自害しなかった魔族

唐草太知

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第6話:スターコネクト・タワー

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誰かが僕を揺する。
「もしも~し、起きてる?」
のんきな声が聞こえてくる。
「ん・・・」
僕は目を覚ます。
いつもならアリアが起こしてくれる。
けど、今日は違ったようだ。
「まぁ、起きないならそれでいいけど」
「ふぁあああ・・・今起きるよ」
僕は身体を起こす。
「起きたね」
そこに居たのは、白衣姿の男だった。
「オーレルか」
「そうだよ」
「っつ・・・」
僕は頭を押さえる。
「痛いのかい?」
「昨日、酒を飲んでしまってね」
「あぁ・・・二日酔いだ」
「昨日は宴会でね、叫びまくったんだ」
「この惨状を見れば何となくわかるよ」
酒場は最悪の雰囲気といっていい。
人が好き勝手寝てるからだ。
樽を抱いて寝てる者も居れば、男女で抱き合ってる者も居る。
「それで、何の用?普段は出かけて歩かないだろう」
「水でも飲みなよ」
「そうさせてもらおうかな」
僕は水を勝手に飲む。
そうすると、頭痛が収まってきたような気がする。
「ん・・・」
テーブルに突っ伏して寝ていたアリアが起きる。
「おはよう、今日は僕が先だね」
「レイ・・・早いのね」
「魔族じゃないか」
「でも、悪い奴じゃない」
「ほぅ?」
「誰なの?」
「小生は研究員のオーレル、よろしく」
眼鏡をくいっとやって、握手して来る。
「えっと、どうも」
アリアは差し出された手を取って握手する。
「それで、僕の所に何のようだい?」
「いやぁ、そのことなんだけどね」
「なに?」
「スター・コネクトの調子が悪いんだ、助けてくれ」
「緊急じゃないか!」
僕は慌てて支度する。
「あはは、急ごう」
「それを先に行ってくれ、あんたがのんきだから大したことないと思ったじゃないか!」
「スター・コネクト?」
アリアが不思議そうな顔をする。
「アリア、説明は後だ来てくれ」
「分かったわ」
僕らはスター・コネクト・タワーへと向かう。
「オーレルだ、彼らを中へ」
社員証を近くの端末に当てると、扉が開く。
「アリア、行こう」
「えぇ・・・」
オーレルと共に中へ歩いていく。
「小生には修理は不可能だ、レイが直してくれ」
「分かった」
「それじゃあ、小生は仕事が終わったから寝ようかな」
オーレルはそんなことを言い放って部屋から出て行った。
「のんきな奴」
僕はため息をつく。
「ここは一体・・・」
「スター・コネクト・タワー。
この国の結界を張ってる装置さ」
結晶が筒状のガラスで覆われている。
「魔族が入れないのはこれの所為なのね」
アリアは眺めている。
「そうさ、この国は星形に城壁が組まれてる。
そして、5つの角の所に塔も5つ建設されてる。
それらが互いに作用し、強固な結界を作ってるってわけだ」
「これの調子が悪いって・・・不味いんじゃない?」
「そうなんだよ、魔族が侵入するかもしれない大事なのに。
オーレルがあの調子だから、参っちゃうよ」
「レイ、治せるの?」
「勿論さ、なんてったって僕がこれを作ったんだから」
「貴方、何者?」
「偉大な魔法使いさ」
僕はどや顔を披露する。
「これがあるお陰でこの国の人々は安心して眠れるのね」
「そういうこと、だから命綱って言ってもいい」
「どうやって修理するの?」
「まぁ、見ててよ」
近くにある端末の蓋を開ける。
すると、ケーブルを見つける。
それぞれ赤、青、黄という感じだ。
「三原色ね」
「やっぱり」
「何がやっぱりなの?」
「ほら見てよケーブルが外れてる」
「素人目ではよく分からないわ」
「よく見て」
「んー・・・」
アリアが目を凝らして見てみる。
「分かった」
「なんとなくは」
「今はそれで十分、さて治しますかね」
僕はケーブルをつなぎ直す。
赤のケーブルを赤の接続部分へ。
青のケーブルを青の接続部分へ。
黄のケーブルを黄の接続部分へ。
