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1-4 暴言姫
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中庭を通り抜けて、俺たちは寝室へと向かう。
植物が生い茂っており、通りにくい。
「仕方ないか」
俺は先ほどのレモンを使う。
すると植物は枯れるが、もうレモンの汁は残ってない。
使い物にならないだろう。
「ここ・・・入るんです?」
省吾がそわそわしてる。
「入るに決まってるだろう、どうしたんだ一体」
「大生は・・・待っていても?」
「また怒鳴って来るのか?」
「そういうわけではないですが」
「まぁ、とりあえず俺たちだけ入るか」
「いえ、やはり大生も入ります」
「好きにしてくれ」
俺は寝室の中へと入って行く。
「うぅううううう・・・」
唸り声をあげてる女性がそこには居た。
身長は172cmぐらいだろうか。
体型は細身で、バストはcカップだと思う。
体重は52kgぐらいだと思えた。
派手なドレスを着てる。
宝石をじゃらじゃらとつけて、これ見よがしに金持ち感がある。
頭はソフトクリームみたいな髪型をしてる。
一番変わってるのは背中からヒマワリが生えてることだろう。
「大丈夫か」
「近寄るな、薄汚れた貧民が!」
彼女はこちらを見て開口一番、暴言を吐き捨てる。
「そんな言い方無いだろ?」
そんな態度に俺はむっとする。
「うぅううう」
彼女は苦しそうだ。
「助けに来たんだ」
「じゃあ、早くしろ私様(わたしさま)を助けるんだろう!」
そう言う彼女の背中からヒマワリの種が落ちる。
すると、種が割れて中から白濁液が滴り落ちる。
「うっ」
生肉が腐ったような香りがする。
思わず鼻を抑えたくなる。
「この場は一旦、下がりましょう青菜様」
「でも」
「病気で苦しんでる時に会話するのは辛い筈です、青菜様よりも虚位(きょい)な存在ですが、ここは従私の話を聞いてくれると嬉しいです」
「あぁ・・・」
ミクリの言う通りだと思い、廊下にいったん移動する。
「かつては美しい姿をしていたのに嘆かわしい」
「省吾、知ってるのか?」
「えぇ、案内人ですので」
「どんな人なんだ?」
「木霊優身(もくれい・ゆみ)」
「ゆみ・・・それが彼女の名前か」
「容姿が綺麗で、男性を惹きつける存在です。
パーティーなどでもダンスに誘われる光景を何度か目撃しています」
「モテるのか」
「はい」
「・・・」
モテる自信があるから、人に対してキツイ態度を取るのかもしれない。
これぐらいじゃ、人気は揺るがないのだと。
「自分自身を優れた存在だと疑わず、高慢な態度を取る人です。
一人称で俺様という言葉があるでしょう?」
「あるな」
「それの女性バージョンということで私様だと名乗ってるのです」
「なるほど」
「この館の娘です」
「関係者か」
「はい」
「なんとなく人物像は見えて来たな」
「話は逸れますが、体調は平気ですか?」
「俺のか?いや・・・なんともないがどうしてだ?」
「花粉を浴びてたので」
「あぁ、平気だ」
そういえばそうだったな。
でも、体調に目立った異常は感じられない。
「それなら良かったです」
省吾はニコっと笑う。
「さて、何かいい案はあるか?」
俺は2人に尋ねる。
「従私が思うに、切断はどうでしょうか?」
「ダメだと思う、先ほどの毒蝮が痛がる話をしていたからな。
共通してると思う」
「そういえば・・・すみません余計な一言でした」
「いや、発言自体は悪くない。怒鳴ったりしないから思いついたらドンドン言って欲しい。いいな、ミクリ」
「青菜様・・・分かりました」
「省吾はどうだ?」
「うーん、他にいい案が無いな」
先ほどのレモンの一件があったので他にも無いかと思ったが、ネタ切れらしい。
「あっ」
「どうした、ミクリ」
「そういえば聞いたことがあります。
熱湯をかけると植物のタンパク質が変化するのだとか。
それによって成長が阻害されると」
「人間と同じように植物も火傷するのかもしれないな」
俺はそういう風に考えた。
「大生も悪くない案だと・・・ただ」
「ただ?」
「熱湯はどう仕入れるので?必要なのは熱と水分です」
「熱はどうにか出来る自信がある」
「じゃあ、後は水ですね客人」
「それなら俺の腕を切断して、血液を集めるとかどうだ?」
庭師のハサミを使えば切れる筈。
そう考えてのことだった。
「ダメです!」
瞬息ほどの速さでミクリは俺を止める。
「だが、水が無いだろう」
この場では口にしなかったが、切り傷ならミクリの能力で治せるだろう。
という安易な考えもあった。
「切り傷程度ならば死ぬほどのもではありませんし、すぐに回復するでしょう。ですが、痛みは残ります・・・それはとても悲しいことです」
「悪かったよ・・・でも他に案があるのか?」
ミクリが切羽詰まった顔をするので引き下がる。
「あの・・・それでしたら、その・・・従私に案が」
ミクリがもじもじする。
「どうしたんだ?」
俺は気になって尋ねる。
「唾液を集めれば・・・いいのではと」
「え・・・あぁ・・・」
何だか変な気分になる。
「それなら痛みは無いですね。
先ほど使い切った竹の水筒があるのでこれに」
「あのっ!見ないで貰えると・・・嬉しいです」
「わ、分かった」
「大生も」
俺たちは2人して後ろを向く。
まるで生着替えしてるかのような緊張感がある。
しばらく時間が経ってくると、向こうから声を掛けられる。
「もう・・・大丈夫です」
ミクリの顔は真っ赤になり、恥ずかしそうだ。
これで水分は確保できた。
「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」
