チート能力「看守」を使って異世界で最強と言われる

唐草太知

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1-3 木霊館 

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木高省吾の案内の元、俺たちは進み続ける。
「ここから近いのか?」
「・・・」
けれど木高省吾は返事をしない。
「おい」
「悪い・・・何も話せないんだ」
「・・・」
聞き出すのは難しいと判断して俺は黙ってついて行く。
本当にラットボーイへ繋がる情報を手に入れることが出来るのだろうか?
「ついたぜ、ここが木霊館だ」
歩いて3時間ほど経っただろうか。
かなり歩かされた印象だ。
木高省吾に案内された場所は森の中にある洋館だった。
周囲が木々に囲まれてる所為か、暗い印象だ。
「ここが・・・木霊館」
「さぁ、入ってくれ・・・大生(だいせい)を案内人としての役目を果たすために」
木高省吾は演技じみたセリフを吐く。
声に抑揚をつけて、身振り手振りが大きい。
「お邪魔します」
俺は部屋の中へ入る。
「従私も失礼します」
「・・・」
こうして3人が館の中へと入って行く。
「すまない・・・大生は連れてこいと言われただけなんだ」
突然、木高省吾が謝りだす。
「どうして謝る」
「すまない・・・許してくれぇぇぇぇ」
それは懺悔に近かった。
膝をついて、許しを請う姿は酷くみっともなかった。
「俺は理由を聞いてるんだ、どうして謝るんだ!」
俺は何かをされたのか?
記憶がまるで無い。
「お願いします、従私たちに理由を教えてくれませんか?
そうでないと、こちらも急に謝られて困ってしまいます」
「もう、この館からは出られないんだ」
「出られないだって?」
「ごめんよぉ・・・ごめんよぉ・・・」
木高省吾は何度も謝って来る。
「扉が閉められてるのか?」
「確かめてみましょう、青菜様」
「あぁ」
俺は入ってきた玄関の扉に触れる。
けれど、あっさりとドアノブを回すことが出来た。
「あれ、開きました」
「なんだよ、大げさに謝るものだから閉じ込められたのかと思ったじゃないか。省吾も性格悪いぜ、初対面の人物にドッキリ仕掛けようとしてるんだからな」
「ごめんよぉ・・・ごめんよぉ・・・」
木高省吾は何度も謝って来る。
「話は・・・通じそうにないな。
放っておいて木霊館を後にするか」
「え、いいんですか?」
「場所は教えてもらったしな。
こんな薄暗い場所で寝泊まりするよりも先ほどの街でホテルを探した方が身体に良さそうだ」
「それはそうかもしれませんが、遠いですよ?」
「こんな不気味な所で俺は寝泊まりする気は無い」
「分かりました、青菜様の言う通りにします」
ミクリは素直に従うようだった。
「さてと」
俺は外に出ようとした。
その時だった。
「出ないでくれ!」
省吾が叫ぶ。
「え?」
しかし、すでに遅かった。
俺の足はもう外に出てるのだから。
「あぁ、呪いが発動してしまう!」
省吾は怯えてる。
「うおぉおおおおおおおお!」
俺は思わず叫んだ。
それもその筈だ、何故なら俺の身体から植物が生えだしたのだから。
「青菜様!」
ミクリは室内に居たから影響はまだ出てない。
でも、俺はすでに腕半分は植物に覆われていた。
見た目はカラフルな花たちだったが、それが腕から出てるというのは酷く不気味だった。
「引っ張るんだ!」
「はい!」
俺はミクリに引っ張られる。
「嘘だろ・・・?」
俺の足にはすでに根が生えてる。
このまま俺は・・・どうなるんだ?
