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1ー2 神を名乗る男
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光を目指す2人。
その先にあったものは一面、水の世界だった。
建物は無く、同じ景色が続く。
空は青空だが、太陽は見えない。
でも、光は感じる。
手も見えるし、先生の顔だってしっかり分かる。
暗黒空間というわけではなさそうだ。
「ここはが異世界」
俺は浸っていた。
新しい世界が待ってるのだと思うと、ワクワクして来るからだ。
前居た世界では受け入れてもらえなかったが、
この世界なら俺を受け入れてくれるかもしれないと思ったからだ。
「いや、まだだよ」
「・・・」
俺はため息をつく。
「や、そんなに怒らないでくれ」
「すかされてこっちは気分悪いですよ」
「次第に面白くなってくるさ」
「だといいんですけど」
せっかく異世界に来たのに不幸な目に合うのはごめんだ。
俺はそこまでマゾヒストになる気は無い。
「少しいいかい?」
「なんです?」
「タバコを吸いたくなってね」
「どうぞ」
「・・・」
ライターで火をつける。
「それで、ここは何処なんです?」
「神域」
「神域?」
「ここは、神の住まう世界とでも言おうか」
「神・・・実在するんですか?」
「ひとまず合って確認してみるといい。
SNSで神様が居ますよなんて言っても誰も信じないだろう。
でも、本人に直接会えば誰でも信じるだろう」
「なるほど?」
その例えは必要かと思ったが言いたいことは分かったので放っておく。
とりあえず、俺は先生について歩く。
「世界には偽物も居るが、ここに居るのは本物だよ。
先生たち、ディセトの者たちがその証明さ」
先生は説明を始める。
「ディセト?」
「神によって生み出された10人の操り人形たちのことさ」
「それが、先生だと?」
「あぁ」
「それが不思議な力を持ってる理由なんだね」
「まぁ、そんな感じ」
「・・・」
俺は何だか凄い場所に入り込んでしまったのだと思った。
「さて、行こうか」
「行くって、辺りは水辺ですよ」
「見てなよ」
先生が歩き出すと、沈むことなく歩くことが出来た。
「ふしぎだ」
「来ないのかい?」
「行きますよ!」
俺は先生の後をついて歩く。
水辺の中には魚たちが居て泳いでる。
その上を自分が歩いてるのだと思うと不思議だ。
ガラスの板の上を歩いてるのだろうか?
「手を入れてみて」
「え?」
「いいから」
まるで俺の心を読んだみたいな質問だった。
言われた通り、手を伸ばす。
すると、水を感じる。
エサを貰えると勘違いしたのか魚たちが手に群がる。
ぬるっとした感触。
生物の肌を感じる。
「うわっ」
俺は気味悪く感じて、手を引き上げる。
そして、そのまま尻もちをつく。
「あっはっはっは」
先生は楽しそうに笑う。
「どうなってるんですか・・・尻もちもつけるし。
本当に水の上なんですか、ここ」
「だから言っただろう、神域だと」
「不思議な空間なのは理解しましたよ」
俺は立ち上がる。
「尻がびしょびしょだ」
「うわー・・・」
気分が悪い、だけど乾くまで時間が掛かりそうだ。
「みっともないが、神はそんなことを気にする性格では無いから安心するといいさ」
「それならいいですけど」
「・・・」
「大分、歩きましたが、いつになったらつくんですか?」
ずっと同じ景色で俺は本当にゴールに向かってるのか不安になったのだ。
「大丈夫だよ、必ずつく・・・多分」
「どっちですか」
俺はツッコミを入れつつ、歩き続けた。
「ついたよ」
「ここが」
他には建物が無いのに、そこにだけポツンとあった。
ドーム状で、幾何学模様が描かれた建物。
入り口はプラネタリウムとかで良く見る重厚な扉だった。
「ほくぜんです」
先生が扉をノックする。
「・・・」
一体、どんな人物が来るのだろうとドキドキする。
「あっ、チャイムだった」
「・・・」
俺はため息をつく。
「いやぁ、ごめんごめん、久しぶりで」
「俺の緊張を返してくださいよ」
「緊張をほぐすためのギャグって思ってくれれば」
「ふざけないでください」
「あはは、悪い悪い」
先生はへらへら笑う。
少しも悪いと思ってない人の謝り方だ。
「いいから、押してくださいよ」
「そうだね、すみませーん、ほくぜんが来ましたぁ」
チャイムを鳴らす。
「うわっ」
俺は驚く。
いきなりラッパのファンファーレ(短く活発な曲)が鳴り響いたからだ。
「多分、居ると思うんだけどなあ」
「居なかったらどうするんですか」
「どうしようっか」
「えー・・・」
こちらに全ての責任を押し付けられて困ってしまう。
だけど、その不安は杞憂だったようだ。
扉がぎぃっと開く。
「神様は居るみたい」
「・・・」
どんな人物なのだろうか?
厳格で恐ろしい目つきをしているお爺さんを想像する。
シラサギの羽を生やし、神秘的な姿をしてるに違いないと思う。
扉の奥を進んでいく。
ホテルの廊下のようだった。
無数に扉が並び、一直線の道になってる。
「204号室の扉を開けてみて、そこに居る筈だから」
俺は扉を開ける。
すると、いきなりヘビが飛んでくる。
「うわっ!」
俺は驚く。
「あはははは」
先生は笑う。
「変な悪戯は止めて下さいよ!」
「ごめんごめん、君が素直でつい」
「・・・」
これだから人は信用できないんだ。
俺は盛大にため息を吐く。
「おもちゃだから大丈夫だよォ」
ピンクと黒のシマシマカラーの独特なヘビだった。
それを持って先生は遊んでる。
「そういう問題ではないです」
「真っすぐ行けば神様の所だからさ」
「本当ですか?」
「本当、本当、先生が嘘ついたことある?」
「短い付き合いですが、数えきれないほど」
「あちゃー」
先生はへらへら笑う。
本当にこの人は。
「・・・」
この人に聞いても素直に教えてくれなさそうなので自分で扉を開けて調べる。
「残念、そこじゃないよ~」
「それじゃ、何処なんです?」
「506号室」
「・・・」
俺は505号室を開ける。
「きゃあっ」
見知らぬ女性が裸でシャワーを浴びていた。
「す、すいません!」
俺は急いで扉を閉める。
「だから言ったじゃないか、506号室だって」
「本当ですか?」
「本当本当」
「もう一回だけですよ」
「やった」
先生は笑う。
こんな人でも今は頼るしかないのだ。
ひとまずは信用して扉を開けた。
すると、そこにはポツンと1人で、
4本足のブラウン管テレビを眺めてる人物が居た。
ソファーで隠れてよく見えない。
「お久しぶりです、デナキウス様」
ほくぜん先生が今までとは打って変わって、礼儀正しくなる。
片膝をついて、目上の人を敬う仕草を取ったからだ。
「・・・」
デナキウス・・・それが神様の名前。
「ぐっぱ、ぐっぱーっ」
やたらと軽いノリで挨拶して来る人物が居た。
ジャンケンのグーとパーを交互にを出して、
手をを閉じたり開いたりして遊んでる。
ソファーから立ち上がり、こちらに姿を現す。
身長は191cm
体重は72kg
見た目は簡単に言うとオジサンだった。
長い髪で地面に付きそうなほど。
丸眼鏡をしていて、髭面の40代男性っぽい雰囲気。
上下ジャージでかなり緩い印象だ。
しかし、手に持つ心臓の杖。
そして、背中に生えた7枚の白鷺の羽。
右に3枚、左に4枚とアンバランスだった。
これが神様なのかもしれないと思わせる雰囲気があった。
「神様・・・?」
「そうだよ~、よろしく少年、やばごっと」
「や・・やば?」
「若者言葉のやばいと、神様のゴットをかけあわしたんだ。
流行らせたいんだよね」
「はぁ」
ジャージという格好もそうだが、そうとう緩い。
緊張して損した。
ほくぜん先生が丁寧な挨拶をするから、怒らせたら怖い人なのかと思った。
「生神の名前はデナキウス、職業は神様です、やばごっと」
手をグーパーする。
「生神?」
「そう、私とか、俺とか一人称は色々あるけど、
神様が人間と同じ一人称使うとかありえなくない?
やばごっとだよ」
「はぁ」
「だから生命神たる、このデナキウスは一人称に生神って言うようにしてるんだ」
「なるほど?」
「ほくぜんちゃ~ん、タバコは吸ってから部屋に入ってよォ」
「すみません、好きで」
「いいけどさぁ、副流煙とかやばごっとだよ?」
「はい」
先生はタバコの吸い殻をポケット灰皿に仕舞う。
「それじゃあ、話をしよ~かなぁ。
まぁ、気楽に何でも聞いてよ、あっ、ちなみに生神は映画が好きなんだ。
ブラウン管で見てるのは映画さ、
西部劇を見ていたんだ、男らしくて激渋でいいよね。
白黒だと余計にそう思うよ。
ポップコーンのバター味を食べながら、コーラを飲むのが何よりの楽しみさ。
おっと、ずっと立ちっぱなしってのも悪いよね。
生神の隣に座るといいよ」
デナキウスはよく喋る。
俺はそこまで会話が得意では無いので、
話しかけられるのは会話の内容を考えなくていいので助かった。
「分かりました」
俺は神様を名乗る男の隣に座る。
「君は映画の面白さと聞かれたら、何を思い浮かべる?」
「映画は、あまり興味が無くて」
「冷めてるねぇ、それは良くない、映画を見た前」
「はぁ」
俺は文字が見えないので、吹替なら問題ない。
ただ、
そういう娯楽作品に興味を持てない性格なのだ。
「映画で面白いと思う根拠は”自然”だ。
そこに生きた人間が登場してるように思えるかどうかだ。
生きてるってのは心臓が動いてるって意味じゃない。
脚本家の顔とか俳優の私生活とかがが浮かばないような、
本人の人生を追体験してるようだって話だ。
そういう映画に出くわすと酷く興奮する。
面白い物語に触れるのはいい、
酒やセックスよりも心地よい気分になる。
なんというか母親の子宮の中に居るような気分だ」
「・・・」
デナキウスは饒舌に話す。
本当に映画が好きなんだろうなと思う。
「喉が渇いただろう、コーラしかないけど飲むかい?」
冷蔵庫の中は炭酸飲料一色だった。
バラエティに富ませる気は無さそうだ。
「それじゃ、少し」
コーラが好きではなかったが、付き合いを拒否するのも失礼だろう。
そう思っての判断だった。
「うん、いい飲みっぷりだ」
コーラを飲んだ俺の姿を見て、
デナキウスは嬉しそうな顔をする。
「先生は座らないんですか?」
ほくぜん先生は無表情で佇んでいた。
「彼女はいいんだ、生神と君だけでいいんだ」
「でも」
俺たちだけソファーに座ってるのも気分が悪い。
だから軽い気持ちで誘ったのだが。
「生神がいいと言ってるんだ、いいね?」
「っ・・・!」
軽いノリとは打って変わって、急に真顔になるから怖い。
なるほど、舐めてかかってはいけない人なんだなと確信した。
「それで、何を聞きたい?」
「イデア・テラリウムってどうして名付けたんだ?」
「生神が神と言われる理由と結びついてるからだ」
「どういう意味だ?」
「まぁ、みたまえ」
デナキウスが手のひらを見せてくる。
すると、小さな鳥が鳴いてるではないか。
「マジックですか?」
「いいや、誕生したんだ」
「はっ・・・?」
「生神はね、命を生み出す力を持ってるんだ」
雀がぴぃぴぃと鳴いてる。
そして、飛んでいった。
「じゃあ、この世界は貴方が作ったと?」
「正確には3人の神だがな」
「3人の神?」
「悪徒神ラットボーイ、知恵の王シャチ、そしてこの生命神デナキウスだ」
「3人の・・・神」
「地球は生神の管轄では無いから、そっちの創造には関わってないがな。あくまでもイデア・テラリウム・・・神の箱庭の創造だけを行った。
あれは24億年前の話だろうか」
原始の地球は、およそ46億年前とされてる。
それよりは若いのか。
なんて、どうでもいいことを思う。
「どうして創造を?」
「理由は退屈だから」
「退屈?」
「暗闇の宇宙、何もない世界。
いや、宇宙卵と呼ばれる存在があった。
神が生まれるよりずっと前に存在していた生命体。いつ頃かヒビが入り、卵から何かが誕生した。
それがビックバン、巨大な爆発だった」
「・・・」
「その爆風によって神たる3人が誕生した。
そして、生神デナキウスたちは彷徨っていた。いつまでもこんな風に生きてるのは良くないと思った、落ち着ける場所を探した結果、1つの星を見つけた。それが、イデア・テラリウム。
丸い地球とは違い四角形の星だった。
生神たちはそこに降り立った」
「それで?」
「乾いた大地に降り立った生神たちは、
水を生み出した。そしてしばらくは3人で安定した日々を送っていた。ところがある問題に気づいた」
「問題?」
「3人だけでは寂しいとね」
「まぁ、そうかもしれない」
「だから最初は魚を作った、次に亀を作った、そして熊を作り、やがては人を創造した・・・そうして世界が出来上がって行った」
「・・・」
本当の話なのだろうか?
