チート能力「看守」を使って異世界で最強と言われる

唐草太知

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朝の6時ぐらいだろうか。
明かりも差し込んできて、屋敷全体が少し明るくなる。
「省吾」
「あ・・・?」
彼は俺のことを睨む。
「随分と怖い顔をするんだな」
「あ・・・いや、すいません」
省吾は怖い顔をしていたが、すぐに元の穏やかそうな顔になる。
体格が大きい分、睨むと迫力がある。
「寝起きは悪い方なんだな」
「お恥ずかしい、つい気が緩んで」
「さて、全員少しだけではあるが休憩をとった。
ここで目的を再確認しよう。
木霊館の呪いの原因は館の主人だ。
主人の部屋に向かうためには扉を突破しなければならない。
しかし扉は閉ざされており、スイッチは7つあった。
押すだけで開く、簡単なシステムだ。
しかし、問題は俺たちは3人。
つまりは後4名の住人の協力が必要となる」
「すでに2名の人物は確認してます。
ですが、従私たちに協力してくれるのは実質1人です」
「綺麗な彼女が非協力的なんだよな」
「可能性の話ですが、離れ小屋にもう1人居る可能性があります。
ですが、顔を確認してないので居るかどうか不明です」
「後1人見つければ・・・突破の可能性は見えてくるな」
「そうですね、青菜様」
「探そう、他にも人は居るんだろう省吾」
「はい、案内人である大生が言うので間違えありません」
「分かった、それじゃ行こうか」
「えぇ、分かりました」
「大生もついて行きますよ」
俺たちは探索を再開する。
「ん?」
廊下を歩いてる時に妙なものを見つける。
それは化け物の木だった。
木自体は何度も会ってるし不思議に思わなかった。
しかし、枝にぶら下げてるのはカバンじゃないだろうか?
「あれってもしかして」
「優身のカバンの可能性が高い。
追いかけよう」
「分かりました」
「了解」
俺たちは浴室へと向かう。
「あんたらは・・・」
「毒蝮?」
先ほど会った執事がそこに居た。
「お嬢様に頼まれたんだよ、カバンを探せってな」
「そうだったのか」
「げっ、げっ」
木の化け物は大きい浴槽に浸かって、
気持ちよさそうだった。
木だから水は栄養なのかもしれない。
「こちらには気づいてないようだ」
不意打ちを仕掛けられるかもしれない。
「どうしますか、青菜様?」
「ミクリは他の人をこの部屋から出してくれ」
「畏まりました」
「大生は怖いので・・・失礼します」
省吾は先に逃げる。
「執事は戦えるぞ!?」
「申し訳ありません、ここは青菜様1人に任せてもらえますか?」
「1人で戦わせるなんて出来るわけないだろう?」
「事情があるんです、気持ちを汲むと思って」
「そこまで言うのなら」
毒蝮を避ける。
そうして俺1人になる。
「やるか」
俺は庭師のハサミを持つ。
複数相手なら難しいが1体が相手ならいける筈。
俺は自然界の肉食獣のように、息を殺して忍び寄る。
「げっ?」
「しっ!」
俺は切断する。
木は真っ二つになった。
不意打ちは上手く行った。
「げぇ・・・」
「よし」
化け物は倒せた、カバンを回収して帰ろう。
俺はカバンを手に持つ。
「げぇえええええ!」
「なにぃ!?」
木の化け物は蘇生し、俺に襲い掛かる。
「げっ、げっ」
不意打ちをされたのは俺の方だったか。
脇腹に枝が突き刺さり、
つまようじでイチゴを刺した時のような穴が開いてる。
「ぐっ」
俺はまだ甘い考えを持ってる。
人知を超えた力という意味を理解してなかったらしい。
蘇生能力があるなんて。
ミクリの瞬間治癒があるのだから、その可能性を考慮すべきだった。
恐らくは水だ。
栄養を急激に吸収し、体力を回復したのだ。
浴槽の水分量が先程と比べて減ってるから間違えない。
「げっ、げっ」
木の化け物がにじり寄る。
「く、来るな!」
俺は浴室にある色んなものを投げつける。
脇から出血し、痛みの所為で思うように立ち上がれないからだ。
「げっ、げっ」
しかし、木の化け物に当たらない。
「アルトラズ!」
俺はスタンガン警棒を取り出し、木の化け物に使う。
電気の熱で燃焼させようと思ったのだ。
「げーーーーっ!」
しかし燃やすことが出来たのは一部だけだった。
しかも、すぐに水を吸収し回復する。
「・・・」
「げぇつ」
