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1-7 犯人
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翌朝、もう2日目だ。
いい加減、外に出たい。
「おはようございます、青菜様」
「何してるんだ?」
「寝起きの顔を見たくて」
俺は膝枕をされていた。
「仮面ついてるのにか?」
「見える気がするんです」
「不思議なことを言うんだな」
「そうでしょうか?」
俺は思わず苦笑する。
「もう少し、このままで」
「分かりました」
俺は2度寝する。
彼女からは晴れた匂いがする。
それがとても心地よかったのだ。
そうして時間は過ぎていく。
他の者も起きだした。
「もう・・・朝か、客人起きるんだって、
随分と甘やかされてるな」
「そうだな」
俺は目覚める。
「青菜様、8時です」
ミクリがそう言うと、くぅとお腹が鳴る。
「正確だな」
「えへへ」
ミクリは照れくさそうに笑う。
「朝食にしたい所だが、食料が無い」
省吾は悔やんだ顔をする。
「少しだけ我慢だ、今日で出るからな」
「青菜様・・・」
「外に出れたら何か美味しいモノでも食べに行こう」
「はい!」
ミクリは微笑む。
「そうは言うけれど出る算段はあるのかい?」
「金子さん・・・はい、あります。
逃矢を連れ出せば、スイッチを押すことが可能かと。
説得には金子さんが居れば」
「分かったわ、ワタクシに任せて頂戴」
「移動しよう、全員行けるか?」
「私様は嫌よ」
「あのな、お嬢様・・・そういう我儘は困るんだが」
「私様は体調を崩していたの、出かける何て無理よ」
「仕方ないわ、執事。娘の傍にいてあげて」
「畏まりました、奥様」
「あの子はああいう子だから、少し時間を置けば協力してくれるはずだから」
「貴方がそういうのなら」
俺は引き下がる。
「ふん、私様は何も悪くないわ」
優身はむつけてる様子だ。
「とりあえず行こう」
「大生はついていく」
「分かった、それじゃ行くか」
俺、省吾、金子さん、ミクリの4人で移動する。
そして、離れ小屋へと向かった。
「逃矢、居るんでしょう」
「お母さん」
「この人たちは悪い人じゃないわ、出てきて頂戴」
「でも・・・」
「逃矢君、やっぱり皆と一緒に居よう、メイドが守ってあげるから」
「別に危害を加えるつもりは無い、スイッチを押すだけでいいんだ」
「ううぅ・・・分かったよ。
でも、僕が手伝うのは怖いからじゃない、ミヤや母さんを傷つけないよう見張るためだ」
そう言うが、足が完全に震えていた。
「俺が変なことをしないように見張っててくれ」
「・・・」
逃矢はようやく暗闇の中から出て来た。
「これで揃ったな、後はスイッチを押すだけだ。
この館の主人を捕らえられる」
「ワタクシは成孝さんが罪を犯したとは思えないけれど」
「成孝さん?」
「主人の名前よ」
「あぁ・・・なるほど」
「木霊成孝。この館を建てた人であり、ワタクシの旦那様よ」
「それは悪いが俺には信じることは出来ない」
「直接会えば分かることだものね」
「そうだな」
そうして庭園を歩いて行く。
そして、屋敷内に戻ってくることが出来た。
今は廊下だ。
「・・・」
「大丈夫ですか、逃矢君・・・ミヤがついてますよ」
「大丈夫だ、怖いわけじゃない」
「俺が襲うかもって警戒してるのか?」
「疑ってるのは事実だ、でも・・・僕が気にかけてるのはそのことじゃない」
「どういう意味だ?」
俺は逃矢の言ってる意味が分からず、理由を尋ねようとした。
しかし、木の化け物が現れ、話を聞けなかった。
「げーーーっ!」
「くそっ、何度も何度もしつこいぞ!」
「青菜様、どうしますか?」
「戦うに決まってるだろう、アルトラズ!」
俺は虫かごを取り出し、シロアリを飛ばす。
「げーっ、げっ、げっ」
しかし、木の化け物は余裕だ。
今までとは違う?
「白アリ様が死んでいってます!」
「毒だ」
逃矢がぼそっと言う。
「え?」
ミヤが振り返る。
「逃げよう、母さん、ミヤ!」
逃矢は2人を強引に引っ張って何処かへ走り出す。
「おい、危ないぞ!」
俺は追いかけようと思ったが木の化け物が立ちふさがる。
「分断されてしまいました、どうしますか、青菜様」
「ミクリ、木綿の壁を出してくれ」
「分かりました、コットン・ブルー!」
もこもこと巨大な木綿が出現して廊下一帯を覆う。
「行くぞ、省吾」
「あ・・・あぁ・・・」
俺たち3人は逃げ出す。
「くそっ、面倒な木だ」
「マンチニール」
省吾が何かを言った。
「なに?」
「近づくものを殺す、死神が植えたリンゴの木」
「俺の力じゃ遠距離は無理だ」
俺のアルトラズは近距離~中距離の技だ。
遠距離を攻撃するのは難しい。
「そうか・・・」
「だが、別に無理して倒す必要はない。
何処かでやり過ごして、再会を目指そう」
「それしかないのか?」
「あぁ」
「そうか」
省吾は考える仕草をする。
「寝室に行こう、そこで執事と優身が待機してる筈だ」
「分かった」
俺たち3人はそこへ移動する。
「青菜様、大変です」
「どうした、ミクリ」
「誰も居ません」
「なに?」
俺も確認のために部屋には居るが、誰も居なかった。
「どういうことでしょうか」
「まさか、大生たちが居ない間に化け物に襲われたとか」
「いや、それは考えにくい。
部屋が荒らされてない。自ら出て行ったと感じるのが自然だ」
「名推理です、青菜様」
「いや、そこまで褒めることじゃないが・・・」
でも、小さいことでも褒められると悪い気はしない。
「それじゃ、何処に行くんだ客人?」
「図書館だ、本を読んでいた筈。退屈しのぎ目当てだろう」
「他に思いつかないし、大生はそこでいいぜ」
「従私も同意見です」
「皆で向かおう」
俺たちは図書館へ移動する。
「誰も居ませんね」
ミクリがキョロキョロと辺りを見渡す。
「可笑しいな、ここだと思ったが」
他に何か関心があるのは何処だろうか。
バックを気にしていたから、ファッションに興味があるかもしれない。
クローゼットルームが怪しいか?
俺は考える。
「間違えない、この部屋だぜ」
「なぜ、言い切れるんだ省吾」
「だ、案内人としての勘ってやつさ」
「まぁ、一番優身のことを心配していたのは省吾だもんな」
「あぁ・・・」
省吾が目を逸らす。
なにか引け目でもあるみたいだ。
ちゃんと見ておかなかったから、迷子にさせてしまったと思ってるのかもしれない。
それで罪悪感が芽生えたのかも。
俺はそう考えた。
「青菜様、これを」
ミクリが何かを見つける。
読みかけた本だ。
「この部屋に来てたのは間違え無さそうだ。
なにか手がかりがあるかもしれない、省吾も気にしてるし、
探してみよう」
「分かった」
「分かりました」
俺たちは本を探す。
「少し、疲れて来たな」
本が多く、ずっと見てると文字で酔いそうだ。
ただでさえ内容を理解できないのに、困ってしまう。
「青菜様、これを」
「なんだこれ」
「エッチな本です」
「なんで持ってくるんだよ!」
びたーんと地面に投げ捨てる。
「勿体ない!」
ミクリが慌てて拾う。
「なんで持ってくるんだ?」
「あの、疲れてるかと思って。
これで元気出るかなって」
「今じゃ無いだろ!」
「ごめんなさい」
ミクリがしゅんとする。
「全く」
俺はため息をする。
手がかりじゃなくて、手コキの間違えだ。
「これなんてどうだ?」
「どれどれ」
文字は読めないが、男性同士が絡んでる所から変な本だというのは理解できた。
「・・・」
省吾はサムズアップする。
「内容の問題じゃねぇ!」
俺は地面に本を投げ捨てる。
「違うのか」
「エロ本を探せって言ってるんじゃねぇ、
手がかりを探せって言ってるんだ!」
「難しいな」
省吾は手がかりを探しに戻る。
「俺は難しいことを言ってるのか?」
俺は頭を抱える。
「青菜様、見てください」
「なんだ?」
「料理本です、とっても美味しそうです。
今度機会があれば作ってさしあげたいのですが、
どんな味が好みですか?」
「それは嬉しいが、今じゃない」
「お腹が空いてませんでしたか」
「そういう意味じゃないんだが・・・とにかく別の本を探してきてくれ」
「分かりました」
ミクリは本を探しに行く。
「なぁ、客人なんだか奇妙なものを見つけたんだが」
「分かった、すぐ行く」
俺は省吾に言われてある場所へと近づく。
「ここは図書館だ、本があるのは自然だが、
絵が飾ってあるのは変だと思ってな」
「これは・・・」
俺は見覚えがあった。
「知ってるのか?」
「あぁ・・・俺の居た世界ではモナリザと呼ばれた」
「へぇ、モナリザ・・・ね」
「だが、妙だ」
「妙?」
「この絵は微笑のハズなんだ」
「微笑?泣いてるように見えるが」
「そうなんだ・・・だから不思議で」
モナリザは泣いていた。
子を見るような温かい笑みの絵だった記憶がある。
しかし、これはどう見ても泣いてる。
明らかに偽物だ。
「泣く・・・なく・・・失くした?」
「そうか、物が無いから泣いてるのか」
「なんだ・・・何が足りない?」
俺は頭を捻る。
湖、小道、橋、赤い地面、全体的に薄暗い色。
こっちを見てる気がする表情。
黒い服。
「なんだか寂しい絵ですね」
ミクリが隣でぼそっと呟いた。
「何て言った?」
「え、あの・・・寂しいなと」
「それだ、何で寂しいと感じる?」
「どうしてでしょう?」
ミクリは感覚的に答え、本質に近い気がした。
「生命を感じないからか」
「俺も同じだ」
「どういうことでしょう?」
「植物が無いんだ、もしかしたら海かもしれないが、近場に水場があるのに、
植物が生い茂ってないから寂しい印象を与える作品になってるんだと俺は思う」
「それでは、この女性は環境が悪くなってることに憂いを感じた。
ということでしょうか、青菜様?」
「あぁ」
「それは分かったが、大生からしたら・・・で?って感じだ。
その推理は面白いかもしれないが、問題は優身を探すことのハズだ。
ゲームは終わった、捜索に戻る」
「いや、まだ終わってない」
「なに?」
「モナリザは泣いては居るが、目線は何処にある?」
「あっ」
ミクリは気づいたようだ。
「描いた人物が居るはずだ」
「だから、捜索と何の関係が」
「まだ分からないのか、これは謎解きなんだよ・・・館の主人のな」
「どういうことだ」
「俺は誰かに謎を解くように要求されてるように感じた。
それがいまいち誰かは分からなかったが、ようやく理解した。
主人は謎解きが好きで、館のあちこちに仕掛けを用意したんだ」
「そんなバカな」
「自分の所に行くためにスイッチを用意してるなんて随分と手間じゃないか?」
「それは、そうだが」
「隠したいのなら、目立つところにスイッチなんて置く必要が無い。
むしろ、隠すように置くべきだ。でも、わざわざ目立つところに置く辺り、
主人はそういうのが好きで、周りを巻き込んでこういうことをしたい人なんだろう」
「そんなこと」
「ありえないって言いたいのか?」
「・・・」
省吾は黙る。
「モナリザの秘密を解けば、主人の性格が見えてくる気がする。
そうすれば、省吾が探したいと願う、優身の所へ行けると思ってる」
「違うかもしれないぞ」
「別に罰ゲームがあるわけじゃない、館の外に出ようとすれば植物が生えるが、
外に出ようとしなければ基本的に無害だ。なら時間をかけて正解への道へと進めばいい」
「分かったよ、好きにすればいいさ」
「そうするよ、そして話を戻すが、モナリザはポーズをとってる。
これは誰かに向けてのものだ、なら、それは誰か?」
俺は本棚に向かう。
モナリザの模造品が見た先には、ある1冊の本があった。
それは脱出ゲームの作り方と書いてあった。
「家族に向けて、ということですね、青菜様」
「家族と一緒にやりたかったんだろう」
脱出ゲームと書かれた本を取ると、物音がする。
そして、地下への道が開かれる。
「この先に、優身が・・・っ!」
省吾が走り出す。
「待て、危険かもしれないぞ!」
「追いかけますか、青菜様?」
「当たり前だ、行くぞ!」
「はい」
俺たちは地下へと向かっていった。
道が石畳で出来ており、ろうそくの明かりがかろうじてある。
どうやら一本道のようだ。
迷う心配は無さそう。
「おい、待てよ!」
俺は省吾を引き留める。
「・・・」
しかし、すでに先へ行っており、声が届きそうにない。
「優身様のことを心配してるんですね」
「木の化け物が居るからな、不安な気持ちが分からなくもない」
「そうですね」
「俺たちも急ごう」
「はい」
俺たちは走り出す。
そして、最奥へとたどり着く。
扉は開いており、省吾が立ち尽くしていた。
「おい、省吾どうしたんだ。
中へ何故入らない?」
「中を・・・見てくれ・・・」
「一体何が」
俺は最悪の想像をする。
無残に切り裂かれたバラバラの死体を。
まさか、とは思うが、絶対に無いと言い切れるか?