神話過ぎて、俺には信用できない。
「生命が誕生しても、そのままでは酷く不気味だ。何故なら言葉を持たないのだからな、どうすれば愛嬌が出るのか考えた結果、シャチが知恵を与えた。そうすることで、この世界の生物は言語を手にし、表情や感情を持つようになった」
「・・・」
「ところが、ある日突然、生物たちは死んだ」
「どうして」
「理由は分からないんだ」
「神様なのに?」
「神様って言っても、生神は全知全能ってわけじゃない。あくまでも生命を作り出すことが出来る特殊な能力を持ってるに過ぎない、それに生み出せる生命に指向性を持たせられないしな」
「指向性?」
「可愛い彼女が欲しいと思って力を振るっても、出てくるのはカマキリだったりする、運の要素が強いんだよ、生神の能力は」
「扱いづらいですね」
「あはは、言えてる」
デナキウスは笑う。
「それで、話を戻しますが理由が分からないってのは?」
「言葉だけじゃ説明のつかないことが起きた。
とでも言おうか」
「はぁ」
「そして、それにラットボーイが名前をつけた」
「なんて名前です?」
「善悪」
「善悪・・・」
「正義とも言い換えていい。
生命が滅んだのは互いの正義がぶつかりあっての結果だ。人それぞれ、正義が違うのだから争っても可笑しくないだろう?」
「まぁ」
「だから善悪の定義を強引に決めることで争いの火種を少しづつ消した、そうして生命が残るようになった」
「善悪の定義って?」
「人の命を奪ってはいけない・・・とね」
「・・・」
確かに、これを決めないと人は殺してもいいとなる。たかがルールかもしれないがあるのと無いのとでは大違いだろう。
「そうして世界が誕生し、今に至る。
というわけだ、神様の箱庭、
それがイデア・テラリウム。青菜、君が今から向かう世界の話だ」
「俺に異世界で何をさせようって言うんだ?」
「神を捕まえるんだ」
「神・・?」
「ラット・ボーイ。
彼が、この世界が悪さをしてるんだ」
「何をしたんだ」
「神具を世界にばらまいた」
「シング?」
「13の災厄を人間に与えてしまった」
「なんのために?」
「ラットボーイの考えは分からない・・・昔から」
「・・・」
「しかし、それによって世界に問題が起こる」
「問題?」
「人間は少しづづ進化するものだ、しかし。
神具の登場によって世界の進化が早まるのだ」
「それの何が問題なんだ、進化した方が人のためになると思うが」
「早すぎる進化は破滅を招く」
「・・・」
「これは年長者の意見だと思って聞いて欲しい。
生神は人間を滅ぼしたいと思ってない、むしろ救いたいと思ってるんだ。そのためには青菜、君に力を貸して欲しい」
「俺はただの人間だ、神である、あんたの方が強いんじゃないのか?」
「神が介入してはいけないんだ」
「どうして?」
「神が介入することによって人の運命は大きく変わる。人はそれを奇跡と呼ぶ」
「奇跡・・・」
「死んだはずの人間が蘇り、何の努力もしてない選手が長年努力してきた選手を追い越す、そんな奇跡がありとあらゆる所で起きる、それは人間の自然な姿とは思えない・・・故に生神は介入する気は無い。
人間の問題は人間で解決して欲しいのだよ」
「でも、ラットボーイは神なんだろう。
それはデナキウスが処理しても問題ないと思うが」
「やつは神の気配を読み取れる」
「え?」
「人間でなければ近づけぬのだ、役に立たず申し訳ないが、青菜にやってもらう他ないのだ」
「・・・」
「もしも生神の元へ連れてきてくれたのならば、それは神同士の問題だ、後は任せてくれ」
「俺はただの人間だ、捕まえられるものなのか?」
「それは安心したまえ」
デナキウスはポケットから何かを取り出す。
「これは?」
「大監獄のカギ」
「これはいったい・・・」
「神具の1つだ」
「いいのか、俺に託しても」
「いいんだ、だけど全てが終わったら返して欲しい」
「メリットは?」
「メリット?」
「俺が協力しても幸せになれるかってことだ」
「そうだな、神になる気は無いか?」
「神様ねぇ、どうも怪しいな・・・それと俺の幸せに何の関係が?」
俺は持ち前のうがった見方をする。
「神になるということは人間が感じられる幸せの最大だぞ?これ以上ない報酬だというのに」
「神になって何が出来るのさ」
「君は怠惰な人間だ、そういう存在こそ神に相応しい」
「どういう意味だ?」
「神はただ人間を観察するだけでいい、いや、むしろそうしなければならない」
「・・・」
デナキウスは人間社会に関与することを嫌ってる。
何か理由があるのだろうか?
「神になれば食事は不要だし、寝ることも無い。
退屈な時間が過ぎていくかもしれないが、死という恐怖から解放される、これ以上ない幸福だろう?」
「まぁ・・・そうかもな」
人間が不幸を感じるのは死への恐怖から逃れたいからだろう。それが無くなるのであれば、何も不安を感じる必要が無いのだ、幸福とは、そういうものなのかもしれない。
「神になりたくなったろう?」
「それにしてもあっさり神にするんだな、大した報酬じゃ無いんじゃないのか?」
探し人を捕まえるだけというのは多少、大変かもしれないが絶対に無理という案件では無いだろう。
だから俺は怪しんだ。
「人間を神にできるのは生神だけだ。
誰にでも出来ることじゃないし、ラットボーイを捕まえるということの大変さを理解してないのでは?」
「俺は知らないからな」
「奴は人の手で捕まえられるほど単純な男ではない」
「それなら約束に意味は無いんじゃ」
「人間がよくやるだろう、叶えられない願いに無茶な願いを約束に選ぶことを。例えば宝くじに当たったら自分の家を燃やしてやるとかな」
「それって俺にあまり期待してないってことじゃないのか?」
「そんなことないさ」
「本当かな」
「本当だとも」
その言葉に信用性が足りないが、追求するのも面倒なので俺は引き受けることを選択した。
神にしてくれる報酬は俺の人生であまり聞いたことないものだった、普通の人間なら断るかもしれないが、俺は面白そうだと思ってしまった。
どうせ退屈で何もすることがない人生だ。
少しはハリってやつが出そうに思えた。
「分かったよ・・・それじゃ、もしもラットボーイを捕まえることが出来たら神にしてくれよ?」
「あぁ・・・約束は守ろう」
「・・・」
俺は首にひもを通されて、大監獄のカギを預かった。
胸元できらりと光る。
「念を押すが、神具は災厄の種だ。
間違っても己、個人の欲望で使ってはいけない。
人間社会に悪影響を及ぼしかねないからな」
「分かった」
俺は大事なものを託された。
勉強も運動も真面目にしてこなかった俺に、いきなりの大役でドキドキする。
責任の重さのようなものを実感してしまう。
「後はそうだな、金を渡して置こう」
「助かるよ」
「軍資金だと思ってくれ」
「ありがとう」
俺は金貨を30枚貰う。
「3万pだ、平均月収ぐらいかな」
「なるほど」
金貨一枚=1000ペレットということか。
「そうそう言い忘れていたことがある」
「なんだ?」
「神を捕まえるのが第一目標だとするなら、第二目標も存在する。それは神具と一緒に所有者も捕まえて欲しい」
「そいつらは神なのか?」
「いいや、ただの人間だ。しかし、神の奇跡と同等の力を持ってる存在と言える」
「そんな厄介な相手、俺に捕まえることが出来るのか?」
「安心したまえ、君に預けた大監獄のカギは素晴らしい能力を持っている」
「素晴らしい能力?」
「監獄のアイテムを自由自在に使えるのは勿論だが、
相手の能力を封じる力を持つ」
「無効化の能力・・・」
「生神の知る限り、一番最強の神具が君の持つ大監獄のカギだ、一番最強だから大事に持っていたんだ」
「大事に持っていた?」
「情けない話ではあるが・・・神具の元々の持ち主は全て、この生命神デナキウスだった。
しかし、油断した生神はラットボーイに盗まれてしまったのだ・・・」
「後始末も兼ねてるってわけか」
「こんな不甲斐ない神だが、どうか手を貸して欲しい。頼めるだろうか?」
「いいぜ、どうせ俺には夢が無いんだ。
自分探しのついでに神具を全て回収するさ」
音楽家になりたいとか、料理人なりたいとか、
夢があるのならば、断っていたかもしれない。
だが、今の俺には夢が無いのだ。
暇つぶし・・・というと表現が悪いが、
どうせ何も目的が無く生きてる人生だ。
目的が出来たと思って喜んで協力しよう。
俺は幸せなのかもしれない。
そんなことを思った。
「助かるよ」
生神は俺の手を握ってぶんぶんと握手する。
とても嬉しそうだ。
協力を申し出た甲斐があったというものだ。
「私的に逮捕するのはいいのか?」
「元居た世界では、基本的にはダメだろうな。
まぁ、その辺の根回しは大丈夫だ」
「根回し?」
「イデア・テラリウムでは天使が治安維持を務めてる。
神は人間社会に介入しないとはいえ、全く野放しというわけではない。一番偉い、天使長に話は通してあるから、安心して私人逮捕しても構わない」
「それなら良かった」
「あぁ、繰り返し言うようだが、普通の人間の逮捕は出来ない。
あくまで、神具の使い手を捕まえて欲しい」
「了解」
「さて、生神からは以上だ、後は聞きたいことはあるか?」
「もう無いよ」
「そうか、ではさっそくその能力を使ってみるといい」
「分かった」
「扉にカギを指してみるんだ」
「何処でもいいのか?」
「あぁ」
デナキウスに言われるがまま、俺はカギを差し込む。
すると、扉が開き道が現れる。
俺はそのまま進んでいった。
「ここは・・・」
「大監獄アルトラズ」
「ここが」
収容所を思わせる雰囲気だった。
太陽の光はあるが、遠く手を伸ばしても届きそうにない。
部屋は狭く、3人ほどしか収容でき無さそうだ。
檻が不安を感じさせる。
「気に入ったかい?」
「大監獄と言うには少し、狭いようにも思えるけど」
「あはは、確かに言えてる」
デナキウスは笑う。
「本当に最強なのか?」
「それは保証する、ただ使い手が無能だと、どれほど素晴らしい能力を与えても無能にしか見えないがね、君はどうかな、青菜」
「・・・」
デナキウスは煽って来る。
「相性がいいことを願ってるよ」
デナキウスはそう言って、去って行った。
「ふぅ」
ようやく一息を入れられるとばかりに、ため息をする先生だった。
「先生、今まで息を殺してたもんね」
「あの人はひょうきんな感じなんだが、目の奥がいつも笑ってないんだ・・・そこが怖いよ」
「なるほど」
俺は納得する。
「さて、君の能力だが装備タイプだと先生は分類するね」
「装備タイプ?」
「装備タイプ、自立タイプ、召喚タイプ、時空間タイプ、条件タイプ
特殊タイプ、以下6つに分類される」
「具体的には?」
「装備は文字通り、装備して能力を発揮する。威力が強力だが、遠距離は不向きで、しかも神具を外してしまえば能力は使えない欠点を持つ」
「なるほど」
「自立タイプは遠距離での行動が可能で、しかも術者の手を離れても能力が使える」
「装備タイプと比べて欠点が無いの?」
「まさか、欠点はあるよ。精密動作には不向きで単純な動きしかさせることが出来ない、敵にダメージを与えた場合、自分で確認に行かないといけないも欠点だね」
「ふむふむ」
「召喚タイプは、武器や生命を生み出す能力、デナキウス様がこれかな。時空間は時間や空間に影響を与える能力、これは先生の力だね、条件タイプはある一定の条件を満たすことで能力を発揮する、少し使いづらい能力だ、しかし一度、ハマれば抜けだすのが困難なほど強力な能力に化けることもある」
「特殊タイプは?」
「特殊タイプは・・・その時がくればね」
「・・・」
一体、どんな能力なのだろうか。
特殊というだけあって、他の人とは違うのかもしれない。
「さて、話ばかりで身体がなまって来ただろう。
そろそろ戦闘と行こうじゃないか」
「ま、待ってくれ先生」
「敵はいつだっていきなり現れる、それが今だってだけの話なんだ」
「ぎょへっ、ぎょへっ」
空間にいきなりツギハギが現れる。
その糸が解かれ、奥から何かが出てくる。
それは、形容しがたい怪物たちだった。
2足歩行で歩くが、頭が無く、代わりに触手が生えてる。
身長は5mほどで、俺よりも大きい。
2体居る。
「くそっ、いきなりだ!」
触手が俺を襲う。
サッカーコートほどの部屋で、こんなに暴れられては困る。
「逃げていては勝てないよ」
先生は完全に傍観してる。
しかも怪物たちは先生に目もくれない。
飼いならしてはいるんだろうが、あんまりな対応だ。
「うわぁあああ」
能力を使うってどうすればいいんだ?
