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本編

本当はね、 1

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 本当は、愛しているよ。
 誰よりも、他の誰かと比べてはいけないほど。
 シャーロット、君だけをずっと。

 いくら娼館に通ったって、誰を抱きしめて愛を囁いたって、それは君の代わりのすぎない。
 こう言っていることが酷い事というのは分かっているけれど、俺は君しか愛せない。
 君が気にすることはないんだよ。
 君は俺の全てだし、君がいなかったら俺は狂ってしまう。
 君は俺が見つけた初めての宝物だから。
 屋敷に閉じ込めて、俺の側にずっといて欲しいんだ。

 俺は誰よりも君を愛しているからね。
 
 だから君にも愛して欲しいんだ。

 俺が求める最上の愛を下さい。
 それ以上俺が望むものはないよ。


 君は、俺のことをどう思っているのかな。
 
 俺のこのドロドロとした醜い感情を知ったら、君は逃げて行くだろうか?

 きっとそうだろうね。

 でも、君は俺に着いて来てくれると言った。神の前で誓った・・・・・・・だろう?
 だから、死んでも離さないよ。




 シャーロット、死んだって俺達は一緒だろう?




















 もの心ついた頃には父は優しくなんてなかったし、母は愛人とよろしくやっていた。
 父が俺に向けるのは蔑んだ様な目と、硬い握り拳や鞭、よく磨かれた靴を履いた足と心底失望したというような棘のある言葉だけだった。
 母は若い恋人や年上の愛人を囲って、俺に見向きもしなかった。関心すらも向けなかったし、家の中で会ってもきょとんとした顔でいるだけだった。そうして、気づいたら家からいなくなって、一日中どこかへ行っていた。
 そんな環境で、外に触れる事もなく俺は育った。
 義務としてお茶会などに出る事があっても、誰かと仲良くなることはなかった。


 屋敷ではずっと1人で、家庭教師には説教ばかりさせられる。
 年相応の勉強なんてしてくれなかったから、俺は年と随分とかけ離れた難しい課題ばかりが与えられた。
 それができなかったら父の部屋に呼び出されて、人間としての価値を下げられる。

 俺にとって毎日とはただ苦しいだけのものだった。
 
 俺は縋るものが欲しかった。
 甘えられるような人は誰一人としてしなかったし、既に自分がそういうものを持ってはいけないのだと学んでいたから希望を持つことはできなかったけれど。

 
 ただ、ある時家庭教師が教えてくれた『神』の存在が俺を救ってくれた。
 あれが俺に生きる希望を与えてくれた。

 偉大で素晴らしい神は、俺が呼びかけると答えてくれる様に感じた。
 誰にも与えられたことのない慈悲の言葉を掛けてくれて、無償の愛をくれたような気がした。
 今まで認められなかった事も全て、俺は努力してきてそうだったのだと認めてくれるように感じた。

 母からも父からも誰からも与えられることのなかったものを、神は全て満たしてくれた。
 美しい女神は、俺の母親の代わりになった。
 父が俺に与えた酷い痣も、切り傷も全て癒してくれるような気がした。

 でも、そんな事に酔っていられたのは最初だけだった。
 俺はだんだんとその言葉をかけられないような気がして来て、慈悲深い神にまで価値がないと見なされているように思った。

 それでも、俺はそれを失いたくなかった。
 どうすればいいんだ、毎日暇さえあればそればかり考えた。

 そして、家の図書室で見つけたのは、人身御供についての本。
 人を神に捧げる代わりに願いを叶えてもらえる。

 (そうだ、愛を貰うにはそれに見合った代償が必要なのだろう)

 その事に、何故か納得した。
 父も俺が何かを完璧にこなした日だけ、俺に何もしなかったからかもしれない。

 俺が初めに捧げたのは、強い祈りだった。
 
 ジェームズはそんな俺を不思議そうにじっと見ていたけれど、そんなことは気にせずに祈り続けた。
 そうすれば神は再び俺に救いの手を差し伸べてくれた。

 それに縋って、いつのまにかそれが無くなって、それに縋りたくてまた祈る。
 日々はその繰り返しだった。

 それが全てで、それが無ければ生きていけないほどに、俺は神の手を求めた。
 俺に寄り添ってくれ、とずっと言い続けた。
 ずっとずっと側にいてくれる人などいないとわかっていたから、だからその存在への憧れを向けた。



 俺は孤独は嫌いだ。
 あれには耐えられない。




 小さい頃から母は屋敷にいなかった。
 だから、ずっと遠くから母を見つめているだけ。
 母に絵本を読んでくれた思い出なんて一度もないし、抱きしめられた事も記憶にない。母から何かをもらったことは一度もない。思い出なんてものがあったら笑ってしまうほどだ。あの人・・・がそんなものをくれないことくらい、俺が一番知っている。
 貴族がよくやる、子供に与える上部の愛や見せかけの愛も俺にくれなかった。

 小さかった俺は、いつかそういうものをくれるのだと信じていた。
 少し大きくなれば、そんなものが永遠に叶わないことくらいすぐにわかったけどね。

 俺が10になった頃、母親は出て行った。
 謝りもせず、何も残さずに、いつも通り遊びに行くような格好をして屋敷から出て行った。
 でも、出て行く1ヶ月程前まではやけに機嫌が良かった気がする。
 使用人と話しをして笑っている声を、よく聞いた。
 遠くでいつもその声を聞いていた。
 今から振り返れば、俺は母と親子らしい会話をしたこともないなと思う。
 母にとって俺とはそういう存在だったのだろう。
 父は出て行った母を見て呆れ、母の部屋にあったものを全て燃やしてしまった。
 ジェームズも使用人も、そのことのついて一切何も話さない。
 父からは、お前に母親などいなかったと言われた。
 その頃から父は、俺に暴力を振るう事もなくなった。母がいなくなった俺に残ったのは、変に優しい父親だけだった。
 それが求めていたものだった気がしたのに、なにかが違う気がした。
 何故か心の中にぽっかりと穴が空いている気がした。


 母は最後まで俺に何もくれなかった。

 ティースプーン一杯分の愛すらも愛人に与えるものであって、俺に与えるものではなかった。

 最後だって、自分の子供のことなど何も考えずに行ってしまった。

 
 はお母様を愛していたのに。



 お母様と呼び続けても相手をせずに誰かへ手紙を書き続けていた母と、許してと言い続けても許してくれず、俺に鋭い目を向ける父。
 使用人は自分の仕事に夢中になっているふり・・をする。
 乳母はすぐに出て行った。
 家庭教師は俺を知識を詰め込む入れ物だとしか思っていない。



 ずっと、1人だった。





 だから、神様に側にいて欲しかったんだ。






 12歳になった時に、俺は周りから向けられる不審な目に気がついた。
 皆がみんな俺のことを気味が悪そうな目で見ている。
 目には緊張が走っていて、どこか俺に怯えているような。


 ここまで神に執着することを気持ち悪そうに見ているのだとすぐにわかった。
 でも、誰もそれを止めようとはしなかったし、代わりの物も与えてくれなかった。

 ただ、俺のすることをじっと見ているだけ。
 やっぱりずっと一人なのだろう。誰も俺に関心すらも向けてくれない。
 母と同じ、感情の読み取れないような目でじっと見てくるだけ。










 ねえ誰か、の相手をしてよ。
 それが誰だったとしてもいいからさ。









 そんな時、俺は見つけた。
 
 面白い玩具を。









 
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