こんな怪しい地下で犯罪が行われない筈がないのでは?
なんて悪い方へ考えてしまう。
だが、とにかく今は直接その目で確認しよう。
何が起きてるのかを。
「許して・・・許してよ・・・お姉ちゃん」
「そんなことを言ってもダメ・・・これはお仕置きなんだから」
「あぁ・・・ごめんなさい逃矢君」
手錠で繋がれてるメイド。
そして、三角木馬に上半身裸で拘束されてる逃矢。
アイマスクもされて顔の表情が分からない。
さらに、恍惚の表情を浮かべる優身がそこに居た。
「何やってるんだ!」
俺が怒鳴り声をあげると、冷めたような顔で優身が見てくる。
「あーあ・・ばれちゃった」
「外せ、それを」
「嫌よ、私様に命令しないで」
「なら俺が外す」
俺は逃矢に近づき、手錠を外す。
アルトラズの主となった俺にとって錠は意味を無さない。
それは囚人を拘束するための道具であって、看守長を拘束する道具では無いのだから。
「青菜様、こちらも外しました」
メイドのミヤの拘束も外れる。
「省吾が心配したからついてきたが、何だこれは?」
「見れば分かるじゃない、お楽しみよ」
「2人が嫌がってるようにしか見えないが?」
メイドは逃矢のことを抱きしめ労わってるように見える。
「姉として罰を与えたのよ」
「罰?」
「人間、年上には敬意を表すべきよ。
それなのに、彼らと来たら敬意を表さない。
なら、分からせてやる必要があるじゃない?」
「人間、尊敬されるようなことをすれば自然と尊敬される。
お前のそれは恐怖で従わせてるに過ぎない」
「黙りなさい、家の事情に口を挟まないで」
「家に関係する人なら問題ないわよね」
「金子さん?」
いつの間にか後ろに居たようだ。
「お母さま、その・・・これは」
「逃矢が可哀そうでしょう!」
金子さんは怒る。
「何よ、弟ばっかり!」
そのことに優身が反抗する。
「優身?」
「お母さまはいつもそうだ、ケーキの分け方だってそう。
私様にはイチゴを乗せないの、弟には乗せるのに。
ショートケーキは酸味と甘さが合わさるのが美味しいのに。
だからショートケーキって嫌いよ。
見るのも嫌。でも、毎回買うの。
弟が喜ぶから。もう、うんざり。
私様のケーキはいつも寂しいの。
だって、間のイチゴしか食べられないから。
大きな一粒は皆、弟のケーキに乗せられるの。
お姉ちゃんだから我慢しなさいってね。
何それ、意味わからないわ。
損するのはいつも私様・・・世の中って不公平だわ。
人間、イチゴを乗せてもらう可愛い人間か、
そうじゃない2種類の人間に分けられるの。
だから私様は可愛い・・・男どもは私様に貢ぐべきなのよ。
だって、お母さまがそうしないんだもの。
代わりの誰かがやってくれるべきじゃない?」
「優身!」
金子さんは優身の頬にビンタする。
「お母さま?」
「貴方のしたことはとても悪いことなの。
頬の痛みを感じてる間、反省しなさい」
「うわぁあああああ・・・」
優身は泣き出した。
「ごめんなさい、身内の恥を晒したみたいで」
「あぁ・・・いや」
俺は何て言っていいか分からず、濁す感じしか出来なかった。
「あの・・・1つ良いですか、青菜様」
「どうした」
「そういえば、誰か1人足りないような」
「言われてみれば・・・あっ執事!」
俺は叫ぶ。
「毒蝮は何処へ?」
金子さんも知らないようだ。
「優身は・・・」
「あああああっ」
「泣いてるし、聞くのは難しいか。
逃矢は?」
「お母さんの部屋に行くって言ってたような」
「もしかして」
「金子さん、何か心当たりが?」
「えぇ、ついて来てもらってもいいかしら」
「分かりました」
俺たちは移動する。
その先は女主人の部屋だった。
「奥様・・・」
執事が金庫を開けて中の金銭を盗んでる最中だった。
「どうして、貴方がそんな」
「全部、あんたが悪いんだぜ金子さんよぉ!」
「わたくしが?」
「働いても働いても給料は上がらない一方。
これだけ尽くしてるのにも関わらずだ。
慈善事業で奉仕活動をしてるとでも思ってるのか?」
「そんなこと思ってないわ」
「白々しい、これが証拠だぜ」
執事は金庫を指さす。
「証拠?わたくしには分からないわ」
「まだしらを切るか、ならいい。
執事の方から口にするぜ、あんたはため込んでいたんだ。
財産をな、メイドや、庭師、他のシェフだったり、
他のスタッフが働いて得た筈の給料をあんたは少しづつかすめ取ってため込んだ。
そうだろう!」
「どうして盗んだりなんか」
「これは泥棒じゃない、本来貰うはずの給料。
言わば、ボーナスなのさ、正当な権利なんだよ!」
「ダメよ」
「強欲ババアめ!」
執事はナイフを取り出す。
「きゃあっ」
金子さんは悲鳴を上げる。
「死ね!」
「アルトラズ!」
俺は手錠を取り出して拘束する。
「がっ」
執事は身動きが取れなくなる。
俺は彼の上に跨る。
「ありがとう・・・助けられたわ」
「面倒かけやがって」
「なんでこんな女を庇う?」
「まだ分からないだろう」
「なに?」
「ねぇ、毒蝮。聞いて」
「何を今さら・・・言い訳は聞きたくない」
「言い訳なんかじゃないの、とても大事なことなのよ」
「・・・」
「給料を貯め込んでいたのは、貴方たちを守りたかったからなの?」
「貯めこむのに、守りたいだって。
可笑しいだろう、そんなの。社長ってのは、
資金がある分だけ、給料に分配するべきだ。
それが社長ってもんだろう!」
「人間、いつ何があるか分からないわ。
だから貯めとけるうちに、貯めておくの。
そして、赤字になった時にでも給料を払えるように」
「そんな出鱈目、信じるか!」
「嘘じゃないわ、貴方が盗んだものの中に証拠があるわ」
「なに?」
「開けるぞ」
「あっ、止めろ。それは執事のボーナスだ!」
毒蝮の袋の中を開けてみる。
すると、その中には札束とは別に、給料袋があった。
「封筒を開けて、中を見て見て」
「分かった」
俺は封筒を開ける。
「し、執事にも見せろ!」
俺は言われるがまま見せてやる。
「これは、給料明細だ。
従業員分の」
「わたくしが居れる隙なんて無かったでしょう。
それなのに、どうして入ってたんだと思う?」
「それは・・・ずっと前から入れていたから」
執事の声が小さくなっていく。
「貴方たちのことを考えていたの。
独り占めしようなんて思ってなかったわ」
「うぁ・・・」
執事はとんでもない勘違いをしてしまったと落ち込む。
「天使に引き渡してやる」
俺は執事に言い放つ。
「青菜君、いいの」
「金子さん?」
「ワタクシもこうして生きてるし、彼の眼には反省の色が見えるわ。
許してあげようって思うのだけれど」
「随分と甘いんじゃないのか?」
「いいじゃない」
「被害者はあんただ、あんたが良いって言うなら俺はこれ以上は言わない」
「ありがとう」
「礼を言われるほどのことじゃない」
俺は執事を開放する。
「ごめんなさい、奥様・・・これからは誠心誠意尽くしていく所存です」
片膝をついて執事は頭を下げる。
「さぁ、ワタクシが居るから、もう安心よ。
皆を連れて主人の所へ向かいましょう。
スイッチを押させるわ」
「心強いな」
「行きましょう、青菜様・・・いよいよ決着ですね」
「分かってる」
俺は玄関ホールへと戻って行った。
「ねぇ、青菜君」
「なんです、金子さん?」
「もしも・・・主人が悪事を働いてると分かればどうするの?」
「捕まえますよ」
「そう・・・分かったわ」
「見逃して欲しいと言うのかと」
「言わないわ、悪いことをした主人が悪いんだもの。
でも、ワタクシ自信は主人が悪事と働いたとは微塵も思わないけどね」
「そうですか」
「それじゃ、スイッチを押しましょう。
皆、準備はいいかしら?」
「「「はい」」」
全員が一斉に返事する。
「それじゃ、3カウントで押す。
3・・・2・・・1・・・0!」
0のタイミングで押す。
「あの、青菜様・・・従私は1で押しちゃったんですが」
「何ぃ!?」
「ご、ごめんなさーいっ」
少しタイミングがずれてしまった。
しかし、扉は普通に開く。
「メイドはひやひやしました。失敗なのではと」
ミヤが歩を進める。
「失敗だ、近づくな!」
俺は叫ぶ。
「え・・・でも・・・」
「扉は開いた、でも罠があったんだ!」
「僕の元に戻ってくれ、ミヤ!」
「きゃあああっ」
ミヤは植物の触手に捕まる。
そのまま引きずられる。
「携帯捕縄(けいたいほじょう)!」
俺は縄をミヤに絡ませる。
だけど、引っ張る力が妙に強かった。
「青菜様、手伝います」
ミクリが後ろにやってくる。
「他の人も手伝ってくれ!」
俺は叫ぶ。
その声に合わせて、他の人たちも協力してくれる。
「大生も行くぞ!」
「執事も協力する」
「ぼ、僕も」
「ワタクシも」
「私様は関係ないわ・・・嘘、手伝うわ!」
金子さんが居るからか、優身も渋々手伝う。
「綱引きだ!」
6人で一斉に引っ張る。
「痛っ」
助けるためとは言え、手に縄を巻いたのだ。
うっ血し始める。
手の色が少し青っぽくなる。
血液の流れが上手く行ってないのだろう。
「悪いが、我慢してくれ!」
俺は他に方法が思いつかず、縄を引っ張る。
「向こうは一体のハズなのに、
力を合わせてる僕らがどうして引っ張られるんだ!?」
「恐らく根を張ってるからだ。
土の重さが上乗せされてるんだと思う」
「どうすんだよ、このままじゃミヤは襲われる。
大生はそんな結果は望まないぞ」
「アルトラズ!」
俺は植物の化け物を一体、近づける。
「敵を増やしてどうするんだよぉぉおおおお!」
省吾が叫ぶ。
「こいつが役に立つんだ!」
「なんだ、地面が・・・」
「げーーっ」
木の化け物は体制を崩す。
そして、先ほど引っ張った奴も共に倒れる。
「今だ、引っ張れ!」
ミヤがこちらに戻って来る。
「お帰り、ミヤ」
「逃矢君」
2人は抱き合う。
「大生には不思議だ、何故助かったのか」
「菜の花には土に粘り気を与える効果がある。
それによって根っこが安定しなくなったのさ」
「なるほど」
省吾は納得したようだ。
「ミヤを救出すれば後は大したことない。
電気警棒!」
俺は木の化け物を焼き殺す。
「げーっ・・・」
「他にも敵が出ないとは限らない。
早く入ろう」
皆して、主人の部屋へと入って行った。
「ここが終着点ですか、青菜様?」
部屋には誰も居なかった。
テーブル、本棚、社長椅子。
窓からは中庭が見えた。
「俺はそうだと思うが」
「間違いないわ、主人の部屋よ」
「金子さんが言うのなら間違えないだろう」
「でも、誰も居ませんよ青菜様?」
「図書館でのことを思い出してる」
「隠し部屋があると?」
「あぁ」
「探してみましょう、ワタクシたちで」
俺たちは探してみることにした。
「中々、見つかりませんね青菜様」
「そうだな」
「分かりやすい位置にあれば楽なんですが」
「それじゃ隠し部屋の意味が無いだろう」
「ですね」
苦笑するミクリだった。
「ん?」
なにか引っ掛かる。
「どうしました?」
「床に何か・・・」
俺はカーペットを剥がす。
「あっ」
「地下扉だ・・・しかし番号が4桁必要みたいだ」
「適当にやればいつかは開きますかね?」
「いつかは開くだろうが・・・いつになるやら」
「ヒントが書いてありますよ、青菜様」
「なに?」
よく見ると、何か金属版に彫ってある。
家族の誕生日と書いてある。
「ワタクシの試してみるわ」
0、9、1、0。
しかし開かない。
「ぼ、僕のはどうだろう」
0、3、2、0。
これでも開きそうにない。
「優身、ワタクシのために開けて頂戴」
「はいはい、分かりました分かりました・・・なんで私様がこんなことを」
0、4、2、0。
やっぱり開きそうにない。
「もしかして、ワタクシの主人のかしら?」
0、5、0、6。
やはり、ダメだった。
「押し間違えか?」
「いいえ、ワタクシ。そんなミスはしないわ」
「・・・」
何故だ?