俺はただ、みっともなく逃げ惑うだけだった。
「ぎょへっ、ぎょへっ」
怪物たちは俺ににじりよってくる。
そして、触手で俺首を縛り上げる。
「ぐっ・・・た、助けて」
俺は宙に浮く。
何も出来なくて、助けを求める。
「・・・」
先生は見て見ぬふりだった。
「せ、先生?」
「・・・」
先生はタバコを吸い始める。
何をのんきにリラックスしてるんだ?
俺が死ぬって言うのに。
「な・・んで・・・た、すけないんだ」
「先生の所為じゃない」
先生はさも当然って感じの顔をする。
「がっ」
首を絞める力がどんどん強くなってくる。
このままでは間違えなく死んでしまう。
「君の考えてることを当てよう、青菜君」
「ぐっ・・・」
言葉が・・・出ない。
「どうして見殺しにするんだってね、君は助けて欲しい筈なのに、
貴重な人員を見過ごすような真似は可笑しいって、それに、その怪物たちは先生が飼いならしてる筈だ、止めろと言えば済む話じゃないのかってね」
「・・・」
そこまで分かってるのならば、どうして。
そんなことすら言えない。
もう、1分は経っただろうか。
意識が遠くなってくる。
「さようなら、青菜。死の間際で人は輝くものだ。
しかし、それは全員とは限らない。
これほどの相手に負けるようなら、イデア・テラリウムは向いてない。新しい人材を探さなくてはいけないのか、先生の仕事が終わったと思ったんだけどなぁ」
そんなことを先生がぼやいていた。
それが最後のセリフだった。
スマホの画面を消すみたいに一瞬で真っ暗になる。
「・・・」
ここが天国なのか?
いや、違う。
照りつける太陽。
乾く大地と喉。
俺は砂漠を彷徨ってる感じだった。
花畑を想像していたが、どうやら現実は違ったようだ。
「・・・」
「誰?」
声が・・・する?
「・・・」
「誰なの?」
話しかけても返事は聞こえない。
それもその筈だろう。
何故なら、そこにはシャチの姿があった。
「・・・」
女性の声?
なんとなく、そんな気がした。
清涼感があって、落ち着く。
知性や品を感じる。
「俺に・・・何を伝えたいんだ?」
「・・・」
シャチが目線をやる。
俺は手元を確認する。
すると、そこには今まで感じなかった重量があった。
金魚鉢のようなガラスの容器。
「これで喉でも潤せってか?」
でも、中には水は無く、空っぽの容器だった。
「・・・」
「こいつで何をして欲しいんだ?」
「・・・」
器の中が突然、あふれ出す。
「これは・・・」
シャチは砂漠の砂の中へと消えていく。
俺はその瞬間、目を覚ます。
そして、身体全体がモヤで覆われる。
景色が晴れると、監獄に戻ってきたのだと実感する。
「これは・・・!」
先生は驚いていた。
「・・・」
俺は、ドクロの面を身に着け、
成人男性と同じくらいの大きな斧を振るう。
身体には拘束具が巻かれていて、動きにくそうだった。
両手両足には錠がついてるのもそう思わせる要因だった。
「神の能力?デナキウス様は道具しか与えてない筈なのに」
「ぐるぉおおおおおおお!」
力を感じる、熱い。
身体の中にエネルギーが溢れてしょうがない。
身体の中を血液が激しく巡ってるのを実感する。
冷まさなくては。
気分が晴れるにはどうすればいい?
俺は獣のごとき咆哮をする。
「ぎょ・・・っ」
怪物たちは怯んでいた。
奴らは知性こそ無いものの、本能が鋭いのだろう。
直感で理解したのだ。
俺よりも弱いと。
そして、食われると。
「おおおおおおおおっ!」
俺は雄たけびと共に、怪物どもを殺して行った。
片方は首を跳ねて、もう片方は真っ二つに両断した。
戦闘が終わると、先ほどまでのムラムラ感が消えた。
「あはは・・・凄いじゃないか」
「はっ・・・はっ・・・」
俺は元の服装に戻る。
そして、そのまま倒れ込んだ。
「おはよう」
「はっ」
次に目を覚ましたのは3時間ぶりだった。
「驚いたよ」
「不満を言わせてくれ、よくも見捨てたな」
「仕方なかったんだ、試練は人を諦めさせるほどじゃないと意味が無いだろう?」
「だからって・・・」
「いいじゃないか、こうして生きてたんだから」
「もし、もう一度見捨てるようなことがあれば見限るからな」
「ふふ・・・怖いな」
先生は笑う。
年上に凄んでも無駄かと思い、諦めた。
「それにしても俺は・・・一体・・・」
あのまま死んでしまうのではないかと思っていた。でも、実際は違った。
「こちらが聞きたいんだけど」
「頭が・・・痛い・・・」
酷く頭痛がする。
「その仮面が実は・・・神具の1つだったり?」
「これは違う、普通の仮面だ」
人間社会で100均とかで普通に購入したものだ。もしも100均にそんなものが売ってるのならばネットで騒がれても可笑しくないと思うが。
「まぁ、だろうね・・・それにしてもあの反応。
間違えなくデナキウス様と同じオーラ・・・ラットボーイ様はあり得ないとして、シャチ様が関係してる?」
ぶつぶつと先生は呟く。
「あの・・・先生?」
「あぁ、いや、何でもないんだ」
「それで俺は合格・・・でいいんだよな?」
「勿論・・・それに放っておくには危険すぎるしね」
「先生、何か言った?」
「いやぁ、別に?」
「・・・」
俺のこの力、いったい何なんだろう。
アルトラズの能力の一部なのだろうか?
