる人間の方なのだと大生が思った。
出来ない、出来ないと揶揄するのはいつだって無能だ。
それはそうだろう、奴らには出来ないのだ。
途中であきらめるのだから。
でも、中には出来る人間が居る。
あきらめず、続けていたのだから。
美しい花を見れるのは、そういう人間だ。
才能があるってのはそういうことなのだ。
大生は・・・そういう人間になりたかった。
だから、この言葉を胸に生きている。
幼少期。
専業主婦だった母親は家の片づけを行っていた。
初めてそれに触ったのは母が段ボールを仕舞う時だった。
「だぁ」
大生はそれが何なのかよくわからなかったが妙に惹かれた。
「どうしたの、だぁ?」
母親は大生のことをだぁと呼んでいた。
言うことがだぁ、しかなかったからだろう。
「だぁ」
「これがいいの?」
「だぁっ、だぁっ」
大生は無性に喜んだ。
そして、それを手にする。
大生は生まれて初めて、それがガムテープと言うものを知った。
少し成長して、言葉も喋れるようになったころだ。
「だぁ、それ止めなさい!」
「うへへえっ」
身体にガムテープを張る遊びをしていた。
身体にまとわりつく感じが何だか面白かったのだ。
「かぶれるわ、剥がすわよ」
「あぁっ・・・」
大生は母親にガムテープをはがされる。
当然だろうな、あの当時は皆やってることだと思っていた。
でも、成長していくにつれて、変わってるのだと知る。
それはまだのことだが、当時の大生はガムテープに魅了されていた。
「それじゃ、行ってくるから」
母親は決まった時間に何処かに出かけていた。
恐らくは市場だろうと思っていた。
家族の食事でも買うのだろうと。
そんなことよりも、大生にとって大事なのはガムテープだ。
身体に巻きつけて今日も遊んでいた。
この快感は止められそうになかった。
「・・・」
父は厳格な人だった。
仕事一筋って感じの人。
無駄なことは喋らないって昔の雰囲気。
何だかよく分からない鉄と鉄を繋ぎ合わせてるのを見かけたことがあるから、
恐らくは溶接工の仕事をしてるんだろうなって思う。
それを子供ながらに遠くから眺めていたのを覚えてる。
「はぇ~」
「何見てる」
「え?」
「ガキの来る場所じゃない」
「ごめんなさい」
「・・・」
父は仕事を再開する。
でも、大生は仕事の様子を見るのは嫌いじゃ無かった。
もう少ししたら遊びに行くが、
今は仕事の様子を見て居たかった。
小学生時代。
初めての学校ということもあり、ウキウキしていた。
友達が出来るんじゃないかと思って期待していたのだ。
教室に入ると、同年代の少年少女が楽しそうに談笑していた。
「親がさぁ・・・」
「あそこの駄菓子屋にあるんだって」
「だる~い」
大生は話しかけて、彼らと仲良くなっていった。
ある日のことだった。
「それ、短いね」
少女に話しかけられる。
「そうかな?」
大生の家は貧乏ということもあって、物を大切に使う習慣が出来ていた。
この短い鉛筆もその1つだった。
「凄い」
「凄い?」
「うん、大事にしてるんだぁって思って」
「えへへ」
大生にとっては当たり前のことだったが、
鉛筆を短く使う、ということが何だか誇らしかったのを覚えてる。
それからというもの、いや、元々そうだったが、
鉛筆を短くするのにハマった。
そのたびに褒められる。
そして、面白がって誰かが鉛筆をくれる。
書くものに困らない人生になった。
ハズだった。
それは水泳の授業のとき。
油断していたんだ。
それは皆もしてると思っていたし、それは普通のことだと。
「なにそれ」
「え?」
「包帯?」
「あっ、違くて、その」
「うわぁ、こいつ身体にガムテ巻いてる!」
言葉は伝染する。
大生は一気に注目の的になる。
「皆もやったことがあるだろう!?」
「ないよっ!」
「そんな」
「知ってるぜ、そーいう奴のこと変態って言うんだぜ」
「そうなの?」
「じゃあ、こいつは変態だ」
「変態、変態」
わっかになっていじられる。
そのことに耐えられず、大生は怒りのままに拳を振るった。
「痛ってぇ!」
「よくも、馬鹿にしてくれたな!」
大生は一番声が大きいと感じた男を殴りつけた。