俺は水筒を受け取る。
「どうやって熱湯を作るんですか、青菜様?」
「中庭に行こう」
「分かりました」
俺たちは中庭へと移動する。
「ついたが何をするんだ?」
「この部屋には日光があるだろう。
それで湧かそうと思ってな」
「なるほど」
2人は俺の考えを理解してくれたようだ。
日光が一番強く入る所に竹を置く。
「これで待っていれば熱湯が作れますね青菜様」
「上手く行くといいが」
日光で温めてる時、不意に影が現れる。
「青菜様・・・」
「分かってる」
先ほどはアルトラズの能力で日光を遮っていた。しかし、今回はそうではない。
ということは怪物たちが動き出すということだ。
「きしゃーーーーっ!」
花の怪物たちが動き出す。
2体居る、あれでは片方を切断しようとする間に攻撃されてしまう、今回はハサミは使えないだろう。
「どうしましょう、青菜様」
「俺に任せろ、水はまかせた」
「分かりました」
「だ、大生は隠れてるよ」
省吾は怯えて影が濃い部分に隠れる。
影が濃いと、植物たちが眠りにつくから来ないだろうと判断したんだ。
そのアイディアは悪くない。
だが、今回の作戦を成功させるに当たって、ミクリと俺は危険な目に合うのは避けられないが。
「だが、距離を置いてもらった方が都合がいい」
遠慮なく能力を使える。
「きしゃーーーっ!」
「アルトラズ!」
俺は大監獄のカギを起動する。
手錠を出現させて、植物の茎に手錠をかける。
そして、もう一体にもつける。
「・・・!」
植物の怪物たちは互いに足を引っ張る。
手錠で繋がってる所為で思うように動けない。
知恵があれば工夫の仕方もあるんだろう。
まるで二人三脚みたいに互いを邪魔し合う。
「これでしばらくは大丈夫だろう」
「青菜様、熱湯が完成しました」
「量は十分か?」
「え・・・そうですね、2、3回は使えるかなと」
「よし、こいつらで試してみるか」
俺はミクリから水筒を借りて不自由な怪物たちに向かって熱湯をかける。
すると、みるみるうちに枯れていく。
「やりましたね、青菜様」
「これなら、あの嬢ちゃんにも効きそうだ」
「凄いですね、大生は感心しました」
隠れていた省吾が出てくる。
「寝室に向かおう」
「はい」
俺たちは寝室に向かう。
「うぅううう・・・」
唸り声をあげてる優身を見つける。
「背中を見せてくれ」
「うるさい、この変態!」
「助けに来たのに、その態度は無いだろ?」
「黙れ!」
優身は体調が悪い筈なのに殴りかかってくる。
これでは凶暴な獣と変わらない。
「悪いが抑えてくれ、頼むミクリ」
「ごめんなさい、助けるためですので」
「離せ!」
「省吾も手伝ってくれ」
「大生も?」
「当たり前だろう」
「了解・・・」
2人して抑え込む。
「くそ、格下共が私様に触るな!」
相当性格が悪いな。
容姿がいいだけに余計に思ってしまう。
「熱湯をかけるぞ、少し熱いかもしれないが我慢してくれ」
俺は背中に熱湯をかける。
「ぐぅうう・・・」
優身は熱そうにする。
けれど、ヒマワリは枯れていく。
「よし・・・これなら大丈夫だろう」
「痛みはありませんか?」
ミクリがさりげなく彼女の身体に触れる。
あれなら火傷の傷は治るだろう。
「そんなにべたべた触らないで、友達でもないのに」
「あっ」
優身はミクリの手を払いのける。
「さて、助けたのは理解できるな?」
「ふん」
「ここから出るには大勢の人の助けが必要だ。
あんなにも協力して欲しいんだが構わないだろう?」
「なんで?」
「なんで・・・って話聞いてたか?」
「皆で協力しないと出れないんでしょ、聞いてたわ。バカにしないでよね、全く・・・」
「それならどうして」
「助けたのはアンタたちが勝手にやったこと。
私様が恩を返す必要は何処にも無いってこと」
「あのなぁ・・・」
「それとも何、私様が間違ってる
っていいたいの?」
「ここから出たくないのか?」
「ここは木霊館、言わば自分の家よ。
どうして私様が出る必要があるのよ」
「実感しただろう、植物が身体から生えるなんて異常だ、そんな場所に居たいと思わないのが普通だ」
「他の場所ではならない保証はあるの?」
「いや・・・それは分からないが」
「なら、流行り病みたいに他の国に行ってもなる可能性があるんでしょう、それなら何処に居ようとも危険性は変わらない筈よ」
「・・・」
優身の言い分にも一理あると思えた。
「黙っちゃって、張り合いが無いわ」
しかし、こちらとしても出ないといけない。
今のところは与えられた役割に過ぎないが、それでも俺の役割に変わりはないのだ。
果たしたいと思う。
「この館の主が原因なんだ、その人さえ止めれば全ての問題は解決する」
「この館の主・・・?」
「あぁ」
「っ・・・・!」
優身は頭を押さえる。
「痛むのか?」
「うるさい・・・アンタの所為よ」
「俺は関係ないだろう」
「うるさい、とにかく関係あるのよ」
「やれやれ、面倒な女だ」
俺はため息をつく。
「協力してやってもいいわ」
「その上から目線が気に食わないが、話をいったん聞こう」
「カバンをさがしてるの」
「カバン?」
「そうよ、お気に入りなの」
「見たら分かるものなのか?」
「すぐ分かる筈よ、ハイブランドの、あんたたちじゃ一生かけても手に入らないような凄いやつなんだから」
「カバンなんてどうでもいいだろう」
「私様にとっては大事なことなの。
いいわ、別に協力しなくても。そうよね、私様はあんたたちの願いを断ったもの、あてつけしたい気持ちも分かるもの」
「そういう訳じゃなくて」
「いいわ、勝手にする」
優身は部屋を飛び出して自分で探しに行った。
「くそ、みんな付いてきてくれ」
「分かりました」
「だ、大生もですかぁ?」
俺たち3人は慌てて追いかける。