俺は悩む。
ヒントは家族の誕生日ではないのか?
「青菜様、汗を拭きましょうか?」
「手術中じゃないんだから」
「難しい顔をしてらしたので」
「気遣いは感謝するよ」
「はい」
ミクリは笑みを向ける。
「足してみたら・・・どうだろうか」
「ワタクシ、やってみるわ」
金子さんが入力していく。
2、1、5、6。
ガチャと開いたような音がする。
「エクスクラメーション!」
俺は喜ぶ。
扉は開き、奥へと続く。
「地下です、反対の高い所と比べて逃げ道が限りなく少ないです。
とても危険だとは思いますが、進みますか、青菜様?」
「あぁ・・・そうじゃないと帰れないからな」
「分かりました、従私はついて行くまでです」
ミクリはカーテシーを行った。
「大生もついて行くよ」
彼らも同行してくれるようだった。
「ワタクシも行くわ、主人が気になるもの」
「ぼ、僕も・・・ミヤが一緒だから勇気が少しだけ湧いて来るんだ」
「逃矢君・・・ミヤもついて行きます」
「執事もお供します、奥様が心配ですので」
「私様は行かないわ」
「危険だからな、待ってくれてていい」
俺はそう告げて、先へと進む。
残りの人たちも黙ってついて来てくれた。
そして、優身がだけが残る。
「おーい・・・本当に置いてくことないじゃない。
分かったわよ、行けばいいんでしょ、行けば!
素直に私様を必要と言ってくれればいいのに。
気が利かない連中なんだから」
プンプンしながら、優身がついて来るのだった。
そこは異様な空間だった。
地下にも関らず、花が色とりどりに咲いていたのだ。
「なんだここ」
遠くにはガゼボが見える。
石畳が道を作っており、これを頼りに行け。
ということだろうか。
「人影が見えますよ、青菜様」
「行ってみよう」
俺たちは近付く。
「・・・」
座ってる人物に話しかける。
「あんたがこの館の主人か?」
しかし、返事が無い。
気になって肩に手をかける。
「きゃあっ!」
ミクリが驚く。
それもその筈だ。
何故なら、すでにそれは、白骨遺体になっていたからだ。
服装は豪華で貴族っぽかった。
帽子にはヒガンバナの髪飾りがついていた。
花言葉は別れ。
大食漢だったのか、服はかなり緩くなってる。
木のネクタイを身に着けてて、変わった物だと思えた。
「わたくしにも見せて」
「金子さん、何か分かったのか?」
「間違えない、主人だわ」
「なぜ言い切れる?」
「ロケットよ、家族の写真が入ってるの」
「そうだったのか」
「あぁ・・・どうしてこんな姿に」
金子さんは涙を流す。
「お父様!」
「優身?」
「どうしてこうなってしまったの!」
「ワタクシにも分からないわ」
「誰よ、誰がこんな目に!
お前か、それともお前か!?」
優身は執事やメイドにつっかかる。
「執事ではありません」
「メイドでも、無いです!」
皆は否定する。
当然だ、犯人扱いされて素直に同意する人は居ない。
「主人である、成孝様が亡くなってるのであれば、
誰が呪いを発現させてるのですか?」
「いや、犯人は分かってるよ、ミクリ」
「青菜様、それは一体」
「ここに来るまでは犯人が誰かは断定できなかった。
もしかしって疑問が拭えなかったからだ。
そのまま素直に主人が犯人である可能性を否定できなかった。
だけど、遺体となって見つかった以上、
犯人ではないと言い切れる。
となれば、彼を殺し、この館に災いをもたらした者は誰か。
"木高省吾"お前だな」
俺は睨みつける。
「大生が犯人?おいおい、待ってくれよ。
犯人かどうかなんて皆、同じだろう。
どうして断言できる、根拠はあるのか?」
「根拠はある。
まず初めに、俺とミクリが犯人である可能性は除外されれる。
屋敷に入った時点で呪いはすでに発現していた。
ということは中に犯人がすでに居たからだ」
「客人、外部犯の可能性は?」
「すでに呪いが発現してるんだ。
新たに人が入って来たとは考えにくい。
この場に居る誰かって可能性の方が高い」
「いつ、どうやって殺したんだ。
それが分からないと犯人が誰か分からないじゃないか」
「白骨死体となってるから、
死亡時間はいつ頃か断定できない。
長期間、このままだったんだ」
「それじゃ、犯人が誰か分からないじゃないか」
「けれど、明らかな異物が何かは分かる」
「異物?」
「なぁ、省吾。案内人ってなんだ?」
「それは、この屋敷に案内する人のことで」
「それで何になる。
観光名所でもないのに、なぜ案内する必要があるんだ」
「・・・」
省吾は黙る。
「答えは恐らくこうだ。
屋敷の中へ連れて行き、呪いのターゲットにするためだ。
自らに呪いを付加し、自分も被害者なのだと演技するために。
そうして加害者の枠から外れて怪しまれないようにするためだ」
「だ、大生はやってない」
「まだ認めないか」
「やってないんだから当然だろう!
どうして大生ばかり怪しむんだ、他の奴らだってやる可能性はあるじゃないか!」
「お前は怪しいんだよ、異様にな」
俺は主人からロケットを奪いとり、省吾に見せる。
「これは」
ロケットには若い頃だろうか。
写真が入っていた。
優身、金子、逃矢、毒蝮、ミヤ。
そして、成孝の6名が描かれていた。
「お前はいつ、屋敷の住人になった?」
「あぁ・・・それは、えっと」
答えに窮する省吾。
「長きの間、成孝が死んだことに気づかない。
それは家族から疎まれていたのではない。
記憶を改ざんする能力を持ってるな?」
「ぐっ」
「お前は記憶を改ざんし、案内人として雇われたと皆に信じ込ませた。
そして、中へ侵入し、主人である成孝を殺した。
まだ屋敷に留まってる理由は分からないが、
お前はそうして今日まで生き長らえた。
だが、それはもうお終いだ。
ある人の指示で俺はお前を捕らえに来た。
人間としての役割を放棄し、災いに手を出したお前を罰するために」
俺は手錠を取り出す。
「くっ、あははははははっ」
省吾は高らかに笑う。
「可笑しくなったか?」
「いや、そうだな、可笑しいさ。
もう演技はする必要は何処にも無いんだからな」
今までの何処か怯えた雰囲気と変わる。
自信に満ちて、前よりも少しだけ身体が大きく見える。
「そっちが本性か?」
「いや、まだだ・・・大生は素顔を晒してはいない」
「素顔?」
「見るがいい、これが本性だ」
省吾は上半身の服を脱ぎ捨て、その身を晒す。
彼は全身にガムテープを巻いていた。
「何してるんだ?」
「ずっと見せたかったんだ。
本当はこの格好をしたかったが、疑われるからな。
辛いが我慢していた。
けれど正体がバレたのならば隠す必要は何処にも無いからな」
「・・・」
俺は絶句する。
いや、他の人も同じ反応だ。
ただ一人、省吾だけが気持ちよさそうな顔だ。
「子供のころからそうなんだ。
身体に巻きつけてると安心するんだ。
どうしてかは分からない。
強いて言うならば、性癖だろうか」
「そんなことはどうでもいい。
お前が殺したってことでいいんだよな?」
「そうだ」
省吾は自白する。
「何故、殺した」
「誰でも良かったのさ」
「なに?」
「6人いる中で、誰かに成り代わる必要があった。
偶然、目の前に来た男を殺しただけなのさ」
「そんな理由で」
「大生にとっては大事なことだ」
「大事?」
「優身に大生は惚れた、言うなれば一目ぼれって所かな。
顔が好みでね、昔好きだった女性に似てるんだ。
それはどうでもいいことか。
話を戻そう。
女性と付き合うとなると、ハードルがある。
知り合って、心を育み、そして結ばれる。
だけど、心を育もうと考えても会話が出来なければ意味が無い。
では、どうするか。
知り合うのさ、多少強引でもね。
人間、何度も告白をすることで恋愛が成就するケースがある。
大生はしつこいと言われようとも何度も告白することを考えた。
そこで思いついたんだ。
この屋敷に閉じ込めようと。
効率的だろう?この屋敷の中から出れないのだから、
気が向いた時にデートの誘いを出来る。
けれど、余程インドアの人間でない限り、
外に出たいと思うはずだ。
それでは時間の無駄かなと思ってね。
大生の能力を使い、外に出たいと思わなくした。
後はすべきことをするだけだった。
恋愛を成就するべく、何度も何度も告白する。
けれど、それでも上手く行く保証はない。
そこで心理学の力を頼ろうと思った。
吊り橋効果ってあるだろう?