木の化け物は俺を見下ろし勝ち誇った顔を浮かべてるように見えた。
「お前は勝ったって思ってるだろうな、でも・・・それは間違いだぜ」
「げっ?」
「お前は腐り始めてるぜ!」
「げぇっ」
木の化け物の葉っぱがシワシワになって行く。
「俺が投げたものの中にバスソルトがあったんだ。
塩が濃いと植物は脱水症状になるらしいな」
「げぇーーーーっ・・・」
木の化け物はそのまま枯れていった。
「マングローブとか、アイスプラントみたいなのだったら不味かったな」
俺はその場で寝転ぶ。
しばらくすれば異常に気付いてミクリが駆けつけてくれるだろう。
少し横になってその時を待った。
「青菜様!」
ミクリが駆け寄って俺に抱き着く。
「痛いって」
「良かった、生きてて」
ミクリが抱きしめてくれるお陰で俺の傷は癒える。
「多少、怪我したがなんとかな」
「本当は1人で待ってる時、不安でした。
大けがをされるんじゃないかって」
「そうか」
「でも、本当に良かった」
「大げさだな」
「生きてるって大事なことなんです。
それは・・・とても・・・本当に」
ミクリは俺ではなく、遠くを見つめてる気がした。
「ミクリ?」
「罰です、しばらくは抱きしめられててください」
「分かったよ」
俺たちは少しの間、抱きしめあった。
お陰で大分、回復できた。
廊下に出て、省吾と再会する。
「おぉ、よくご無事で」
「なんとかな」
「1人で本当にやり切るとはな驚いたぜ、馬鹿野郎」
「ほら、カバン」
俺は毒蝮に渡す。
「いいのかよ」
「お嬢様に頼まれたんだろ?」
「ふっ・・・悪いな」
執事は笑う。
「あら・・・そのかばん」
「お嬢様」
「見つけたのなら、さっさと寄越しなさい」
「あ・・・あぁ」
執事は優身に渡す。
「本当はあなたが隠してたんじゃないの?」
「おい、お嬢様」
「なんですの?」
「執事は化け物が居るかもしれない屋敷の中を探し回ったんだぞ。
ねぎらいの言葉の1つや2つあってもいいんじゃないのか?」
「なんで私様が?」
「なんでって」
「金を払って仕事をしただけでしょう?
買い物するたびに、いちいち店員さんにありがとうっておっしゃるの?」
「仕事だろうと、善意だろうと優しくされたなら、
ありがとうじゃないのかよ」
「あなたの常識を押し付けないで下さる?」
「このっ・・・」
俺はお嬢様を殴りたい気分になるが堪える。
「それじゃ、私様は失礼しますわ」
「おい、まだ話は終わってないぞ」
「いい」
「毒蝮・・・」
「ああいうお嬢様だって分かってたさ。
でも・・・」
「でも?」
「やっぱり気に入らねぇ!」
執事は壁に思いっきり蹴りを入れる。
「・・・」
まぁ、だろうなと思う。
「俺も言いたいことがあるからお嬢様を追いかけるよ」
「あぁ・・・分かった」
俺たちは毒蝮と別れる。
そして、お嬢様が居る図書室へと入って行った。
「・・・」
優身は本を読んでる。
「カバンは見つけたんだ、協力してくれるだろ?」
「・・・」
「おい」
俺は話しかける。
「見て分かりません?」
「なんだよ」
「私様は本を読んでるの、
それって話しかけないのがマナーじゃなくて?」
「あのなぁ」
「図書館で本を読んでる人を見て挨拶なさる?」
「それとこれは違うだろう」
「同じよ、さぁ、邪魔だから何処かに行って」
「何ページだ?」
「何の話?」
「本を読んでたって言っただろ?」
「それが?」
「何処まで読んだのかって思って」
俺は普通に話しても喧嘩になるだけだと思った。
なので、話を変えて友好的に行こうと思ったのだ。
「91ページ。
犬が仲間になって、
鬼がダンスに夢中になってるシーンよ」
「へぇ、見せてくれないか?」
俺が本をのぞき込もうとすると怒鳴られる。
「気分が悪いわ!」
「なんだよ急に」
「私様を疑ってるの?」
「疑ってるとかじゃなくてただの世間話だろ?」
「私様は本を読んでたのよ!」
「別に疑ってないって」
何なんだ一体。
「もう、消えて!」
「おわっ」
俺は無理やり押し出されて部屋を出る。
そして今は廊下だ。
「青菜様、やはり会話は難しいかと」
「俺だけが相性悪いのだろうか」
「いや、大生も話しかけたことがあるが同じ態度だったよ」
「そうだったのか」
俺だけが特別嫌われてるわけじゃないと分かり安心した。
「従私が相手でも結果は変わらないように思います。