それなら使いこなせば随分と強力に思えるが。
「能力を使いすぎて、疲れただろう。
少し、休憩しようじゃないか」
「分かった」
頭痛も酷かったし、目もかすむ。
体力が回復するまでは、この大監獄で休憩しよう。
「先生、何か作ろうか?」
「何か作れるの?」
料理が出来るのか、意外だったな。
手先が器用だと人に好かれそうだ。
「いや、言ってみただけ」
「いい加減だ」
「先生の性格をまだ理解してないようだね」
「もういいです」
俺は諦めて眠りにつこうとする。
「先生の能力で取り寄せることは出来るけど」
「それを早く言ってくださいよ!」
「めんごめんご」
先生はへらへら笑う。
「腹立つ・・・」
「何が好きなんだい?」
「おからの炒り煮」
「また随分と渋い物を、若者らしく揚げ物とかどう?」
「揚げ物は好きじゃないんです」
「うーん、渋いね」
「先生は何が好きなの?」
「タバコだね、なんといっても美味い」
「それは料理じゃない」
「好きな食べ物はエビフライ。
嫌いな食べ物はレモンのかかった揚げ物かな」
「唐揚げにレモンをかけるか、かけないか論争がたまに起こりますよね」
「先生は断然、かけない派。ありえない、ナンセンス」
「俺はそこまで・・・」
「かけてしまえば後戻りは出来ないけど、かける前なら後戻り出来るだろう?」
「まぁ」
「だから別皿にカットレモンを出してくれる店は優良店だと先生は思うんだ」
「どっちでもいいですけど」
この話、面倒くさいなって気がしてくる。
「ダメダメ、ちゃんと聞かないと」
「その話意味あります?」
「今から、取り寄せるんだよ」
「おからは・・・?」
「先生はエビフライを食べたい気分なんだ」
「もう好きにして下さい」
俺の好みは受け入れてもらえなかったので諦めた。
そして、2人して揚げ物を食べた。
「食事も終えたことだし、寝ようか」
「シャワーとか浴びなくていいんですか?」
「この監獄には無いじゃないか」
「・・・」
そうなのか。
本当に囚人を収容するだけらしい。
でも、俺の成長によっては増設されるかもしれないらしい。
「まぁ、1日くらい入らなくても死なないでしょう」
「それはそうですが」
「さて、寝ようじゃないか」
「枕が1つしかありませんが」
「先生が使おう」
「えー・・・」
「なんだ、不満か?」
「じゃんけんにしましょうよ」
「いや、その心配は無用だ」
「枕無しで寝るのは硬くて嫌ですよ」
「見たまえ」
先生は腕を出す。
「その腕は一体」
「腕枕だ」
「男女逆じゃ」
「先生の二の腕、けっこう気持ちいいと思うんだけど?」
「そこまで言うなら」
俺は先生に腕枕される。
「どうだい、悪くないだろう」
「そうですね」
普通の枕よりも柔らかい。
これなら眠れそうだ。
「明日は早い、今日はゆっくり休むといい」
「それじゃ、おやすみ先生」
「おやすみ、青菜」
こうして俺は眠りについた。
先ほど、目覚めたばかりのような気もするが、
すぐに2度寝することが出来た。
能力の影響で疲れやすくなってるのかもしれない。
そんなことを思った。
「2度目のおはようだ、青菜」
「おはようございます」
「うーん、いい天気だ」
「薄暗いですが」
監獄というだけあって、なんだか薄気味悪い雰囲気だ。
太陽が遠く、手が届きそうにない。
青空で開けた場所だと太陽に手が届きそうだと錯覚するのに、どうして狭い場所だと逆のことを思うのだろうか。
「さて、そろそろ・・・いや、ようやくと言うべきか。
異世界へ行く準備が整った」
「・・・」
俺はごくりと唾を飲み込む。
「青菜には悪いが、先生は同行しない」
「え・・・?」
「悪いね」
先生は苦笑する。
「てっきり、一緒だと思ったのに」
「寂しいかい?」
「別に・・・」
「またまたぁ」
「ウザい」
「でも、安心したまえ他のディセトが同行してくれる」
「他のディセト?」
「言うより、合って確認した方が早いだろう」
地面にツギハギが出現する。
そして、穴が開く。
「うわぁああああああ!」
俺は落とし穴に引っ掛かる。
「それじゃ、異世界ライフを楽しんで。
レストインピース」
先生はジャンケンのチョキを見せてくる。
「それは挨拶じゃなくて冥福のお祈りだ!」
俺の声は虚空へと消えていった。
「あれ、ピースって挨拶じゃなかったっけ?」
先生は不思議そうな顔をしてたと思う。
確認する前に落ちてしまったので分からなかったが。
落ちた場所は異世界と呼ぶに相応しかった。
時刻は朝の9時ごろだろう。
春の温度。
それは心地よい季節。
緑の草原、青い空、綺麗な街並み。
それが一気に見えた。
美しいと感傷に浸りたかったが、落ちてる最中なので、
それどころではなかった。
「ぐふっ」
俺はふさっと落ちた。
草が良い感じにクッションになったようだ。
「大丈夫ですか?」
俺の顔を覗き込む1人の女性が居た。
「平気・・・ツ!?」
俺は肘の痛みを感じる。
手を上にあげて思わず確認した。
すると血が出てることに気づいた。
「怪我してます」
「大丈夫だって」
「ぎゅーっ」
その女性は俺のことを抱きしめてくる。
「嬉しいけど、血で汚れちゃうよ」
「大丈夫です、これで」
「え?」
すると、傷が癒えていくことに気づいた。
どうやら抱き着くと傷を癒す能力がありそうだ。
「もう大丈夫です」
「君は一体」
俺はここでようやく彼女の姿を確認する。
「従私(じゅうし)はミクリと申します、以後お見知りおきを。
青菜様」
そこにはカーテシーを披露する女性が居た。
身長は175cm。
上からバスト100cm ウエスト62cm -ヒップ87cm。
カップはH。
見た目はモコモコしたワンピースタイプを着ている。
ロングヘアーで、ふわふわしてる。
変わってる点は髪が木綿で出来てることだった。
「じゅうし?」
「はい、人に従うという意味の漢字と、一人称の私。
それを組み合わせた従私なりの一人称です」
「なるほど」
「性格は穏やかで癒し系だと自負してます、モコモコした服を着てるのは、人に優しい人だと印象を持って欲しいからです。好きな食べ物は和菓子に抹茶。嫌いなのは辛いモノ。声を荒げる人、乱暴な言葉遣いの人。戦い。そして、人に危害を加えようとする存在。
後は雨に弱いです」
「雨に弱い?」
「はい、髪に水分が溜まり上手く行動できなくなってしまって」
「・・・」
ミクリの髪は確かにモコモコしてる、水分をよく吸収しそうだ。
「好きな言葉は”善因善果”
善い行いからは、善い果報が得られることらしいです。
それって人に優しくしたら、幸せになれるってことですよね。
素敵な言葉だと思います」
「言葉の意味はそうだろうね」
現実の人間は優しくしても悪意を返してくると思うが。
それは口にしなかったが、本音はそうだった。
「従私の能力は能力はコットン・ブルー(青い木綿)
綿を操ることが出来るんです、
そして抱き着くと傷を治すことも出来るんですよ。
でも・・・」
「でも?」
「病気は治せないんです、あくまでも怪我だけということです。
それでも無いよりはマシだと思うようにしてます」
「出血だけでも防げるなら効果はあるだろうね」
「ありがとうございます、青菜様」
ミクリは笑顔を振り向く。
癒し系というだけあって可愛らしい笑顔だと思う。
「君がディセトなの?」
「デナキウス様からはカウンセラーの役割を与えられてます。
と言っても、あまり相談に来てくれる人は居ないんですよね・・・あはは」
寂しそうな笑みを浮かべるミクリだった。
「見た目は悪くないんだけどね」
「従私はあまり性格がよくないのかもしれません。
もしも不愉快なことを感じればぜひ、言ってください。
改善しますから」
「本当に?」
「はい、何でも言ってください」
「今は無いから安心して」
「そうですか、それでは嫌なことを感じたら報告してくれると嬉しいです」
「分かった」
「青菜様」
「なに?」
「命令してください、何でも要求に従いますよ」
「何でもって」
「何でもです、青菜様が面倒だと感じることや、危険なことでもです。そして、その・・・えっちなことでも」
ミクリはもじもじする。
「何でも・・・ねぇ」
とは言うものの、初対面の人に何でも命令してくれと言われて、はいそうですかと命令するのも気が引ける。それに考えすぎかもしれないが、彼女が美人局という可能性も否定できない。
俺の何を奪おうとしてるのかは想像できないが、俺を陥れて陰で喜ぶ女性って可能性もあるのだ。エロい命令をして、それを本気にしたの、きもーいとか言われた日にはへこむ。
まだ・・・そういう願いは出来ない。
「命令の内容は決まりましたか?」
ミクリは真ん丸な目をこちらに向けてくる。
命令の内容を期待してるようだった。
「ひとまずは人を探そう、ラット・ボーイを見つけないといけないんだから」
俺は無難な命令しか出せなかった。
別にチキンとかではない、断じて。
「はい、わかりました」
ミクリはとても良い明るい返事をしてきた。
先ほど丘で見た綺麗な街へと俺は向かう。
看板が掲げられており、グリーンハウスと書かれていた。これがこの街の名前なのかもしれない。
「入ろうか」
「そうですね」
2人して街には居る。
街は人で賑わっており、屋台などが開かれていた。噴水もあって、家にツタが生えてるのが目立つ。緑豊かな印象だ。
「さて、探すとは言ったもの、何を手掛かりにすればいいのやら」
「悪徒神ラット・ボーイ様は身体に特徴があります。
それをヒントに探してはどうでしょうか」
「でも、変装とかしてるんじゃ」
「それは問題ありません」
「どうして?」
「ラット・ボーイ様の耳はネズミに齧られた痕がありますから」
「なるほど」
傷は変装しようと整形しようと隠すのは難しいかもしれない。
「探せそうですか?」
「良い情報だ」
「ありがとうございます」
「さっそく聞き込みと行こう」
「分かりました」
俺はミクリと一緒に出掛ける。
とりあえずは近場の屋台で話を聞くことにした。
「店主、耳をかじられた男を知ってる?」
「・・・」
店主らしき男は話しかけても返事してくれない。
「あのさ、聞こえてる?」
「聞こえてるよ」
「それじゃ、話を・・・」
「おい、ここは屋台だぞ。情報屋か何かと勘違いしてるんじゃないのか?」
店主はかましてくる。
「それじゃ・・・焼きトウモロコシ1つと綿あめを」
「まいど」
俺は金を払う。
情報を集めるためだし、一応は意味あるよな?なんて言い訳を心の中でする。
「美味しいです、とっても」
ミクリは美味しそうに綿あめを舐めてる。
顔が見えない程、大きい。
そのうち顔が見えるようになるだろう。
「それで、知ってるのか?」
俺はとうもろこしを齧りながら質問する。
「さぁな、俺はしがない店主だ。
知る訳ないだろ?」
「ぐっ」
何も考えずに購入したのは失敗だったかもしれない。今後は慎重に金を使おうと俺は決めた。
「だが、そうだな妙な噂は知ってるぜ」
「なんだよ」
「この街には恐ろしい秘密があるってな」
「秘密・・・ねぇ」
俺はとうもろこしを食べ終えた。
「青菜様」
「うわっ」
ミクリが綿あめから顔を出す。
食べてる時に貫通したのだろう。
ライオンみたいに見える。
「くじけずに、どんどん聞いていきましょうきっとたどり着けますよ」
「そうだな」
俺たちはその場を後にする。
「ん・・・」
噴水傍のベンチで寝転がってる男に話を聞く。少し、酒臭い気がする。
「おじさん、話を聞いても?」
「何の用だ」
「ラットボーイと呼ばれる男を探してるんだ。耳を齧られてて・・・何か知ってるか?」
「さぁな」
男は酒を飲む。
「知らないならいいさ」
俺は離れようとする。
「そいつは知らないが妙な噂は知ってるぜ」
「妙な噂?」
「この街には木霊館って建物がある」
「そこがどうしたんだ?」
「何でも人を喰うって噂の場所だぜ、探してるやつが隠れるなら、そういう所が怪しいんじゃねぇの?」
「教えてくれてありがとう」
「いいってことよ」
おじさんは手を振るが、そのまま倒れる。
「大丈夫か!?」
駆け寄ろうとすると、止められる。
「心配ねぇ、酔ってるだけさ」
「ならいいが・・・」
俺はその場を後にした。
「木霊館、怪しいですね」
「確かに」
俺は気になって、色々な人に話しかけた。
しかし、全員、木霊館の噂を怖がって同行を拒否されるばかりだった。
「困りましたね」
ミクリの頭上に渦が見えるようだった。
「誰か教えてくれると嬉しいんだが」
「従私たちで探すしかないんでしょうか」
「どうしても人が見つからなければ、そうなるだろうな」
「あんたら木霊館を探してるんだろ?」
「誰だ?」
「木高省吾(きだか・しょうご)だ。
よろしく」
「よろしく・・・」
手を差しだされたので握手する。
身長は178cm。
体重は71kg。
細身で長袖パーカーを深くかぶり、
顔が見えないようにしてる。
何だか怪しい人物だった。
服の上からでも分かる筋肉。
かなり鍛えてる感じだ。
「握手は挨拶の基本だからな」
「顔を隠してるのはやましことがあるからか?」
「いやぁ、恥ずかしい話だが性格が臆病でね。顔を合わせて話すのが恥ずかしいからなんだよ、顔を隠さなければ人に話しかけられないほど・・・ね」
「その腕はどうしたんだ?」
腕には茶色い包帯のようなものを巻いてる。白が一般的だが、珍しいなと思った。
「これは・・・怪我したんだ」
「そうなのか」
「転んでさ、まぁ、些細なことだ。
気にしないで欲しい」
「分かった」
「それでどうだろうか、大生(だいせい)は木霊館まで案内してあげられるけど」
だいせい・・・これまた変わった一人称だ。小生は聞いたことがあるが大生は珍しいな。
「俺は問題ない、ミクリも問題ないだろ?」
「青菜様について行くだけですから。
地の果てから家庭の中までついて行きます」
「家庭に収まらないでくれ、俺たちは結婚してないだろう」
「すみません、軽い冗談です」
「冗談・・・ね」
俺は苦笑する。
「もういいか?」
省吾は呆れた顔をしていた。
「案内してくれ」
「任せてくれ、この案内人木高省吾にな」
自分のことを案内人だと語る彼に俺たちはついて行くことにした。
人を喰う噂。
どんなものだろうか。
確かめてやろうじゃないか。
謎を追い求める探偵のような気分で俺はワクワクしていた。
その先にあったものは一面、水の世界だった。
建物は無く、同じ景色が続く。
空は青空だが、太陽は見えない。
でも、光は感じる。
手も見えるし、先生の顔だってしっかり分かる。
暗黒空間というわけではなさそうだ。
「ここはが異世界」
俺は浸っていた。
新しい世界が待ってるのだと思うと、ワクワクして来るからだ。
前居た世界では受け入れてもらえなかったが、
この世界なら俺を受け入れてくれるかもしれないと思ったからだ。
「いや、まだだよ」
「・・・」
俺はため息をつく。
「や、そんなに怒らないでくれ」
「すかされてこっちは気分悪いですよ」
「次第に面白くなってくるさ」
「だといいんですけど」
せっかく異世界に来たのに不幸な目に合うのはごめんだ。
俺はそこまでマゾヒストになる気は無い。
「少しいいかい?」
「なんです?」
「タバコを吸いたくなってね」
「どうぞ」
「・・・」
ライターで火をつける。
「それで、ここは何処なんです?」
「神域」
「神域?」
「ここは、神の住まう世界とでも言おうか」
「神・・・実在するんですか?」
「ひとまず合って確認してみるといい。
SNSで神様が居ますよなんて言っても誰も信じないだろう。
でも、本人に直接会えば誰でも信じるだろう」
「なるほど?」
その例えは必要かと思ったが言いたいことは分かったので放っておく。
とりあえず、俺は先生について歩く。
「世界には偽物も居るが、ここに居るのは本物だよ。
先生たち、ディセトの者たちがその証明さ」
先生は説明を始める。
「ディセト?」
「神によって生み出された10人の操り人形たちのことさ」
「それが、先生だと?」
「あぁ」
「それが不思議な力を持ってる理由なんだね」
「まぁ、そんな感じ」
「・・・」
俺は何だか凄い場所に入り込んでしまったのだと思った。
「さて、行こうか」
「行くって、辺りは水辺ですよ」
「見てなよ」
先生が歩き出すと、沈むことなく歩くことが出来た。
「ふしぎだ」
「来ないのかい?」
「行きますよ!」
俺は先生の後をついて歩く。
水辺の中には魚たちが居て泳いでる。
その上を自分が歩いてるのだと思うと不思議だ。
ガラスの板の上を歩いてるのだろうか?
