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晴れた日に

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  私、フランシーヌ・ド・アーヴィングはそのとき、急いでいました。
 友達のマリエッタ伯爵令嬢のお茶会に招かれていたのですが、なんと招待状とマリエッタ様に差し上げる筈だった隣国の珍しい菓子を忘れてしまったのです。

 まだ戻っても招待の時間に遅れることはない時間でしたので、私は屋敷に戻りました。
 屋敷に戻り、その場にいたメイドに戻ってきた理由を話します。

「大切な物を私の部屋に忘れてしまったわ、取ってくるだけだから心配しないで頂戴ね。」と。

 そうするとそのメイドは、何故か顔を真っ青にして私に言ってくるのです。

 「私が取ってきます! お嬢様はどうかここでお待ちください!!」

 そうは言いましても、崩れやすく変えが効かない隣国の菓子と招待状に何かあったらいけませんので、私はやんわりとメイドの申し出を断りました。
  それでも、メイドは引き下がりません。真っ青な顔をしながら震えた声でいけません、と言うのです。

  私とてこのような話を続ける訳には行きません。万が一、お茶会に遅れてしまったら私はどうなってしまうのか予想が着くから、です。

  私はメイドの申し出を今度は強く断り、部屋に向かいました。




 私は自室へ向かい、私の自室の一部屋前……つまり、私の義妹、エイミーの部屋の前で足を止めました。

 ドアに薄く、隙間が空いていて、そこから話し声が聞こえてくるのです。

 その声は、私の婚約者のオリバー様の声と私の義妹の声でした。
 話していることはわかりませんでしたが、義妹のクスクスと笑う声だけはよく聞こえました。

 どうして私の婚約者が義妹の部屋にいるのか、何故淑女の部屋に訪問しているのに扉を閉め切っているのか……。最悪な想像が、私の頭の中を駆け巡りました。
 でも彼ならそんなことはしないと、私は心の何処かできっと信じていたのでしょうね。

 そうして、私は義妹の部屋の扉に手をかけてしまったのです。

 これは私が頭で望んでこのような行動をした訳ではないのです。ただ自然に体が動いて、いつの間にか義妹の部屋の扉を開けてしまったのです。……言い訳のように聞こえますが、これは真のことなのです。
  
 部屋の中には、義妹の派手なピンク色のベッドの上で、ドレスが乱れている義妹のエイミーと荒い息をしながら義妹に激しいキスをしているオリバー様がいました。
 何をしようとしていたのかは一目瞭然でした。あの慣れた手つきから、2人が逢瀬をしたのも初めてではないのでしょう。

 私はそれをみて、心の中で何故か冷めた目でこの光景を見ている自分に驚きを隠せませんでした。
 ショックで何も考えらなかったせいでそうなってしまったのかもしれません。


 そして、どれほどの時間が経ったのでしょうか。きっと1、2分のことだったのですが、私には2時間ほどに感じられました。
 キスを終え、次の段階に入ろうとした2人が、私の存在に気付いたのです。
 エイミーの体に跨っていた体制をすぐさま直し、驚きで目を見開くオリバー様と、情欲の篭った目でオリバー様を一瞬見た後、この状況にやっと気づいて乱れたドレスを直そうとしているエイミー。

 オリバー様は私に言いました。

「ち、違うんだ!! 誤解だ! 本当に愛しているのは君だけなんだ、違う、違う、これは事故だ!!!」

 エイミーは私の顔をじっくりと見て、ドレスの胸元の乱れを細い指で直しながら一言こう言いました。

 「ごめんなさい、お義姉様。」

 真っ赤で妖艶な唇は、薄く弧を描いておりました。
 エイミーがこう言う以上、きっとこれは事故ではない……。事故だと言うには信じがたい状況だったのです。
 私は初めて絶望というものを知りました。
 今まで信じていた相手に裏切られる悲しさを知りました。

 
 私はオリバー様をお慕いしていたのです。それはもう、彼の為なら全てを差し出してもいいほどに。
 そして彼も、私に沢山の愛の言葉を囁き、いつも愛を伝え、抱きしめてくださいました。
 私達は、お互いが8歳の時から婚約者同士だったのです。
  それをエイミーはいとも簡単に、その関係を壊してしまいました。
  今まで築き上げてきた信頼も、愛も、何もかもを。
  ぐちゃぐちゃにして、引っ掻き回して、それを愉快そうに見るエイミー。
  玩具だと思って好き勝手をするのです。

 これは昔からのことでした。

 エイミーは私からお父様の愛情を奪いました。
 エイミーは私のお母様の悩みの種でした。
 エイミーは我儘で、私の好きなものを全て奪っていきました。
 エイミーは私の大好きなお友達も奪いました。
 エイミーは、私のものを全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部奪ってしまいました。








 私が一等大切にしていた、オリバー様まで。








私はオリバー様に愛されたかった…………。







 私はそこで、意識を失いました。


 最後に聞こえたのは、私が倒れているところを見たメイドの悲痛な叫び声と、医者を呼ぶ執事の声です。
 
その声を聞き、ぼんやりと私は思いました。
今日は空が真っ青で、こんなことが起きる日に相応しくないほど晴れているなと。











 


  
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