危険な目に会ってる男女は結ばれやすいと。
そこで木の化け物を出現させて、大生が力になる。
という状況を作り出そうと思った。
脚本を考え、舞台を整えた。
役者は、この屋敷の人物で完結させる予定だった。
しかし、予想外のトラブルが起きる。
そう、客人の存在だ。
どういうわけか、人に恐怖を植え付ける噂を流したが、
それでも来ようとする馬鹿な人間が居るらしいじゃないか。
森の中で殺しても良かったが、せっかくだ。
人数は多い方が盛り上がる。
大生と優身の恋を結ぶキューピットになって貰おうと思った。
だが、計算違いなことが起きる。
客人は真相に近づこうとしてきた。
大生が、この館の住人では無いことに。
殺さなくては、そう思って木の化け物に襲わせた。
だが、何度も潜り抜けた。
なら、大生が殺さなくてはならない。
傀儡では相手にならない。
直接叩く必要があると思った。
そして、この場へ呼んだ。
空気の流れが悪くなる、地下へとな!」
「呼んだだと?」
「気が付かないか?」
「これは」
部屋が甘い香りに包まれる。
「うっ・・・」
次々と人が倒れる。
「安心しろ、寝るだけだ。
最も、客人には永遠に寝てもらうだけだが」
「・・・」
俺は倒れる。
「死ね!」
「しっ!」
「ごぶっ」
省吾は倒れる。
「俺には効かない」
「あぁ・・・くそっ、痛てぇよぉ・・・」
省吾の鼻から血が流れる。
「道具による効力を無効化する能力を持ってるからな」
「ずりぃもん、持ちやがって・・・」
「ノコギリだな、それがお前の神具」
恐らく装備タイプ。
身に着けることで能力を発揮する。
やつの手から取り返せば、屋敷の外に出ることが出来るようになるだろう。
「ぐっ」
省吾は後ろに後ずさる。
「それを渡せ」
「能力を無効化するってことは、
植物共に襲わせても意味は無さそうだな。
だがよぉ、自然に出来た物なら寒けないよなぁ?」
「何!?」
俺の足元が崩れ、崩落する。
落とし穴だ。
「根っこが腐ったんだぜ!
支えが無くなった土はどうなるか、崩落して当然だよなぁ?」
「こざかしいマネを」
俺は崖に手をかける。
「こんな状況なら、手も足もでねぇなぁ」
「卑怯だぞ、身動きを封じて襲うなんて」
「知るかボケ!
殺人鬼相手に道徳を説くなんて、
仏様でも無意味だって知ってるぜ!」
省吾は足で俺の手を踏みにじる。
「ぐぅう・・・」
俺は痛みを堪える。
「能力を無効化するって言ってもよぉ、
ノコギリで切るぐらいは出来るよなぁ?」
「止めろ!」
「穴に落としてやるぜ!」
俺の手にノコギリの歯が近づく。
「これは・・・俺も痛いからあまりやりたくないんだが。
勝つためにはしょうがないよな」
「何を訳の分からないことを、死にやがれ!」
「言ったぜ、止めろってな・・・。
だが、お前が判断を見誤ったことで、
俺の勝ちが決まった」
「なに・・・?
ぎゃああああああっ!」
省吾に電流が走る。
「俺は自分自身に電気警棒を使ったぜ。
帯電してるわけだから、金属で触れれば、
感電するのは分かることだよな」
「がっ」
省吾が穴に落ちる。
そして、身体が痺れてる俺も一緒に落ちていく。
身動きが取れなかった。
「ぐっ」
勝つためとは言え、無謀過ぎたか?
「青菜様!」
「ミクリ」
「今・・・引っ張りますので!」
省吾が気絶したことで、全員の能力が解除されたのだろう。
「助かった」
「大丈夫ですか?」
「痺れは残るが命に別状はない」
俺はミクリの膝の上で横になる。
「良かったです」
ミクリは微笑んだ。
「さて、奴を回収しに行ってくれ」
「分かりました、青菜様」
ミクリが穴に落ちて向かう。
「どうだ?」
「大変です、居ません!」
「なんだと」
少し横になったことで回復したので、
俺も穴に落ちて確認に向かう。
「消えてしまいました」
「どうなってる」
「分かりません、瞬間移動したとしか」
「・・・」
トランスと同じ能力なのか?
しかし、こう何度も似たような能力の相手に出くわすものか?
「神具を複数所持していたのでしょうか」
「世界に13個しないんだろう、
偶然複数持ち合わせた奴に最初の一発で出会うものなのか?」
「でも、そうじゃないと説明がつきません」
「・・・」
本当にそうなのか?
考えろ、何かを見落としてる?
「ここにあるのは植物たちだけです、
他には何もありません」
「それだ」
「え?」
「木だ」
「木・・・ですか?」
「天井に繋がってる、奴はエレベーターのように移動したんだ」
「でも、姿が見えなかったのはどうして」
「樹洞だ」
「樹洞?」
「木の中に出来る空洞のことだ。
やつは木の中を移動したんだ、成長する木と共に」
「そんなことあり得るんですか?」
「あり得ないをあり得るにする奇跡の道具なんだろう?」
「そうですね、従私の思慮不足でした」
「行こう、奴は上だ」
俺たちは2階へと移動する。
「このまま逃げられたら、どうしましょう」
「それは無い」
「青菜様、どうして言い切れるんです?」
「奴は自分自身で言っただろう、
優身との恋愛を成就するためだと。
それならば今までの努力を無駄にしてまで放置するとは思えない。
執着心の強い奴だ、必ず戻って来る。
そして、その敵となる俺を排除するためにもな」
「そうかもしれません」
「いつでも能力を出せるよう構えておけ、ミクリ」
「分かりました」
「よう、いつまで隠れてるんだ省吾」
「・・・」
「返事はない・・・か、それならそれでいいんだぜ」
「省吾様は素直に出てくるでしょうか」
「出るさ」
「なにか策でもあるんですか?」
「あぁ、これさ」
「離して!」
「優身様!?」
ミクリは驚く。
仲間である彼女すら驚いたのだから、
省吾も驚いたに違いない。
「さぁ、彼女の命が惜しいのなら出てこい」
「青菜様、それはとても良くないことです」
「黙れミクリ、これは勝つためには仕方が無いことなんだ。
他に何か案があるのか?」
「ありませんが・・・でも・・・」
ミクリは複雑そうな顔を浮かべる。
「今は従うんだ・・・いいな?」
「仰せのままに、青菜様」
「卑怯者はどっちだよ」
省吾が出てくる。
「惚れてるってのは嘘偽り無いようだな」
「彼女を離せ」
「なら近づいてこい、省吾」
「・・・」
「・・・」
省吾は何か考え込む仕草を取る。
近付いてもいいのだろうか、悩んでるのだろう。
近付けば最後、やり合うのは確実だ。
1対2であるこの状況下で有利なのは俺の方だ。
だから省吾はうかつに近づけずに居るのだ。
「アルトラぁあああああああズ!」
「サカキ!」
俺と省吾の能力がぶつかり合う。
そして、勝利を収めたのは俺の方だ。
省吾の足元に木綿の糸が結ばれて行動が思うように行かなかったのだ。
コットン・ブルー。
綿を操る、ミクリの能力だ。
2対1のこの状況で俺の有利は覆らなかった。
「捕らえたぜ」
「くそっ」
手錠が省吾に繋がれる。
「・・・」
優身が近づいてくる。
「もう心配しなくていいぜ、敵はこうして捕まったからな」
「っっ!」
俺はビンタされる。
「痛いな」
「最低!」
優身は俺のそばを去って行く。
「青菜様、勝つためとは言え、あのようなことはもうやめてください。
命を危険に晒す行為は従私は好きではありません。
何度もやられるようであれば・・・従私は青菜様のことを信用できなくなりますから」
ミクリはとても悲しそうな顔をする。
「・・・」
信頼・・・ねぇ。
俺はもとより、誰も信用してない。
家族ですらな。
初対面であるミクリなんてもっとだ。
別に信頼される気は無い。
俺は神具を13個集めるだけだ。
役割をしてるうちに何か夢が見つかるかもしれない。
俺の夢は夢を見つけることだ。
それはまるで、恋に恋する少女のように。
そのせいで他の誰かが犠牲になろうとも興味はない。
俺は英雄になる気は無い。
「青菜様、聞いてますか?」
「聞いちゃいない」
「ぐすん」
ミクリは涙目になる。
「全員に終わったことを報告しに行くぞ」
「分かりました」
俺たちは地下へ戻る。
「もう、外に出れるぞ」
「わたくしたち出られるのね」
「やったよ、ミヤ。僕たち出られるんだ」
「嬉しいです、逃矢君!」
「執事も出られるのか」
皆、喜んでるように見える。
「ありがとう、青菜君・・・ありがとう」
皆に感謝される。
「別に礼を言われるほどじゃ」
俺は俺自身の目的のためにやったことだった。
だから礼を言われるのが意外に感じた。
「ありがとう・・・」
金子さんに握手される。
まぁ、悪い気はしないな。
「・・・」
だけど優身だけは素直に礼を言わなかった。
まぁ、当然か。
「それで、案内人・・・もとい、
こいつはどうするんだ?」
毒蝮が訪ねてくる。
「こいつは俺たちで預かる、どんな目に会うか分からないが、
まぁ、良いことではないだろうな」
「分かった」
毒蝮は納得が行ったようだ。
俺たちは屋敷の扉の前に立つ。
「だ、大丈夫かなミヤ」
「大丈夫ですよ、逃矢君」
「母さんも一緒だから安心して」
「でも」
3人は扉の前でもたついていた。
「ふん」
優身が一歩前に出る。
そして外に出る。
「優身?」
金子さんは少し驚いたようだった。
「大丈夫じゃない、怯え過ぎよ」
「あっ・・・」
逃矢が外に出る。
「逃矢君」
ミヤは心配そうだ。
「大丈夫だ、なんともない。なんともないよミヤ!」
「逃矢君・・・」
ミヤは安心したような顔を浮かべる。
「俺の仕事は終わったみたいだな」
「私様はもう2度と会いたくないわ、何処かへ行って頂戴」
「それは省吾か、それとも俺か?」
「どっちもよ」
「お前とは相性が悪かったな」
「ふん」
「じゃあな、優身」
「ええ、さようなら」
俺はこの場を後にした。
森の中に古びた扉を見つける。
俺はそれにカギを差し込む。
すると、大監獄へ続く道が開けた。
「行こうか、ミクリ」
「はい、青菜様」
俺たちは扉の奥へと入っていった。
「おや、帰って来たね」
先生が席に座って、待っていた。
タバコを吸っていたようだ。
「持ち帰って来たぜ」
俺は榊のノコギリと、省吾を引き渡す。
「うんうん、上出来だね。先生から成績を上げようじゃないか。
どぅくどぅくどぅく・・・」
「口でドラムロールかよ」
「じゃん!」
「それで、結果は?」
「Dって所かな」
先生が何処からか出したクラッカーがパンと開く。
そして紙の紐が飛び出る。
「それって、いいのか?」
「うーん、悪いかもしれないし、いいかもしれない」
「微妙だな」
「微妙だからねしょうがない。
まだまだ粗削りな部分がある、まぁ、精進することだね」
「どうやって成績を判断するんだよ、現場に居た訳でもないし」
「見てたのさ」
「見てた?」
「あぁ、ちょいと仲間の1人がそういうのが得意でね」
「勝手にみられてたのか、気分悪いな」
「あはは・・・悪いね・・・しかし、いきなりすべてを信用するってわけにもいかないだろう。
それは一番君が分かってる筈だ、違うか、生徒の青菜君?」
「まぁ」
俺も神と名乗る男たちを完全に信用してるわけじゃないしな。
いずれ、信頼するのかもしれないが今は未だ赤の他人レベルだ。
「先生、いらしてたんですね」
「あぁ・・・ミクリか」
「?」
先生はミクリと少し気まずそうだ。
「とりあえず、ほら」
俺は省吾を連れ出す。
「牢屋か、慣れてる」
俺は彼を牢屋に閉じ込める。
「ほーう、こいつが所有者の1人か」
先生が眺める。
「お前らは一体」
省吾は睨みつけるように言った。
「そうだねぇ・・・正義のヒーローって所かな?」
先生はそう答えたのだった。
しかし、どう考えても胡散臭かった。
タバコをくゆらせ、気だるそうな先生が正義のヒーローには見えないのだから。
いい加減、外に出たい。
「おはようございます、青菜様」
「何してるんだ?」
「寝起きの顔を見たくて」
俺は膝枕をされていた。
「仮面ついてるのにか?」
「見える気がするんです」
「不思議なことを言うんだな」
「そうでしょうか?」
俺は思わず苦笑する。
「もう少し、このままで」
「分かりました」
俺は2度寝する。
彼女からは晴れた匂いがする。
それがとても心地よかったのだ。
そうして時間は過ぎていく。