「手を入れてみて」
「え?」
「いいから」
まるで俺の心を読んだみたいな質問だった。
言われた通り、手を伸ばす。
すると、水を感じる。
エサを貰えると勘違いしたのか魚たちが手に群がる。
ぬるっとした感触。
生物の肌を感じる。
「うわっ」
俺は気味悪く感じて、手を引き上げる。
そして、そのまま尻もちをつく。
「あっはっはっは」
先生は楽しそうに笑う。
「どうなってるんですか・・・尻もちもつけるし。
本当に水の上なんですか、ここ」
「だから言っただろう、神域だと」
「不思議な空間なのは理解しましたよ」
俺は立ち上がる。
「尻がびしょびしょだ」
「うわー・・・」
気分が悪い、だけど乾くまで時間が掛かりそうだ。
「みっともないが、神はそんなことを気にする性格では無いから安心するといいさ」
「それならいいですけど」
「・・・」
「大分、歩きましたが、いつになったらつくんですか?」
ずっと同じ景色で俺は本当にゴールに向かってるのか不安になったのだ。
「大丈夫だよ、必ずつく・・・多分」
「どっちですか」
俺はツッコミを入れつつ、歩き続けた。
「ついたよ」
「ここが」
他には建物が無いのに、そこにだけポツンとあった。
ドーム状で、幾何学模様が描かれた建物。
入り口はプラネタリウムとかで良く見る重厚な扉だった。
「ほくぜんです」
先生が扉をノックする。
「・・・」
一体、どんな人物が来るのだろうとドキドキする。
「あっ、チャイムだった」
「・・・」
俺はため息をつく。
「いやぁ、ごめんごめん、久しぶりで」
「俺の緊張を返してくださいよ」
「緊張をほぐすためのギャグって思ってくれれば」
「ふざけないでください」
「あはは、悪い悪い」
先生はへらへら笑う。
少しも悪いと思ってない人の謝り方だ。
「いいから、押してくださいよ」
「そうだね、すみませーん、ほくぜんが来ましたぁ」
チャイムを鳴らす。
「うわっ」
俺は驚く。
いきなりラッパのファンファーレ(短く活発な曲)が鳴り響いたからだ。
「多分、居ると思うんだけどなあ」
「居なかったらどうするんですか」
「どうしようっか」
「えー・・・」
こちらに全ての責任を押し付けられて困ってしまう。
だけど、その不安は杞憂だったようだ。
扉がぎぃっと開く。
「神様は居るみたい」
「・・・」
どんな人物なのだろうか?
厳格で恐ろしい目つきをしているお爺さんを想像する。
シラサギの羽を生やし、神秘的な姿をしてるに違いないと思う。
扉の奥を進んでいく。
ホテルの廊下のようだった。
無数に扉が並び、一直線の道になってる。
「204号室の扉を開けてみて、そこに居る筈だから」
俺は扉を開ける。
すると、いきなりヘビが飛んでくる。
「うわっ!」
俺は驚く。
「あはははは」
先生は笑う。
「変な悪戯は止めて下さいよ!」
「ごめんごめん、君が素直でつい」
「・・・」
これだから人は信用できないんだ。
俺は盛大にため息を吐く。
「おもちゃだから大丈夫だよォ」
ピンクと黒のシマシマカラーの独特なヘビだった。
それを持って先生は遊んでる。
「そういう問題ではないです」
「真っすぐ行けば神様の所だからさ」
「本当ですか?」
「本当、本当、先生が嘘ついたことある?」
「短い付き合いですが、数えきれないほど」
「あちゃー」
先生はへらへら笑う。
本当にこの人は。
「・・・」
この人に聞いても素直に教えてくれなさそうなので自分で扉を開けて調べる。
「残念、そこじゃないよ~」
「それじゃ、何処なんです?」
「506号室」
「・・・」
俺は505号室を開ける。
「きゃあっ」
見知らぬ女性が裸でシャワーを浴びていた。
「す、すいません!」
俺は急いで扉を閉める。
「だから言ったじゃないか、506号室だって」
「本当ですか?」
「本当本当」
「もう一回だけですよ」
「やった」
先生は笑う。
こんな人でも今は頼るしかないのだ。
ひとまずは信用して扉を開けた。
すると、そこにはポツンと1人で、
4本足のブラウン管テレビを眺めてる人物が居た。
ソファーで隠れてよく見えない。
「お久しぶりです、デナキウス様」
ほくぜん先生が今までとは打って変わって、礼儀正しくなる。
片膝をついて、目上の人を敬う仕草を取ったからだ。
「・・・」
デナキウス・・・それが神様の名前。
「ぐっぱ、ぐっぱーっ」
やたらと軽いノリで挨拶して来る人物が居た。
ジャンケンのグーとパーを交互にを出して、
手をを閉じたり開いたりして遊んでる。
ソファーから立ち上がり、こちらに姿を現す。
身長は191cm
体重は72kg
見た目は簡単に言うとオジサンだった。
長い髪で地面に付きそうなほど。
丸眼鏡をしていて、髭面の40代男性っぽい雰囲気。
上下ジャージでかなり緩い印象だ。
しかし、手に持つ心臓の杖。
そして、背中に生えた7枚の白鷺の羽。
右に3枚、左に4枚とアンバランスだった。
これが神様なのかもしれないと思わせる雰囲気があった。
「神様・・・?」
「そうだよ~、よろしく少年、やばごっと」
「や・・やば?」
「若者言葉のやばいと、神様のゴットをかけあわしたんだ。
流行らせたいんだよね」
「はぁ」
ジャージという格好もそうだが、そうとう緩い。
緊張して損した。
ほくぜん先生が丁寧な挨拶をするから、怒らせたら怖い人なのかと思った。
「生神の名前はデナキウス、職業は神様です、やばごっと」
手をグーパーする。
「生神?」
「そう、私とか、俺とか一人称は色々あるけど、
神様が人間と同じ一人称使うとかありえなくない?
やばごっとだよ」
「はぁ」
「だから生命神たる、このデナキウスは一人称に生神って言うようにしてるんだ」
「なるほど?」
「ほくぜんちゃ~ん、タバコは吸ってから部屋に入ってよォ」
「すみません、好きで」
「いいけどさぁ、副流煙とかやばごっとだよ?」
「はい」
先生はタバコの吸い殻をポケット灰皿に仕舞う。
「それじゃあ、話をしよ~かなぁ。
まぁ、気楽に何でも聞いてよ、あっ、ちなみに生神は映画が好きなんだ。
ブラウン管で見てるのは映画さ、
西部劇を見ていたんだ、男らしくて激渋でいいよね。
白黒だと余計にそう思うよ。
ポップコーンのバター味を食べながら、コーラを飲むのが何よりの楽しみさ。
おっと、ずっと立ちっぱなしってのも悪いよね。
生神の隣に座るといいよ」
デナキウスはよく喋る。
俺はそこまで会話が得意では無いので、
話しかけられるのは会話の内容を考えなくていいので助かった。
「分かりました」
俺は神様を名乗る男の隣に座る。
「君は映画の面白さと聞かれたら、何を思い浮かべる?」
「映画は、あまり興味が無くて」
「冷めてるねぇ、それは良くない、映画を見た前」
「はぁ」
俺は文字が見えないので、吹替なら問題ない。
ただ、
そういう娯楽作品に興味を持てない性格なのだ。
「映画で面白いと思う根拠は”自然”だ。
そこに生きた人間が登場してるように思えるかどうかだ。
生きてるってのは心臓が動いてるって意味じゃない。
脚本家の顔とか俳優の私生活とかがが浮かばないような、
本人の人生を追体験してるようだって話だ。
そういう映画に出くわすと酷く興奮する。
面白い物語に触れるのはいい、
酒やセックスよりも心地よい気分になる。
なんというか母親の子宮の中に居るような気分だ」
「・・・」
デナキウスは饒舌に話す。
本当に映画が好きなんだろうなと思う。
「喉が渇いただろう、コーラしかないけど飲むかい?」
冷蔵庫の中は炭酸飲料一色だった。
バラエティに富ませる気は無さそうだ。
「それじゃ、少し」
コーラが好きではなかったが、付き合いを拒否するのも失礼だろう。
そう思っての判断だった。
「うん、いい飲みっぷりだ」
コーラを飲んだ俺の姿を見て、
デナキウスは嬉しそうな顔をする。
「先生は座らないんですか?」
ほくぜん先生は無表情で佇んでいた。
「彼女はいいんだ、生神と君だけでいいんだ」
「でも」
俺たちだけソファーに座ってるのも気分が悪い。
だから軽い気持ちで誘ったのだが。
「生神がいいと言ってるんだ、いいね?」
「っ・・・!」
軽いノリとは打って変わって、急に真顔になるから怖い。
なるほど、舐めてかかってはいけない人なんだなと確信した。
「それで、何を聞きたい?」
「イデア・テラリウムってどうして名付けたんだ?」
「生神が神と言われる理由と結びついてるからだ」
「どういう意味だ?」
「まぁ、みたまえ」
デナキウスが手のひらを見せてくる。
すると、小さな鳥が鳴いてるではないか。
「マジックですか?」
「いいや、誕生したんだ」
「はっ・・・?」
「生神はね、命を生み出す力を持ってるんだ」
雀がぴぃぴぃと鳴いてる。
そして、飛んでいった。
「じゃあ、この世界は貴方が作ったと?」
「正確には3人の神だがな」
「3人の神?」
「悪徒神ラットボーイ、知恵の王シャチ、そしてこの生命神デナキウスだ」
「3人の・・・神」
「地球は生神の管轄では無いから、そっちの創造には関わってないがな。あくまでもイデア・テラリウム・・・神の箱庭の創造だけを行った。
あれは24億年前の話だろうか」
原始の地球は、およそ46億年前とされてる。
それよりは若いのか。
なんて、どうでもいいことを思う。
「どうして創造を?」
「理由は退屈だから」
「退屈?」
「暗闇の宇宙、何もない世界。
いや、宇宙卵と呼ばれる存在があった。
神が生まれるよりずっと前に存在していた生命体。いつ頃かヒビが入り、卵から何かが誕生した。
それがビックバン、巨大な爆発だった」
「・・・」
「その爆風によって神たる3人が誕生した。
そして、生神デナキウスたちは彷徨っていた。いつまでもこんな風に生きてるのは良くないと思った、落ち着ける場所を探した結果、1つの星を見つけた。それが、イデア・テラリウム。
丸い地球とは違い四角形の星だった。
生神たちはそこに降り立った」
「それで?」
「乾いた大地に降り立った生神たちは、
水を生み出した。そしてしばらくは3人で安定した日々を送っていた。ところがある問題に気づいた」
「問題?」
「3人だけでは寂しいとね」
「まぁ、そうかもしれない」
「だから最初は魚を作った、次に亀を作った、そして熊を作り、やがては人を創造した・・・そうして世界が出来上がって行った」
「・・・」
本当の話なのだろうか?