「止めてくれよォ、暴力は嫌いなんだぁ!」
「誰か先生呼んでぇ!」
それからというもの、あまり覚えていない。
ただ1つ、分かるのは大生が孤立したってことだ。
こんな寂しい日は母親に甘えたい。
そんな気分で家に帰る。
「ただいま」
大生が甘えたかった母親の胸には知らない男性が甘えていた。
「だぁ?」
「母さん・・・だれそれ」
「おい、ちょっとこい」
「え?」
「いいから来るんだ」
大生は彼に近づく。
「誰なの?」
「・・・」
男は無言で金を渡す。
「これは」
「それで菓子を買うんだ、いいな?」
「うん」
大生は素直に菓子を買った。
けれど、男の期待していた行動とは違い、
大生は正直に言った。
家に、知らない男が居たと。
そのことを聞いた父は小さく言った。
「そうか」
それからというもの。
母親は妙によそよそしくなる。
「あのさ、母さん。宿題を教えて欲しいんだけど」
「また、今度ね」
「今度っていつさ、いつもそうやってはぐらかすじゃないか」
「今度よ、母さんは忙しいの」
「・・・」
そう言って母さんは相手をしてくれなくなった。
知らない男と遊んでる余裕はあるのに、
大生との時間は使ってくれないのだと思った。
代わりに父に甘えようと考えた。
「あの、父さん」
「・・・」
しかし、前と同じように厳格な雰囲気を出す。
でも、前とは違う気がした。
より仕事に熱中してるというか、
いや、そうじゃない、仕事に逃げてるような、
そんな印象を受けた。
「父さん」
「・・・」
父さんは返事をしない。
仕事に集中してるみたいだ。
後にしよう。
そんな日々が続いた。
「だぁ、聞いて」
「なに、母さん?」
「母さんたちね、別れることになったの」
「どうして?」
「大人になれば分かるわ」
母さんは優しく頭を撫でてくれたが、
大生には誤魔化されてるような気がしてならなかった。
でも、久しぶりに頭を撫でてくれたのは嬉しくて、
それ以上は言えなかった。
中学生の頃。
初恋の女の子が出来た。
唐笠木優実。
友達に囲まれてて、明るい印象だった。
笑う時に手を口に当てる癖がある子だ。
制服を身にまとい、眼鏡をかけてないから、視力は良さそうだ。
身長は163cmと小柄。
バストはBぐらいと控えめ。
「痛っ」
大生は校庭の枝に触れた時に指を切った。
友達と関わることが苦手になり、
1人で居る時間が増えた。
そして、植物が嫌いでは無かった大生は、
校庭の植物を見て回っていたのだ。
それしかやることが思いつかなかった。
そんな時だ。
「大丈夫?」
優実が話しかけてくる。
「平気」
「血が出てるじゃない!」
「いいよ、これぐらい平気だってば」
「良くないよ」
「え・・・」
彼女は大生の指を舐めたのだ。
そして、服を切って包帯のように巻いてくれた。
「これで血が止まるから」
「ありがとう」
「いいの、じゃあね!」
彼女は友達と遊んでいたのか、輪に戻って行った。
「・・・」
何だろう、大生の一部分が妙に熱い気がする。
体内を巡る血液が一か所に集まってるような気がした。
それはある休み時間の時だ。
優実を含めた男女数名でゲームをする。
「・・・!」
「えー、何て言ってるんだろ?」
「チョコレート?」
「・・・」
どうやら違うらしい。
「分かった、野球だ」
「違うよ、消しゴムって言ったの」
「ぜんぜん分からないよォ!」
彼女たちは楽しそうだ。
どうやら口にガムテープを張り付けて、
何を言ってるか当てる。
というゲームをしてるらしい。
優実は終わったものだと思い、張り付けたガムテープをゴミ箱に捨てた。
「次の時間は移動だぜ、早く行かないと!」
みんなは時計を見て、何処かへと移動する。
「・・・」
だけど、大生だけは違う動きをした。
クラスの人たちが全員居なくなったのを確認する。
そして安全が分かったら、
捨てられたガムテープを拾い上げて、
そのガムテープをポケットに仕舞う。
家に持ち帰った大生はそれを鼻に当てて、香りを嗅ぐ。
今まで嗅いだことのないもので、
それはとても強烈に脳に刻まれた気がした。
翌日、学校に訪れる。
もう一度・・・あのゲームをしてくれないだろうか?