「上手く行った?」
「ここのタワーはこれでいい筈」
しばらくすると、結晶が輝き始める。
「綺麗だわ」
「上手く行ったみたいだ」
「これで問題は終りね」
「いや、他の4つも確認しないと」
「そっか」
「外に出ようか」
「分かったわ」
僕らは外に出る。
「それじゃあ行ってみよう」
「えぇ」
「よし行くか」
「って、歩きなの?」
「そうだけど?」
「急いでるのに歩きじゃ間に合わないんじゃないの?」
「でも、その他に移動手段はないし・・・」
「私に任せて」
「どうするの?」
「ベレンヘーナ・イ・ペピーノ」
アリアが指を振るうと、そこにはナスときゅうりで出来た馬が居た。
「なにこれ」
「乗ってみて」
「う、うん・・・」
試しに乗ってみる。
「ひひーーん」
すると、馬のように鳴き、馬のように走り出した。
「早い、早いよ、アリア!」
「喜んでもらえてよかった」
「これなら今日中に回れそうだ」
「間に合いそう?」
「十分だよ!」
僕らはこの調子で2つ目のタワーに入って行った。
「おーい、開けてくれ」
僕は塔の中の人に話しかける。
「誰も出ないわ」
「可笑しいなぁ」
「オーレルって人に社員証を貰った方が早いんじゃ」
「貰っておけばよかったなぁ」
そんなことを話してると、急に扉が開く。
「お待ちしておりました!」
中から女性の研究員が出てくる。
「入っても?」
「もちろんです!」
女性の研究員に案内される。
「顔パスだぜ?」
僕はアリアにカッコつける。
「本当にすごいわ」
アリアが褒めてくれた。
「それでは、修理の方をお願いします」
「後は任せて」
「分かりました」
女性の研究員は去って行く。
「さてと、パネルはっと」
僕は端末の蓋を開ける。
そして、ケーブルをつなぐ作業をする。
「カラー分けされてるわ」
「おっ、気づいたか」
「4色に増えてる」
「すべての塔が同じだとダメなんだ」
「そうなんだ」
「あぁ、そうすることによって複雑さが増して結界が強くなるんだよ」
「ふしぎね」
「そのせいで修理できるのが僕だけだけどね」
「あなたが倒れたら・・・どうするの?」
「そうだなぁ、そうなったらアリアに直してもらおうか」
「私?」
「だから覚えてくれ」
「本気で言ってる?」
「んー・・・本気」
「レイが居るから平気だわ」
「いつでも僕が居るとは限らないだろ?」
「それは、魔族の方が長寿だから?」
「まぁ・・・そうだね」
僕は頬をぽりぽりとカく。
「覚えるのは命令?」
「命令だ、とても大事な・・・ね」
「分かった、覚えるわ」
「忘れないでくれよ?」
「えぇ」
「それじゃ、修理に戻ろう」
僕は取り掛かる。
赤のケーブルを赤の接続部分へ。
青のケーブルを青の接続部分へ。
黄のケーブルを黄の接続部分へ。
緑のケーブルを緑の接続部分へ。
「結晶が輝いてるわ」
「よし、上手く行った」
「なんとなく分かってきたわ、同系色のケーブルと接続部分を繋げればいいのね」
「どうかな?」
「違うの?」
「早とちりは厳禁ってね」
「はぁ」
アリアは良く分からないという感じだった。
「機械の調子が悪いだけで、今すぐにでも結界が壊れるって感じじゃなさそうだ」
「それは、良いことだわ」
「休憩に入ろう、そのぐらいの時間はありそうだ」
「分かったわ」
「あら、休憩ですか?」
女性の研究員が通りかかる。
「そんなところ」
「それでしたら、これ」
チョコブラウニーを渡される。
「何これ」
「頭を使った後は甘いものかと思いまして」
「ありがとう」
「いただくわ」
「それでは」
女性の研究員は去って行った。
「ウマい」
僕はもっさもっさと食べ進める。
「私も、こういうの作ってみたいわ」
「出来るさ、そのうち」
「でも、失敗が多くて」
「もう少しなんだよ、次は出来るよ」
「そうかしら?」
「そうだよ、僕に食べさせてくれ」
「分かったわ」
そんな話をして時間過ぎていく。
「それじゃ、次のタワーに行こうか」
「えぇ」
女性の研究員に修理が終わったことを伝える。
そして、次のタワーへとアリアの魔法を使って向かう。
「お待ちしておりました」