優身が入ったのはクローゼットルームだ。
普通の家には置いてないような、
服だけを収納する部屋のことだ。
「無いわ、何処に行ったのかしら」
優身は必死になって探す。
「この屋敷には化け物がうろついてるんだ」
追いついた俺は彼女を説得しにかかる。
「だから?」
「大人しくしてろってことだよ」
「嫌よ」
「あのなぁ、俺だって別に嫌いだから
言ってるんじゃなくてだなぁ」
「じゃあ、貴方が守ってくださる?」
「どうして俺が」
「守ってくれるというのなら話を聞く価値が
あるでしょう?」
「それじゃ、守るって言ったら大人しくしててくれるのか?」
「それはまた別の話よ」
「はぁ・・・」
困ったな。
「本人が平気だと言ってるのですから無理して
守ることもないのではないですか?」
「それもそうだな」
別に俺はヒーローを気取りたいわけじゃないしな。
こうもウザがられると、逆に守るのがかえってこちらの正義を
振りかざしてるようにも思えてくる。
「よろしいので、客人?」
「悪いが俺たちは勝手に行動する。
1人でも大丈夫だよな?」
「うるさい人たちが消えてくれて逆に嬉しいわ。
さっさとお行きなさい」
「そうするよ」
俺たちはクローゼットルームを後にする。
「それにしても綺麗な人だった。
客人もそう思いませんか?」
「まぁ・・・見た目だけならな。
でも、俺とは合わないよ。
ああも、きつい態度を取られると気分が悪い」
どんなに美人だろうと、
ワガママを受け入れる器が大きくはない。
「あはは・・・」
ミクリは苦笑する。
「・・・」
ゆらりと影が動く。
「何だ?」
俺は気になって注視する。
すると、それは人影のようにも思えた。
「青菜様」
「分かってる」
俺はその人影を追いかけた。
追いかけていくと、そこには庭園が広がっていた。
植物が生い茂り、迷路のようになっていた。
下手すると遭難しそう。
壁の高さもあり、余計にそう思える。
「これは困りましたね、客人」
「青菜様、どうしましょうか」
「うかつに動くと遭難しそうだ」
「従私に閃きが舞い降りてきました!」
ミクリは目を輝かせる。
「教えてくれ」
「迷路と言えば、左手の法則です」
「何だそれ」
俺は聞き返す。
「壁に左手を添えて、歩くだけです。
左手についていく感じですね。
コツは手を離してはいけないことです」
「大生も聞いたことがある」
「2人して言うのなら、正しいかもしれない。
試しにやってみようか」
「はい!」
ミクリの案を取り入れて、さっそく実行に移す。
しかし、いつまで経ってもゴールへたどり着けそうにない。
「大生だけですか・・・何かが変だと感じます」
「いや、俺もだ」
「従私も変だと感じました」
「じゃあ、いっせーので言うぞ」
「「「せーの、道が動いてる!」」」
3人でハモる。
「BLTサンドみたいに完璧に揃いました!」
ミクリが誇らしげに言う。
「それは揃ったで合ってるのか?」
俺は不思議に思う。
「あはは、いいんじゃないですか?」
省吾は笑う。
「それにしても、道が変動するのなら、
地図を書いても無駄そうだぞ」
何か法則でも見つけられればいいのだが。
数学者とかなら、何かに気づけるかもしれないが、
生憎と俺はそこまで賢くない。
「どうしましょう、このまま餓死するのでしょうか?」
「そんなのは嫌だ、大生は死にたくない!」
「まだ、死ぬと決まったわけじゃない。
案は出し尽くしてないだろう?」
「それはそうだが、
でも悠長に構えてたら死ぬんだぞ。
少しくらいは焦ったらどうなんだ?」
「焦ったところで案は出ない。
俺はそういう面倒は嫌いなんだ」
「くっ」
省吾は黙った。
「・・・」
さて、ああは言ったが、どうしたものか。
まるでいい案が浮かばない。
「青菜様・・・その少し気になることが」
「どうした?」
「あれってハチですよね」
「あぁ、そうだな」
「ハチミツ・・・死ぬ前に食べたいな」
「縁起でもないこと言うな!」
「ひゃん」
ミクリは頭を押さえるような素振りを見せる。
「ん?」
俺はあることを閃く。
「何か気づいたようですね、青菜様」
「あぁ、上手く行くかどうか分からないが
やってみる価値はあると思う」
「早くやってくれ!大生は死にたくないんだ!」
「面倒をかけてすまないが、ミクリ。
省吾の顔を抑えててくれ」
「分かりました」
ミクリは省吾の顔を手で覆う。
「おおっ、見えない!」
「アルトラズ!」
俺は大監獄のカギを起動する。
虫かごを作り出して、その中にハチを閉じ込める。
「どうなったんだ、大生にも教えてくれ」
「もう、目を開けていい」
「それは?」
「虫かごだ」
「いや、みれば分かるがナゼ?」
「ハチには帰巣本能がある。
もしかしたら、辿れば行けるんじゃないかって思ってな」
「だが、巣が正解かどうかなんて」
「根拠はある」
「根拠?」
「道が変動するなら、
そんな場所に巣を作れば壊れるだろう。
となると、変動しにくい場所に巣をつくる筈だ。
それは何処か、恐らくは家屋。
入り口か出口、どっちかには行けると思ってる」
「おぉっ」
「だが、大きな木とかあれば話は別だがな」
「それじゃ失敗するかもじゃんか!」
「どうせ、このままここに居てもらちが明かないんだ。
1つずつ試して行こうぜ」
「それは・・・そうだが」
「ハチにはひもをくくりつけてある。
見失う心配はない」
「やりましたね、青菜様」
「まだ、やったかどうかは分からない。
正解のゴールへたどり着いたら、もう一度言ってくれ」
「分かりました!」
ミクリは微笑む。
「さぁ、行こう」
俺たちはハチに案内を頼んだ。
高く飛ばれると道を案内するどころの話では無くなるので、
俺たちと近い高さに飛んでもらう。
紐の長さを調節すれば可能だ。