「大生が助ける!」
木高省吾はノコギリを取り出してきた。
それで足に生えた木の根っこを切断する。
「引っ張れそうです!」
ミクリが思い切り引っ張る。
そのお陰で何とか助かる。
「ありがとう2人とも」
俺は扉を閉める。
「怪我はありませんか?」
「根っこを切断されただけだからな、俺の傷は無いよ」
「良かったです、青菜様に怪我が無くて」
「ごめんよ・・・ごめんよ・・・」
「省吾、説明してくれ。これは一体なんだ?」
俺は腕を見せる。
そこには花が生えたままだった。
「ここの住人は・・・植物に支配されている」
「なんでまた」
「ハッキリとした理由は分からない、だが恐らくは植物たちは栄養を欲してるんだ」
「栄養?」
「寄生植物・・・って聞いたことないか?」
「ヤドリギとか、ラフレシアのことか?」
「そうだ・・・だけどそいつらは同じ植物に寄生して栄養を奪う。だが、こいつらは違う、人間に寄生して栄養を奪うんだ」
「だが種を植えられた記憶はないぞ」
「種なんて必要ない、この館に入った瞬間に呪いが発動するんだからな」
「呪い・・・だって?」
「せっかく寄生したのに栄養を逃がすわけにはいかないからな。この館でじっくりと奪うのさ・・・だから館から逃げようとすればするほど植物の成長は早まる、宿主を犠牲にしてな」
「だが、省吾。お前は違うはずだ。
俺たちを案内出来ていたじゃないか」
「大生は案内人だからな、特別なのさ」
「ルアーみたいなものか」
「あぁ」
「ということは人を喰うって噂を流したのはお前か?」
「そうさ、人は好奇心を持つ生き物だからな。
怖い、危険だから来るなと言えば言うほど来たがる連中は多い。心霊スポットが良い例だろう。大生は役割を果たすためにしたまでに過ぎない」
「謝っていた理由が理解できたよ」
「巻き込んですまない・・・許されることではないが、
大生も怖かったんだ・・・本当にすまない」
この男も犠牲者なのだろうと思えて来た。
きっと悪い奴が居て、そいつに脅されてるのだろう。
こいつも仕方なくやったんだ。
多少なりとも騙された怒りはあるが、堪えることにした。
大柄の男が涙目になって謝る姿は小さく見える。
俺は許してやろうって気になってる。
俺は甘い人間なんだなと思う。
「怒るのは面倒だ、気にしなくていい」
「ありがとう・・・許してくれて」
省吾は俺の手を握って、下を向いていた。
涙を流して、反省してるように見えた。
「分かったよ、もういい加減にしてくれ」
俺は手を離す。
「本当にすまなかった」
省吾はようやく手を離してくれた。
握力が結構あるから痛いんだよな。
そんなどうでもいいことを思う。
「ふふっ」
「どうしたんだ」
「従私の主人が優しそうな方で良かったなって」
「止めてくれよ、俺はヒーローって柄じゃない」
「でも、人を許す心を持ってる方です」
「照れくさいから止めてくれ」
俺は人を救いたいとか、そういうカッコいい夢を持って生きてる訳では無いのだ。彼女の期待に応えられる自信が無く、そんな風に言ってしまった。
「分かりました、青菜様」
ミクリはとても笑顔だった。
俺はその顔をまともに見れず、顔を真っ赤にしてしまう。
「なぁ、案内人」
「大生ですか?」
「あぁ、そうだ、省吾だ。ここから出るのはどうしたらいい?」
「それは・・・」
省吾は言いにくそうな顔をする。
「何か知ってるんだな、教えてくれ」
「だけど」
「俺は必ずここから出る、面倒ごとは嫌いなんだ。
早く片づけたい・・・だから知ってることは教えてくれ」
「でも」
「迷惑はかけない、約束する」
「館の・・・主人を」
「館の主人?」
「旦那様を倒せば・・・もしかしたら」
「悪いな、案内人ってことは雇い主なんだろう。
自分の主を倒して欲しいってのは言いにくかった筈だ。
教えてくれてありがとう」
「いえ・・・そんな」
「俺は倒しに行く、省吾。あんたはどうする?」
「だ、大生もついて行きます・・・戦闘では役立ちませんが、
案内だけなら・・・それが案内人としての務めだと思うので」
「従私もついていきますよ、青菜様」
「皆、ありがとう・・・俺は嬉しいよ」
「それは、こちらのセリフです。
大生を連れて行ってくれることに怒りこそ覚えるのが当然なのに、受け入れてくれることに感謝しています。
改めて、よろしくお願いします」
俺は省吾と握手を交わす。
「いきなりで悪いが、ミクリと話がしたい。
内緒の話なんだ、耳を塞いでもらえるか?」
「えぇ・・・分かりました」
省吾が耳を塞いで、背を向ける。
それを確認した後、俺はミクリに秘密の話をする。
「なぁ、ミクリ」
「なんでしょうか、あっ、分かりました。
耳にふーっと息を吹きかけて従私を辱めたいんですね。
恥ずかしいですが、青菜様のためなら・・・」
「そういうボケはいいから、普通に話をさせてくれ」
「はい・・・」
ミクリは残念そうだ、やって欲しかったのか?
