自害しなかった魔族

唐草太知

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第10話:アリアとのデート

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翌朝。
「ん・・・」
「起きて」
「分かったよ」
僕はアリアに起こされる。
すでにCAの格好をしていた。
「おはよう、レイ」
「のぼせたけど大丈夫?」
「えぇ、もう平気」
「そっか」
朝の準備を済ませて、僕らは部屋を出る。
「食事の準備は出来てる、来てください」
僕らはウェインに案内される。
そして、食堂に入る。
「来たの、まぁ、座るといい」
そう言って、王様は僕らに進める。
朝食はパンと、スクランブルエッグ。
そして、ソーセージと、グリーンサラダ。
という構成だった。
「昨日もご馳走になったのに今日もいいんですか?」
「構わん」
「ありがとうございます」
そう言って、僕らは食事を済ました。
「これから予定はあるかの?」
「はい、少し出かけたいと思ってまして」
「そうか・・・もう少し
ゆっくりしててもいいんじゃぞ?」
「ずっと世話になるわけにもいきませんから」
「そうか・・・じゃが、見送りは最後にしておこう」
「そこまでしなくても」
「いいんじゃ、ワシがしたいのだ」
「それなら」
ここまで言うのだから、否定するのは逆に失礼だろう。
お言葉に甘えることにした。
「それでは、レイさん。
また機会があれば来てください」
ウェインに挨拶される。
「テニス、またやろうの」
王様はそんなことを言う。
「はい、ぜひ」
僕は挨拶をして別れる。
「さようなら、城の皆さん」
アリアはお辞儀をして、去って行く。
そうして2人きりになった。
「さて・・・これからのことだけど」
「用事があるなんて知らなかったわ。
何の用事なの?」
「デートでもしようと思って」
「そう、モテるのね」
「何を他人事みたいに」
「だって、デートするんでしょう?」
「君とね」
「私?」
「そう」
「私?」
「そうだってば」
「えー・・・うーん」
「嫌だった?」
「嫌というわけではないのだけど。
急のような気がして、どうしたの突然って感じで困惑してるの」
「いいじゃないか、デートがしたいんだ」
「分かったわ、それで何処に行くの?」
「秘密」
「秘密って・・・へんなとこに連れていくつもり?」
「まさか、そんなんじゃないさ」
「それじゃあ、何処なの?」
「そのままデートしてもセンスがないって思われるんじゃないかなって」
「別にセンスを求めてないのだけど」
「とはいえ、センスといっても漠然としててよく分からない」
「はぁ」
「そこで、テーマを決めてみようと思って」
「どんなテーマなの?」
「緑黄赤白黒」
「色?」
「そう」
「私はどうしたらいいの?」
「ただ、ついてくればいいさ。
面白いか、つまらないかは最後まで付き合ってから言ってくれ」
「分かったわ」
「それじゃあ、行ってみようか」
「そうね」
そうして、僕案内のもと、デートが始まった。
「まずは、ここだね」
「ここは・・・花屋ね」
「入ってみよう」
「えぇ」
店の中を見て回る。
「商品には触れないように」
「分かったわ」
「そして、出来るだけ顔を近づけて嗅いでみて」
「こう?」
アリアは花に顔を近づけて、すんすんと嗅ぐ。
「どうかな」
「とても上品な甘い香りがするわ」
「そうだろう」
「これは何て言う花なの?」
「バラって言うんだ」
「バラ・・・」
「嗅いでると、ストレスが和らぐ気がしないか?」
「確かに、そんな気がするわ」
「もしも嫌なことがあったらバラの花を買って香りを嗅いでみてくれ。
きっと、気持ちが落ち着くから」
「今度、試してみるわ」
「店員さん、少しいいですか?」
「なんでしょう?」
「バラを一輪、下さい」
「かしこまりました」
そうして、僕らは店を出る。
「アリア、じっとしてて」
「分かったわ」
僕は彼女の胸にバラをつける。
まるでコサージュのように。
「似合ってる」
「そうかしら」
「とってもいい」
「ありがとう」
「バラの花ことばを知ってるかい?」
「知らないわ」
「一途な愛さ」
「そう」
アリアは冷静な反応だった。
照れるでもなく、笑うでもなく、淡々としていた。
「・・・」
僕の方が何だか恥ずかしくなって顔が真っ赤になる。
「少し・・・気障だったかな」
「そんなことないわ、嬉しい言葉よ?」
「なんだか僕の方が照れるな」
「照れるくらいなら、しなければいいのに」
「いいんだ、人生に1度くらいは気障なセリフをやりたかったから」
「人間の一生は魔族と比べて短いわ。
けれど、そうはいっても100年はある。
チャンスなんていつでもありそうだわ」
「人生なんてあっという間さ、やりたいことは今のうちにしておきたい。
僕もそうだし、アリアだって明日になったら死ぬかもしれないんだ。
そうだろう?」
「そうね・・・そうかもしれないわ」
「だから、今を楽しもう」
「そうね」
「これで緑のデートは終わりだ」
「なるほど、カラーのデートってこういう感じなのね」
「分かって来ただろう。
この調子で次へ行こう」
「分かったわ」
僕らは次の場所へと移動する。
「次はここだ」
マカロニウエスタンに出てきそうな雰囲気の店だった。
「射的?」
「そうさ入ろう」
ぎぃと扉を開けて中へ入る。
「あんたも賞金首を狙いに来たのかい?