男性の職員が出迎えてくれる。
「ここも顔パスね」
「研究員の間じゃ、僕は有名人さ」
「それではこちらへ」
塔を案内される。
「後は任せてくれ」
「承知しました」
研究員は去って行く。
「見てて」
僕は端末の蓋を開ける。
「さっきと同じ色のように見えるけど」
赤、青、黄、緑のケーブルがある。
「それじゃ、やってみるね」
赤のケーブルを赤の接続部分へ。
青のケーブルを青の接続部分へ。
黄のケーブルを黄の接続部分へ。
緑のケーブルを緑の接続部分へと繋ぐ。
「結晶が・・・輝かないわ」
「カラーと接続部分で同じカラーで繋いだからといって上手く行くわけじゃない」
「こんなことして、壊れたりしない?」
「大丈夫だって、僕が設計者なんだから」
「それならいいのだけど」
「アリアに覚えてもらわないとだからね。
失敗を教えないと意味無いだろ?」
「そうね」
「それじゃ、正解をやるから見てて」
僕はケーブルをつなぐ。
赤のケーブルを青の接続部分へ。
青のケーブルを赤の接続部分へ。
黄のケーブルを緑の接続部分へ。
緑のケーブルを黄の接続部分へ。
「結晶が輝いたわ」
「上手く行ったな」
「法則性が分からないわ」
「こればかりは記憶の勝負だ、メモしておくといい」
「今はメモ帳なんて持ってないわ」
「後で家に帰った後にでも書けばいいさ。
もしも忘れてしまった部分があるなら、その都度教えるから安心して」
「分かったわ」
「さぁ、次の場所へ行こう」
「えぇ」
男性の研究員に修理が完了したことを伝える。
そして、次のタワーへ向かう。
「なんだか静かだな」
「不穏な感じだわ」
「扉もあいてるし、中へ入ろう」
「大丈夫なの?」
「修理に来たんだ、放ってはおけないだろ?」
「それはそうだけど」
「行こうぜ、アリアと2人なら怖くないさ」
「分かったわ」
僕らは塔に入る。
「誰も居ないな」
「どうするの?」
「どうするもなにも、いつも通り修理しよう」
僕は端末を開けてケーブルをつなぐ準備をする。
「あっ・・・これ」
「気づいたか」
「色が無いわ」
全部灰色で、見た目の区別がつかない。
「よく見ると微妙に違うんだ、長年の勘ってやつで気づけるようになる」
「これは大変だわ」
「何を他人事のように」
「え、だって・・・」
「アリアがやるんだ」
「私?」
「そう」
「無理だわ、やったことないもの」
「命令で~す」
「えぇ?」
アリアは困惑していた。
「ちょうど人も居ないんだ。挑戦しよう」
「だって、その・・・壊したら責任とれないわ」
「僕が設計したんだ、壊しても治せるよ」
「そう?」
「そう」
「そこまで言うなら・・・やってみるわ」
「その意気だ」
「えっと・・・この接続部分にケーブルを繋げばいいのよね?」
「そうそう」
「っしょ・・・」
アリアはケーブルを繋いでいく。
AのケーブルをAの接続部分へ。
BのケーブルをBの接続部分へ。
CのケーブルをCの接続部分へ。
DのケーブルをDの接続部分へ。
「おっ」
結晶が無事、発光する。
「上手く行ったみたい」
「中々、筋がいいじゃないか」
「そうかしら」
「この調子で次も行ってみよう」
「えぇ」
研究員が居なかったので報告せず別の場所へ。
次が最後の塔だ。
「何だか焦げ臭いな・・・」
「そうね」
「火事だ!」
塔の中から研究員たちが飛び出す。
「なに!?」
「レイさん、火消し屋に任せてここは一旦下がって!」
女性の研究員に言われる。
「くそっ!」
僕は塔へ入る。
「レイさん!?」
女性の研究員は驚いていた。
「レイが行くなら私も」
「貴方まで!?」
女性研究員は手を伸ばすが、中へは入ろうとしなかった。
「おい、早く逃げないと火事に巻き込まれるぞ!」
突っ立ってる女性研究員を男性研究員が引っ張る。
「え、えぇ・・・」
研究員たちは、そのまま去って行った。
「げほっ・・・煙で何も見えない・・・」
「大丈夫なの、レイ」
「大丈夫・・・とは言いにくいかな」
僕は壁に手を当てて、勘で進む。
「ねぇ、レイ・・・。貴方、設計者なんでしょ?」
「それが?」
「火消し屋に任せて、ここは引きましょう?