ハチのお陰で、俺たちは離れ小屋にたどり着くことが出来た。
「ここは・・・」
「知ってるのか、省吾」
「ノックしても出ないんですよ」
「試してみても?」
「どうぞ」
俺は扉をノックする。
しかし、返事は無かった。
「言った通りでしょう?」
「中に誰も居ないのか?」
「そういうわけではなく、警戒心がとても強いんです」
「そういうことか」
「知り合いでないと開けてくれなくて」
「困ったな」
俺はどうしようか悩む。
「従私に考えがあります」
「頼めるか?」
「任せてください」
ミクリは構える。
「・・・」
ごくりと俺は唾を飲み込む。
「やあああっ!」
ミクリの背中から赤いオーラが出る。
凄い気迫だ、その勢いのまま手刀を繰り出す。
金属摩擦音のような音が出る。
「おおっ!」
まさかの力技で扉を開けるとは思わなかった。
「痛いです」
ミクリはとても痛そうだ。
「音だけかい!」
雰囲気はあったのに。
「扉がとっても硬いです。
豆腐ぐらいの硬さでしたら従私でも切れるのに」
「そんな扉はねぇ」
「恐らくですが、扉の後ろに根を張ってるのかと」
「根を張る?」
「大生が思うに、植物の根が絡み合って強度を増してるのかと」
「なるほど」
それならミクリが切断できなかったのも頷ける。
いや・・・彼女は戦闘向きじゃないし。
そもそも無理か。
「燃やしてしまうのはどうでしょう。
それなら中に入れますよ!」
「焼死体を作る気か?」
「すみません、従私はうっかりしてました」
彼女は苦笑する。
「ひとまず後回しだな、アイディアが出ない」
「従私も賛成です」
「大生も」
「それじゃ、戻るか」
せっかく迷路を突破したのに、
何も成果が無かったのは時間を無駄にした気がして落ち込む。
だが、人が居ると分かっただけでも良しとするべきか。
後回しにするだけで、必ずここを攻略すると心に誓い戻ることを選択した。
庭園を出て、通路に出る。
近くには浴室と中庭への道がある。
「青菜様、もう22時を過ぎました」
「もう、そんな時間か」
どうりで空が暗いと思った。
「へぇ、正確な時間が分かるんだな」
省吾が驚く。
「・・・」
くぅと、可愛らしいお腹の音が鳴る。
「ミクリ・・・お前」
「恥ずかしいです」
「お腹の音で時間を図ったな!?」
「はい」
「なるほど、正確なわけだ」
省吾が笑う。
「青菜様、そろそろ就寝なさっては?」
「そうだな、少し疲れて来た」
「従私が見張ってますので、どうか安心してお眠りください」
「2時間ほど経ったら起こしてくれ」
「ですが、それだと熟睡には程遠いかと」
「お前たちも眠りたいだろう。
俺だけが睡眠をとるわけにもいかない」
「そんな、従私はディセトの1人。
そんな気遣いは十分ですよ」
「そうはいってもな」
どう見ても人間にしか見えない。
俺は聖人君子ではないが、人並みには気遣いはあると思ってる。
俺だけ眠るというのも気が引ける。
「とにかく2時間だ、わかったな」
「仰せの通りに」
ミクリは礼儀正しく頭を下げる。
「随分と行儀がいいんだな、彼女は」
「どうやらそういう性格らしい」
「ふぅん」
省吾は納得したようだ。
「それじゃ、先に眠らせてもらう」
「おやすみなさいませ、青菜様」
「おやすみ、客人」
「あぁ」
俺はそうして2時間ほど眠りにつく。
「ちゅっ」
ほっぺに何か柔らかい感触が。
「おわっ!」
俺は飛び起きる。
「おはようございます、青菜様」
「お前何した?」
「男性が起きるのに一番いいのはホッペにチューだと聞いたもので」
「間違ってるよ」
「ごめんなさい、嫌でしたか?」
「嫌ってわけじゃないんだが」
「それでは嬉しかったですか?」
「いいから、ミクリも寝てくれ」
俺は恥ずかしくて誤魔化す。
素直に嬉しいというのは何だか気恥ずかしかったのだ。
「分かりました、
それでは主人の前で無礼ではありますが、
横にならせて頂きます」
ミクリは地面に横たわる。
「俺が寝てる間、何してた?」
「別に何も」
「そうか」
「・・・」
沈黙、静かな時間が流れる。
何もすることなく2時間が経過する。
「そろそろ起こさないとだな」
「もう、2時間経ったのか?」
「多分な、頭の中で数えてたから性格とは言えない」
俺が居た現代だったら正確な時間が分かるだろう。
でも、こっちの世界では正直わからない。
だけど、念のため3時間数えていたから大丈夫だろう。
少し多めにしておいた。
「ふっ、優しいんだな」
「何の話だ?」
「大生の思い過ごしかもな」
「・・・」
彼も数えてたんだろう。
まぁ、一緒に居るんだからバレるか。
「ほら、起こしなよ」
「ミクリ?」
俺は彼女を揺する。
「ん・・・?」
「眠いだろうが、我慢してくれ」
「あ・・・おはようございます青菜様」
「それじゃ次は大生だな、ちゃんと2時間経ったら起こしてくれよ?」
「あぁ」
「それじゃ、おやすみ」
省吾はさっさと眠りにつく。
「何だか多く眠ってしまった気がします」
「気のせいだよ」
「そうですか、従私はうっかりさんですからね」
「かもな」
「青菜様・・・肩を少し借りても良いですか?」
「別に構わないが」
「それでは失礼して」
ミクリが俺の肩に頭を乗せる。
「やってみたかったのか?」
「はい、少し」
「もっと頼りがいのある男だったら嬉しいんだろうけどな」
そうしたら包容力で安心させられるのになと思う。
俺は残念ながら、そこま出来た男では無いのだ。
「そんなことないです、青菜様だから良いんです」
「そうか?」
「そうですよ」
「それならいい」
「んふふ」
ミクリは微笑む。
何が楽しいんだか。
まぁ、俺も笑ってるからお互い様か。
それ以上は会話することなく、
省吾が起きるまで静かに黙っていた。
植物が生い茂っており、通りにくい。
「仕方ないか」