異性だとか、同性だとか、態度が悪いとか、
こちら側の問題では無くて、何処か彼女自身、攻撃的になる理由があるような気がします」
「俺も同意見だ」
「大生には良くわかりませんが」
「心の闇って言えば分かりやすいか?」
「あぁ・・・なんとなくは理解しました」
「そこを理解しないと前に進めなさそうだ」
「でも、心の闇なんてそう簡単に話してくれるでしょうか?」
「難しいな」
「はぁ・・・ですよね」
省吾はため息をつく。
「とりあえずは別の所に行こう」
「そうですね」
「・・・!」
「あの・・・青菜様」
「どうしたミクリ」
「・・・!」
「声が聞こえませんか?」
「声?」
言われてみれば・・・というような幽かな声。
「そうですか、大生には聞こえませんが」
「いや、確かに聞こえる」
「あっ」
「何か分かったか、ミクリ」
「あの、あれではないかと」
「おいおい」
俺は思わず呆れてしまう。
というのも、天井からパンツ丸出しのメイドさんが居たからだ。
「青菜様、どうしましょうか」
「とりあえず引っ張るか」
「分かりました」
皆でせーのって感じで引っ張る。
すると巨大なカブを引っこ抜くみたいに、ポンと抜けた。
「ぷはぁーーーっ、助かりましたぁ!」
今まで会った人物は皆、共通してることがある。
それは身体の何処かに植物が生えてる点だ。
彼女も例外では無いらしく、
右目にマーガレットの花が咲いていた。
そのこと自体は目新しくないが、
前後ろ逆のメイド服を着てるのは変わってると思えた。
そのせいでリボンが胸の所に来てる。
本来であれば背中に来る筈なのに。
「それはファッションなのか?」
「え?」
メイドは自分の姿を確認する。
「どうなんだ」
「ちちちちちちち違うんです、
普通の格好をしたかったんですけど、
急いでいたというか、慌てていたというか」
メイドの前にネズミが通りかかる。
「ネズミだ」
「きゃーーっ、ネズミです、ネズミ!」
ネズミ相手に逃げ回るメイドさん。
なんというか、おっちょこちょいというか、
慌ただしい。
「アルトラズ・・・」
俺はぼそっと呟く。
そして、ネズミを捕まえる。
「ネズミです、ネズミです!
病原菌とか怖い~~~っ」
「もう平気だよ」
俺は牢に入れたネズミを見せる。
「はっ・・・これはとてもお見苦しい所を」
「いや、いいんだけどさ」
「申しくれました、メイドの名前は戸隠美也。
年齢は27歳、身長は164cm。
体重は47kgで、バストはEカップ。
誕生日は5月7日ですよ。
親しい者からはミヤちゃんと呼ばれてます」
「よろしく、ミヤさん」
「ミヤちゃんで結構ですよ?」
「それじゃ、ミヤちゃんナゼ天井に?」
「それが、その、天井の掃除をしてる最中に、
悲鳴が聞こえて驚いたんです。その拍子に脚立を落としてしまい、
メイドは飛んだんです、落ちたくなくて。
でも、そのせいで天井に刺さっちゃって。
あはは・・・ドジですよね」
ミヤは笑う。
「・・・」
俺は呆れる。
しかし、まぁ、少し接して思った。
彼女は悪い人では無いのだろうと。
「助けてもらったので、手伝うことがあれば言ってください。
このメイドのミヤはやりますよ!」
「スイッチを押すのに協力して欲しい」
「そのぐらいなら喜んで」
ミヤはあっさり協力してくれる。
前の2人と比べて話がスムーズで助かる。
「そういえば離れ小屋の人物を知ってるか?」
「木霊逃矢(とうや)君のことですか?」
「知ってるのか?」
「はい、この館の主の息子さんです。
年齢は15歳。
身長は163cmで、体重は51kg。
誕生日は3月20日。
前髪を止めるのにネクタイピンを使用してて、
5角形の眼鏡を身に着けてる人ですよ」
「部屋に入ったまま出て来ないんだが、
理由が分かるか?」
「逃矢君は人と接するのが苦手なので」
「怯えて出て来ない?」
「恐らくは」
「知り合いなら出てくれるだろうか」
「試してみないと何とも言えませんが」
「ミヤ、協力してくれ」
「分かりました、メイドの出番ですね!」
俺はミヤの協力を手に入れて、庭園へと向かう。
「何だかいつもの庭園と違います」
「そうなのか?」
「はい、メイドは何度か屋敷の掃除をしてる時に見かけるんです。
でも、いつもは穏やかそうで綺麗な場所なのですが」
「・・・」
呪いの所為なのだろうか?