他の者も起きだした。
「もう・・・朝か、客人起きるんだって、
随分と甘やかされてるな」
「そうだな」
俺は目覚める。
「青菜様、8時です」
ミクリがそう言うと、くぅとお腹が鳴る。
「正確だな」
「えへへ」
ミクリは照れくさそうに笑う。
「朝食にしたい所だが、食料が無い」
省吾は悔やんだ顔をする。
「少しだけ我慢だ、今日で出るからな」
「青菜様・・・」
「外に出れたら何か美味しいモノでも食べに行こう」
「はい!」
ミクリは微笑む。
「そうは言うけれど出る算段はあるのかい?」
「金子さん・・・はい、あります。
逃矢を連れ出せば、スイッチを押すことが可能かと。
説得には金子さんが居れば」
「分かったわ、ワタクシに任せて頂戴」
「移動しよう、全員行けるか?」
「私様は嫌よ」
「あのな、お嬢様・・・そういう我儘は困るんだが」
「私様は体調を崩していたの、出かける何て無理よ」
「仕方ないわ、執事。娘の傍にいてあげて」
「畏まりました、奥様」
「あの子はああいう子だから、少し時間を置けば協力してくれるはずだから」
「貴方がそういうのなら」
俺は引き下がる。
「ふん、私様は何も悪くないわ」
優身はむつけてる様子だ。
「とりあえず行こう」
「大生はついていく」
「分かった、それじゃ行くか」
俺、省吾、金子さん、ミクリの4人で移動する。
そして、離れ小屋へと向かった。
「逃矢、居るんでしょう」
「お母さん」
「この人たちは悪い人じゃないわ、出てきて頂戴」
「でも・・・」
「逃矢君、やっぱり皆と一緒に居よう、メイドが守ってあげるから」
「別に危害を加えるつもりは無い、スイッチを押すだけでいいんだ」
「ううぅ・・・分かったよ。
でも、僕が手伝うのは怖いからじゃない、ミヤや母さんを傷つけないよう見張るためだ」
そう言うが、足が完全に震えていた。
「俺が変なことをしないように見張っててくれ」
「・・・」
逃矢はようやく暗闇の中から出て来た。
「これで揃ったな、後はスイッチを押すだけだ。
この館の主人を捕らえられる」
「ワタクシは成孝さんが罪を犯したとは思えないけれど」
「成孝さん?」
「主人の名前よ」
「あぁ・・・なるほど」
「木霊成孝。この館を建てた人であり、ワタクシの旦那様よ」
「それは悪いが俺には信じることは出来ない」
「直接会えば分かることだものね」
「そうだな」
そうして庭園を歩いて行く。
そして、屋敷内に戻ってくることが出来た。
今は廊下だ。
「・・・」
「大丈夫ですか、逃矢君・・・ミヤがついてますよ」
「大丈夫だ、怖いわけじゃない」
「俺が襲うかもって警戒してるのか?」
「疑ってるのは事実だ、でも・・・僕が気にかけてるのはそのことじゃない」
「どういう意味だ?」
俺は逃矢の言ってる意味が分からず、理由を尋ねようとした。
しかし、木の化け物が現れ、話を聞けなかった。
「げーーーっ!」
「くそっ、何度も何度もしつこいぞ!」
「青菜様、どうしますか?」
「戦うに決まってるだろう、アルトラズ!」
俺は虫かごを取り出し、シロアリを飛ばす。
「げーっ、げっ、げっ」
しかし、木の化け物は余裕だ。
今までとは違う?
「白アリ様が死んでいってます!」
「毒だ」
逃矢がぼそっと言う。
「え?」
ミヤが振り返る。
「逃げよう、母さん、ミヤ!」
逃矢は2人を強引に引っ張って何処かへ走り出す。
「おい、危ないぞ!」
俺は追いかけようと思ったが木の化け物が立ちふさがる。
「分断されてしまいました、どうしますか、青菜様」
「ミクリ、木綿の壁を出してくれ」
「分かりました、コットン・ブルー!」
もこもこと巨大な木綿が出現して廊下一帯を覆う。
「行くぞ、省吾」
「あ・・・あぁ・・・」
俺たち3人は逃げ出す。
「くそっ、面倒な木だ」
「マンチニール」
省吾が何かを言った。
「なに?」
「近づくものを殺す、死神が植えたリンゴの木」
「俺の力じゃ遠距離は無理だ」
俺のアルトラズは近距離~中距離の技だ。
遠距離を攻撃するのは難しい。
「そうか・・・」
「だが、別に無理して倒す必要はない。
何処かでやり過ごして、再会を目指そう」
「それしかないのか?」
「あぁ」
「そうか」
省吾は考える仕草をする。
「寝室に行こう、そこで執事と優身が待機してる筈だ」
「分かった」
俺たち3人はそこへ移動する。
「青菜様、大変です」
「どうした、ミクリ」
「誰も居ません」
「なに?」
俺も確認のために部屋には居るが、誰も居なかった。
「どういうことでしょうか」
「まさか、大生たちが居ない間に化け物に襲われたとか」
「いや、それは考えにくい。
部屋が荒らされてない。自ら出て行ったと感じるのが自然だ」
「名推理です、青菜様」
「いや、そこまで褒めることじゃないが・・・」
でも、小さいことでも褒められると悪い気はしない。
「それじゃ、何処に行くんだ客人?」
「図書館だ、本を読んでいた筈。退屈しのぎ目当てだろう」
「他に思いつかないし、大生はそこでいいぜ」
「従私も同意見です」
「皆で向かおう」
俺たちは図書館へ移動する。
「誰も居ませんね」
ミクリがキョロキョロと辺りを見渡す。
「可笑しいな、ここだと思ったが」
他に何か関心があるのは何処だろうか。
バックを気にしていたから、ファッションに興味があるかもしれない。
クローゼットルームが怪しいか?
俺は考える。
「間違えない、この部屋だぜ」
「なぜ、言い切れるんだ省吾」
「だ、案内人としての勘ってやつさ」
「まぁ、一番優身のことを心配していたのは省吾だもんな」
「あぁ・・・」
省吾が目を逸らす。
なにか引け目でもあるみたいだ。
ちゃんと見ておかなかったから、迷子にさせてしまったと思ってるのかもしれない。
それで罪悪感が芽生えたのかも。
俺はそう考えた。
「青菜様、これを」
ミクリが何かを見つける。
読みかけた本だ。
「この部屋に来てたのは間違え無さそうだ。
なにか手がかりがあるかもしれない、省吾も気にしてるし、
探してみよう」
「分かった」
「分かりました」
俺たちは本を探す。
「少し、疲れて来たな」
本が多く、ずっと見てると文字で酔いそうだ。
ただでさえ内容を理解できないのに、困ってしまう。
「青菜様、これを」
「なんだこれ」
「エッチな本です」
「なんで持ってくるんだよ!」
びたーんと地面に投げ捨てる。
「勿体ない!」
ミクリが慌てて拾う。
「なんで持ってくるんだ?」
「あの、疲れてるかと思って。
これで元気出るかなって」
「今じゃ無いだろ!」
「ごめんなさい」
ミクリがしゅんとする。
「全く」
俺はため息をする。
手がかりじゃなくて、手コキの間違えだ。
「これなんてどうだ?」
「どれどれ」
文字は読めないが、男性同士が絡んでる所から変な本だというのは理解できた。
「・・・」
省吾はサムズアップする。
「内容の問題じゃねぇ!」
俺は地面に本を投げ捨てる。
「違うのか」
「エロ本を探せって言ってるんじゃねぇ、
手がかりを探せって言ってるんだ!」
「難しいな」
省吾は手がかりを探しに戻る。
「俺は難しいことを言ってるのか?」
俺は頭を抱える。
「青菜様、見てください」
「なんだ?」
「料理本です、とっても美味しそうです。
今度機会があれば作ってさしあげたいのですが、
どんな味が好みですか?」
「それは嬉しいが、今じゃない」
「お腹が空いてませんでしたか」
「そういう意味じゃないんだが・・・とにかく別の本を探してきてくれ」
「分かりました」
ミクリは本を探しに行く。
「なぁ、客人なんだか奇妙なものを見つけたんだが」
「分かった、すぐ行く」
俺は省吾に言われてある場所へと近づく。
「ここは図書館だ、本があるのは自然だが、
絵が飾ってあるのは変だと思ってな」
「これは・・・」
俺は見覚えがあった。
「知ってるのか?」
「あぁ・・・俺の居た世界ではモナリザと呼ばれた」
「へぇ、モナリザ・・・ね」
「だが、妙だ」
「妙?」
「この絵は微笑のハズなんだ」
「微笑?泣いてるように見えるが」
「そうなんだ・・・だから不思議で」
モナリザは泣いていた。
子を見るような温かい笑みの絵だった記憶がある。
しかし、これはどう見ても泣いてる。
明らかに偽物だ。
「泣く・・・なく・・・失くした?」
「そうか、物が無いから泣いてるのか」
「なんだ・・・何が足りない?」
俺は頭を捻る。
湖、小道、橋、赤い地面、全体的に薄暗い色。
こっちを見てる気がする表情。
黒い服。
「なんだか寂しい絵ですね」
ミクリが隣でぼそっと呟いた。
「何て言った?」
「え、あの・・・寂しいなと」
「それだ、何で寂しいと感じる?」
「どうしてでしょう?」
ミクリは感覚的に答え、本質に近い気がした。
「生命を感じないからか」
「俺も同じだ」
「どういうことでしょう?」
「植物が無いんだ、もしかしたら海かもしれないが、近場に水場があるのに、
植物が生い茂ってないから寂しい印象を与える作品になってるんだと俺は思う」
「それでは、この女性は環境が悪くなってることに憂いを感じた。
ということでしょうか、青菜様?」
「あぁ」
「それは分かったが、大生からしたら・・・で?って感じだ。
その推理は面白いかもしれないが、問題は優身を探すことのハズだ。
ゲームは終わった、捜索に戻る」
「いや、まだ終わってない」
「なに?」
「モナリザは泣いては居るが、目線は何処にある?」
「あっ」
ミクリは気づいたようだ。
「描いた人物が居るはずだ」
「だから、捜索と何の関係が」
「まだ分からないのか、これは謎解きなんだよ・・・館の主人のな」
「どういうことだ」
「俺は誰かに謎を解くように要求されてるように感じた。
それがいまいち誰かは分からなかったが、ようやく理解した。
主人は謎解きが好きで、館のあちこちに仕掛けを用意したんだ」
「そんなバカな」
「自分の所に行くためにスイッチを用意してるなんて随分と手間じゃないか?」
「それは、そうだが」
「隠したいのなら、目立つところにスイッチなんて置く必要が無い。
むしろ、隠すように置くべきだ。でも、わざわざ目立つところに置く辺り、
主人はそういうのが好きで、周りを巻き込んでこういうことをしたい人なんだろう」
「そんなこと」
「ありえないって言いたいのか?」
「・・・」
省吾は黙る。
「モナリザの秘密を解けば、主人の性格が見えてくる気がする。
そうすれば、省吾が探したいと願う、優身の所へ行けると思ってる」
「違うかもしれないぞ」
「別に罰ゲームがあるわけじゃない、館の外に出ようとすれば植物が生えるが、
外に出ようとしなければ基本的に無害だ。なら時間をかけて正解への道へと進めばいい」
「分かったよ、好きにすればいいさ」
「そうするよ、そして話を戻すが、モナリザはポーズをとってる。
これは誰かに向けてのものだ、なら、それは誰か?」
俺は本棚に向かう。
モナリザの模造品が見た先には、ある1冊の本があった。
それは脱出ゲームの作り方と書いてあった。
「家族に向けて、ということですね、青菜様」
「家族と一緒にやりたかったんだろう」
脱出ゲームと書かれた本を取ると、物音がする。
そして、地下への道が開かれる。
「この先に、優身が・・・っ!」
省吾が走り出す。
「待て、危険かもしれないぞ!」
「追いかけますか、青菜様?」
「当たり前だ、行くぞ!」
「はい」
俺たちは地下へと向かっていった。
道が石畳で出来ており、ろうそくの明かりがかろうじてある。
どうやら一本道のようだ。
迷う心配は無さそう。
「おい、待てよ!」
俺は省吾を引き留める。
「・・・」
しかし、すでに先へ行っており、声が届きそうにない。
「優身様のことを心配してるんですね」
「木の化け物が居るからな、不安な気持ちが分からなくもない」
「そうですね」
「俺たちも急ごう」
「はい」
俺たちは走り出す。
そして、最奥へとたどり着く。
扉は開いており、省吾が立ち尽くしていた。
「おい、省吾どうしたんだ。
中へ何故入らない?」
「中を・・・見てくれ・・・」
「一体何が」
俺は最悪の想像をする。
無残に切り裂かれたバラバラの死体を。
まさか、とは思うが、絶対に無いと言い切れるか?