俺は先ほどのレモンを使う。
すると植物は枯れるが、もうレモンの汁は残ってない。
使い物にならないだろう。
「ここ・・・入るんです?」
省吾がそわそわしてる。
「入るに決まってるだろう、どうしたんだ一体」
「大生は・・・待っていても?」
「また怒鳴って来るのか?」
「そういうわけではないですが」
「まぁ、とりあえず俺たちだけ入るか」
「いえ、やはり大生も入ります」
「好きにしてくれ」
俺は寝室の中へと入って行く。
「うぅううううう・・・」
唸り声をあげてる女性がそこには居た。
身長は172cmぐらいだろうか。
体型は細身で、バストはcカップだと思う。
体重は52kgぐらいだと思えた。
派手なドレスを着てる。
宝石をじゃらじゃらとつけて、これ見よがしに金持ち感がある。
頭はソフトクリームみたいな髪型をしてる。
一番変わってるのは背中からヒマワリが生えてることだろう。
「大丈夫か」
「近寄るな、薄汚れた貧民が!」
彼女はこちらを見て開口一番、暴言を吐き捨てる。
「そんな言い方無いだろ?」
そんな態度に俺はむっとする。
「うぅううう」
彼女は苦しそうだ。
「助けに来たんだ」
「じゃあ、早くしろ私様(わたしさま)を助けるんだろう!」
そう言う彼女の背中からヒマワリの種が落ちる。
すると、種が割れて中から白濁液が滴り落ちる。
「うっ」
生肉が腐ったような香りがする。
思わず鼻を抑えたくなる。
「この場は一旦、下がりましょう青菜様」
「でも」
「病気で苦しんでる時に会話するのは辛い筈です、青菜様よりも虚位(きょい)な存在ですが、ここは従私の話を聞いてくれると嬉しいです」
「あぁ・・・」
ミクリの言う通りだと思い、廊下にいったん移動する。
「かつては美しい姿をしていたのに嘆かわしい」
「省吾、知ってるのか?」
「えぇ、案内人ですので」
「どんな人なんだ?」
「木霊優身(もくれい・ゆみ)」
「ゆみ・・・それが彼女の名前か」
「容姿が綺麗で、男性を惹きつける存在です。
パーティーなどでもダンスに誘われる光景を何度か目撃しています」
「モテるのか」
「はい」
「・・・」
モテる自信があるから、人に対してキツイ態度を取るのかもしれない。
これぐらいじゃ、人気は揺るがないのだと。
「自分自身を優れた存在だと疑わず、高慢な態度を取る人です。
一人称で俺様という言葉があるでしょう?」
「あるな」
「それの女性バージョンということで私様だと名乗ってるのです」
「なるほど」
「この館の娘です」
「関係者か」
「はい」
「なんとなく人物像は見えて来たな」
「話は逸れますが、体調は平気ですか?」
「俺のか?いや・・・なんともないがどうしてだ?」
「花粉を浴びてたので」
「あぁ、平気だ」
そういえばそうだったな。
でも、体調に目立った異常は感じられない。
「それなら良かったです」
省吾はニコっと笑う。
「さて、何かいい案はあるか?」
俺は2人に尋ねる。
「従私が思うに、切断はどうでしょうか?」
「ダメだと思う、先ほどの毒蝮が痛がる話をしていたからな。
共通してると思う」
「そういえば・・・すみません余計な一言でした」
「いや、発言自体は悪くない。怒鳴ったりしないから思いついたらドンドン言って欲しい。いいな、ミクリ」
「青菜様・・・分かりました」
「省吾はどうだ?」
「うーん、他にいい案が無いな」
先ほどのレモンの一件があったので他にも無いかと思ったが、ネタ切れらしい。
「あっ」
「どうした、ミクリ」
「そういえば聞いたことがあります。
熱湯をかけると植物のタンパク質が変化するのだとか。
それによって成長が阻害されると」
「人間と同じように植物も火傷するのかもしれないな」
俺はそういう風に考えた。
「大生も悪くない案だと・・・ただ」
「ただ?」
「熱湯はどう仕入れるので?必要なのは熱と水分です」
「熱はどうにか出来る自信がある」
「じゃあ、後は水ですね客人」
「それなら俺の腕を切断して、血液を集めるとかどうだ?」
庭師のハサミを使えば切れる筈。
そう考えてのことだった。
「ダメです!」
瞬息ほどの速さでミクリは俺を止める。
「だが、水が無いだろう」
この場では口にしなかったが、切り傷ならミクリの能力で治せるだろう。
という安易な考えもあった。
「切り傷程度ならば死ぬほどのもではありませんし、すぐに回復するでしょう。ですが、痛みは残ります・・・それはとても悲しいことです」
「悪かったよ・・・でも他に案があるのか?」
ミクリが切羽詰まった顔をするので引き下がる。
「あの・・・それでしたら、その・・・従私に案が」
ミクリがもじもじする。
「どうしたんだ?」
俺は気になって尋ねる。
「唾液を集めれば・・・いいのではと」
「え・・・あぁ・・・」
何だか変な気分になる。
「それなら痛みは無いですね。
先ほど使い切った竹の水筒があるのでこれに」
「あのっ!見ないで貰えると・・・嬉しいです」
「わ、分かった」
「大生も」
俺たちは2人して後ろを向く。
まるで生着替えしてるかのような緊張感がある。
しばらく時間が経ってくると、向こうから声を掛けられる。
「もう・・・大丈夫です」
ミクリの顔は真っ赤になり、恥ずかしそうだ。
これで水分は確保できた。
「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」
俺は水筒を受け取る。
「どうやって熱湯を作るんですか、青菜様?」
「中庭に行こう」
「分かりました」
俺たちは中庭へと移動する。
「ついたが何をするんだ?」
「この部屋には日光があるだろう。
それで湧かそうと思ってな」
「なるほど」
2人は俺の考えを理解してくれたようだ。
日光が一番強く入る所に竹を置く。