「早い所見つけてあげないとですね、青菜様」
「あぁ」
神具を見つけて回収すれば、
人並みの生活に戻れるかもしれない。
「きしゃーーーゅ」
チューリップ型の敵が現れる。
「きゃあああっ」
「避難しよう!」
逃げる俺たち。
しかし、この庭園迷路の恐ろしさを知ることになる。
「お、おい客人・・・行き止まりだぜ」
「なんだと?」
道が変化して先に行けない。
「・・・」
化け物は遠くで見つめてる。
「くそ、来るなら来い」
俺はスタンガン警棒を手に持つ。
「しゃうーーっ」
しかし、チューリップの化け物は花弁を閉じて、溜める動作をする。
そして、次の瞬間、種を飛ばしてくる。
速度は拳銃と同じくらいだと思えた。
あれに当たれば死ぬことは間違え無さそうだ。
「アルトラズ!」
目の前に檻を出現させて攻撃をガードする。
「げっ・・・?」
「お、檻?だが助かった」
省吾からすれば不思議な現象だろう。
「はぁ・・・はぁ・・・」
防げたが、反撃の一手が思いつかない。
「しゃうーーっ」
チューリップの怪物は再度、撃ち込んでくる。
「同じ手をくらうか!」
檻が出現してるのだ、攻撃は当たらない筈。
そう思って安心していたが駄目だった。
「げっ、げっ」
玉は跳弾し、檻の隙間をすり抜けてやってくる。
「ぐっ・・・」
俺は脇腹に命中する。
「青菜様!」
ミクリに抱きかかえられる。
彼女のお陰で致命傷にはならずに済みそうだ。
「攻撃の手段が思いつかない」
「従私に任せてください」
「ミクリ・・・?」
彼女は俺を置いて敵の前に立ちふさがる。
「しゃうーーっ」
チューリップの怪物は再度、撃ち込んでくる。
「ミクリ!」
彼女は檻よりも前に出ていた。
確かに先ほど、防げなかったが檻の先に出てる方が危険だ。
戻るべきだと思って叫ぶ。
「コットン・ブルー!」
ミクリが何かを言う。
すると、綿が突如として出現し膨らむ。
ぼす、ぼすと、綿に種の弾丸が吸い込まれて行き、
威力が消えていく。
「おぉっ」
彼女にこんな隠し玉が。
「青菜様・・・その」
「どうしたんだ?」
「従私では止めをさせないので」
「がくっ」
防御だけなのね。
俺は落ち込む。
抱きしめて回復、コットンブルーで防御。
彼女は支援系というわけか。
「時間稼ぎは任せてください。
ですが、その後の方はお任せします」
「やれやれ、面倒だな」
俺はため息をつく。
だが、仕方がない、やるしかないのだ。
「しゃうーーっ」
チューリップの怪物は根っこを地面に突き刺す。
すると鋭利な針のようになり、こちらに襲い掛かる。
「ミクリ、地面だ!」
「え?」
「アルトラズ!」
檻を地面に展開し、攻撃を防ぐ。
「助かりました」
「スタンガン警棒!」
俺は地面を攻撃する。
「檻を攻撃しても意味ないのでは?」
「まぁ、見てろって」
「ぎょおおおおっ」
チューリップの化け物は燃えていく。
「どうしてですか、青菜様」
「鉄は電気を通すだろ。
根っこを伝って、電気が通ったってわけだ」
「なるほど」
ミクリは納得したようだった。
「何度も化け物に襲われるなんて・・・大生はついてない」
「これは夢ですか・・・メイド人生で今までこんなことは経験したことがありません」
2人は呆気に取られていた。
「夢だと思うんだな」
俺はそう言って、先に進みだす。
「あ、置いてかないでくれ客人」
「メイドもついて行きます!」
俺たちは、離れ小屋へとようやく向かうことが出来た。
「今度は出てくれるといいが」
俺は扉をノックする。
しかし、反応が無い。
「逃矢様、居るのなら返事してください」
「ど・・・どうして僕の名前を」
怯えた男の子の声が聞こえる。
「もう、分かってると思うが、すでにこの屋敷は
アンタたちの住んでいたものとは違ってる。
この状況を変えるためには、あんたの協力が必要なんだ」