彼女の趣味は理解できそうにない。
「神具の可能性は高いよな?」
「えぇ、そうですね。
人体に花が咲くというのは人の常識から外れてる。
神々の災厄の1つとみて、間違えないと思います」
「となると館の主人が怪しいよな」
「はい」
「何か見た目の特徴は無いのか?」
「特徴ですか?」
「それが分かるだけでも探しやすい筈だが」
「申し訳ありません、それはデナキウス様だけが把握してる情報です。従私からでは気軽に話しかけられる立場にはないので情報を得るのは難しいかと」
「・・・」
ディセトのメンバーは酷くデナキウスを恐れてるように思う。
先生もそうだし、ミクリもそうだ。
何がそうさせる?
「話は以上ですか?」
「あぁ、大体は」
「青菜様」
「何だ?」
「歩くの大変ですよね」
「面倒っちゃ、面倒だが、それが?」
「さぁ、乗ってください!」
ミクリは4つんばいになる。
「俺が悪者に見えるだろ!」
「そんなことないです、さぁ、遠慮せずにどうぞ」
「普通に歩くわ!」
「もう・・耳を開けても?」
さすがに長話し過ぎたか。
待ちきれず、省吾が手を開いていた。
「大丈夫だ」
「それなら良かった」
「従私なら平気なのに・・・」
ミクリはしょんぼりする。
人に役に立ちたい気持ちはありがたいが、
彼女は何処かズレてるようにも思えた。
「それでは主人の部屋を目指しましょう。
大生が案内します」
「分かった」
「正面が主人の部屋で、
左手側が食堂になってます。
右は通路になってて色々な部屋に繋がってます」
「じゃ、正面行こう」
俺は何の迷いも無く進む。
しかし、開きそうにない。
「やっぱり、開きそうにないですね青菜様」
「客人は拒まれる運命にあるのでしょう」
「くそっ!」
俺は蹴飛ばす。
「あぁっ、ダメです青菜様。そんな乱暴に・・・」
「痛ってぇ!」
俺に鈍い痛みが走る。
「樹齢何百年ほどの幹みたいに頑丈だ。
これでは開きそうにない・・・大生の腕でも無理だ」
「ミクリ、お前じゃダメなのか?」
「ごめんなさい、従私は戦闘向きでは無いので」
「・・・」
俺の能力で開くだろうか?
あの時の獣のような力でやればいけるのではと思う。
だが、あれは未知数だ。
周囲への被害が分からない。
俺はヒーローになりたいわけではないが、
誰かに危害を加えることに人並みに嫌悪感を抱く。
なるべくなら避けたい。
まだ俺の能力は未開発だ。
「見てください青菜様、ここに文字が書いてますよ」
「文字?」
俺はそっちの方を見る。
しかしディスレクシアの所為でブレて見えない。
文字が抽象画のようだ。
「7つの鉢植えを供えるべし。
僭越ながらミクリが読まさせて頂きました。
しかし、どういう意味でしょうか?」
「あぁ・・・どうも」
彼女は俺が文字を見えないのを知ってるのか?
