恋人を裏切り、富豪の公爵と結婚した令嬢はその瞳に何を映すか?

 ああ、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。もう、何もかもが嫌になってくる。
 私が悪女だと? 彼を捨てたと? 裏切ったと?
 何も知らないくせに噂を広める人たちも、私を愛しているフリをする夫にも嫌気がさす。

 メイドは今日も甲高い声で言うのだ。
 「旦那様からのプレゼントですよ! 奥様、愛されておりますね!」
 愛されてなんかいない。愛なんていらないし、私の夫だって私を愛していないのに。

 そう思っていても、私は逃げられない。
 どうしてかって? 
 ーー私が恋人を裏切って、今の夫と結婚したからよ。

 でも、みんなが言うの。私が悪女だって。恋人に飽きて、今の夫に乗り換えた身持ちの悪い女だって。
 ーー本当は違うのに。そんなに簡単なことじゃなかったのに。

 泣きじゃくりたくなるけど、私はそれを我慢して笑うの。

 ーーそうしたら、あの人が助けに来てくれるかもしれないから。
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