日を追うごとに香りの豊潤さが失われていく。
あれでは使い物にならない。
新しいものを・・・大生に。
「あそこの店のクッキー美味しいんだ今度行こうよ」
「いいねぇ」
優実は友達と楽しそうに喋ってる。
クッキー・・・か。
大生は放課後、彼女たちをつける。
「プレーンと、チョコ、迷うなぁ」
「私はチョコ!」
「紅茶もつけようよ」
「いいねぇ!」
「・・・」
彼女たちのティータイムを眺める。
いつだ、いつになったらあのゲームをするんだ。
「バイバイ、また明日ね」
「じゃあね!」
2人は別れた。
そして優実は1人になる。
チャンスだと思い、近づく。
「ゆ・・・優身さん」
「きゃあっ、誰!?」
「驚かせる気は無かったんだ、ただ・・・」
「えっと、どちら様?」
「同級生さ、木高省吾・・・」
「ごめんなさい、分からなくて」
「そうか・・・」
あの一度きりだもんな。
でも、大生にとっては大事な一度だ。
あれからというもの、ずっと眺めていたんだ。
「なにか話があるの?」
「あぁ・・・ここじゃあれだし、人気の無い所に」
「でも」
「すぐ終わるからさ」
「うん・・・」
大生と優身は廃工場に入る。
錆びついて、機械はすでに役割を終えている。
そんな場所だった。
「ずっと我慢してたんだ、言いたくて」
「もしかして告白?あっ、それじゃごめん。
私から言うのは違うよね、気が利かないなあ、私ってば」
優実は照れるように笑う。
「告白?あぁ・・・確かに告白と言えば告白だけど、
好意を伝えるとか、そういうんじゃないんだ」
「違うの?やだなぁ、勘違いかぁ、私ってばバカなんだから」
「打ち明けたかったんだ、大生の秘密を打ち明けることによって
仲良くなりたいんだ。秘密を打ち明けるってのが親しくなる第一歩だろう?」
「うーん、そうかもね」
「良かった、そう言ってくれて。
見せたいものがあるんだ」
「何かなぁ」
大生は上半身の服を脱ぐ。
「これなんだ」
「きゃあああああああっ」
優実は悲鳴をあげる。
大生の身体に巻きついたガムテープに驚いたのだ。
「どうして驚く?」
「どうしてって、変だよ省吾君!」
「変・・・変だって?この大生の行いが?
それはとても可笑しいよ」
「可笑しい?」
「これは数日前、君が口に貼っていたガムテープなんだ。
優実の身体についていたものなんだ。
何も可笑しくない、むしろ君の一部だったものなんだ。
それを大生の身体に貼り付けることによって再利用したんだ。
捨てたものを使うなんて、経済的で、SDGsだろう?」
「いやあぁ、変態!」
「変態だって?」
大生の中で何かがキレる。
「何故、理解しようとしない。
あぁ・・・君にならば理解してくれると信じていたのに。
傷口を手当てした際、大生に布を巻きつけただろう?
きっとガムテープがあれば、巻きつけた筈なんだ。
けれど無かったから、布で代用したんだろう?」
「何を言ってるのか意味が分からないわ、さようなら!」
優実は走り出す。
「待つんだ、優実」
大生は彼女の腕をつかむ。
「いやっ、離して!」
「そういう訳には行かないんだ。
君も分かるさ・・・ガムテープの気持ちよさにね」
「いやああああっ」
悲鳴がやがて小さくなる。
その後、誰も使われていない廃工場で、
遺体が発見される。
ガムテープがぐるぐる巻きの状態で、
1人の少女が死んでいたのだ。
犯人は分からず、いまだ逃走中となる。
学校の教室。
街を見渡す、なんと爽やかな気分なんだ。
街がとても綺麗だ。
「・・・」
大生はついている。
それはきっと大生が正しいからだろう。
間違ってるのは、向こうなのだ。
だから大生が犯人として捕まらず、
こうして今も同じ街で1人の学生として青春を謳歌出来るのだから。
「省吾、街を見てないで授業に集中するんだ」
「すみません、先生」
大生は笑いが止まらなかった。
こうして世界に1人だけ、
理解者が現れたのだ。
そのことが嬉しく思う。
学校に行く日も、やっぱり身体にガムテープを巻きつけないと、
落ち着かない。
プールがある日はやむを得ず、つけないで行くが、
そうじゃない日は、こうしてつけて授業を受ける。
それが大生にとっての青春であり、日常なのだ。
高校生になる。
女性にはピンと来ないだろうが、
男性なら理解できるだろう。
この時期が一番の性欲のピークと言える。
大生にもいい加減、理解できた。
人には性欲とは別に、性癖というのが存在すると。
それでないと性欲のスイッチが入らないとでも言おうか。
大事な所が反応するか否か。
それが判断基準となる。
大生にとっての性癖とは、ガムテープなのだ。
美しい女性をぐるぐる巻きにする。
それがどうしようもなく、興奮する。
何故、興奮するのか。
子供の時から好きだったというのもある。
だが、それとは別にある気がする。
ガムテープの性質は粘着。
くっつける、集中、継続的な努力。
そんな所だろう。
必要な要素はくっつける。
それは、母が自分の前から消えた時。
引き留めたいという思いがあった。
子供は母を求めるものだ。
でも、大生には無い。
ある日を境に消えたからだ。