壊れても治せるって言ってたじゃない」
「あぁ・・あれね・・・嘘なんだ」
「どうして?」
「本当は一度、壊れてしまえばやり直しが効かない大事な物なんだ」
「そんな大事な物、どうして嘘をついてまで私に任せたの?」
「アリアがやらないんじゃないかと思って、嘘をついたんだ。ごめんな」
「いいの、別に・・・そんな」
「アリアにどうしてもやって欲しかったんだ。
経験を積んで欲しかった。僕が生きてるうちに」
「レイ?」
「アリア、君だけでも戻るんだ」
「嫌」
「命令だ、戻ってくれ」
「嫌よ、レイは進むんでしょう?」
「それは・・・そうだけど・・・」
「それなら私も行くわ、貴方の使い魔ですもの」
「死んでも知らないぞ」
「魔族よ、簡単には死なないわ」
僕らは進んでいく。
「げほっ・・・ここだ・・・」
扉を開けて進む。
煙りがまだ入ってないのか、ここは比較的視界が良好だ。
「レイ・・・どう?」
「蓋が・・・硬い」
熱の所為なのか、上手く開けられない。
「私も手伝うわ」
「タイミングを合わせるぞ、そうした方が力が入る」
「分かったわ」
「3カウントで行くぞ」
「どうぞ」
「3・・・2・・・1・・・今だ!」
「っ・・・!」
アリアと一緒に僕は端末の蓋を開ける。
「くそ・・・煙が充満してきた」
視界が悪くなる。
手探りでやらなければ。
「大丈夫なの?」
「やるしかないだろう」
AのケーブルをDの接続部分へ。
BのケーブルをCの接続部分へ。
CのケーブルをAの接続部分へ。
DのケーブルをBの接続部分へ。
すると、結晶が発光する。
「上手く行ったわ」
「良かった」
ドガ――ンと、扉から爆発音がする。
すると、一気に煙が部屋の中を覆いつくす。
それだけではない、火も入って来て苦しい。
これで入ってきた所からの脱出は無理になった。
「レイ・・・どうするの?」
「成功したことだけ考えていたから、先のことは考えてなかった!
やばい、どうしよう!」
僕は慌て始める。
「落ち着いて」
アリアに冷静に宥められる。
「はっ」
僕は我に返る。
「他に出口は無いの?」
「えぇっと、あったかなぁ」
「なら、方法は1つよ」
「どうするの?」
「力技よ」
「え?」
「ラティゴ・デ・ラ・エンペラトリス」
鎖のムチが、壁に大穴を開ける。
そこから外の光が舞い込んでくる。
「おおっ!」
「脱出しましょう」
「了解!」
僕らは外へ飛び出していった。
「ご無事ですか?」
「中へ入ったと聞いて心配でした」
研究員たちに心配される。
「アリアが居たから出れたよ」
僕は彼女を紹介する。
「良かった・・・貴方が居てくれて。
レイさんが死んだら国の損失でした」
研究員たちはアリアに握手をする。
「そこまでしなくても」
「とんでもない、彼は凄いんですから」
「いやぁ・・・照れるなぁ」
僕は照れ笑いする。
「私・・・魔族なのに」
「もう、この国の一員ですよ、貴方は」
「そう・・・なのね」
アリアは顔を逸らす。
もしかしたら照れてるのかもしれない。
この調子で笑ってくれると嬉しいのだが、それは高望みか。
「怪我はないですか?」
研究員に心配される。
「平気だって」
僕は無事のアピールをする。
「そうですか」
「修理は終えてある、後は火消し屋に任せておこう」
「火の中に突っ込んだのはそれが理由だったんですか?」
「まあね」
「なんと・・・素晴らしい」
「それじゃ僕らはこれで」
「後のことは我々におまかせください、結界が壊れないように頑張りますので」
「よろしくね」
僕らはその場から離れる。
そして家に帰って行った。
時間帯はもう、夜だ。
リビングで落ち着きながら話す。
「レイが死ななくて良かった」
アリアが安心した顔をする。
「アリアが居なかったらどうなっていたか」
「そこまでして行ったのは、やっぱり結界が無くならないように?」