「これで待っていれば熱湯が作れますね青菜様」
「上手く行くといいが」
日光で温めてる時、不意に影が現れる。
「青菜様・・・」
「分かってる」
先ほどはアルトラズの能力で日光を遮っていた。しかし、今回はそうではない。
ということは怪物たちが動き出すということだ。
「きしゃーーーーっ!」
花の怪物たちが動き出す。
2体居る、あれでは片方を切断しようとする間に攻撃されてしまう、今回はハサミは使えないだろう。
「どうしましょう、青菜様」
「俺に任せろ、水はまかせた」
「分かりました」
「だ、大生は隠れてるよ」
省吾は怯えて影が濃い部分に隠れる。
影が濃いと、植物たちが眠りにつくから来ないだろうと判断したんだ。
そのアイディアは悪くない。
だが、今回の作戦を成功させるに当たって、ミクリと俺は危険な目に合うのは避けられないが。
「だが、距離を置いてもらった方が都合がいい」
遠慮なく能力を使える。
「きしゃーーーっ!」
「アルトラズ!」
俺は大監獄のカギを起動する。
手錠を出現させて、植物の茎に手錠をかける。
そして、もう一体にもつける。
「・・・!」
植物の怪物たちは互いに足を引っ張る。
手錠で繋がってる所為で思うように動けない。
知恵があれば工夫の仕方もあるんだろう。
まるで二人三脚みたいに互いを邪魔し合う。
「これでしばらくは大丈夫だろう」
「青菜様、熱湯が完成しました」
「量は十分か?」
「え・・・そうですね、2、3回は使えるかなと」
「よし、こいつらで試してみるか」
俺はミクリから水筒を借りて不自由な怪物たちに向かって熱湯をかける。
すると、みるみるうちに枯れていく。
「やりましたね、青菜様」
「これなら、あの嬢ちゃんにも効きそうだ」
「凄いですね、大生は感心しました」
隠れていた省吾が出てくる。
「寝室に向かおう」
「はい」
俺たちは寝室に向かう。
「うぅううう・・・」
唸り声をあげてる優身を見つける。
「背中を見せてくれ」
「うるさい、この変態!」
「助けに来たのに、その態度は無いだろ?」
「黙れ!」
優身は体調が悪い筈なのに殴りかかってくる。
これでは凶暴な獣と変わらない。
「悪いが抑えてくれ、頼むミクリ」
「ごめんなさい、助けるためですので」
「離せ!」
「省吾も手伝ってくれ」
「大生も?」
「当たり前だろう」
「了解・・・」
2人して抑え込む。
「くそ、格下共が私様に触るな!」
相当性格が悪いな。
容姿がいいだけに余計に思ってしまう。
「熱湯をかけるぞ、少し熱いかもしれないが我慢してくれ」
俺は背中に熱湯をかける。
「ぐぅうう・・・」
優身は熱そうにする。
けれど、ヒマワリは枯れていく。
「よし・・・これなら大丈夫だろう」
「痛みはありませんか?」
ミクリがさりげなく彼女の身体に触れる。
あれなら火傷の傷は治るだろう。
「そんなにべたべた触らないで、友達でもないのに」
「あっ」
優身はミクリの手を払いのける。
「さて、助けたのは理解できるな?」
「ふん」
「ここから出るには大勢の人の助けが必要だ。
あんなにも協力して欲しいんだが構わないだろう?」
「なんで?」
「なんで・・・って話聞いてたか?」
「皆で協力しないと出れないんでしょ、聞いてたわ。バカにしないでよね、全く・・・」
「それならどうして」
「助けたのはアンタたちが勝手にやったこと。
私様が恩を返す必要は何処にも無いってこと」
「あのなぁ・・・」
「それとも何、私様が間違ってる
っていいたいの?」
「ここから出たくないのか?」
「ここは木霊館、言わば自分の家よ。
どうして私様が出る必要があるのよ」
「実感しただろう、植物が身体から生えるなんて異常だ、そんな場所に居たいと思わないのが普通だ」
「他の場所ではならない保証はあるの?」
「いや・・・それは分からないが」
「なら、流行り病みたいに他の国に行ってもなる可能性があるんでしょう、それなら何処に居ようとも危険性は変わらない筈よ」
「・・・」
優身の言い分にも一理あると思えた。
「黙っちゃって、張り合いが無いわ」
しかし、こちらとしても出ないといけない。
今のところは与えられた役割に過ぎないが、それでも俺の役割に変わりはないのだ。
果たしたいと思う。
「この館の主が原因なんだ、その人さえ止めれば全ての問題は解決する」
「この館の主・・・?」
「あぁ」
「っ・・・・!」
優身は頭を押さえる。
「痛むのか?」
「うるさい・・・アンタの所為よ」
「俺は関係ないだろう」
「うるさい、とにかく関係あるのよ」
「やれやれ、面倒な女だ」
俺はため息をつく。
「協力してやってもいいわ」
「その上から目線が気に食わないが、話をいったん聞こう」
「カバンをさがしてるの」
「カバン?」
「そうよ、お気に入りなの」
「見たら分かるものなのか?」
「すぐ分かる筈よ、ハイブランドの、あんたたちじゃ一生かけても手に入らないような凄いやつなんだから」
「カバンなんてどうでもいいだろう」
「私様にとっては大事なことなの。
いいわ、別に協力しなくても。そうよね、私様はあんたたちの願いを断ったもの、あてつけしたい気持ちも分かるもの」
「そういう訳じゃなくて」
「いいわ、勝手にする」
優身は部屋を飛び出して自分で探しに行った。
「くそ、みんな付いてきてくれ」
「分かりました」
「だ、大生もですかぁ?」
俺たち3人は慌てて追いかける。
優身が入ったのはクローゼットルームだ。
普通の家には置いてないような、
服だけを収納する部屋のことだ。
「無いわ、何処に行ったのかしら」
優身は必死になって探す。
「この屋敷には化け物がうろついてるんだ」
追いついた俺は彼女を説得しにかかる。
「だから?」
「大人しくしてろってことだよ」
「嫌よ」
「あのなぁ、俺だって別に嫌いだから