いや、ただ単に早く読みたかっただけかもしれない。
考えすぎだ・・・俺のこの病気はバレてない筈だ。
「大生が思うに、この空いたスペースに鉢植えを置くのでは?」
見事に7つ隙間がある。
丁度、鉢植えが入りそうだ。
「この館の何処かにあるってことか。
だが、ここには3人しかいない・・・もしも同時に置くことで起動する仕掛けだったら起動しないんじゃないのか?」
俺はそんな不安を口にする。
「館には他にも人が居ます・・・彼らに協力してもらいましょう」
「場所は分かるのか?」
「案内人ですので」
「それは助かる」
「それでは行きましょうか」
俺たちは木高省吾の案内のもと進んでいく。
玄関から右手側の通路へ行く。
「青菜様、ミステリーハウスという感じでドキドキしますね」
「あんまり、はしゃぐなよ。
転んでも知らないからな」
「大丈夫ですよォ・・・わぁ!」
「ミクリ!」
俺は大監獄のカギを発動する。
右手から手錠を出現させ、ミクリの手にかける。
「あ・・・」
ミクリは宙ぶらりんになる。
けれど俺と手錠で結ばれており、今すぐ落ちる心配は無さそうだ。
「省吾、引っ張ってくれ!」
「あ・・・あぁ!」
慌てて2人で引き上げる。
「助かりました・・・」
道の途中で穴が開いていたのだ。
何処へ通じるか分からず、暗闇で怖い。
「面倒かけやがって」
「すみません・・・でも、助かりました」
「まぁ・・・お前が無事ならそれでよかったよ」
「はい!」
ミクリはこちらに向かって微笑んでくる。
その明るいプロミネンスのような笑みは苦手だ。それが悪意があるものだとは思わないが、かつて同級生が俺を見下すように笑っていたことを思い出すからだ。
「行こうぜ・・・」
「青菜様?」
素っ気ない俺の態度に違和感があったのだろう。でも、特に気にすることは無くついて来てくれる。
「それにしても準備がいいですね。
あの咄嗟の瞬間に手錠を引っかけるなんて」
「え・・・あぁ・・・普段から持ち歩いてるんだ」
「へぇ、変わった趣味を持ってる。
でも、そのお陰で助かったんだから分からないものですね」
大監獄のカギ。
いや、アルトラズの能力で出現させたのだ。
しかし、不自然だったか。
助けるためとはいえ、気をつけなければ。
あまり能力を持ってることを知って欲しくないとデナキウスは言っていたからな。
「それにしてもどうしましょうか、青菜様」
「この道をどうするかだな」
俺の能力では残念ながら道を通ることが出来ない。成長すれば、そうでもないのかもしれないが現段階では難しい。
「あの・・・もしかしたらですが」
「省吾、何か案でも?」
「大生が思うに、植物で道を作ってはどうかと」
「植物で?」
「館から出ようとすると、急激に成長して人間の肉体から生えますよね?」
「そうだな」
「だったら、その急成長を利用して木の根っこで橋を作ってはと」
「なるほど、いい案だと思う」
「良かった、断られるかと」
「さて、どうやって成長させるかだが」
「栄養剤を探しては?」
「それでいこう」
俺たちは省吾の案で橋を作る計画を進行することにした。
「従私も探すの手伝いますよ。
手分けして探しましょう」
「といっても、行ける部屋は現段階では1つしかないんだが」
「すぐに再会出来ましたね、青菜様」
「こう、すぐに再会したら感動もクソも無いな」
「そうですね」
「それじゃ入るぞ、客人・・・準備はいいか?」
「あぁ」
俺たちは部屋に入る。
そこは使用人の部屋らしく、2人用のベットが置いてあった。机も2つ、クローゼットは1つしかない。小さな部屋だ。
色彩は地味で彩りが少ないように思える。
落ち着いた大人の雰囲気と言えば、聞こえがいいだろうか?