どれ、腕を見てやろう」
眼帯をした髭を生やしたおじさんが話しかけてくる。
「なにあれ」
「設定さ、賞金首を狙い撃ちするってゲームだからね」
「なるほど」
「ふふ・・・銃は初めてかい?」
「初めてだわ」
「いいか、球を詰める。そして、的に向かって引き金を引く。
簡単だろう?」
「そうね」
「撃ってみろ」
「ふぅ・・・」
アリアはおじさんに言われるがまま、的に撃つ。
「上手だな、魔族のお嬢ちゃん」
「嬉しいわ」
「ほれ」
おじさんが景品をくれる。
可愛いヒヨコのぬいぐるみだった。
「可愛い」
「それはアリアの成果だ、やったじゃないか」
「持ち帰ってもいいの?」
「あぁ、もちろん」
「そう」
アリアは可愛い物が好きなのかもしれない。
笑わないが、雰囲気で察した。
「これで、黄色のデートは完了だ」
「次は何をするの?」
「そうだな、行ってみよう」
僕らはテント小屋に入る。
「ふぅーーー!」
サーカスの男が、観客席に向かって火を吹いていた。
「きゃああああっ!」
観客席の人たちは楽しそうな悲鳴を上げる。
「何してるの?」
「ああやって客を驚かせてるのさ」
「危なくないのかしら」
「危ないよ」
「それって変だわ、危険なのに。
それで怪我したら大変じゃない」
「うーん、そうなんだけどね」
「けど?」
「人は時折、危険なことを試したくなる」
「ふしぎだわ、どうしてなのかしら」
「そうだな、きっと生きてることを実感したくなるからかな」
「命の危険があると実感するの?」
「心臓が跳ねて、うっ・・・ってなる。
苦しいけど、次に安堵感が襲ってくる。
あぁ、無事だったんだなって、それが気持ちいいのかも」
「理解できないわ」
「あはは・・・まぁ、皆が皆、こういうの好きってわけじゃないよ」
「ふーーーっ」
火吹き男がアリアに向かって炎を吐く。
「・・・」
「がく・・・」
火吹き男は驚くリアクションがしてほしかったのだろう。
けれど、何のリアクションもしないアリアを見て落ち込んでいた。
「あははは・・・アリアを驚かせるのは難しいなぁ」
「驚いてあげればよかったわ」
「向こうは素のリアクションがしてほしかっただろうから、
アリアのリアクションで間違えないんだよ」
「でも、落ち込んでるわ」
「向こうもプロだから、アリアの反応が悪かったぐらいじゃへこまないさ。
むしろ、もっと凄いものをしてやろうってやる気になるぐらいさ」
「そうかしら?」
「あぁ」
「それならいいのだけど・・・何だか申し訳なかったわ」
「あはは・・・そろそろ出ようか」
僕は苦笑する。
上手く行かなかったか、少し落ち込む。
「そうね」
僕らはテントを出る。
魔族の中で生活していただろうから、炎なんて見慣れたものかもしれない。
だから、アリアは驚かなかったのだろう。
ドラゴンとか、火を吹きそうだし。
まぁ、なんにせよ、これで赤のデートは終わりだ。
「次のところに行こう」
「えぇ」
僕らは別の場所へ移動する。
「ここ?」
「そう」
そこは普通の一軒家だった。
「店には見えないけど」
「隠れた名店ってところかな」
「そうなのね」
「入ってみてのお楽しみってことで」
「分かったわ」
2人して中へ入る。
「いらっしゃい」
中で男が1人立っている。
「彼女を頼みたいんだ」
「予約していたレイか?」
「そうだよ、出来るかい?」
「まぁ、それが仕事だからね」
「とびきりの笑顔で頼むよ」
「了解、それじゃ準備するから待っててくれ」
男は奥へと消える。
「何するの?」
アリアが少し不安そうだ。
「大丈夫だって」
とりあえず僕はそう言った。
「お待たせ、それじゃ奥へ」
男に案内される。
そこは絵の具で汚れた部屋だった。
「ここは?」
「アトリエさ、ここで人物画を描くためにね」
「なるほど、キャンバスの白ってこと」
アリアは納得したようだ。
「椅子に座って」
男は指示する。
「分かったわ」
アリアは言う通りに椅子に座る。
「作り笑顔でもいいから出来るかい?」
画家の男に頼まれる。
「無理だわ」
「えっと・・・どうしようか」
画家の男は少し困ったようだった。