神話過ぎて、俺には信用できない。
「生命が誕生しても、そのままでは酷く不気味だ。何故なら言葉を持たないのだからな、どうすれば愛嬌が出るのか考えた結果、シャチが知恵を与えた。そうすることで、この世界の生物は言語を手にし、表情や感情を持つようになった」
「・・・」
「ところが、ある日突然、生物たちは死んだ」
「どうして」
「理由は分からないんだ」
「神様なのに?」
「神様って言っても、生神は全知全能ってわけじゃない。あくまでも生命を作り出すことが出来る特殊な能力を持ってるに過ぎない、それに生み出せる生命に指向性を持たせられないしな」
「指向性?」
「可愛い彼女が欲しいと思って力を振るっても、出てくるのはカマキリだったりする、運の要素が強いんだよ、生神の能力は」
「扱いづらいですね」
「あはは、言えてる」
デナキウスは笑う。
「それで、話を戻しますが理由が分からないってのは?」
「言葉だけじゃ説明のつかないことが起きた。
とでも言おうか」
「はぁ」
「そして、それにラットボーイが名前をつけた」
「なんて名前です?」
「善悪」
「善悪・・・」
「正義とも言い換えていい。
生命が滅んだのは互いの正義がぶつかりあっての結果だ。人それぞれ、正義が違うのだから争っても可笑しくないだろう?」
「まぁ」
「だから善悪の定義を強引に決めることで争いの火種を少しづつ消した、そうして生命が残るようになった」
「善悪の定義って?」
「人の命を奪ってはいけない・・・とね」
「・・・」
確かに、これを決めないと人は殺してもいいとなる。たかがルールかもしれないがあるのと無いのとでは大違いだろう。
「そうして世界が誕生し、今に至る。
というわけだ、神様の箱庭、
それがイデア・テラリウム。青菜、君が今から向かう世界の話だ」
「俺に異世界で何をさせようって言うんだ?」
「神を捕まえるんだ」
「神・・?」
「ラット・ボーイ。
彼が、この世界が悪さをしてるんだ」
「何をしたんだ」
「神具を世界にばらまいた」
「シング?」
「13の災厄を人間に与えてしまった」
「なんのために?」
「ラットボーイの考えは分からない・・・昔から」
「・・・」
「しかし、それによって世界に問題が起こる」
「問題?」
「人間は少しづづ進化するものだ、しかし。
神具の登場によって世界の進化が早まるのだ」
「それの何が問題なんだ、進化した方が人のためになると思うが」
「早すぎる進化は破滅を招く」
「・・・」
「これは年長者の意見だと思って聞いて欲しい。
生神は人間を滅ぼしたいと思ってない、むしろ救いたいと思ってるんだ。そのためには青菜、君に力を貸して欲しい」
「俺はただの人間だ、神である、あんたの方が強いんじゃないのか?」
「神が介入してはいけないんだ」
「どうして?」
「神が介入することによって人の運命は大きく変わる。人はそれを奇跡と呼ぶ」
「奇跡・・・」
「死んだはずの人間が蘇り、何の努力もしてない選手が長年努力してきた選手を追い越す、そんな奇跡がありとあらゆる所で起きる、それは人間の自然な姿とは思えない・・・故に生神は介入する気は無い。
人間の問題は人間で解決して欲しいのだよ」
「でも、ラットボーイは神なんだろう。
それはデナキウスが処理しても問題ないと思うが」
「やつは神の気配を読み取れる」
「え?」
「人間でなければ近づけぬのだ、役に立たず申し訳ないが、青菜にやってもらう他ないのだ」
「・・・」
「もしも生神の元へ連れてきてくれたのならば、それは神同士の問題だ、後は任せてくれ」
「俺はただの人間だ、捕まえられるものなのか?」
「それは安心したまえ」
デナキウスはポケットから何かを取り出す。
「これは?」
「大監獄のカギ」
「これはいったい・・・」
「神具の1つだ」
「いいのか、俺に託しても」
「いいんだ、だけど全てが終わったら返して欲しい」
「メリットは?」
「メリット?」
「俺が協力しても幸せになれるかってことだ」
「そうだな、神になる気は無いか?」
「神様ねぇ、どうも怪しいな・・・それと俺の幸せに何の関係が?」
俺は持ち前のうがった見方をする。
「神になるということは人間が感じられる幸せの最大だぞ?これ以上ない報酬だというのに」
「神になって何が出来るのさ」
「君は怠惰な人間だ、そういう存在こそ神に相応しい」
「どういう意味だ?」
「神はただ人間を観察するだけでいい、いや、むしろそうしなければならない」
「・・・」
デナキウスは人間社会に関与することを嫌ってる。
何か理由があるのだろうか?
「神になれば食事は不要だし、寝ることも無い。
退屈な時間が過ぎていくかもしれないが、死という恐怖から解放される、これ以上ない幸福だろう?」
「まぁ・・・そうかもな」
人間が不幸を感じるのは死への恐怖から逃れたいからだろう。それが無くなるのであれば、何も不安を感じる必要が無いのだ、幸福とは、そういうものなのかもしれない。
「神になりたくなったろう?」
「それにしてもあっさり神にするんだな、大した報酬じゃ無いんじゃないのか?」
探し人を捕まえるだけというのは多少、大変かもしれないが絶対に無理という案件では無いだろう。
だから俺は怪しんだ。
「人間を神にできるのは生神だけだ。
誰にでも出来ることじゃないし、ラットボーイを捕まえるということの大変さを理解してないのでは?」
「俺は知らないからな」
「奴は人の手で捕まえられるほど単純な男ではない」
「それなら約束に意味は無いんじゃ」
「人間がよくやるだろう、叶えられない願いに無茶な願いを約束に選ぶことを。例えば宝くじに当たったら自分の家を燃やしてやるとかな」
「それって俺にあまり期待してないってことじゃないのか?」
「そんなことないさ」
「本当かな」
「本当だとも」
その言葉に信用性が足りないが、追求するのも面倒なので俺は引き受けることを選択した。
神にしてくれる報酬は俺の人生であまり聞いたことないものだった、普通の人間なら断るかもしれないが、俺は面白そうだと思ってしまった。
どうせ退屈で何もすることがない人生だ。
少しはハリってやつが出そうに思えた。
「分かったよ・・・それじゃ、もしもラットボーイを捕まえることが出来たら神にしてくれよ?」
「あぁ・・・約束は守ろう」
「・・・」
俺は首にひもを通されて、大監獄のカギを預かった。
胸元できらりと光る。
「念を押すが、神具は災厄の種だ。
間違っても己、個人の欲望で使ってはいけない。
人間社会に悪影響を及ぼしかねないからな」
「分かった」
俺は大事なものを託された。
勉強も運動も真面目にしてこなかった俺に、いきなりの大役でドキドキする。
責任の重さのようなものを実感してしまう。
「後はそうだな、金を渡して置こう」
「助かるよ」
「軍資金だと思ってくれ」
「ありがとう」
俺は金貨を30枚貰う。
「3万pだ、平均月収ぐらいかな」
「なるほど」
金貨一枚=1000ペレットということか。
「そうそう言い忘れていたことがある」
「なんだ?」
「神を捕まえるのが第一目標だとするなら、第二目標も存在する。それは神具と一緒に所有者も捕まえて欲しい」
「そいつらは神なのか?」
「いいや、ただの人間だ。しかし、神の奇跡と同等の力を持ってる存在と言える」
「そんな厄介な相手、俺に捕まえることが出来るのか?」
「安心したまえ、君に預けた大監獄のカギは素晴らしい能力を持っている」
「素晴らしい能力?」
「監獄のアイテムを自由自在に使えるのは勿論だが、
相手の能力を封じる力を持つ」
「無効化の能力・・・」
「生神の知る限り、一番最強の神具が君の持つ大監獄のカギだ、一番最強だから大事に持っていたんだ」
「大事に持っていた?」
「情けない話ではあるが・・・神具の元々の持ち主は全て、この生命神デナキウスだった。
しかし、油断した生神はラットボーイに盗まれてしまったのだ・・・」
「後始末も兼ねてるってわけか」
「こんな不甲斐ない神だが、どうか手を貸して欲しい。頼めるだろうか?」
「いいぜ、どうせ俺には夢が無いんだ。
自分探しのついでに神具を全て回収するさ」
音楽家になりたいとか、料理人なりたいとか、
夢があるのならば、断っていたかもしれない。
だが、今の俺には夢が無いのだ。
暇つぶし・・・というと表現が悪いが、
どうせ何も目的が無く生きてる人生だ。
目的が出来たと思って喜んで協力しよう。
俺は幸せなのかもしれない。
そんなことを思った。
「助かるよ」
生神は俺の手を握ってぶんぶんと握手する。
とても嬉しそうだ。
協力を申し出た甲斐があったというものだ。
「私的に逮捕するのはいいのか?」
「元居た世界では、基本的にはダメだろうな。
まぁ、その辺の根回しは大丈夫だ」
「根回し?」
「イデア・テラリウムでは天使が治安維持を務めてる。
神は人間社会に介入しないとはいえ、全く野放しというわけではない。一番偉い、天使長に話は通してあるから、安心して私人逮捕しても構わない」