「さて・・・栄養剤が何処かにある筈だが」
「あれじゃないか?」
机の上にガラスの小瓶を見つける。
植物の絵が描かれており、それらしいと思えた。
「あれで間違えないだろう」
「それじゃ、頂こうか」
俺はその小瓶に手を伸ばす。
「ダメだ、触れてはいけない!」
案内人が叫ぶ。
「え・・・?」
だが、すでに俺の手には小瓶が握られていた。
「今すぐ手放すんだ!」
「それじゃ、橋が作れないだろう」
「それは、確かにそうだが」
「お前が言ったんだぜ、栄養剤が必要だと」
「とにかく手放してくれ」
「理由を言ってくれ」
「理由は・・・ターゲットにされるからだよ!」
「ターゲット?」
その瞬間、俺の足元にツタが絡まる。
「青菜様!」
「カナムグラか!」
俺は日本生まれ、日本育ちだ。
平和ボケと揶揄されるほど平和な国だと言える。それ自体は誇らしいことだ。
でも、今はそれが足を引っ張ってることになってしまった。ここは敵地なのだ。
もっと疑ってかかるべきだった。
そのことを今になってようやく実感し始めた。
「気をつけろ、そいつは生きてる!」
花粉が俺の顔に吹き付けられる。
「ぐっ」
手で覆うが間に合わず、花粉を浴びてしまう。
顔がかゆい、涙が出る。
目を開けることが出来ない。
「どうすれば、青菜様を助けられますか!?」
「わ、分からない。大生も戦いは得意じゃないんだ」
「従私の能力が戦闘向きだったら・・・」
ミクリが嘆く。
「は・・鋏を探してくれ」
俺はかろうじて言葉にする。
「鋏ですね、分かりました!」
ミクリがハサミを探し始める。
「切れればいいが・・・」
省吾も探し始める。
「ぐっ」
どんどんと絞める力が強くなる。
まるでハムになった気分だった。
「ありました!」
「頼む、切ってくれ!」
「はい!」
ミクリがハサミを入れる。
すると、切断することが出来た。
どうやら強度はそこまで無いらしい。
「きょぉおおおおお・・・・・」
植物の化け物はあっさり死んだようだ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
俺はようやく地上へと舞い降りることが出来た。
「大丈夫ですか、青菜様」
「助かったよ、ミクリ」
「先ほどのお礼です」
「そうか」
「無事ですか?」
「怪我はない」
「良かった」
ミクリが抱き着いて来る。
「無事だってば」
「生きてることを確認したいんです。
今はただ黙って・・・抱き着かれてください」
「・・・」
俺は少しの間、ミクリに抱きしめられた。
「しかし、顔がかゆい・・・綺麗にしたいが水はあるだろうか」
「べろべろ舐めます?」
「犬か!」
「あぅ」
ミクリはしゅんとする。
「栄養剤は手に入ったようで何より」
省吾が近寄る。
「悪いが水を持ってるか?」
「あぁ、持ってるが・・・そうか顔を洗いたいんだな」
「頼む」
俺の顔に水をかけてもらう。
何かの動物の皮で出来た水筒だろう。
「ふぅ」
俺は少し落ち着いた。
「体調に変化は無いか?」
「大丈夫だ、毒があるかと思ったが心配しなくても良さそうだ」
俺は腕を回す。
身体がだるいとかは感じなかったからだ。
「そうか・・・」
「省吾?」
彼は何か考え込む仕草をする。
「悪い、何でもない」
「それならいいが」
「それよりも栄養剤が手に入ったんだ。
使ってみよう」
「あぁ」
俺たちは先ほどの通路に戻る。
そして、玄関で切断した木の根っこを持ってきて、それに栄養剤をかける。
そして穴へと放り投げた。
「大生の考えがあってれば橋が出来る筈」
「頼むぜ・・・」
俺は祈る。
「従私はドキドキです」
ミクリも祈っていた。
ゴゴゴゴゴと地鳴りのような音が鳴る。
すると、植物で出来た橋が出現した。
「おおっ」
これで通れそうだ。
「やりましたね、青菜様」
「あぁ」
「これで案内できる」
「次に進もう」
俺たちは歩き始めた。
「そういえば大生が作ったサンドイッチがあるんだが食べないか?」
「そういえば腹減ったな」
「遠慮せずに食うといい、そっちのお嬢さんもどうだ?」
「従私も食べたいです!」
「それじゃ休憩しようか、大生はそこに座る」
3人は廊下の地面に座って休憩する。
「何味なんだ?」
「オクラ味だ」
「随分と変わってる」
「そうか?意外と美味いぞ」
ねばねばしてて、糸を引く。
栄養価は高く、健康意識の高い人には好評の逸品だ。
そういえば体つきを見るに鍛えてそうだもんな。
なんてことを思う。
「サンドイッチありがとう」
本当は好みでは無かったが、頂いたものに文句はつけられず、つい、そんなことを言ってしまった。
「どうも」
省吾は笑みを浮かべてる。
その顔を見ると嘘ついた罪悪感が芽生える。
「美味しいです、とっても!」
「嬢ちゃんは嬉しそうだな」
「はい!」
ミクリは笑顔だ。
気に入ったのだろうか?