「わ、悪いが帰ってくれ・・・僕には関係ない」
「逃矢君・・・」
「ミヤ?」
「メイドの声が聞こえますか?」
「聞こえてる・・・聞こえてるさ」
「お願いします、協力してくれませんか?」
「ミヤのためになら協力してあげたいさ。
でも、ここから出れないんだ」
「どうしてだ、教えてくれ」
俺は尋ねる。
「ぼ、僕だって分からない」
「分からないだと?」
「そ、そんな威圧した声を出さないでくれ」
「別にそんなつもりじゃ」
「あの、逃矢君良かったら教えてくれないかな?」
穏やかにメイドは言う。
「木が邪魔して出れないんだ・・・僕も困ってる」
扉の下には根っこが張り巡らされていた。
「となると植物を枯らす必要があるな」
「また、従私のあれで枯らすのでしょうか?」
熱湯作戦のことを言ってるのだろう。
「いや、それは難しい。
熱湯の場合だと、かなりの量をかけないといけない。
あまり、効率がいいとは思えない」
「では、どうすれば」
「それよりも強力な除草剤を持ってくる必要がある。
根っこに直接効くようなヤツだ」
「あっ、それならメイドに考えがあります」
「どんな作戦だ?」
「食堂に行きましょう!」
「食堂?」
俺たちは食堂に向かうことになった。
「食堂に来たのはいいが、どうすればいい?」
「メイドがコーヒーを淹れてきます。
その間、適当に時間を潰していてください」
「俺の分は要らない、悪いがコーヒーは苦手なんだ」
「従私の分も大丈夫です、主人が飲まないので気が引けるので」
「別に、ミクリは飲んでもいいんじゃないのか?」
「いえ、大丈夫です」
「そこまで言うなら好きにしたらいい」
「はい」
ミクリは笑みを浮かべる。
この子、俺が飯を食わないって言ったら彼女も飯を食わないような気がする。
「大生は貰おう」
省吾は普通に飲むらしい。
コーヒー好きなのだろう。
「分かりました、1つだけ淹れておきますね」
そう言ってミヤは去る。
「それでは、従私たちはゲームでもして待っていましょう」
「大生は賢くない、あまり難しいのは出来ないぞ?」
「大丈夫です、誰でも出来ますよ」
「どんなゲームだ?」
「こう、指を立てるんです。
経てるのはあくまでも両手の親指だけ」
ミクリは親指を立てる。
「それで、どう勝ちなんだ?」
「宣言した数字と同じ本数指が経っていれば1ポイント。
腕を引っ込めます。そして、もう一度勝負し、勝ったら、
先程同様、余った腕を引っ込めます。
そうして、すべての腕を引っ込めたプレイヤーが勝利となります。
「なるほどね」
「しかし、気をつけなければならないのは、
指の本数は参加プレイヤー分、重ねて数えられるんです」
「意識して妨害することも出来る訳だな」
「はい、その通りです」
「ルールが理解しかけて来たよ、他には無いか?」
「タイミングを合わせるために、いっせーの。
って、掛け声をかけてから数字を宣言する必要があります」
「覚えたぜ、ルールをな。
大生はやっていくうちに慣れていきそうだ」
「それじゃ、俺たちはゲームを始めようか」
「従私から行きますよ。
いっせーの、4」
俺が1、省吾が2、ミクリが0。
合計で3だ。
「残念だったな」
「残念です」
「それじゃ、次は大生だ。
いっせーの、2」
俺が0、省吾が1、ミクリが1だ。
「省吾が1つ抜けたな」
「へへ、分かって来たぜルールってやつが」
「最後は俺だ、いっせーの1」
俺が1、省吾が2、ミクリが1だ。
「残念だな」
「一周回ったので次は従私ですね。
いっせーの2です」
俺が1、省吾が1、ミクリが0だ。
「やったじゃないか、ミクリ」
「客人、やるな」
「えへへ、ようやく1ポイントです」
「それじゃ、大生だ。
いっせーの3だ」
俺が1、省吾が1、ミクリが1だ。
「省吾様、上がりです」
「悪いな、勝たせてもらって」
「むぅ」
俺はまだ1ポイントも入ってない。