「それなら良かった」
「あぁ、繰り返し言うようだが、普通の人間の逮捕は出来ない。
あくまで、神具の使い手を捕まえて欲しい」
「了解」
「さて、生神からは以上だ、後は聞きたいことはあるか?」
「もう無いよ」
「そうか、ではさっそくその能力を使ってみるといい」
「分かった」
「扉にカギを指してみるんだ」
「何処でもいいのか?」
「あぁ」
デナキウスに言われるがまま、俺はカギを差し込む。
すると、扉が開き道が現れる。
俺はそのまま進んでいった。
「ここは・・・」
「大監獄アルトラズ」
「ここが」
収容所を思わせる雰囲気だった。
太陽の光はあるが、遠く手を伸ばしても届きそうにない。
部屋は狭く、3人ほどしか収容でき無さそうだ。
檻が不安を感じさせる。
「気に入ったかい?」
「大監獄と言うには少し、狭いようにも思えるけど」
「あはは、確かに言えてる」
デナキウスは笑う。
「本当に最強なのか?」
「それは保証する、ただ使い手が無能だと、どれほど素晴らしい能力を与えても無能にしか見えないがね、君はどうかな、青菜」
「・・・」
デナキウスは煽って来る。
「相性がいいことを願ってるよ」
デナキウスはそう言って、去って行った。
「ふぅ」
ようやく一息を入れられるとばかりに、ため息をする先生だった。
「先生、今まで息を殺してたもんね」
「あの人はひょうきんな感じなんだが、目の奥がいつも笑ってないんだ・・・そこが怖いよ」
「なるほど」
俺は納得する。
「さて、君の能力だが装備タイプだと先生は分類するね」
「装備タイプ?」
「装備タイプ、自立タイプ、召喚タイプ、時空間タイプ、条件タイプ
特殊タイプ、以下6つに分類される」
「具体的には?」
「装備は文字通り、装備して能力を発揮する。威力が強力だが、遠距離は不向きで、しかも神具を外してしまえば能力は使えない欠点を持つ」
「なるほど」
「自立タイプは遠距離での行動が可能で、しかも術者の手を離れても能力が使える」
「装備タイプと比べて欠点が無いの?」
「まさか、欠点はあるよ。精密動作には不向きで単純な動きしかさせることが出来ない、敵にダメージを与えた場合、自分で確認に行かないといけないも欠点だね」
「ふむふむ」
「召喚タイプは、武器や生命を生み出す能力、デナキウス様がこれかな。時空間は時間や空間に影響を与える能力、これは先生の力だね、条件タイプはある一定の条件を満たすことで能力を発揮する、少し使いづらい能力だ、しかし一度、ハマれば抜けだすのが困難なほど強力な能力に化けることもある」
「特殊タイプは?」
「特殊タイプは・・・その時がくればね」
「・・・」
一体、どんな能力なのだろうか。
特殊というだけあって、他の人とは違うのかもしれない。
「さて、話ばかりで身体がなまって来ただろう。
そろそろ戦闘と行こうじゃないか」
「ま、待ってくれ先生」
「敵はいつだっていきなり現れる、それが今だってだけの話なんだ」
「ぎょへっ、ぎょへっ」
空間にいきなりツギハギが現れる。
その糸が解かれ、奥から何かが出てくる。
それは、形容しがたい怪物たちだった。
2足歩行で歩くが、頭が無く、代わりに触手が生えてる。
身長は5mほどで、俺よりも大きい。
2体居る。
「くそっ、いきなりだ!」
触手が俺を襲う。
サッカーコートほどの部屋で、こんなに暴れられては困る。
「逃げていては勝てないよ」
先生は完全に傍観してる。
しかも怪物たちは先生に目もくれない。
飼いならしてはいるんだろうが、あんまりな対応だ。
「うわぁあああ」
能力を使うってどうすればいいんだ?
俺はただ、みっともなく逃げ惑うだけだった。
「ぎょへっ、ぎょへっ」
怪物たちは俺ににじりよってくる。
そして、触手で俺首を縛り上げる。
「ぐっ・・・た、助けて」
俺は宙に浮く。
何も出来なくて、助けを求める。
「・・・」
先生は見て見ぬふりだった。
「せ、先生?」
「・・・」
先生はタバコを吸い始める。
何をのんきにリラックスしてるんだ?
俺が死ぬって言うのに。
「な・・んで・・・た、すけないんだ」
「先生の所為じゃない」
先生はさも当然って感じの顔をする。
「がっ」
首を絞める力がどんどん強くなってくる。
このままでは間違えなく死んでしまう。
「君の考えてることを当てよう、青菜君」
「ぐっ・・・」
言葉が・・・出ない。
「どうして見殺しにするんだってね、君は助けて欲しい筈なのに、
貴重な人員を見過ごすような真似は可笑しいって、それに、その怪物たちは先生が飼いならしてる筈だ、止めろと言えば済む話じゃないのかってね」
「・・・」
そこまで分かってるのならば、どうして。
そんなことすら言えない。
もう、1分は経っただろうか。
意識が遠くなってくる。
「さようなら、青菜。死の間際で人は輝くものだ。
しかし、それは全員とは限らない。
これほどの相手に負けるようなら、イデア・テラリウムは向いてない。新しい人材を探さなくてはいけないのか、先生の仕事が終わったと思ったんだけどなぁ」
そんなことを先生がぼやいていた。
それが最後のセリフだった。
スマホの画面を消すみたいに一瞬で真っ暗になる。
「・・・」
ここが天国なのか?
いや、違う。
照りつける太陽。
乾く大地と喉。
俺は砂漠を彷徨ってる感じだった。
花畑を想像していたが、どうやら現実は違ったようだ。
「・・・」
「誰?」
声が・・・する?
「・・・」
「誰なの?」
話しかけても返事は聞こえない。
それもその筈だろう。
何故なら、そこにはシャチの姿があった。
「・・・」
女性の声?
なんとなく、そんな気がした。
清涼感があって、落ち着く。
知性や品を感じる。
「俺に・・・何を伝えたいんだ?」
「・・・」
シャチが目線をやる。
俺は手元を確認する。
すると、そこには今まで感じなかった重量があった。
金魚鉢のようなガラスの容器。
「これで喉でも潤せってか?」
でも、中には水は無く、空っぽの容器だった。
「・・・」
「こいつで何をして欲しいんだ?」
「・・・」
器の中が突然、あふれ出す。
「これは・・・」
シャチは砂漠の砂の中へと消えていく。
俺はその瞬間、目を覚ます。
そして、身体全体がモヤで覆われる。
景色が晴れると、監獄に戻ってきたのだと実感する。
「これは・・・!」
先生は驚いていた。
「・・・」
俺は、ドクロの面を身に着け、
成人男性と同じくらいの大きな斧を振るう。
身体には拘束具が巻かれていて、動きにくそうだった。
両手両足には錠がついてるのもそう思わせる要因だった。
「神の能力?デナキウス様は道具しか与えてない筈なのに」
「ぐるぉおおおおおおお!」
力を感じる、熱い。
身体の中にエネルギーが溢れてしょうがない。
身体の中を血液が激しく巡ってるのを実感する。
冷まさなくては。
気分が晴れるにはどうすればいい?
俺は獣のごとき咆哮をする。
「ぎょ・・・っ」
怪物たちは怯んでいた。
奴らは知性こそ無いものの、本能が鋭いのだろう。
直感で理解したのだ。
俺よりも弱いと。
そして、食われると。
「おおおおおおおおっ!」
俺は雄たけびと共に、怪物どもを殺して行った。
片方は首を跳ねて、もう片方は真っ二つに両断した。
戦闘が終わると、先ほどまでのムラムラ感が消えた。
「あはは・・・凄いじゃないか」
「はっ・・・はっ・・・」
俺は元の服装に戻る。
そして、そのまま倒れ込んだ。
「おはよう」
「はっ」
次に目を覚ましたのは3時間ぶりだった。
「驚いたよ」
「不満を言わせてくれ、よくも見捨てたな」
「仕方なかったんだ、試練は人を諦めさせるほどじゃないと意味が無いだろう?」
「だからって・・・」
「いいじゃないか、こうして生きてたんだから」
「もし、もう一度見捨てるようなことがあれば見限るからな」
「ふふ・・・怖いな」
先生は笑う。
年上に凄んでも無駄かと思い、諦めた。
「それにしても俺は・・・一体・・・」
あのまま死んでしまうのではないかと思っていた。でも、実際は違った。
「こちらが聞きたいんだけど」
「頭が・・・痛い・・・」
酷く頭痛がする。
「その仮面が実は・・・神具の1つだったり?」
「これは違う、普通の仮面だ」
人間社会で100均とかで普通に購入したものだ。もしも100均にそんなものが売ってるのならばネットで騒がれても可笑しくないと思うが。
「まぁ、だろうね・・・それにしてもあの反応。
間違えなくデナキウス様と同じオーラ・・・ラットボーイ様はあり得ないとして、シャチ様が関係してる?」
ぶつぶつと先生は呟く。
「あの・・・先生?」
「あぁ、いや、何でもないんだ」
「それで俺は合格・・・でいいんだよな?」
「勿論・・・それに放っておくには危険すぎるしね」
「先生、何か言った?」
「いやぁ、別に?」
「・・・」
俺のこの力、いったい何なんだろう。
アルトラズの能力の一部なのだろうか?