そして、母の代わりを求めてるのかもしれない。
そんな風に大生の中で結論付けた。
母に求めるものは何か。
それは愛だ。
愛とは、理解だ。
人に理解されてると思うと、人は安心感を得る。
逆に理解されてないと感じると、その人間に対して冷たさを感じる。
「えっと、私に何か用事?」
「あぁ」
「木高・・・省吾だっけ」
「そうだ」
中川沙良。
ギャルっぽい雰囲気で、
不良グループといつも一緒のイメージだ。
シュシュを首に巻いてる少し変わった格好だった。
学校の帰り道、1人で帰る所を話しかけた。
時間帯は夜。
レンガの建物が並び、月明かりだけが頼りだ。
人通りも少なく、大生を理解させるには場所が良い。
「早くしてよね、彼氏待たせてるんだ」
「心配しなくていい、彼は待ってないから」
「どういう意味?」
「それは、こういうことさ」
「え・・・」
大生は木の枝で串刺しにした彼氏の姿を見せる。
男は特徴的なピアスをしており、
NO,1と書かれたプレートをつけていたのだ。
それで気づいたのだろう。
「わ、私に何か恨みでもあるの!?」
「いや、そういんじゃないんだ。
ただ、理解して欲しいんだよ。
言わばそう・・・愛を求めてるんだ。
君は大生に愛をくれるだろうか?」
「誰があんたなんか・・・えっ」
沙良の行きつく先は行き止まりだった。
「どうしてだって不思議に思ってるだろう。
いつもは開いてる筈なのに、今日に限ってナゼ閉まってるのかと。
それは簡単な話だ、閉めたんだ。
逃げられると困るから、大生が壁を準備しておいた」
「あぁ・・・ああぁ・・・」
「大丈夫、君も理解できるさ・・・きっとね」
大生は手にガムテープを持つ。
「誰か・・・助けて」
「助けなんて必要ない、ただ君が理解すればいいだけのことなんだ」
こうして夜が過ぎていく。
しかし、致命的なことが起きてしまう。
ガムテープでぐるぐる巻きにするという異常性のある事件。
特徴的で、前回が未解決だけに、
天使の連中が真剣に捜査していたらしい。
今回ばかりは捕まってしまったのだ。
「木高省吾。
身長は178cm
体重は71kg。
細身で長袖パーカー。
筋肉質な体型で、運動してると推測。
腕には包帯のようなものを巻いてるが、
実際はガムテープ。
お前で間違えないな?」
男の天使が話しかけてくる。
「あぁ・・・」
牢屋に閉じ込められて意気消沈してる大生に話しかけてくる。
「全部で・・・11人。
随分と殺したな?」
「とても可愛かったよ、皆ね」
「お前のような奴は死刑だろうな」
「どうしてだ、大生が何か間違ったことをしただろうか」
「はぁ?」
「ただ理解して欲しかっただけなんだ。
そんなにそれは悪いことなのだろうか?」
「話が通じそうにないな」
天使の男はため息を吐く。
「それで、いつ釈放されるんだ?」
「お前は地獄行きだよ」
「そんな」
大生は落ち込む。
地獄行き何て落ち込むじゃないか。
「どうしてそんな酷いことを言うんだ?」
「・・・」
天使の男は無言で立ち去る。
その日の夜中、考える。
何がいけなかったのだろうか。
大生には分からない。
まぁ、分からないことを考えてもしょうがないことか。
そう思ってベットで横になってる時だった。
不思議なことが起きる。
牢屋のカギが開いていたのだ。
「あの男が開けてくれたのか?」
あの天使がそうするとは思えない。
だが、これはチャンスだ。
このままここに居ても死刑になるだけ。
逃げ出そう。
大生は夜中、逃げ出した。
そして、運よく自由になる。
神は居る。
大生が正しい行いをしてるから、
幸運を授けてくれるのだ。
笑いが止まらない。
陽気に笑う酔っ払いよりも、
大生は楽し気に笑う。
ガス灯に捕まって、ダンスを踊る。
今日は楽しい。
そんな気分だったから。
それからというもの、大生は成長する。
今では大人になり、
父の元を離れて1人暮らしをし始めた。
天使に捕まって、帰れないというのもあるが、
1人暮らしには憧れがあったものだ。
いい機会だと思い、始めた。
これが大生のルーティーン。
05:00(寝室)。
ベットから起きる。
そして、朝日を感じるのだ。
06:00。
腕立て伏せ、腹筋、走り込みをする。
07:00(自室:シャワー室)。
身体を綺麗にするために向かう。
そして、タオルで身体を拭く。
そのあと、身体にガムテープを巻く。
ペニスには巻かない。
休日は巻くことがある。
休日だからな、好きなようにするのだ。
08:00(朝食)。
ご飯の上に醤油とオクラをかけて食べる
これは好物だ。
オクラは身体に良いと聞いたことがある。
ビタミンCが入ってて、
これが歯茎の間から出血するのを抑えてくれると聞いたことがある。
歯を磨いた後、よく出血するので助かってる。
09:00(洗面所)。
歯を磨き、会社へと出社する。
少し距離があるのでお気に入りの自転車で移動する。
10:00(結婚相談所の会社)。
書類を整理、客のプロフィール確認。
11:00(結婚相談所の会社)。
お客様と話し合い、カウンセリングを行う。
どんな人と付き合いたいのか?