「料理・・・出来るんだな」
「まぁな、身体を鍛えるとなると人に頼むわけにもいかなくてな。大生が作るようにしてる」
「へぇ・・・ん?」
俺は省吾の腕を見て気づく。
「どうしたんだ、
サンドイッチは渡しただろう」
「そうじゃなくて・・・その腕」
「あぁ・・・これか」
「包帯だなんて怪我でもしてるのか?」
「いや、そういんじゃないんだ。
ただ・・・」
「ただ?」
「精神的なものなんだ、気にしないでくれ」
「あぁ・・・」
これ以上、聞いてはいけないような気がして俺は黙る。
「さて、サンドイッチも食べたことだし」
省吾は立ち上がる。
「分かった、行こうか」
俺たちは探索を再開する。
次に向かったのは音楽室だった。
「・・・」
「どうした、省吾?」
「わ、悪い・・・足がすくんで」
「大丈夫か?」
「だ・・・大丈夫」
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「俺が先に行く、後からついて来てくれ」
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その状態で音楽室の扉を開ける。
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「ボケが!」
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「なんだ?」
「執事をこんな所に閉じ込めやがって!」
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そして、最も変わってるのは頭に栗の木がなってることだった。
「えーっと・・・あんたは?」
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「俺は青菜、この木霊館に閉じ込められてるんだが・・・あんたもか?」
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「それは質問か?」
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「そうだな」
「だったら」
「お前が敵だって可能性もあるだろうが」
「違う、俺たちは被害者だ」
「知らない奴らが3人も集まって、気味悪いんだよ!」
「従私の話を聞いてくれませんか?」
「女は黙ってろ!」
「でも、協力しないと・・・」
「ふん、協力したくても無理なんだよ」
「無理?」
「この頭が原因でな。
部屋から出ようとするだけで成長するんだ」
執事は頭を指さす。
どうやら、この栗の木が原因らしい。
症状は俺と似てる。
だけど、館の中を自由に回れる俺と違って部屋から出れないってのは大変だ。
人によって呪いのレベルが違う?
何が違うのだろうか。
「切断したらいいんじゃないのか?」
「試そうとしたさ、だがな神経が繋がってるのか痛みを感じるし、血だって出る。
それでも無理に切断しろと?」
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「ふん、当然だろう」
執事は苛立ってる。
「それじゃ、その栗の木をどうにかすれば協力してくれるのか?」
「協力してやるよ、出来るならな」
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「この場は離れよう」
俺は一旦、この場から離れて通路に出る。
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省吾はため息をする。
「なるほど、怒鳴ってばかりで怖い印象があるな。怯えてる理由が理解できたよ」
「やっぱり助けるんですか?」
「協力しないと出れないからな」
「大生は賛成しかねますが」
「そうはいってもな」
俺は頭を掻く。
怒鳴って来る人物を助けたい気にはなれないが、助けなければ結局、俺も助からないのだ。仕方が無いだろう。
「従私は青菜様に従うまでです。気持ちの面は些細なことですよ」
「ありがとう、ミクリ」
「いえ」
彼女は微笑む。
「それにしても切断は無理なら鋏を持ってるが意味は無さそうだ」
「確か、血が出ると言ってましたね青菜様。
痛みを感じるとのことでしたので無理強いは難しいでしょう」
「大生が思うに、除草剤はどうだろうか」
「除草剤か・・・でもそういうのって身体に悪いんじゃないのか?」
「レモンならそこまで害は少ないと考えてる」
「レモン?」
「強い酸性が植物を枯らすと聞いたことがあります、植物の葉緑素(クロロフィル)を退化・減少させ、光合成を阻害するのだとか」
「なるほど」
レモンなら食品だし、身体に害が少ないのも頷ける。悪くない案だと思えた。
「中庭になってる筈です」
「それじゃ、行ってみようか。