それなら使いこなせば随分と強力に思えるが。
「能力を使いすぎて、疲れただろう。
少し、休憩しようじゃないか」
「分かった」
頭痛も酷かったし、目もかすむ。
体力が回復するまでは、この大監獄で休憩しよう。
「先生、何か作ろうか?」
「何か作れるの?」
料理が出来るのか、意外だったな。
手先が器用だと人に好かれそうだ。
「いや、言ってみただけ」
「いい加減だ」
「先生の性格をまだ理解してないようだね」
「もういいです」
俺は諦めて眠りにつこうとする。
「先生の能力で取り寄せることは出来るけど」
「それを早く言ってくださいよ!」
「めんごめんご」
先生はへらへら笑う。
「腹立つ・・・」
「何が好きなんだい?」
「おからの炒り煮」
「また随分と渋い物を、若者らしく揚げ物とかどう?」
「揚げ物は好きじゃないんです」
「うーん、渋いね」
「先生は何が好きなの?」
「タバコだね、なんといっても美味い」
「それは料理じゃない」
「好きな食べ物はエビフライ。
嫌いな食べ物はレモンのかかった揚げ物かな」
「唐揚げにレモンをかけるか、かけないか論争がたまに起こりますよね」
「先生は断然、かけない派。ありえない、ナンセンス」
「俺はそこまで・・・」
「かけてしまえば後戻りは出来ないけど、かける前なら後戻り出来るだろう?」
「まぁ」
「だから別皿にカットレモンを出してくれる店は優良店だと先生は思うんだ」
「どっちでもいいですけど」
この話、面倒くさいなって気がしてくる。
「ダメダメ、ちゃんと聞かないと」
「その話意味あります?」
「今から、取り寄せるんだよ」
「おからは・・・?」
「先生はエビフライを食べたい気分なんだ」
「もう好きにして下さい」
俺の好みは受け入れてもらえなかったので諦めた。
そして、2人して揚げ物を食べた。
「食事も終えたことだし、寝ようか」
「シャワーとか浴びなくていいんですか?」
「この監獄には無いじゃないか」
「・・・」
そうなのか。
本当に囚人を収容するだけらしい。
でも、俺の成長によっては増設されるかもしれないらしい。
「まぁ、1日くらい入らなくても死なないでしょう」
「それはそうですが」
「さて、寝ようじゃないか」
「枕が1つしかありませんが」
「先生が使おう」
「えー・・・」
「なんだ、不満か?」
「じゃんけんにしましょうよ」
「いや、その心配は無用だ」
「枕無しで寝るのは硬くて嫌ですよ」
「見たまえ」
先生は腕を出す。
「その腕は一体」
「腕枕だ」
「男女逆じゃ」
「先生の二の腕、けっこう気持ちいいと思うんだけど?」
「そこまで言うなら」
俺は先生に腕枕される。
「どうだい、悪くないだろう」
「そうですね」
普通の枕よりも柔らかい。
これなら眠れそうだ。
「明日は早い、今日はゆっくり休むといい」
「それじゃ、おやすみ先生」
「おやすみ、青菜」
こうして俺は眠りについた。
先ほど、目覚めたばかりのような気もするが、
すぐに2度寝することが出来た。
能力の影響で疲れやすくなってるのかもしれない。
そんなことを思った。
「2度目のおはようだ、青菜」
「おはようございます」
「うーん、いい天気だ」
「薄暗いですが」
監獄というだけあって、なんだか薄気味悪い雰囲気だ。
太陽が遠く、手が届きそうにない。
青空で開けた場所だと太陽に手が届きそうだと錯覚するのに、どうして狭い場所だと逆のことを思うのだろうか。
「さて、そろそろ・・・いや、ようやくと言うべきか。
異世界へ行く準備が整った」
「・・・」
俺はごくりと唾を飲み込む。
「青菜には悪いが、先生は同行しない」
「え・・・?」
「悪いね」
先生は苦笑する。
「てっきり、一緒だと思ったのに」
「寂しいかい?」
「別に・・・」
「またまたぁ」
「ウザい」
「でも、安心したまえ他のディセトが同行してくれる」
「他のディセト?」
「言うより、合って確認した方が早いだろう」
地面にツギハギが出現する。
そして、穴が開く。
「うわぁああああああ!」
俺は落とし穴に引っ掛かる。
「それじゃ、異世界ライフを楽しんで。
レストインピース」
先生はジャンケンのチョキを見せてくる。
「それは挨拶じゃなくて冥福のお祈りだ!」
俺の声は虚空へと消えていった。
「あれ、ピースって挨拶じゃなかったっけ?」
先生は不思議そうな顔をしてたと思う。
確認する前に落ちてしまったので分からなかったが。
落ちた場所は異世界と呼ぶに相応しかった。
時刻は朝の9時ごろだろう。
春の温度。
それは心地よい季節。
緑の草原、青い空、綺麗な街並み。
それが一気に見えた。
美しいと感傷に浸りたかったが、落ちてる最中なので、
それどころではなかった。
「ぐふっ」
俺はふさっと落ちた。
草が良い感じにクッションになったようだ。
「大丈夫ですか?」
俺の顔を覗き込む1人の女性が居た。
「平気・・・ツ!?」
俺は肘の痛みを感じる。
手を上にあげて思わず確認した。
すると血が出てることに気づいた。
「怪我してます」
「大丈夫だって」
「ぎゅーっ」
その女性は俺のことを抱きしめてくる。
「嬉しいけど、血で汚れちゃうよ」
「大丈夫です、これで」
「え?」
すると、傷が癒えていくことに気づいた。
どうやら抱き着くと傷を癒す能力がありそうだ。
「もう大丈夫です」
「君は一体」
俺はここでようやく彼女の姿を確認する。
「従私(じゅうし)はミクリと申します、以後お見知りおきを。
青菜様」
そこにはカーテシーを披露する女性が居た。
身長は175cm。
上からバスト100cm ウエスト62cm -ヒップ87cm。
カップはH。
見た目はモコモコしたワンピースタイプを着ている。
ロングヘアーで、ふわふわしてる。
変わってる点は髪が木綿で出来てることだった。
「じゅうし?」
「はい、人に従うという意味の漢字と、一人称の私。
それを組み合わせた従私なりの一人称です」
「なるほど」
「性格は穏やかで癒し系だと自負してます、モコモコした服を着てるのは、人に優しい人だと印象を持って欲しいからです。好きな食べ物は和菓子に抹茶。嫌いなのは辛いモノ。声を荒げる人、乱暴な言葉遣いの人。戦い。そして、人に危害を加えようとする存在。
後は雨に弱いです」
「雨に弱い?」
「はい、髪に水分が溜まり上手く行動できなくなってしまって」
「・・・」
ミクリの髪は確かにモコモコしてる、水分をよく吸収しそうだ。
「好きな言葉は”善因善果”
善い行いからは、善い果報が得られることらしいです。
それって人に優しくしたら、幸せになれるってことですよね。
素敵な言葉だと思います」
「言葉の意味はそうだろうね」
現実の人間は優しくしても悪意を返してくると思うが。
それは口にしなかったが、本音はそうだった。
「従私の能力は能力はコットン・ブルー(青い木綿)
綿を操ることが出来るんです、
そして抱き着くと傷を治すことも出来るんですよ。
でも・・・」
「でも?」
「病気は治せないんです、あくまでも怪我だけということです。
それでも無いよりはマシだと思うようにしてます」
「出血だけでも防げるなら効果はあるだろうね」
「ありがとうございます、青菜様」
ミクリは笑顔を振り向く。
癒し系というだけあって可愛らしい笑顔だと思う。
「君がディセトなの?」
「デナキウス様からはカウンセラーの役割を与えられてます。
と言っても、あまり相談に来てくれる人は居ないんですよね・・・あはは」
寂しそうな笑みを浮かべるミクリだった。
「見た目は悪くないんだけどね」
「従私はあまり性格がよくないのかもしれません。
もしも不愉快なことを感じればぜひ、言ってください。
改善しますから」
「本当に?」
「はい、何でも言ってください」
「今は無いから安心して」
「そうですか、それでは嫌なことを感じたら報告してくれると嬉しいです」
「分かった」
「青菜様」
「なに?」
「命令してください、何でも要求に従いますよ」
「何でもって」
「何でもです、青菜様が面倒だと感じることや、危険なことでもです。そして、その・・・えっちなことでも」
ミクリはもじもじする。
「何でも・・・ねぇ」
とは言うものの、初対面の人に何でも命令してくれと言われて、はいそうですかと命令するのも気が引ける。それに考えすぎかもしれないが、彼女が美人局という可能性も否定できない。
俺の何を奪おうとしてるのかは想像できないが、俺を陥れて陰で喜ぶ女性って可能性もあるのだ。エロい命令をして、それを本気にしたの、きもーいとか言われた日にはへこむ。
まだ・・・そういう願いは出来ない。
「命令の内容は決まりましたか?」
ミクリは真ん丸な目をこちらに向けてくる。
命令の内容を期待してるようだった。
「ひとまずは人を探そう、ラット・ボーイを見つけないといけないんだから」
俺は無難な命令しか出せなかった。
別にチキンとかではない、断じて。
「はい、わかりました」
ミクリはとても良い明るい返事をしてきた。
先ほど丘で見た綺麗な街へと俺は向かう。
看板が掲げられており、グリーンハウスと書かれていた。これがこの街の名前なのかもしれない。
「入ろうか」
「そうですね」
2人して街には居る。
街は人で賑わっており、屋台などが開かれていた。噴水もあって、家にツタが生えてるのが目立つ。緑豊かな印象だ。
「さて、探すとは言ったもの、何を手掛かりにすればいいのやら」
「悪徒神ラット・ボーイ様は身体に特徴があります。
それをヒントに探してはどうでしょうか」
「でも、変装とかしてるんじゃ」
「それは問題ありません」
「どうして?」
「ラット・ボーイ様の耳はネズミに齧られた痕がありますから」
「なるほど」
傷は変装しようと整形しようと隠すのは難しいかもしれない。
「探せそうですか?」
「良い情報だ」
「ありがとうございます」
「さっそく聞き込みと行こう」
「分かりました」
俺はミクリと一緒に出掛ける。
とりあえずは近場の屋台で話を聞くことにした。
「店主、耳をかじられた男を知ってる?」
「・・・」
店主らしき男は話しかけても返事してくれない。
「あのさ、聞こえてる?」
「聞こえてるよ」
「それじゃ、話を・・・」
「おい、ここは屋台だぞ。情報屋か何かと勘違いしてるんじゃないのか?」
店主はかましてくる。
「それじゃ・・・焼きトウモロコシ1つと綿あめを」
「まいど」
俺は金を払う。
情報を集めるためだし、一応は意味あるよな?なんて言い訳を心の中でする。
「美味しいです、とっても」
ミクリは美味しそうに綿あめを舐めてる。
顔が見えない程、大きい。
そのうち顔が見えるようになるだろう。
「それで、知ってるのか?」
俺はとうもろこしを齧りながら質問する。
「さぁな、俺はしがない店主だ。
知る訳ないだろ?」
「ぐっ」
何も考えずに購入したのは失敗だったかもしれない。今後は慎重に金を使おうと俺は決めた。
「だが、そうだな妙な噂は知ってるぜ」
「なんだよ」
「この街には恐ろしい秘密があるってな」
「秘密・・・ねぇ」
俺はとうもろこしを食べ終えた。
「青菜様」
「うわっ」
ミクリが綿あめから顔を出す。
食べてる時に貫通したのだろう。
ライオンみたいに見える。
「くじけずに、どんどん聞いていきましょうきっとたどり着けますよ」
「そうだな」
俺たちはその場を後にする。
「ん・・・」
噴水傍のベンチで寝転がってる男に話を聞く。少し、酒臭い気がする。
「おじさん、話を聞いても?」
「何の用だ」
「ラットボーイと呼ばれる男を探してるんだ。耳を齧られてて・・・何か知ってるか?」
「さぁな」
男は酒を飲む。
「知らないならいいさ」
俺は離れようとする。
「そいつは知らないが妙な噂は知ってるぜ」
「妙な噂?」
「この街には木霊館って建物がある」
「そこがどうしたんだ?」
「何でも人を喰うって噂の場所だぜ、探してるやつが隠れるなら、そういう所が怪しいんじゃねぇの?」
「教えてくれてありがとう」
「いいってことよ」
おじさんは手を振るが、そのまま倒れる。
「大丈夫か!?」
駆け寄ろうとすると、止められる。
「心配ねぇ、酔ってるだけさ」
「ならいいが・・・」
俺はその場を後にした。
「木霊館、怪しいですね」
「確かに」
俺は気になって、色々な人に話しかけた。
しかし、全員、木霊館の噂を怖がって同行を拒否されるばかりだった。
「困りましたね」
ミクリの頭上に渦が見えるようだった。
「誰か教えてくれると嬉しいんだが」
「従私たちで探すしかないんでしょうか」
「どうしても人が見つからなければ、そうなるだろうな」
「あんたら木霊館を探してるんだろ?」
「誰だ?」
「木高省吾(きだか・しょうご)だ。
よろしく」
「よろしく・・・」
手を差しだされたので握手する。
身長は178cm。
体重は71kg。
細身で長袖パーカーを深くかぶり、
顔が見えないようにしてる。
何だか怪しい人物だった。
服の上からでも分かる筋肉。
かなり鍛えてる感じだ。
「握手は挨拶の基本だからな」
「顔を隠してるのはやましことがあるからか?」
「いやぁ、恥ずかしい話だが性格が臆病でね。顔を合わせて話すのが恥ずかしいからなんだよ、顔を隠さなければ人に話しかけられないほど・・・ね」
「その腕はどうしたんだ?」
腕には茶色い包帯のようなものを巻いてる。白が一般的だが、珍しいなと思った。
「これは・・・怪我したんだ」
「そうなのか」
「転んでさ、まぁ、些細なことだ。
気にしないで欲しい」
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