そういうことを聞くのだ。
12:00(結婚相談所の会社)。
良さそうな男女をくっつける。
13:00(街中)。
お昼休憩。
好きなオクラ丼を食べに行く。
14:00(結婚相談所の会社)。
男女の仲が進展してるようならデートのアドバイスを行う。
15:00(結婚相談所の会社)。
男女を送り出す。
16:00。
書類を再び整理。
客のプロフィール確認。
17:00(結婚相談所の会社)。
お客様と話し合い、カウンセリングを行う。
18:00(結婚相談所の会社)。
良さそうな男女をくっつける。
19:00(結婚相談所の会社)。
デートに送り出す。
20:00(結婚相談所の会社)。
会議を行う。
ここでは結婚成立の数を報告。
多い人は皆の前で褒められる。
だが、少ない人は皆の前で恥をかかされる。
大生はわりと成績が良いので、
怒られたことは無い。
21:00(結婚相談所の会社)。
後片付けを行い、会社を綺麗にする。
そして帰宅。
22:00(自宅)
風呂を沸かす。
23:00
風呂に入る。
24:00
就寝。
これが大生の普段の1日だった。
とある日のお昼休憩。
好きなオクラ丼でも食べに行こうか考えた。
お気に入りの店があるのだ。
そこに食べに行こうか。
まぁ、無くても他の店でオクラ丼を探すだけだが。
「っと・・・」
大生は誰かとぶつかる。
「・・・」
男は無言でこちらを見てくる。
スーツ姿の男だ。
坊主頭で、頭に三本の線が入ってる。
身長は180cmくらいだろうか。
細身で何処にでもいそうか雰囲気だった。
スーツを着ているので社会人だろうと思う。
「おい、ぶつかったのなら謝るべきだろう」
「・・・」
だけど男はすぅっと黙って何処かへ消えた。
「くそっ・・・なんだあいつ」
大生の中で何かがキレる。
一度こうなると粘着質な性格が発動してしまう。
普通なら、我慢するだろう。
大事になっても損をするのはこちらの方だと。
だけど、それが出来ないのだ。
大生の中の選択肢に、一度こうと決めたら、
やらないという選択肢は無いのだ。
人は諦めた方が得をすることもあるが、
大生は損をしてでもやらなければならないと火がつく。
それこそが粘着質な性格の特徴だと言えるだろう。
数日後、休みの日の時の話。
9時ごろ。
大生は男の行方を突き止めた。
男の顔は記憶していたので、上手とは言えないが、
デッサンをして聞き込みを行った。
そうしたら近所のアパートに住んでると情報を手に入れた。
どうやら3階の304号室だ。
それを聞いて、思わず向かった。
「悪いがセールスはお断りだ」
「おい・・・大生がセールスに見えるって?」
胸倉を掴む。
「何をそんなに怒ってるんだよ」
「てめぇ、人にぶつかっておいて、
謝罪も無しか?自分のことを上級国民と思ってるのか?」
「気持ち悪い奴だな!」
大生は突き飛ばされた。
そのことが余計に怒りの炎にストレスというなの燃料を与えられた気がした。
「大生の受忍限度超えたぞ!」
思わず手を出してしまう。
「ぶげほっ!」
男は階段から転げ落ちて、大けがを負う。
「ふんっ、いい気味だぜ」
気分がスッとした。
これで明日の仕事にも集中できるってもんだ。
だけど、冷静になり始める。
明日、出所する前に再度アパートに向かう。
時刻は7時ごろ。
「な、何しに来たんだ」
アパートに居た男は困惑した顔だった。
それもそうだろう。
昨日暴行した男がまた訪れたのだから。
「すまない、カッとなったんだ」
「・・・」
「お互い、大事になるのは面倒だろう?」
「帰ってくれ、あんたのことをどうこうしようって気は無いんだ。
何処かへ消えてくれ、もう関わりたくない!」
「そんなこと言わずに、何かさせてもらえないか?」
「・・・」
男は扉を閉めた。
ふむ・・・怯えさせてしまったか。
仕方ない。
まぁ、これで天使に通報されないだろう。
満足げな気分で大生は出社した。
11時ごろ。
客として、とある女性が現れた。
「木霊優身よ、私様に合う殿方を見つけて頂戴」
「なんて美しい」
宝石をふんだんにあしらった、派手なドレス。
頭はソフトクリームみたいな髪型をしてる。
いかにも金持ちという雰囲気だ。
大生には無いものをこの人は持ってる。
いままで生活環境が急激に向上したことなどない。
大生にも運ってやつが回って来たんじゃないのか?