こんな怪しい地下で犯罪が行われない筈がないのでは?
なんて悪い方へ考えてしまう。
だが、とにかく今は直接その目で確認しよう。
何が起きてるのかを。
「許して・・・許してよ・・・お姉ちゃん」
「そんなことを言ってもダメ・・・これはお仕置きなんだから」
「あぁ・・・ごめんなさい逃矢君」
手錠で繋がれてるメイド。
そして、三角木馬に上半身裸で拘束されてる逃矢。
アイマスクもされて顔の表情が分からない。
さらに、恍惚の表情を浮かべる優身がそこに居た。
「何やってるんだ!」
俺が怒鳴り声をあげると、冷めたような顔で優身が見てくる。
「あーあ・・ばれちゃった」
「外せ、それを」
「嫌よ、私様に命令しないで」
「なら俺が外す」
俺は逃矢に近づき、手錠を外す。
アルトラズの主となった俺にとって錠は意味を無さない。
それは囚人を拘束するための道具であって、看守長を拘束する道具では無いのだから。
「青菜様、こちらも外しました」
メイドのミヤの拘束も外れる。
「省吾が心配したからついてきたが、何だこれは?」
「見れば分かるじゃない、お楽しみよ」
「2人が嫌がってるようにしか見えないが?」
メイドは逃矢のことを抱きしめ労わってるように見える。
「姉として罰を与えたのよ」
「罰?」
「人間、年上には敬意を表すべきよ。
それなのに、彼らと来たら敬意を表さない。
なら、分からせてやる必要があるじゃない?」
「人間、尊敬されるようなことをすれば自然と尊敬される。
お前のそれは恐怖で従わせてるに過ぎない」
「黙りなさい、家の事情に口を挟まないで」
「家に関係する人なら問題ないわよね」
「金子さん?」
いつの間にか後ろに居たようだ。
「お母さま、その・・・これは」
「逃矢が可哀そうでしょう!」
金子さんは怒る。
「何よ、弟ばっかり!」
そのことに優身が反抗する。
「優身?」
「お母さまはいつもそうだ、ケーキの分け方だってそう。
私様にはイチゴを乗せないの、弟には乗せるのに。
ショートケーキは酸味と甘さが合わさるのが美味しいのに。
だからショートケーキって嫌いよ。
見るのも嫌。でも、毎回買うの。
弟が喜ぶから。もう、うんざり。
私様のケーキはいつも寂しいの。
だって、間のイチゴしか食べられないから。
大きな一粒は皆、弟のケーキに乗せられるの。
お姉ちゃんだから我慢しなさいってね。
何それ、意味わからないわ。
損するのはいつも私様・・・世の中って不公平だわ。
人間、イチゴを乗せてもらう可愛い人間か、
そうじゃない2種類の人間に分けられるの。
だから私様は可愛い・・・男どもは私様に貢ぐべきなのよ。
だって、お母さまがそうしないんだもの。
代わりの誰かがやってくれるべきじゃない?」
「優身!」
金子さんは優身の頬にビンタする。
「お母さま?」
「貴方のしたことはとても悪いことなの。
頬の痛みを感じてる間、反省しなさい」
「うわぁあああああ・・・」
優身は泣き出した。
「ごめんなさい、身内の恥を晒したみたいで」
「あぁ・・・いや」
俺は何て言っていいか分からず、濁す感じしか出来なかった。
「あの・・・1つ良いですか、青菜様」
「どうした」
「そういえば、誰か1人足りないような」
「言われてみれば・・・あっ執事!」
俺は叫ぶ。
「毒蝮は何処へ?」
金子さんも知らないようだ。
「優身は・・・」
「あああああっ」
「泣いてるし、聞くのは難しいか。
逃矢は?」
「お母さんの部屋に行くって言ってたような」
「もしかして」
「金子さん、何か心当たりが?」
「えぇ、ついて来てもらってもいいかしら」
「分かりました」
俺たちは移動する。
その先は女主人の部屋だった。
「奥様・・・」
執事が金庫を開けて中の金銭を盗んでる最中だった。
「どうして、貴方がそんな」
「全部、あんたが悪いんだぜ金子さんよぉ!」
「わたくしが?」
「働いても働いても給料は上がらない一方。
これだけ尽くしてるのにも関わらずだ。
慈善事業で奉仕活動をしてるとでも思ってるのか?」
「そんなこと思ってないわ」
「白々しい、これが証拠だぜ」
執事は金庫を指さす。
「証拠?わたくしには分からないわ」
「まだしらを切るか、ならいい。
執事の方から口にするぜ、あんたはため込んでいたんだ。
財産をな、メイドや、庭師、他のシェフだったり、
他のスタッフが働いて得た筈の給料をあんたは少しづつかすめ取ってため込んだ。
そうだろう!」
「どうして盗んだりなんか」
「これは泥棒じゃない、本来貰うはずの給料。
言わば、ボーナスなのさ、正当な権利なんだよ!」
「ダメよ」
「強欲ババアめ!」
執事はナイフを取り出す。
「きゃあっ」
金子さんは悲鳴を上げる。
「死ね!」
「アルトラズ!」
俺は手錠を取り出して拘束する。
「がっ」
執事は身動きが取れなくなる。
俺は彼の上に跨る。
「ありがとう・・・助けられたわ」
「面倒かけやがって」
「なんでこんな女を庇う?」
「まだ分からないだろう」
「なに?」
「ねぇ、毒蝮。聞いて」
「何を今さら・・・言い訳は聞きたくない」
「言い訳なんかじゃないの、とても大事なことなのよ」
「・・・」
「給料を貯め込んでいたのは、貴方たちを守りたかったからなの?」
「貯めこむのに、守りたいだって。
可笑しいだろう、そんなの。社長ってのは、
資金がある分だけ、給料に分配するべきだ。
それが社長ってもんだろう!」
「人間、いつ何があるか分からないわ。
だから貯めとけるうちに、貯めておくの。
そして、赤字になった時にでも給料を払えるように」
「そんな出鱈目、信じるか!」
「嘘じゃないわ、貴方が盗んだものの中に証拠があるわ」
「なに?」
「開けるぞ」
「あっ、止めろ。それは執事のボーナスだ!」
毒蝮の袋の中を開けてみる。
すると、その中には札束とは別に、給料袋があった。
「封筒を開けて、中を見て見て」
「分かった」
俺は封筒を開ける。
「し、執事にも見せろ!」
俺は言われるがまま見せてやる。
「これは、給料明細だ。
従業員分の」
「わたくしが居れる隙なんて無かったでしょう。
それなのに、どうして入ってたんだと思う?」
「それは・・・ずっと前から入れていたから」
執事の声が小さくなっていく。
「貴方たちのことを考えていたの。
独り占めしようなんて思ってなかったわ」
「うぁ・・・」
執事はとんでもない勘違いをしてしまったと落ち込む。
「天使に引き渡してやる」
俺は執事に言い放つ。
「青菜君、いいの」
「金子さん?」
「ワタクシもこうして生きてるし、彼の眼には反省の色が見えるわ。
許してあげようって思うのだけれど」
「随分と甘いんじゃないのか?」
「いいじゃない」
「被害者はあんただ、あんたが良いって言うなら俺はこれ以上は言わない」
「ありがとう」
「礼を言われるほどのことじゃない」
俺は執事を開放する。
「ごめんなさい、奥様・・・これからは誠心誠意尽くしていく所存です」
片膝をついて執事は頭を下げる。
「さぁ、ワタクシが居るから、もう安心よ。
皆を連れて主人の所へ向かいましょう。
スイッチを押させるわ」
「心強いな」
「行きましょう、青菜様・・・いよいよ決着ですね」
「分かってる」
俺は玄関ホールへと戻って行った。
「ねぇ、青菜君」
「なんです、金子さん?」
「もしも・・・主人が悪事を働いてると分かればどうするの?」
「捕まえますよ」
「そう・・・分かったわ」
「見逃して欲しいと言うのかと」
「言わないわ、悪いことをした主人が悪いんだもの。
でも、ワタクシ自信は主人が悪事と働いたとは微塵も思わないけどね」
「そうですか」
「それじゃ、スイッチを押しましょう。
皆、準備はいいかしら?」
「「「はい」」」
全員が一斉に返事する。
「それじゃ、3カウントで押す。
3・・・2・・・1・・・0!」
0のタイミングで押す。
「あの、青菜様・・・従私は1で押しちゃったんですが」
「何ぃ!?」
「ご、ごめんなさーいっ」
少しタイミングがずれてしまった。
しかし、扉は普通に開く。
「メイドはひやひやしました。失敗なのではと」
ミヤが歩を進める。
「失敗だ、近づくな!」
俺は叫ぶ。
「え・・・でも・・・」
「扉は開いた、でも罠があったんだ!」
「僕の元に戻ってくれ、ミヤ!」
「きゃあああっ」
ミヤは植物の触手に捕まる。
そのまま引きずられる。
「携帯捕縄(けいたいほじょう)!」
俺は縄をミヤに絡ませる。
だけど、引っ張る力が妙に強かった。
「青菜様、手伝います」
ミクリが後ろにやってくる。
「他の人も手伝ってくれ!」
俺は叫ぶ。
その声に合わせて、他の人たちも協力してくれる。
「大生も行くぞ!」
「執事も協力する」
「ぼ、僕も」
「ワタクシも」
「私様は関係ないわ・・・嘘、手伝うわ!」
金子さんが居るからか、優身も渋々手伝う。
「綱引きだ!」
6人で一斉に引っ張る。
「痛っ」
助けるためとは言え、手に縄を巻いたのだ。
うっ血し始める。
手の色が少し青っぽくなる。
血液の流れが上手く行ってないのだろう。
「悪いが、我慢してくれ!」
俺は他に方法が思いつかず、縄を引っ張る。
「向こうは一体のハズなのに、
力を合わせてる僕らがどうして引っ張られるんだ!?」
「恐らく根を張ってるからだ。
土の重さが上乗せされてるんだと思う」
「どうすんだよ、このままじゃミヤは襲われる。
大生はそんな結果は望まないぞ」
「アルトラズ!」
俺は植物の化け物を一体、近づける。
「敵を増やしてどうするんだよぉぉおおおお!」
省吾が叫ぶ。
「こいつが役に立つんだ!」
「なんだ、地面が・・・」
「げーーっ」
木の化け物は体制を崩す。
そして、先ほど引っ張った奴も共に倒れる。
「今だ、引っ張れ!」
ミヤがこちらに戻って来る。
「お帰り、ミヤ」
「逃矢君」
2人は抱き合う。
「大生には不思議だ、何故助かったのか」
「菜の花には土に粘り気を与える効果がある。
それによって根っこが安定しなくなったのさ」
「なるほど」
省吾は納得したようだ。
「ミヤを救出すれば後は大したことない。
電気警棒!」
俺は木の化け物を焼き殺す。
「げーっ・・・」
「他にも敵が出ないとは限らない。
早く入ろう」
皆して、主人の部屋へと入って行った。
「ここが終着点ですか、青菜様?」
部屋には誰も居なかった。
テーブル、本棚、社長椅子。
窓からは中庭が見えた。
「俺はそうだと思うが」
「間違いないわ、主人の部屋よ」
「金子さんが言うのなら間違えないだろう」
「でも、誰も居ませんよ青菜様?」
「図書館でのことを思い出してる」
「隠し部屋があると?」
「あぁ」
「探してみましょう、ワタクシたちで」
俺たちは探してみることにした。
「中々、見つかりませんね青菜様」
「そうだな」
「分かりやすい位置にあれば楽なんですが」
「それじゃ隠し部屋の意味が無いだろう」
「ですね」
苦笑するミクリだった。
「ん?」
なにか引っ掛かる。
「どうしました?」
「床に何か・・・」
俺はカーペットを剥がす。
「あっ」
「地下扉だ・・・しかし番号が4桁必要みたいだ」
「適当にやればいつかは開きますかね?」
「いつかは開くだろうが・・・いつになるやら」
「ヒントが書いてありますよ、青菜様」
「なに?」
よく見ると、何か金属版に彫ってある。
家族の誕生日と書いてある。
「ワタクシの試してみるわ」
0、9、1、0。
しかし開かない。
「ぼ、僕のはどうだろう」
0、3、2、0。
これでも開きそうにない。
「優身、ワタクシのために開けて頂戴」
「はいはい、分かりました分かりました・・・なんで私様がこんなことを」
0、4、2、0。
やっぱり開きそうにない。
「もしかして、ワタクシの主人のかしら?」
0、5、0、6。
やはり、ダメだった。
「押し間違えか?」
「いいえ、ワタクシ。そんなミスはしないわ」
「・・・」
何故だ?