「いや、別に1つくらい壊れても結界は残るけどね」
「ちょっと、どういうこと?」
アリアは怒ってるように思える。
「いや・・・5つあるのって予備なんだよ。
勿論、5つあった方が結界の力も強いけどさ、無くなっても結界自体はなんとかなるっていうか」
「それじゃ、諦めても良かったじゃない」
「かもね」
「はぁ・・・」
アリアは盛大にため息を吐く。
「あはは・・・怒った」
「心配してるのよ、全く」
アリアは呆れたような顔をする。
「魔族が人の命を心配・・・か」
「変?」
「いや、いいことだと思うよ」
「そう」
アリアは呟いていた。
「さて、今日もハンバーグを作ってくれ」
「分かったわ」
そう言って、アリアはキッチンに行く。
僕は様子が気になり覗きに行く。
「慣れてきてるね」
「何度もやってるから」
「今日の出来が楽しみだ」
「でも、また上手く行かないわ」
「失敗しても、もう一度さ」
「1人で集中して作りたいから向こう行ってて」
「僕居なくていい?」
「手伝ってくれるの?」
「いや・・・手伝いはしないけど」
「それじゃあ、要る意味ないじゃない」
「だね」
僕はその場から離れる。
そして、しばらくして大豆ハンバーグが出来上がる。
「お待たせ」
「おっ、出来た」
「どうぞ?」
そう言われるので、僕は食べる。
「ウマい」
「本当?」
「食べれるよ」
「嬉しい」
アリアが嬉しそうな雰囲気を出す。
ただ、笑っては無いが。
「本当に嬉しい?」
無表情なので、ついそんなことを言ってしまう。
「本当よ」
どうやら本当みたいだ。
「頑張ってたね、アリア」
「えぇ・・・何度も不味いと言われて心が折れそうになったけど」
「焦げてもないし、味もちゃんとしょっぱいし、七色にも輝いてない。
ようやく普通のハンバーグが出来たって気がする」
「私だってやれば出来るのよ」
「そうだね」
今日は珍しく、僕らは満足した食事をした。
それもこれも、アリアが努力したからだろう。
「それじゃあ、お風呂にしましょう」
「分かった」
アリアが風呂の準備をしてくれる。
そして、僕らは一緒に入る。
「・・・」
アリアは無言で僕の前に桶を出す。
「ぶーーーっ」
僕はそこに鼻血を出し切る。
「今日の分は出たわね」
「そんな牛乳みたいな」
アリアは慣れたものだった。
風呂にも入り、後はベットに行くだけ。
アリアは、アロス・ネグロ・ベスティード(イカスミのドレス)に。
僕はパジャマになる。
「寝室に行きましょう?」
「あぁ」
僕らは寝室に向かう。
「今日も笑顔の練習をするの?」
「日課だからね」
「私は、もう飽きて来たんだけど」
「ダメ、続けよう」
「ご飯も作ってあげてるし、お風呂の準備だってしてるわ。
それでも、足りない?」
「足りない」
「笑顔になるって難しいわ」
「でも、ハンバーグは出来たじゃないか」
「そうだけど」
「だから、笑顔も出来る筈だ」
「そんなになってまで笑顔になる必要ってあるの?」
「ある」
「どんな理由よ」
「他人から見て幸せそうに映る」
「他人から幸せそうでも本人がそうじゃなければ意味ないんじゃ」
「だけど、人から幸せそうだねって言われたら私って幸せなんだって思えるじゃないか。
それは前向きな気持ちになれると思わないか?」
「皮肉かもしれないわ」
「誉め言葉を疑ってばかりじゃ人生がつまらなくなる」
「そう・・・ね」
「ほら、アリア笑って」
「出来ないってば」
「こう・・・やって」
僕は無理やり頬を左右に引っ張る。
「痛いわ」
アリアの顔が変形する。
「笑顔に近づいてるぞ!」
「近づいてる・・・のかしら?」
「今日はこれぐらいにしておこう」
「そうね」
「おやすみ、アリア」
「お休み、レイ」
僕らは灯りを消して、朝まで眠った。


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