言ってるんじゃなくてだなぁ」
「じゃあ、貴方が守ってくださる?」
「どうして俺が」
「守ってくれるというのなら話を聞く価値が
あるでしょう?」
「それじゃ、守るって言ったら大人しくしててくれるのか?」
「それはまた別の話よ」
「はぁ・・・」
困ったな。
「本人が平気だと言ってるのですから無理して
守ることもないのではないですか?」
「それもそうだな」
別に俺はヒーローを気取りたいわけじゃないしな。
こうもウザがられると、逆に守るのがかえってこちらの正義を
振りかざしてるようにも思えてくる。
「よろしいので、客人?」
「悪いが俺たちは勝手に行動する。
1人でも大丈夫だよな?」
「うるさい人たちが消えてくれて逆に嬉しいわ。
さっさとお行きなさい」
「そうするよ」
俺たちはクローゼットルームを後にする。
「それにしても綺麗な人だった。
客人もそう思いませんか?」
「まぁ・・・見た目だけならな。
でも、俺とは合わないよ。
ああも、きつい態度を取られると気分が悪い」
どんなに美人だろうと、
ワガママを受け入れる器が大きくはない。
「あはは・・・」
ミクリは苦笑する。
「・・・」
ゆらりと影が動く。
「何だ?」
俺は気になって注視する。
すると、それは人影のようにも思えた。
「青菜様」
「分かってる」
俺はその人影を追いかけた。
追いかけていくと、そこには庭園が広がっていた。
植物が生い茂り、迷路のようになっていた。
下手すると遭難しそう。
壁の高さもあり、余計にそう思える。
「これは困りましたね、客人」
「青菜様、どうしましょうか」
「うかつに動くと遭難しそうだ」
「従私に閃きが舞い降りてきました!」
ミクリは目を輝かせる。
「教えてくれ」
「迷路と言えば、左手の法則です」
「何だそれ」
俺は聞き返す。
「壁に左手を添えて、歩くだけです。
左手についていく感じですね。
コツは手を離してはいけないことです」
「大生も聞いたことがある」
「2人して言うのなら、正しいかもしれない。
試しにやってみようか」
「はい!」
ミクリの案を取り入れて、さっそく実行に移す。
しかし、いつまで経ってもゴールへたどり着けそうにない。
「大生だけですか・・・何かが変だと感じます」
「いや、俺もだ」
「従私も変だと感じました」
「じゃあ、いっせーので言うぞ」
「「「せーの、道が動いてる!」」」
3人でハモる。
「BLTサンドみたいに完璧に揃いました!」
ミクリが誇らしげに言う。
「それは揃ったで合ってるのか?」
俺は不思議に思う。
「あはは、いいんじゃないですか?」
省吾は笑う。
「それにしても、道が変動するのなら、
地図を書いても無駄そうだぞ」
何か法則でも見つけられればいいのだが。
数学者とかなら、何かに気づけるかもしれないが、
生憎と俺はそこまで賢くない。
「どうしましょう、このまま餓死するのでしょうか?」
「そんなのは嫌だ、大生は死にたくない!」
「まだ、死ぬと決まったわけじゃない。
案は出し尽くしてないだろう?」
「それはそうだが、
でも悠長に構えてたら死ぬんだぞ。
少しくらいは焦ったらどうなんだ?」
「焦ったところで案は出ない。
俺はそういう面倒は嫌いなんだ」
「くっ」
省吾は黙った。
「・・・」
さて、ああは言ったが、どうしたものか。
まるでいい案が浮かばない。
「青菜様・・・その少し気になることが」
「どうした?」
「あれってハチですよね」
「あぁ、そうだな」
「ハチミツ・・・死ぬ前に食べたいな」
「縁起でもないこと言うな!」
「ひゃん」
ミクリは頭を押さえるような素振りを見せる。
「ん?」
俺はあることを閃く。
「何か気づいたようですね、青菜様」
「あぁ、上手く行くかどうか分からないが
やってみる価値はあると思う」
「早くやってくれ!大生は死にたくないんだ!」
「面倒をかけてすまないが、ミクリ。
省吾の顔を抑えててくれ」
「分かりました」
ミクリは省吾の顔を手で覆う。
「おおっ、見えない!」
「アルトラズ!」
俺は大監獄のカギを起動する。
虫かごを作り出して、その中にハチを閉じ込める。
「どうなったんだ、大生にも教えてくれ」
「もう、目を開けていい」
「それは?」
「虫かごだ」
「いや、みれば分かるがナゼ?」
「ハチには帰巣本能がある。
もしかしたら、辿れば行けるんじゃないかって思ってな」
「だが、巣が正解かどうかなんて」
「根拠はある」
「根拠?」
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そんな場所に巣を作れば壊れるだろう。
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それは何処か、恐らくは家屋。
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「おぉっ」
「だが、大きな木とかあれば話は別だがな」
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「どうせ、このままここに居てもらちが明かないんだ。
1つずつ試して行こうぜ」
「それは・・・そうだが」
「ハチにはひもをくくりつけてある。
見失う心配はない」
「やりましたね、青菜様」
「まだ、やったかどうかは分からない。
正解のゴールへたどり着いたら、もう一度言ってくれ」
「分かりました!」
ミクリは微笑む。
「さぁ、行こう」
俺たちはハチに案内を頼んだ。
高く飛ばれると道を案内するどころの話では無くなるので、
俺たちと近い高さに飛んでもらう。
紐の長さを調節すれば可能だ。
ハチのお陰で、俺たちは離れ小屋にたどり着くことが出来た。
「ここは・・・」