「はっ?」
「いえ、すみません、
本音が出てしまったもので」
「お世辞は聞き飽きたわ」
「そうでしたか、それでは相性の良さそうな男性を選びましょう」
「お願いするわ」
「この人なんていかがでしょう?」
大生は貧しいが、性格の良さそうな男性を選ぶ。
「顔は悪くないけど、収入は低いわ。
貧乏人は嫌いなの、だって負け犬感があるじゃない?
一緒に居ても暗い気分になりそうだわ」
ワガママな性格だな。
収入で判断するなんて、嫌な女だ。
金があるから、自分は選ぶ側の存在だと思ってるのか?
そんな風に感じた。
「それなら、こちらはどうでしょう?」
貴族の男だ。
見た目は太っていて、顔もあまりいいとは言えない。
けれど資産はかなりある。
「気に入らないわ」
「どうしてでしょう?」
「カエルみたいな顔してるじゃない。
こんな男とキスしても、童話の絵本のように美しい王子様にならないんでしょう?
それならしたくないもの、するならイケメンよ」
「・・・」
「どれもパッとしないわ、
他の相談所に行くことに決めたわ」
優身は結婚相談所を去って行った。
この女には大生のことを理解させてやる必要がある。
そんな思いが沸々と湧き上がってくる。
翌朝の12時ごろ。
仕事も忘れて、ある場所へ向かう。
木霊館。
それが彼女の家だった。
「こんにちわ」
「昨日の・・・なんで家に?」
「少し話がしたくてね」
「どうして私様の家が分かるの?」
大生は、結婚相談所のプロフィール用紙を見せる。
「気持ち悪いわ、何処かへ消えて頂戴」
「下手に出てりゃ、つけあがりやがって。
女だからって誰にでも優しくしてもらえると思ってるんじゃないのか?」
「毒蝮!」
「失礼、お客様」
燕尾服の男が大生を追い返す。
「ぐっ」
玄関の門が閉じられ、彼女の姿が見えなくなる。
「お嬢様に近づくな、このストーカーめ」
ストーカー・・・?
この大生が?
あり得ない、そんなわけない。
なにか誤解をしてるんだ。
そうだ、愛が足りないから思うんだ。
試されてるんだ。
そうに違いない。
木霊館を離れて、ある場所へ向かう。
「いらっしゃいませーっ」
女性の店主が花を売ってる。
「バラの花束を1つ」
「恋人にでも送るんですかぁ?」
「えぇ、まぁ、そんな所です」
「送られる相手は幸せですね」
「大生も、そう思います」
そんな世間話をした。
すぐに木霊館に戻り、話しかける。
「何の用だ、しつこいぞ」
執事の男が出てくる。
「あの、これ優身さんに」
バラの花束を渡す。
「一応、受け取っておく」
「ありがとう」
大生はこの場を後にした。
「お嬢様、どうしますか」
「考えれば分かることでしょう、そんな気味悪い物。
捨てて頂戴」
「畏まりました」
執事はバラの花束をゴミ箱に投げ捨てた。
街の中をウキウキな気分で大生は歩いていた。
スキップだってしてしまう。
人間、楽しいとスキップしてしまうものだ。
「あはは、きっと今頃喜んでるだろうなぁ」
女性は花が好きなんだ。
喜ぶだろうな。
微笑む顔を思い浮かべる。
それは何処か・・・母の笑みに似ていた気がした。
「省吾」
「どうしたんです?」
「どうしたもあるか、無断欠勤しやがって」
同僚の男性が怒っていた。
「愛を育んでいたんだ、1日くらいの休みなんて些細なことだ。
騒ぐようなことじゃない」
「何言ってるんだ、お前」
「仕事に戻るよ」
「当たり前だ・・・全く仕事を増やしやがって」
大生は職場へと戻って行った。
深夜、仕事が終わり帰宅する。
そして、そのついでに優身の家に向かう。
窓が開いていたので、そこから侵入し寝室に入る。
「おいおい、花瓶に花が刺さってないじゃないか。
ドジなぁ・・・全くもって可愛い女性だ」
大生はゴミ箱の中からバラを取り出し、花を生けた。
そして、満足した気分で家に帰る。
翌朝9時ごろ。
大生は木霊館に向かう。
「またお前か」
執事は嫌そうな顔をする。
