お姉様、ごめんなさい。でも……

やぎや

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悪夢が続く エイミーside 2

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 ガタガタと馬車に揺られて、馬車から降りる。
 そうしたら、私の前に現れるのは見た事もないくらい大きな扉。
 人2人分の身長ほどの長さだった。

 その中に入ってみると、同じ服を着た沢山の人と、見たこともないくらい綺麗なドレスを着た女性と私より少し大きい女の子がいた。

 「今日からは私がお母さんよ」

 女の人はそう言って私を抱きしめてくれた。
 おかあさんとは違って、優しく抱きしめてくれた。

 隣にいた女の子は私を直ぐに部屋に連れて行ってくれた。
 沢山の美しいドレスをくれて、たくさんの美しいものを見せてくれた。
 シルクのリボン、キラキラ光る宝石箱、ガラスの置物に、その女の子が描かれている絵。
 どれも綺麗で、見たこともないものばかりだった。
 そしてその女の子は、私とずっと一緒にいてくれた。
 それが私の、お姉様。
 大きな部屋で一人きりで寝ることが怖かった時は、一緒に寝てくれた。
 慣れていない屋敷で私が何か間違ったことをすると、正しい答えを教えてくれた。
 ずっと仲良くしてくれた。
 使用人に嫌がらせをされればそれに直ぐ気づいてくれて、私を守ってくれた。
 嬉しかった。
 こんな私にも、優しさをくれたことが。

 お母様奥様も私に優しくして下さったけれど、どこかよそよそしかったから。
 お母様は、私のことを避けているみたい。
 お姉様とばかり話して、時々私に簡単な質問を投げかける。最近はどうなの、エイミーちゃんはどんなものが好きなの? 無難な話ばかりで、決して私の内面を知ろうとしていない。
 でも、お母様はきっと関わろうとしてくれていたんだと思う。
 私に色々な心配をしてくれて、身の回りの世話の指示を侍女にしてくれたのはお母様だから。

 それでも、私はずっとお姉様と一緒にいた。
 
 優しいお姉様と、ずっといた。

 お父様も良くしてくれたけど、少し怖い目を私に向けてきて、なんだか怖かったから。
 でも、どうしてなのか、お父様は私にばかり構ってくれたから、そんな怖さなんて感じなくなった。
 お父様は、今まで寂しい思いをしてきたんだろう、と言ってたくさんの場所に連れて行ってくれた。

 そうして連れて行ってくれる世界は私の知らないところばかり。
 キラキラと輝く宝石がお行儀よくガラスケースの中に並んでいるお店、優しいマダムが色々な生地を見せて、お姫様みたいなドレスをあつらえてくれるお店。本がぎっしり入った本棚がいくつも並ぶ本屋さんに、可愛くって美味しいお菓子を食べれるカフェ。

 どれも初めて経験することばかりで、楽しかった。
 私が喜べば喜ぶほどお父様はそういうところに連れて行ってくれて、私に言った。
 可愛いねぇ、って。私を見るその瞳の奥に何か不気味な物を感じたことが何度かあったけれど、気のせいだろうと思って疑いも持たなかった。

 だって、私はお父様の娘でしょう? 変なことを考えているなんて思わないじゃない。わたしが鈍かっただけなのかしら。でも、あの人は父親と言う名の隠れ蓑を持っていたから、それに気がつかなかったって仕方がないと思うのよ。

 
 でも、暫くしてからこれはどこかおかしいのだと気がついた。それまでは、お父様は元々こういう人で、お姉様も私と同じように遊んでもらえているんだろうと呑気に考えていた。
 だけどある時、お姉様と人形遊びをしている時に気がついたのだ。わたしの人形は新しくて綺麗だし、沢山のお人形の洋服や小物を持っていたけど、お姉様はそうじゃないと。
 お姉様は私の玩具を見て、一瞬羨ましそうにしたけれど、それをうまく隠してなんでもないようにしていた。そうして私のお遊びに付き合ってくれたけど、私の人形を見る目は、あきらか羨望が浮かんでいた。
 私はそんなお姉様を見て、私が悪くないはずなのに罪悪感を持って、私のお気に入りの人形の洋服や小物を全部お姉様に渡した。お姉様のお人形の方が似合うもの、と言って。
 そうしたらお姉様は一瞬表情を無くして、私の目を見た。
 いいの、? と聞いてきたお姉様の目をしっかり見ながら頷けば、お姉様はありがとう、と心のこもっていない、低い声を出してその細々としたものをさっと取ってしまった。
  
 それが余りにもあっさりとし過ぎていて表情は全く変わらないままだったから、お姉様はこういうものを要らなかったのかしら、と心配になっているとお姉様はぽつりと呟いた。
 「エイミーはいいわね、お父様と遊べて……。私はこんなに綺麗なもの、お父様に買っていただいたのは随分と前なの……。最近、お父様はエイミーのことばかり……」
 それは明らかに悪意のこもっているものだったけれど、お姉様自身はそのことに気付いていなかった。つい口を滑らせてしまったのだろう。あんなに優しいお姉様が、わざとこんなことを言うはずがない。

 お姉様はその後すぐに表情を変えて、「ほら、私は最近お勉強の時間が多くなったから」と言って、その前に言った言葉を誤魔化した。
 私はお姉様の気持ちに気付いていたけれど、何もわからない馬鹿な女の子になることにした。
 それが、お姉様の望んでいる義妹の姿だから。
 馬鹿で単純で、何も考えていないような頭の空っぽな人間が、この人たちの求めている“エイミー”だから。

 「今度お姉様も一緒に行きましょう? その方がずっと楽しいもの! 私、お姉様とお出かけしたいわ」
 首をこてんと横に傾けて、何も分かっていない子供のように振る舞う。

 そうすれば、お姉様は笑ってくれた。
 「そうね、今度行きましょうね。」
 笑いながらそう言ったお姉様を見て、ほっとする。
 心なしか目が笑っていないような気がしたけど、その気付きを頭の隅に押しやった。

 こうしていれば、私たちは絵本に出てくるような姉妹になれて、お姉様はずっと笑ってくれたから。

 
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