ミクリもそれでいいだろう?」
「問題ありませんよ」
「それじゃ、大生について来てください」
俺たちは中庭へと移動した。
室内にも関らず天井に向かって大きな木がなっている。レモンの木のような成人男性2人を足した身長ぐらいの大きさを想像していたが、それとは全然違い、樹齢数千年を想像させる大きさだった。
トップライトから光が入って来て部屋は明るくなってる。根元が太く、地面から湧いて出てきて見える。
「こんなものが中庭になってるのか」
これも、神具の影響なのだろうか?これを処分しなければならないとしたら酷く勿体ないように思える。
出来れば自然の一部であって欲しいと俺はどうでもいいことを考えていた。
「青菜様、見てくださいレモンがなってます」
木にはレモンがなってる。
そうだ、あれを回収しに来たんだった。
木に少し圧倒されていた。
「行くぞ」
「はい、青菜様」
「だ、大生も」
俺たちはレモンを回収しに向かうと花の怪物たちが襲い掛かって来る。
「やはり単純には行かないか」
「どうしましょうかハサミでまた切断しましょうか?」
「いや、数が多い。止めておこう」
「それじゃ、諦めるんですか客人」
「悪いが目を瞑ってくれ」
「め・・・目を?」
「ごめんなさい、青菜様の命令ですので」
ミクリは省吾の目を手で覆う。
「あ・・・見えない」
「アルトラズ!」
俺は大監獄のカギを起動する。
トップライトの光を鉄格子で覆う。
そうすることで光が入って来なくなる。
「zzz・・・」
植物たちは眠りについた。
「もう、大丈夫だ」
「目を開けても大丈夫ですよ」
「一体何が・・・真っ暗で見えない」
「部屋を暗くしたんだ」
「なるほど・・・でも、レモンの位置も見えないですよ?」
「それは大丈夫だ」
俺は電気警棒を持ってスイッチを入れる。
すると、ビリビリ電流が流れる。
「うわっ」
省吾は驚いていた。
「触ると危険だからな」
「ふ、不思議なものを持ち歩いてるんですね」
「まぁな」
俺は警棒の僅かな灯りを頼りにレモンの木から果物を回収する。
「やりましたね、青菜様」
「あぁ」
俺の手にはレモンが握られている。
「これなら除草剤が作れそうだ」
「音楽室に戻ろう」
俺たちは毒蝮が居る音楽室に向かう。
「随分と早い帰りだが・・・頭の木、治せるんだろうな」
「大丈夫だ」
「本当に大丈夫なんだろうな、
少しでも痛みを感じたら容赦しないぞ?」
「任せてくれ・・・ミクリ、少しの間、目を閉ざすよう手伝ってやってくれ」
本当は内心、成功するか不安だったがそれを見せると話を聞いてくれそうに無かったので俺はそれを隠すように伝えた。
「分かりました青菜様、それでは失礼しますね」
「ふん・・・」
毒蝮はミクリに手で押さえてもらう。
レモンの汁とはいえ、目に入ったら痛そうだからだ。
「頼むぞ、省吾」
「あぁ」
レモンの汁を栗の木にかける。
「・・・」
皆して無言で見つめる。
「どうだ?」
「ん・・・」
ぽろっと、カサブタが剥がれるみたいに栗の木が地面に腐り落ちた。
「痛みはあったか?」
「いや・・・無いな」
「おめでとう、これでアンタは自由だぜ、毒蝮」
「ふん・・・当然だ。上手く行かなかったらお前のハツをバーベキューにして食べていた所だよ」
「素直にありがとうって言えないのか?」
「協力して欲しかったんだろ?ならお互い様だろう、言う必要性は感じないな」
「・・・」
ちょっと面倒くさいなこの人。
そんなことを思う。
「協力はしてやる、他にも閉じ込められてる奴らが居る筈だ」
「どうして分かる?」
「この木霊館は元々、人の住んでいた館なんだよ」
「なに?」
「そこで執事をしていたのさ、だが、いつの間にかこんな風になってしまったけどな」
「そうだったのか」
「探してみるといい、きっといるはずだ」
「分かった、見つけたらその人たちにも協力を相談してみるよ」
「さっさと行け」
「分かったよ」
本当にかましてくる人だなと思う。
俺は苦笑してしまった。
そうして他の場所へと移動していった。
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俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
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男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

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ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

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