「優身さんに会わせてくれ」
「会いたくないそうだ」
「照れ隠しかい?」
「そんな訳ないだろう」
「昨日、花瓶に花を生けたんだ。
間違ってゴミ箱に入っていたからね。
いやぁ、ドジだなぁ」
「おい・・・まさかお前入ったのか?」
「家族も同然じゃないか、恋人ってのはそういうものだろう?」
「いい加減にしろ、通報するぞ」
「恋人同士の逢瀬じゃないか、何を憤る?」
「だ、大体お嬢様には恋人が居るんだ」
「なんだと?」
大生は聞き捨てならないセリフを聞く。
「あー・・・そういえば恋人が居たんだ。
うん、確かにそうだった」
「それは本当だろうな」
「本当だ」
「嘘だったら・・・分かってるだろうな」
「わ、分かってるさ」
執事の額に冷や汗が流れる。
「連れてこい」
「え?」
「恋人が嘘じゃないのなら、連れて来れるだろう」
「理由が無い」
「理由ならある、大生が会いたいと思ってるんだ」
「急にそんな」
「1時間だ」
「なに?」
「1時間で連れて来ないのなら嘘だと判断する。
強引にでも家に入って優身さんをここから連れ出す」
「つ、連れてくる・・・だから今は何処かへ行ってくれ」
「ふん・・・嘘だったら覚悟しておけよ」
大生はこの場を離れる。
そして、1時間ぐらいしたら戻って来る。
「来たのか」
「あぁ、それで彼氏ってのは何処のどいつだ?」
「この人だよ」
「ちーーっす、どうも」
アロハシャツにサングラス。
金髪にいかにも軽薄そうな喋り方。
頭の中がスカスカそうな印象。
低身長で162cmぐらいだろうか。
随分と、大生よりも小柄じゃないか。
こんなんで女性を守れるのか?
「この頭の悪そうな馬鹿は誰だ?」
「彼氏さ、お嬢様も認めてるな」
「自分は相沢達也、よろしこ」
「バカなのか?」
「そんなピリピリしないで下さいよォ、
仲良くしましょ、おにーさん?」
「・・・」
握手を求められたが無言で拒否する。
「わぁ、達也。来てくれたのね」
「ゆーちゃんのためなら宇宙の彼方からでも1秒で駆けつけるよ」
「早すぎよ」
「はい、ゆーちゃん。バラの花束」
「花をくれるの?嬉しい」
優身は見たことない笑顔を見せる。
「ほら、見ただろう。
同じバラの花束でも渡す相手によって表情が異なることを。
お前はあの顔を見たことあるのか?」
「嘘くさいな」
「嘘くさいって・・・お嬢様の笑顔を見ただろう」
「女性の嘘の笑顔にいつの時代も男性は騙されるものだ。
大生には女性の嘘は見抜ける自信が無い。
だが、彼氏の方には自信がある。
おい、頭の中がメッシュ模様のスカスカ野郎」
「自分っすか?」
「あぁ、そうだ」
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「出会った場所は何処だ」
「えぇっと・・・」
ちらと優身の方を見る。
「てめぇに聞いてるんだ!
女に聞かねぇと答えられねぇのか?」
「わ、分かったよ・・・。
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「貴族なのか、お前」
「まぁね」
「初デートの場所は?」
「噴水広場」
「すらすらと答えられるんだな」
「彼氏ですし、お寿司って感じさ」
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「まさか、そんなわけないっしょ」
「疑って悪かった」
「えへへ・・・いいんすよ、これで諦めてくれます?」
「最後に質問しよう」
「最後・・・本当に最後っすよね?」
「あぁ、勿論だ。
これに答えられたのなら大生も引き際を弁えて、
諦めるさ」
「それで、最後の質問は何っすか?」
「サイコロの3みたいにホクロが並んでる位置は?」
「えぇっと・・・」
達也はちらりと優身の方を見る。
「どうした早く答えろよ」
「それは、その」
「彼氏彼女ともあろうものが、分からないのか?