「想像で」
アリアの代わりに僕が言う。
「難しいが、挑戦してみるよ」
そう言って、画家の男は数時間ほど描く。
そうして、出来たのは笑顔のアリアだった。
「私ってこうやって笑うのね」
初めてみる自分の笑顔にアリアは不思議そうに見つめる。
「もう少し精度を上げて細かく書き込んで欲しい」
「分かりました」
「それと、悪いが用事があるんだ。
住所を教えるから後で届けてくれ」
「畏まりました」
僕らはアトリエを後にする。
「私の絵を描いてもらうなんて初めて」
「どうだった?」
「面白かったわ」
とは言うが、アリアは真顔だった。
「そうか、喜んでもらえたなら良かったよ」
でも、それがアリアなのだろう。
そう思って受け入れた。
「次は何処に行くの?」
「食事でもどうだい、夜になって空も暗いし」
「確かに空いてきたかも」
「予約してるんだ、近くの店なんだけど」
「ついて行くわ」
僕らは店に向かう。
「いらっしゃいませ・・・すみませんが満席で」
店員さんは謝る。
「予約していたレイだ」
「あぁ、それなら席は空けてますよ。
どうぞこちらへ」
店員さんに案内される。
テーブルの上にはレイ様ご一行と書かれたプレートがあった。
「何だか高級そうな店ね」
「雰囲気だけさ、実際の所は高くない」
「へぇ、そうなのね」
「食前酒の黒ワインです」
こぽこぽとアリアのワイングラスに注がれる。
「お酒が苦手な方は、こちらの方を」
僕のグラスにはレモン水を入れてくれる。
「初めて見たわ、赤でもない、白でもない、黒なのね」
「飲んでみて、きっと中身が分かるはず」
「当てられるか自信ないわ」
「外れても別に問題ないから」
「それなら」
アリアはくいっと飲む。
「どう?」
「これは・・・赤ワイン?」
「当たってるよ」
「それと・・・コーヒーの香りがするわ」
「正解だ」
「なるほど、それで黒ワイン」
「味はどう?」
「とても美味しいわ」
「気に入ってもらったようで良かった」
「マッシュポテト、グレービーソース添えです」
ウェイターの男性が皿を運んでくれる。
「ありがとう」
アリアはお礼を言う。
そして、テーブルの上に置かれる。
「ベーコンが入ってる」
「そうね」
それから、どんどん料理が運ばれて行く。
トマトサラダ、コーンスープ、そしてメインディッシュ。
「ハンバーグです」
「いいのかしら、食べても」
「問題ないよ」
「そう・・・」
アリアは何処か、おっかなびっくりって感じで食べる。
肉の味に抵抗感を覚え始めたからかもしれない。
「どう?」
「なによ、大豆じゃない」
「やっぱり分かったか」
僕は苦笑する。
「でも、良かったわ」
「君の料理の参考にしてくれ」
「えぇ」
「どうぞ、デザートです」
出てきたのはパンにクリームが挟まったものだった。
「何これ」
「セムラと言います、国によってはラスキアイスプッラとも」
ウェイターが説明する。
「へぇ」
アリアは感心していた。
そして、上品にもナイフを入れて食べる。
「手づかみでもいいんだよ」
「はしたない気がして」
「アリアの食べやすいやり方で」
「それじゃあ、ナイフで」
彼女はパンを一口サイズに切断し、フォークで口に運ぶ。
「どう?」
「美味しい、生クリームだけでくどいのかと思っていたわ。
でも、中のベリージャムがさっぱりさせてくれる」
「気に入った?」
「えぇ、とても」
「次はアーモンドを食べるといい」
「別の味もあるのね、次に来るときに楽しみだわ」
「あはは・・・そうだね」
僕は苦笑する。
「またのお越しを」
会計を済ませて、店を去る。
「お腹が満たされた気分だわ」
アリアは自分のお腹をさする。
「あの・・・さ、家に帰らないか?」
「いいわ」
「本当に?」
「本当だわ」
「良かった」
「どうしたの、何か変だわ」
「そ、そうかな気のせいだよ」
「家に帰るだけなのに、変に緊張してるような」
「あははは・・・」
僕は苦笑する。
そうして、家に戻る。
「変にそわそわしてるわ」
「あの・・・さ」
「なに?」
「お風呂、先に入って来てよ」
「一緒に入らないの?」