俺は悩む。
ヒントは家族の誕生日ではないのか?
「青菜様、汗を拭きましょうか?」
「手術中じゃないんだから」
「難しい顔をしてらしたので」
「気遣いは感謝するよ」
「はい」
ミクリは笑みを向ける。
「足してみたら・・・どうだろうか」
「ワタクシ、やってみるわ」
金子さんが入力していく。
2、1、5、6。
ガチャと開いたような音がする。
「エクスクラメーション!」
俺は喜ぶ。
扉は開き、奥へと続く。
「地下です、反対の高い所と比べて逃げ道が限りなく少ないです。
とても危険だとは思いますが、進みますか、青菜様?」
「あぁ・・・そうじゃないと帰れないからな」
「分かりました、従私はついて行くまでです」
ミクリはカーテシーを行った。
「大生もついて行くよ」
彼らも同行してくれるようだった。
「ワタクシも行くわ、主人が気になるもの」
「ぼ、僕も・・・ミヤが一緒だから勇気が少しだけ湧いて来るんだ」
「逃矢君・・・ミヤもついて行きます」
「執事もお供します、奥様が心配ですので」
「私様は行かないわ」
「危険だからな、待ってくれてていい」
俺はそう告げて、先へと進む。
残りの人たちも黙ってついて来てくれた。
そして、優身がだけが残る。
「おーい・・・本当に置いてくことないじゃない。
分かったわよ、行けばいいんでしょ、行けば!
素直に私様を必要と言ってくれればいいのに。
気が利かない連中なんだから」
プンプンしながら、優身がついて来るのだった。
そこは異様な空間だった。
地下にも関らず、花が色とりどりに咲いていたのだ。
「なんだここ」
遠くにはガゼボが見える。
石畳が道を作っており、これを頼りに行け。
ということだろうか。
「人影が見えますよ、青菜様」
「行ってみよう」
俺たちは近付く。
「・・・」
座ってる人物に話しかける。
「あんたがこの館の主人か?」
しかし、返事が無い。
気になって肩に手をかける。
「きゃあっ!」
ミクリが驚く。
それもその筈だ。
何故なら、すでにそれは、白骨遺体になっていたからだ。
服装は豪華で貴族っぽかった。
帽子にはヒガンバナの髪飾りがついていた。
花言葉は別れ。
大食漢だったのか、服はかなり緩くなってる。
木のネクタイを身に着けてて、変わった物だと思えた。
「わたくしにも見せて」
「金子さん、何か分かったのか?」
「間違えない、主人だわ」
「なぜ言い切れる?」
「ロケットよ、家族の写真が入ってるの」
「そうだったのか」
「あぁ・・・どうしてこんな姿に」
金子さんは涙を流す。
「お父様!」
「優身?」
「どうしてこうなってしまったの!」
「ワタクシにも分からないわ」
「誰よ、誰がこんな目に!
お前か、それともお前か!?」
優身は執事やメイドにつっかかる。
「執事ではありません」
「メイドでも、無いです!」
皆は否定する。
当然だ、犯人扱いされて素直に同意する人は居ない。
「主人である、成孝様が亡くなってるのであれば、
誰が呪いを発現させてるのですか?」
「いや、犯人は分かってるよ、ミクリ」
「青菜様、それは一体」
「ここに来るまでは犯人が誰かは断定できなかった。
もしかしって疑問が拭えなかったからだ。
そのまま素直に主人が犯人である可能性を否定できなかった。
だけど、遺体となって見つかった以上、
犯人ではないと言い切れる。
となれば、彼を殺し、この館に災いをもたらした者は誰か。
"木高省吾"お前だな」
俺は睨みつける。
「大生が犯人?おいおい、待ってくれよ。
犯人かどうかなんて皆、同じだろう。
どうして断言できる、根拠はあるのか?」
「根拠はある。
まず初めに、俺とミクリが犯人である可能性は除外されれる。
屋敷に入った時点で呪いはすでに発現していた。
ということは中に犯人がすでに居たからだ」
「客人、外部犯の可能性は?」
「すでに呪いが発現してるんだ。
新たに人が入って来たとは考えにくい。
この場に居る誰かって可能性の方が高い」
「いつ、どうやって殺したんだ。
それが分からないと犯人が誰か分からないじゃないか」
「白骨死体となってるから、
死亡時間はいつ頃か断定できない。
長期間、このままだったんだ」
「それじゃ、犯人が誰か分からないじゃないか」
「けれど、明らかな異物が何かは分かる」
「異物?」
「なぁ、省吾。案内人ってなんだ?」
「それは、この屋敷に案内する人のことで」
「それで何になる。
観光名所でもないのに、なぜ案内する必要があるんだ」
「・・・」
省吾は黙る。
「答えは恐らくこうだ。
屋敷の中へ連れて行き、呪いのターゲットにするためだ。
自らに呪いを付加し、自分も被害者なのだと演技するために。
そうして加害者の枠から外れて怪しまれないようにするためだ」
「だ、大生はやってない」
「まだ認めないか」
「やってないんだから当然だろう!
どうして大生ばかり怪しむんだ、他の奴らだってやる可能性はあるじゃないか!」
「お前は怪しいんだよ、異様にな」
俺は主人からロケットを奪いとり、省吾に見せる。
「これは」
ロケットには若い頃だろうか。
写真が入っていた。
優身、金子、逃矢、毒蝮、ミヤ。
そして、成孝の6名が描かれていた。
「お前はいつ、屋敷の住人になった?」
「あぁ・・・それは、えっと」
答えに窮する省吾。
「長きの間、成孝が死んだことに気づかない。
それは家族から疎まれていたのではない。
記憶を改ざんする能力を持ってるな?」
「ぐっ」
「お前は記憶を改ざんし、案内人として雇われたと皆に信じ込ませた。
そして、中へ侵入し、主人である成孝を殺した。
まだ屋敷に留まってる理由は分からないが、
お前はそうして今日まで生き長らえた。
だが、それはもうお終いだ。
ある人の指示で俺はお前を捕らえに来た。
人間としての役割を放棄し、災いに手を出したお前を罰するために」
俺は手錠を取り出す。
「くっ、あははははははっ」
省吾は高らかに笑う。
「可笑しくなったか?」
「いや、そうだな、可笑しいさ。
もう演技はする必要は何処にも無いんだからな」
今までの何処か怯えた雰囲気と変わる。
自信に満ちて、前よりも少しだけ身体が大きく見える。
「そっちが本性か?」
「いや、まだだ・・・大生は素顔を晒してはいない」
「素顔?」
「見るがいい、これが本性だ」
省吾は上半身の服を脱ぎ捨て、その身を晒す。
彼は全身にガムテープを巻いていた。
「何してるんだ?」
「ずっと見せたかったんだ。
本当はこの格好をしたかったが、疑われるからな。
辛いが我慢していた。
けれど正体がバレたのならば隠す必要は何処にも無いからな」
「・・・」
俺は絶句する。
いや、他の人も同じ反応だ。
ただ一人、省吾だけが気持ちよさそうな顔だ。
「子供のころからそうなんだ。
身体に巻きつけてると安心するんだ。
どうしてかは分からない。
強いて言うならば、性癖だろうか」
「そんなことはどうでもいい。
お前が殺したってことでいいんだよな?」
「そうだ」
省吾は自白する。
「何故、殺した」
「誰でも良かったのさ」
「なに?」
「6人いる中で、誰かに成り代わる必要があった。
偶然、目の前に来た男を殺しただけなのさ」
「そんな理由で」
「大生にとっては大事なことだ」
「大事?」
「優身に大生は惚れた、言うなれば一目ぼれって所かな。
顔が好みでね、昔好きだった女性に似てるんだ。
それはどうでもいいことか。
話を戻そう。
女性と付き合うとなると、ハードルがある。
知り合って、心を育み、そして結ばれる。
だけど、心を育もうと考えても会話が出来なければ意味が無い。
では、どうするか。
知り合うのさ、多少強引でもね。
人間、何度も告白をすることで恋愛が成就するケースがある。
大生はしつこいと言われようとも何度も告白することを考えた。
そこで思いついたんだ。
この屋敷に閉じ込めようと。
効率的だろう?この屋敷の中から出れないのだから、
気が向いた時にデートの誘いを出来る。
けれど、余程インドアの人間でない限り、
外に出たいと思うはずだ。
それでは時間の無駄かなと思ってね。
大生の能力を使い、外に出たいと思わなくした。
後はすべきことをするだけだった。
恋愛を成就するべく、何度も何度も告白する。
けれど、それでも上手く行く保証はない。
そこで心理学の力を頼ろうと思った。
吊り橋効果ってあるだろう?