「知ってるのか、省吾」
「ノックしても出ないんですよ」
「試してみても?」
「どうぞ」
俺は扉をノックする。
しかし、返事は無かった。
「言った通りでしょう?」
「中に誰も居ないのか?」
「そういうわけではなく、警戒心がとても強いんです」
「そういうことか」
「知り合いでないと開けてくれなくて」
「困ったな」
俺はどうしようか悩む。
「従私に考えがあります」
「頼めるか?」
「任せてください」
ミクリは構える。
「・・・」
ごくりと俺は唾を飲み込む。
「やあああっ!」
ミクリの背中から赤いオーラが出る。
凄い気迫だ、その勢いのまま手刀を繰り出す。
金属摩擦音のような音が出る。
「おおっ!」
まさかの力技で扉を開けるとは思わなかった。
「痛いです」
ミクリはとても痛そうだ。
「音だけかい!」
雰囲気はあったのに。
「扉がとっても硬いです。
豆腐ぐらいの硬さでしたら従私でも切れるのに」
「そんな扉はねぇ」
「恐らくですが、扉の後ろに根を張ってるのかと」
「根を張る?」
「大生が思うに、植物の根が絡み合って強度を増してるのかと」
「なるほど」
それならミクリが切断できなかったのも頷ける。
いや・・・彼女は戦闘向きじゃないし。
そもそも無理か。
「燃やしてしまうのはどうでしょう。
それなら中に入れますよ!」
「焼死体を作る気か?」
「すみません、従私はうっかりしてました」
彼女は苦笑する。
「ひとまず後回しだな、アイディアが出ない」
「従私も賛成です」
「大生も」
「それじゃ、戻るか」
せっかく迷路を突破したのに、
何も成果が無かったのは時間を無駄にした気がして落ち込む。
だが、人が居ると分かっただけでも良しとするべきか。
後回しにするだけで、必ずここを攻略すると心に誓い戻ることを選択した。
庭園を出て、通路に出る。
近くには浴室と中庭への道がある。
「青菜様、もう22時を過ぎました」
「もう、そんな時間か」
どうりで空が暗いと思った。
「へぇ、正確な時間が分かるんだな」
省吾が驚く。
「・・・」
くぅと、可愛らしいお腹の音が鳴る。
「ミクリ・・・お前」
「恥ずかしいです」
「お腹の音で時間を図ったな!?」
「はい」
「なるほど、正確なわけだ」
省吾が笑う。
「青菜様、そろそろ就寝なさっては?」
「そうだな、少し疲れて来た」
「従私が見張ってますので、どうか安心してお眠りください」
「2時間ほど経ったら起こしてくれ」
「ですが、それだと熟睡には程遠いかと」
「お前たちも眠りたいだろう。
俺だけが睡眠をとるわけにもいかない」
「そんな、従私はディセトの1人。
そんな気遣いは十分ですよ」
「そうはいってもな」
どう見ても人間にしか見えない。
俺は聖人君子ではないが、人並みには気遣いはあると思ってる。
俺だけ眠るというのも気が引ける。
「とにかく2時間だ、わかったな」
「仰せの通りに」
ミクリは礼儀正しく頭を下げる。
「随分と行儀がいいんだな、彼女は」
「どうやらそういう性格らしい」
「ふぅん」
省吾は納得したようだ。
「それじゃ、先に眠らせてもらう」
「おやすみなさいませ、青菜様」
「おやすみ、客人」
「あぁ」
俺はそうして2時間ほど眠りにつく。
「ちゅっ」
ほっぺに何か柔らかい感触が。
「おわっ!」
俺は飛び起きる。
「おはようございます、青菜様」
「お前何した?」
「男性が起きるのに一番いいのはホッペにチューだと聞いたもので」
「間違ってるよ」
「ごめんなさい、嫌でしたか?」
「嫌ってわけじゃないんだが」
「それでは嬉しかったですか?」
「いいから、ミクリも寝てくれ」
俺は恥ずかしくて誤魔化す。
素直に嬉しいというのは何だか気恥ずかしかったのだ。
「分かりました、
それでは主人の前で無礼ではありますが、
横にならせて頂きます」
ミクリは地面に横たわる。
「俺が寝てる間、何してた?」
「別に何も」
「そうか」
「・・・」
沈黙、静かな時間が流れる。
何もすることなく2時間が経過する。
「そろそろ起こさないとだな」
「もう、2時間経ったのか?」
「多分な、頭の中で数えてたから性格とは言えない」
俺が居た現代だったら正確な時間が分かるだろう。
でも、こっちの世界では正直わからない。
だけど、念のため3時間数えていたから大丈夫だろう。
少し多めにしておいた。
「ふっ、優しいんだな」
「何の話だ?」
「大生の思い過ごしかもな」
「・・・」
彼も数えてたんだろう。
まぁ、一緒に居るんだからバレるか。
「ほら、起こしなよ」
「ミクリ?」
俺は彼女を揺する。
「ん・・・?」
「眠いだろうが、我慢してくれ」
「あ・・・おはようございます青菜様」
「それじゃ次は大生だな、ちゃんと2時間経ったら起こしてくれよ?」
「あぁ」
「それじゃ、おやすみ」
省吾はさっさと眠りにつく。
「何だか多く眠ってしまった気がします」
「気のせいだよ」
「そうですか、従私はうっかりさんですからね」
「かもな」
「青菜様・・・肩を少し借りても良いですか?」
「別に構わないが」
「それでは失礼して」
ミクリが俺の肩に頭を乗せる。
「やってみたかったのか?」
「はい、少し」
「もっと頼りがいのある男だったら嬉しいんだろうけどな」
そうしたら包容力で安心させられるのになと思う。
俺は残念ながら、そこま出来た男では無いのだ。
「そんなことないです、青菜様だから良いんです」
「そうか?」
「そうですよ」
「それならいい」
「んふふ」
ミクリは微笑む。
何が楽しいんだか。
まぁ、俺も笑ってるからお互い様か。
それ以上は会話することなく、
省吾が起きるまで静かに黙っていた。
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