「きょ、今日はいいんだ」
「はぁ」
アリアは先に入る。
「・・・」
その間、僕はそわそわしっぱなしだった。
「上がったわ」
「それじゃ・・・次僕だね」
「そうね」
「あの!」
僕は大きな声を出す。
「びっくりするじゃない」
「ごめん」
「どうしたの?」
「あの、待ってて、すぐに戻ってくるから」
「はぁ」
アリアは良く分からないという感じだった。
「今日・・・言うんだ」
僕は風呂場で身体を洗いながら決意を言葉にする。
そして、風呂から上がる。
「言われた通り待っていたわ」
リビングでくつろいでいたアリアがそこには居た。
「あの・・・さ・・・寝室に行こうか」
「えぇ」
「手を・・・繋いでも?」
「別にいいけど」
アリアと僕は手を繋ぐ。
そうして寝室に向かう。
そして、部屋の前で僕は告げる。
部屋の中に連れ込んだら逃げれなくなるかもしれない。
でも、廊下だったら後ろに逃げれるから。
だから、この場所で言うことに意味があると思った。
「あのっ」
「なに?」
「僕は・・・アリアのことが好きです」
「え?」
「だから、スキンタッチをしたい」
「あ・・・だから変な感じだったのね」
アリアは理解したようだ。
「ごめん、やっぱりなし・・・主従関係だったの忘れてた。
君は断れないだろうから、僕の方から断っておくよ」
僕は引き下がろうとする。
「どうして逃げようとするの?」
「君が欲しいって気持ちが強くて、言わないままで居るのは嫌だった。
でも、不安なんだよ、キモイって言われるんじゃないかって。
誰かに言いふらして、噂になるのも怖いからだよ」
「・・・」
アリアは僕の頬にビンタする。
「痛っ」
僕は顔を抑える。
「主従の儀式が今も続いてるのなら、貴方を攻撃できないでしょう?」
「あっ」
「ごめんなさい、言葉で説明できなくて」
「いや、いいんだ」
「痛くない?」
アリアは僕の頬に触れる。
「平気」
「それなら良かった・・・んっ・・・」
アリアは僕の唇にキスをしてくれる。
「ん・・・」
僕はそれを受け入れる。
「ぷはっ」
アリアは口を離す。
「アリア」
「ねぇ、自信ついた?」
アリアは見つめてくる。
相変わらず、顔は無表情だけど。
今日はとびきり愛おしく思えた。
「あぁ」
僕はアリアの手を引いて、寝室の中へと入って行った。
濃密で、艶のある時間が過ぎていく。
今宵の満月は特に美しかった。
いつもは見ないのに、今日はそんな気分だった。
「貴方って・・・スケベなのね」
繊維まとわず、アリアはシーツで身を隠していた。
「こんなこと初めてで、嬉しくてはしゃいじゃった」
僕もアリアと同じ格好だった。
「でも、好き」
アリアは再度、キスをする。
僕も当然、受け入れる。
「ちょっとごめん」
僕はアリアと一旦、距離を取る。
「えぇっと、ティッシュ」
アリアは手元を探す。
「あでっ」
僕はそのままベットから転げ落ちる。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも」
僕は鼻を抑える。
「ほら、じっとして」
「あぁ・・・」
僕はアリアに鼻血を拭いてもらう。
「もう、平気?」
「平気だよ」
「それなら良かった」
「なぁ・・・アリア」
「なに?」
「これから先、僕が好きなのはアリアだけだ。
君以上に好きになる存在は今後現れないと思う」
僕は笑う。
「別に無理して私だけを愛する必要はないわ。
人の気持ちは移ろいやすいもの、他に好きな人が出来ても仕方ないわ」
アリアは冷静に物事を見てる。
間違ってないと思う。
「そんなことはないって約束する」
でも、僕だけはそうじゃないって自信を持って言えた。
「本当に?」
「本当だ、指切りしよう」
「指切りするなら、本当ね」
僕らは互いの小指を結び合う。
「一緒に寝よう、アリア」
「そうね、レイ」
僕らは双子座のように抱き合い眠りについた。
そして、人生を分岐点を。
これから、迎えることになるのだった。







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