「そろそろ勝負は佳境に入ってきました。
従私と青菜様の一騎打ちです」
「いっせーの、2だ!」
俺は2、ミクリが0だ。
「1つ抜け、ですね」
「よし」
これで俺もミクリも後、1ポイントで決着だ。
「それじゃ、決めさせてもらいますよ、青菜様」
「あぁ、来い」
「いっせーの、1です!」
俺が1、ミクリが0だ。
「お前の勝ちだな」
「やりました、青菜様!」
ミクリははしゃいでる。
ゲームに勝って嬉しいのだろう。
「コーヒーが湧きまし・・・うわぁあ!」
ミヤが何も無い所で転ぶ。
「ミクリ!」
俺は彼女を庇う。
「青菜様、大丈夫ですか?」
「あぁ・・・服が少し汚れただけだ」
「ももももも、申し訳ございません!」
ミヤが必死になって謝る。
「いや、気にしなくていい」
「しみになってしまいます」
「別にファッションリーダーを気取ってるわけじゃないし、
服が汚れた程度、大したことないさ」
「でも」
「お互いにケガはないんだ、問題ないだろう?」
「ありがとうございます、青菜君」
「従私が火傷の部分は治しておいたので」
「知ってるよ、ありがとう」
俺たちは小声でやりとりする。
ミヤに罪悪感を抱かせないために痛みをこらえたのだ。
熱湯は当たり前だけど、熱いからな。
ポーカーフェイスを出来た自負はある。
「大生のが無くなったじゃないか、もう一度淹れてくるんだ」
省吾は少し怒った風に言う。
「は、はい!」
メイドは作り直しに戻る。
「お人よしだな、客人」
「そうか?」
「大生は悪い意味で言ったんぜ」
「どういう意味だ?」
「お人よしってのは損する性格だ。
人間、気に食わないことがあれば怒鳴る方がメリットが多い」
「それは例え、空気が悪くなってもか?」
「それがお人よしって言うんだよ。
空気が悪くなろうとも、意見を言い続ける方が通る。
しつこいと言われようともな。
大事なのは繰り返すってことだぜ・・・そうすれば相手が諦めるからな」
「・・・」
それが彼なりに人生を生きて来て得た答えの1つなのだろう。
そう思った。
「従私は怒鳴らない方が素敵だと思います」
「感情の面で言えばな、現実的な側面じゃ不利になる方が多い」
「そうかもしれませんが・・・」
ミクリは何だか不満そうだ。
彼女の考えと合わないからだろう。
「余計なことだったな、忘れてくれ」
省吾なりのアドバイスなのだろう。
素直に実行できるかは分からないが、
心には留めておこうと思った。
「すみません、2度目ですが・・・おわっ!」
ミヤがコーヒーを淹れてくれた。
しかし、先ほど同様また零しそうになる。
「落ち着いて持ってきてくれ」
俺はコーヒーと彼女を同時に受け止める。
なんとなく、こうなりそうだなと思って心構えしていたのが良かった。
「ほんとー・・・・に、すいません!」
「謝る必要はない」
「お人よしめ」
省吾は呆れていた。
「あ、あの淹れたので召し上がってください」
「いただこう」
省吾はぐいと飲む。
「さて、コーヒーも飲み終わった。
ミヤ、案があるんだろう、教えてくれ」
「はい、これです」
ミヤが取り出したのは茶色い粉末だった。
「粉?いや、僅かに香りが・・・。コーヒーのかすか」
「はい、その通りです。
土壌中の窒素成分が減少して、
植物が肥料不足になる(窒素飢餓)という現象が起こるそうです。
そうなると植物は枯れてしまうのだとか」
「なるほど、効果ありそうだ」
「さっそく、逃矢君の元へ行きましょう」
「分かった」
俺たちは離れ小屋に向かう。
そして、扉の前に立ち、木の根っこにコーヒーの粉をかける。
「効くでしょうか、青菜様」
「大丈夫だろう」
やはり、という感じだった。
根っこが枯れて、扉を封じていた木が消えた気がする。
「逃矢君!」
ミヤが飛び込む。
心配していたのだろう。
「ミヤ・・・」
2人は抱き合う。