まさか、若い男女がシナイってのは考えられねぇだろ?」
「それは、そうですけど」
「3秒やる、言え!」
「わきの下です!」
「不正解だ!」
「ぎゃあああああああっ」
大生が彼氏の眼球にバラを挿す。
「節穴だったからバラが生けやすかったぜ!」
「痛てぇよぉ・・・」
達也は顔を抑える。
「天使よ、天使を呼んで毒蝮!」
「分かりましたお嬢様!」
「正解は右の太ももだ!」
「どうして知ってるのよ?」
優身は不思議そうな顔をする。
「彼氏面しやがって、何処のどいつだ。
正直に言うんだな」
「じ、自分は雇われた俳優です。
こんなことになるのなら仕事は引き受けなかったのに!」
「そんなことだろうと思ったぜ。
さぁ、これで何の迷いも無く大生たちは付き合える。
優身付き合おう」
「誰があんたみたいな気持ち悪い奴と」
「大生がそうと決めたのならば結論は変わらない。
反対意見を聞きたいわけじゃないんだ。
これはそうだな、言わば決意表明みたいなものだ」
「帰って、帰ってよぉ!」
「安心するんだ、すぐに君も大生の理解者になるのだから」
大生は優身の顔に手を伸ばす。
「動くな!」
「誰だ、お前ら!」
「天使だ、暴行の容疑で拘束する!」
「離せ、この!」
「はぁ・・・はぁ・・・」
優身から遠ざかって行く。
「大丈夫ですか、お嬢様」
「もう少しで酷い目に会う所だったわ」
牢屋に閉じ込められる。
「お前、脱獄犯だな?」
「あぁ」
「通常の牢屋よりも脱獄が難しい、
特別監房へ送ってやる」
「・・・」
深夜、大生は考える。
身体は拘束されて自由が効かない。
さすがに命運が尽きたのだろうと。
「そう、悲観することもないさ」
「看守か?」
「いや、むしろ逆の存在だ」
「なに?」
大生は人生に置いて、何処か他人を見下すことが多かった。
なんというか恐怖というのを感じたことが無いのだ。
でも、この時は人生で初めて恐怖というのを感じた。
なんというか、ぞっとしたんだ。
普通、監獄ってのは入るものじゃない。
だが、目の前のこいつは入ってきたのだ。
牢があるにも関わらず。
そして耳元で囁くように言ってきた。
「力を貸そう・・・君の幸福のために」
「誰だ、あんたは一体」
「前にも会ったが覚えてないか、まぁいい」
男が頭に触れる。
一瞬だけだったが、耳に齧られた痕が見えた。
彼は一体?
「うっ」
大生は意識を失った。
翌朝、正体を探ろうと思った。
なので、辺りを見渡すがすでに男の姿は無かった。
夢でも見ていたのだろうか?
そんな気分になる。
9時ごろだろうか。
コーヒーの香りが外から香って来る。
「~♪」
陽気にも鼻歌が聞こえてくる。
「コーヒー飲んでるのか?
大生にもくれよ」
「ふん、鼻がいいんだな。
だが、こいつはやらん。
俺の楽しみなんだ、囚人風情が贅沢をしようったってそうはいかないぞ」
「・・・」
大生は他人を見下すが、大生が見下されるのは気に入らない。
こいつを殺してやりたい。
そんな苛立ちに駆られる。
「なんだ、これは・・・うわぁあああ!」
天使の男が叫び始める。
なんだ、何が起きたんだ?
扉がいきなり破壊され、外の様子を確認できる。
すると天使が木の枝に串刺しになってるのが見えた。
「これは一体」
「動くな!」
天使が弓を構えて、大生を脅す。
「まってくれ、大生は何も」
「言い訳は聞く気は無い!」
弓が引かれそうになる。
死にたくない!
「死にたくない!」
思ってることが口にでる。
すると、植物の触手が天使を襲う。
「うわあああっ」
「なんだ、何が起きてる」
いつの間にかポケットに入っていたノコギリ。
これか、これの所為なのか?
念じる。
大生は外に出たいと。
すると植物が地面が生えて建物を破壊する。
出れる、外に。
大生は外に出た。
11時ぐらいだろうか。
太陽が空の真ん中にある気がした。
優身に会いたい。
今は彼女の胸に抱きしめられたい。
そんな気分に駆られる。
木霊館へ向かった。
正面から入ると、あの執事に邪魔される。
裏口から入ろう。
そう思って、家の中へ入って行った。
「誰だ、お前」
知らない恰幅の良い男性だった。
木のネクタイを身に着けてる。
丸太模様に髪を剃ってる。
「・・・」
大生はノコギリで首を切り裂く。
「ごふっ」
喉から出血し、呼吸が上手くできないようだった。
そして、そのまま絶命した。
「ここで彼女と過ごすんだ、邪魔をしないでくれ」
「どうして貴方がここに」
「優身、会いに来たよ」
「はぁ・・・はっ・・・」
息が荒くなる。
「辛かったんだ、牢屋の中に閉じ込められて。
大生を癒してくれ」
「いやっ」
優身は逃げ出す。
けれど足が枝になって倒れる。
「君は大生を受け入れてはくれないんだね」
「何よこれ!」
「それならそれで構わない、君は未だ受け入れないだけなのだから」
「どういう意味?」
「君がいいよと言うまで、大生は愛を伝えよう」
「嫌・・・誰か」
「時間は沢山あるんだ、愛を育もう」
「助けて!」
「愛してるの間違いだろう?
ふははははははっ」
大生はこうして木霊館に居つくようになった。
優身に愛されるようになるまで何度でもやり直すつもりだったが、
青菜、君が来て状況は変わったんだ。
そのことをとても後悔している。
だが、大生は神に愛されてるのだ。
いずれまた・・・ここから出よう。
今度こそ、優身。
君は大生を受け入れてくれるだろう?



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