危険な目に会ってる男女は結ばれやすいと。
そこで木の化け物を出現させて、大生が力になる。
という状況を作り出そうと思った。
脚本を考え、舞台を整えた。
役者は、この屋敷の人物で完結させる予定だった。
しかし、予想外のトラブルが起きる。
そう、客人の存在だ。
どういうわけか、人に恐怖を植え付ける噂を流したが、
それでも来ようとする馬鹿な人間が居るらしいじゃないか。
森の中で殺しても良かったが、せっかくだ。
人数は多い方が盛り上がる。
大生と優身の恋を結ぶキューピットになって貰おうと思った。
だが、計算違いなことが起きる。
客人は真相に近づこうとしてきた。
大生が、この館の住人では無いことに。
殺さなくては、そう思って木の化け物に襲わせた。
だが、何度も潜り抜けた。
なら、大生が殺さなくてはならない。
傀儡では相手にならない。
直接叩く必要があると思った。
そして、この場へ呼んだ。
空気の流れが悪くなる、地下へとな!」
「呼んだだと?」
「気が付かないか?」
「これは」
部屋が甘い香りに包まれる。
「うっ・・・」
次々と人が倒れる。
「安心しろ、寝るだけだ。
最も、客人には永遠に寝てもらうだけだが」
「・・・」
俺は倒れる。
「死ね!」
「しっ!」
「ごぶっ」
省吾は倒れる。
「俺には効かない」
「あぁ・・・くそっ、痛てぇよぉ・・・」
省吾の鼻から血が流れる。
「道具による効力を無効化する能力を持ってるからな」
「ずりぃもん、持ちやがって・・・」
「ノコギリだな、それがお前の神具」
恐らく装備タイプ。
身に着けることで能力を発揮する。
やつの手から取り返せば、屋敷の外に出ることが出来るようになるだろう。
「ぐっ」
省吾は後ろに後ずさる。
「それを渡せ」
「能力を無効化するってことは、
植物共に襲わせても意味は無さそうだな。
だがよぉ、自然に出来た物なら寒けないよなぁ?」
「何!?」
俺の足元が崩れ、崩落する。
落とし穴だ。
「根っこが腐ったんだぜ!
支えが無くなった土はどうなるか、崩落して当然だよなぁ?」
「こざかしいマネを」
俺は崖に手をかける。
「こんな状況なら、手も足もでねぇなぁ」
「卑怯だぞ、身動きを封じて襲うなんて」
「知るかボケ!
殺人鬼相手に道徳を説くなんて、
仏様でも無意味だって知ってるぜ!」
省吾は足で俺の手を踏みにじる。
「ぐぅう・・・」
俺は痛みを堪える。
「能力を無効化するって言ってもよぉ、
ノコギリで切るぐらいは出来るよなぁ?」
「止めろ!」
「穴に落としてやるぜ!」
俺の手にノコギリの歯が近づく。
「これは・・・俺も痛いからあまりやりたくないんだが。
勝つためにはしょうがないよな」
「何を訳の分からないことを、死にやがれ!」
「言ったぜ、止めろってな・・・。
だが、お前が判断を見誤ったことで、
俺の勝ちが決まった」
「なに・・・?
ぎゃああああああっ!」
省吾に電流が走る。
「俺は自分自身に電気警棒を使ったぜ。
帯電してるわけだから、金属で触れれば、
感電するのは分かることだよな」
「がっ」
省吾が穴に落ちる。
そして、身体が痺れてる俺も一緒に落ちていく。
身動きが取れなかった。
「ぐっ」
勝つためとは言え、無謀過ぎたか?
「青菜様!」
「ミクリ」
「今・・・引っ張りますので!」
省吾が気絶したことで、全員の能力が解除されたのだろう。
「助かった」
「大丈夫ですか?」
「痺れは残るが命に別状はない」
俺はミクリの膝の上で横になる。
「良かったです」
ミクリは微笑んだ。
「さて、奴を回収しに行ってくれ」
「分かりました、青菜様」
ミクリが穴に落ちて向かう。
「どうだ?」
「大変です、居ません!」
「なんだと」
少し横になったことで回復したので、
俺も穴に落ちて確認に向かう。
「消えてしまいました」
「どうなってる」
「分かりません、瞬間移動したとしか」
「・・・」
トランスと同じ能力なのか?
しかし、こう何度も似たような能力の相手に出くわすものか?
「神具を複数所持していたのでしょうか」
「世界に13個しないんだろう、
偶然複数持ち合わせた奴に最初の一発で出会うものなのか?」
「でも、そうじゃないと説明がつきません」
「・・・」
本当にそうなのか?
考えろ、何かを見落としてる?
「ここにあるのは植物たちだけです、
他には何もありません」
「それだ」
「え?」
「木だ」
「木・・・ですか?」
「天井に繋がってる、奴はエレベーターのように移動したんだ」
「でも、姿が見えなかったのはどうして」
「樹洞だ」
「樹洞?」
「木の中に出来る空洞のことだ。
やつは木の中を移動したんだ、成長する木と共に」
「そんなことあり得るんですか?」
「あり得ないをあり得るにする奇跡の道具なんだろう?」
「そうですね、従私の思慮不足でした」
「行こう、奴は上だ」
俺たちは2階へと移動する。
「このまま逃げられたら、どうしましょう」
「それは無い」
「青菜様、どうして言い切れるんです?」
「奴は自分自身で言っただろう、
優身との恋愛を成就するためだと。
それならば今までの努力を無駄にしてまで放置するとは思えない。
執着心の強い奴だ、必ず戻って来る。
そして、その敵となる俺を排除するためにもな」
「そうかもしれません」
「いつでも能力を出せるよう構えておけ、ミクリ」
「分かりました」
「よう、いつまで隠れてるんだ省吾」
「・・・」
「返事はない・・・か、それならそれでいいんだぜ」
「省吾様は素直に出てくるでしょうか」
「出るさ」
「なにか策でもあるんですか?」
「あぁ、これさ」
「離して!」
「優身様!?」
ミクリは驚く。
仲間である彼女すら驚いたのだから、
省吾も驚いたに違いない。
「さぁ、彼女の命が惜しいのなら出てこい」
「青菜様、それはとても良くないことです」
「黙れミクリ、これは勝つためには仕方が無いことなんだ。
他に何か案があるのか?」
「ありませんが・・・でも・・・」
ミクリは複雑そうな顔を浮かべる。
「今は従うんだ・・・いいな?」
「仰せのままに、青菜様」
「卑怯者はどっちだよ」
省吾が出てくる。
「惚れてるってのは嘘偽り無いようだな」
「彼女を離せ」
「なら近づいてこい、省吾」
「・・・」
「・・・」
省吾は何か考え込む仕草を取る。
近付いてもいいのだろうか、悩んでるのだろう。
近付けば最後、やり合うのは確実だ。
1対2であるこの状況下で有利なのは俺の方だ。
だから省吾はうかつに近づけずに居るのだ。
「アルトラぁあああああああズ!」
「サカキ!」
俺と省吾の能力がぶつかり合う。
そして、勝利を収めたのは俺の方だ。
省吾の足元に木綿の糸が結ばれて行動が思うように行かなかったのだ。
コットン・ブルー。
綿を操る、ミクリの能力だ。
2対1のこの状況で俺の有利は覆らなかった。
「捕らえたぜ」
「くそっ」
手錠が省吾に繋がれる。
「・・・」
優身が近づいてくる。
「もう心配しなくていいぜ、敵はこうして捕まったからな」
「っっ!」
俺はビンタされる。
「痛いな」
「最低!」
優身は俺のそばを去って行く。
「青菜様、勝つためとは言え、あのようなことはもうやめてください。
命を危険に晒す行為は従私は好きではありません。
何度もやられるようであれば・・・従私は青菜様のことを信用できなくなりますから」
ミクリはとても悲しそうな顔をする。
「・・・」
信頼・・・ねぇ。
俺はもとより、誰も信用してない。
家族ですらな。
初対面であるミクリなんてもっとだ。
別に信頼される気は無い。
俺は神具を13個集めるだけだ。
役割をしてるうちに何か夢が見つかるかもしれない。
俺の夢は夢を見つけることだ。
それはまるで、恋に恋する少女のように。
そのせいで他の誰かが犠牲になろうとも興味はない。
俺は英雄になる気は無い。
「青菜様、聞いてますか?」
「聞いちゃいない」
「ぐすん」
ミクリは涙目になる。
「全員に終わったことを報告しに行くぞ」
「分かりました」
俺たちは地下へ戻る。
「もう、外に出れるぞ」
「わたくしたち出られるのね」
「やったよ、ミヤ。僕たち出られるんだ」
「嬉しいです、逃矢君!」
「執事も出られるのか」
皆、喜んでるように見える。
「ありがとう、青菜君・・・ありがとう」
皆に感謝される。
「別に礼を言われるほどじゃ」
俺は俺自身の目的のためにやったことだった。
だから礼を言われるのが意外に感じた。
「ありがとう・・・」
金子さんに握手される。
まぁ、悪い気はしないな。
「・・・」
だけど優身だけは素直に礼を言わなかった。
まぁ、当然か。
「それで、案内人・・・もとい、
こいつはどうするんだ?」
毒蝮が訪ねてくる。
「こいつは俺たちで預かる、どんな目に会うか分からないが、
まぁ、良いことではないだろうな」
「分かった」
毒蝮は納得が行ったようだ。
俺たちは屋敷の扉の前に立つ。
「だ、大丈夫かなミヤ」
「大丈夫ですよ、逃矢君」
「母さんも一緒だから安心して」
「でも」
3人は扉の前でもたついていた。
「ふん」
優身が一歩前に出る。
そして外に出る。
「優身?」
金子さんは少し驚いたようだった。
「大丈夫じゃない、怯え過ぎよ」
「あっ・・・」
逃矢が外に出る。
「逃矢君」
ミヤは心配そうだ。
「大丈夫だ、なんともない。なんともないよミヤ!」
「逃矢君・・・」
ミヤは安心したような顔を浮かべる。
「俺の仕事は終わったみたいだな」
「私様はもう2度と会いたくないわ、何処かへ行って頂戴」
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「どっちもよ」
「お前とは相性が悪かったな」
「ふん」
「じゃあな、優身」
「ええ、さようなら」
俺はこの場を後にした。
森の中に古びた扉を見つける。
俺はそれにカギを差し込む。
すると、大監獄へ続く道が開けた。
「行こうか、ミクリ」
「はい、青菜様」
俺たちは扉の奥へと入っていった。
「おや、帰って来たね」
先生が席に座って、待っていた。
タバコを吸っていたようだ。
「持ち帰って来たぜ」
俺は榊のノコギリと、省吾を引き渡す。
「うんうん、上出来だね。先生から成績を上げようじゃないか。
どぅくどぅくどぅく・・・」
「口でドラムロールかよ」
「じゃん!」
「それで、結果は?」
「Dって所かな」
先生が何処からか出したクラッカーがパンと開く。
そして紙の紐が飛び出る。
「それって、いいのか?」
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「微妙だな」
「微妙だからねしょうがない。
まだまだ粗削りな部分がある、まぁ、精進することだね」
「どうやって成績を判断するんだよ、現場に居た訳でもないし」
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「見てた?」
「あぁ、ちょいと仲間の1人がそういうのが得意でね」
「勝手にみられてたのか、気分悪いな」
「あはは・・・悪いね・・・しかし、いきなりすべてを信用するってわけにもいかないだろう。
それは一番君が分かってる筈だ、違うか、生徒の青菜君?」
「まぁ」
俺も神と名乗る男たちを完全に信用してるわけじゃないしな。
いずれ、信頼するのかもしれないが今は未だ赤の他人レベルだ。
「先生、いらしてたんですね」
「あぁ・・・ミクリか」
「?」
先生はミクリと少し気まずそうだ。
「とりあえず、ほら」
俺は省吾を連れ出す。
「牢屋か、慣れてる」
俺は彼を牢屋に閉じ込める。
「ほーう、こいつが所有者の1人か」
先生が眺める。
「お前らは一体」
省吾は睨みつけるように言った。
「そうだねぇ・・・正義のヒーローって所かな?」
先生はそう答えたのだった。
しかし、どう考えても胡散臭かった。
タバコをくゆらせ、気だるそうな先生が正義のヒーローには見えないのだから。
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