「体調の面は大丈夫そうだ・・・しかし」
逃矢の腕には花が咲いていた。
オシロイバナだ。
「近寄らないでくれ」
「っと」
俺は歩み寄ろうとしたら制止される。
「仮面を被って、不気味だ。
それを外してくれたら僕の傍に来てもいい」
「悪いが、それは出来ない」
「何故だ、この周囲一帯は毒に満ちていてるわけでもない」
「ガスマスクと一緒にしないでくれ」
「それじゃ、どうして」
「人の内面を話せと?」
「・・・」
「・・・」
「あ、あの、逃矢君、彼は悪い人じゃないの」
「そうですよ、青菜様はとってもいい人です」
「大生も、そう思う」
「ミヤはドジだからな、助けてもらってすぐに信用したんじゃないのか?」
「そんなことは・・・あるかもしれません」
「ミヤをたぶらかす、悪い人め」
「別にたぶらかしてなんて」
「うそだ、彼女は可愛いんだ」
「逃矢君・・・」
「これは・・・見せつけられてるのか?」
俺はそんな気になる。
「仲が良いんですね、お二人とも」
「そ、そんな間柄じゃない・・・」
逃矢は照れくさそうにする。
「まぁ、別に近づかなければ話が出来ない訳じゃない。
遠くからなら問題ないだろう?」
「分かった」
「要求はこうだ、スイッチを押すのに協力して欲しい」
「スイッチ?」
「ここから出るために必要なことなんだ」
「・・・」
逃矢は考え込む仕草をする。
「屋敷に居る他の人にも協力をお願いしてる」
「他の人だって?」
逃矢は驚いた顔をする。
「あぁ、人数が多い方がいいからな」
「悪いが協力できない」
「それは困る、理由を教えてくれないか?」
「あ、姉が」
「姉?」
「姉が怖いんだ、優身って人なんだ。
彼女が居るだけで僕は・・・僕は・・・」
逃矢は震えてる。
そういう怖いらしい。
あの態度だからな、分からなくもない。
「だが、協力してくれないとこちらも困るんだが」
「別にいい」
「なに?」
「このままでいいって言ったんだ」
「身体から植物が生えて、それでいいって良いっていうのか?」
「それよりもここから動く方が怖いんだ」
「死んでもいいのか?」
「構わない」
「構わないって」
「・・・」
逃矢の目は本物だ。
自分の命に関して軽く考えてるのだろうか?
「悪いが俺はまだ死にたくはない」
「夢があるのか?」
「別に」
「それじゃ生きてるのは可笑しいだろう」
「可笑しい・・・?」
「何も目的が無いから人は死を考えるんだ。
夢がある人は絶望しない、そうだろう?」
「それは、そうかもしれない」
「なら、変だって自覚しろよ」
「・・・」
俺は変なのか?
目的が無いのに、生きて居たいってのは。
ただ、漠然と死にたくない。
それで十分だと思っていたが、生きるのに理由が必要なのだろうか。
世界はそうなのか?
「とにかく僕は協力しないからな」
「逃矢君、メイドも協力するって言ったらダメ?」
「ミヤは騙されてるんだ」
「そうかなぁ」
「そうだって」
「逃矢君が言うのなら、そうなのかも」
「ミヤ・・・」
「ごめんなさい、メイドも協力できなくなりました」
「そうか」
「でも、どうしてもっていう時は手伝いますから」
「ミヤ!」
「ごめんなさい、逃矢君、困ってる人を放っておくのは気が引けるよ」
「ミヤのそういう優しい所は好きだ。
でも・・・だからこそ不安なんだ、騙されてるんじゃないかって」
「逃矢君・・・」
「ここから出て行ってくれ」
「分かった」
俺たちは再び3人に戻る。
「いいんですか、青菜様?」
「どうせ俺の話に聞く耳は持たなそうだ。
他に案を考えるさ」
「分かりました」
「やれやれ、強引さが足りないように大生は思うぜ」
省吾は呆れていた。
この場をいったん後にして、屋敷内に戻る。
そして廊下にたどり着く。




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