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172話 夏君と莉子

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 あれから1か月経って、ようやく莉子は完全に元に戻ったようだ。すごく元気になった。大学にも復帰して普通に通学できるようになったんだ。

1つ違うことは、莉子にいろいろあったので、心配して夏君が大学の送り迎えをしてくれるようになったことだ。この前の莉子の行方不明がすごく堪えたらしい。それならいっそ送迎した方がマシなんだって。ふっ

夏君が莉子をひそかに愛しているのは知っている。だからちょっと迷ったんだけど、莉子の身の安全を第一に考えて頼むことにした。俺だって少なくとも莉子が行方不明になる心配はしなくて済む。

一人の女性を守るということは、中々自分だけの力では無理なこともある。それに莉子と俺の結びつきは莉子が8歳の時からだから、そう簡単に壊れるものではない。だから莉子を信じて夏君に託したんだ。

もちろん夏君を信頼していればこそだよ。本当に彼は愛情深い青年だ。時々、俺がいなくても大丈夫だなと思うことがあるくらいだ。(笑)

残念なことと言えば、莉子がまだ妊娠していない。 せっせと子作りには励んでいるんだけど、こればかりはうまくいかないんだ。莉子の病気は妊娠する可能性が低いんだからしょうがない。一番つらいのは莉子自身だ。

やがて莉子たちが帰ってきた。「お兄さん、ただいま」と夏君は言った。もう家族みたいなものだね。「ああ、お帰り、ありがとうな。コーヒーでも飲むか?莉子は何を飲むの?」と二人に聞くと「はい、ありがとうございます、コーヒーを頂きます」 莉子は?「う~ん。紅茶にする」OK。アップルパイがあるよ。温めるからね。

「今日の莉子は大学で元気だったのかな?」と聞くと、夏君が「はい、大丈夫でした。4限目が休講になったので、ストレッチをして、テニスを少し練習しました。大分体力が戻りましたね。あと、テストが近いので、その対策ですね」

「フフフ、なんか秘策でもあるの?」と聞くと、嬉しそうに「莉子が休んでいた分が遅れているので、その穴埋めですね。俺は一応クラスでトップなんで。エへへへ」 ほう~そりゃすごいな。実に頼もしいよ。

莉子、良かったな。勉強まで見てもらって頑張れよ。というと、「はーい!」と言いながら、無心になってアップルパイを食べていた。全く......。こんな感じで、今や俺は夫ではなく、父親的存在になっている。ふっ、それも考え方次第だよね。

家庭教師の小川先生は海外で研修中だから、夏君が勉強を見てくれるなら助かるよ。

夜、俺はソファに横になっていた。莉子、おいでと呼んでラッコしようというと、胸に飛び込んでくる。かわいい。

俺の胸にぴったりと顔をくっつけて匂いを嗅いでいるよ。くんくんという感じで「犬になったの?」と聞くと、「ワン」と吠えたよ。全く.......。

莉子、こうして二人でいる時間が一番好きだよと言いながら、髪を撫でていると、莉子が「春ちゃん、なんだか私は寂しいよ」と悲しげに言う。

どうしたの?「春ちゃんはどうして私を夏君とくっつけたがるの?私は寂しいよ」

そうか、ごめんね。そうじゃないよ。くっつけたいんじゃないよ。莉子が大事だから、俺の不足分を彼に託しているんだよ。

俺は誰よりの莉子を愛しているし大事にしたいけど、仕事に行っている間は見てやれないから、不安になるんだ。

夏君の事、嫌いか?「ううん、嫌いじゃない。好き」じゃあ、それでいいんだよ。独占するだけが愛情じゃないんだ。愛している人を守ること。それが一番大事だ。夏君も莉子を守りたいと思っているんだよ。

もし嫌なら夏君の方からきっと離れていくと思うから、そばにいてくれる間は甘えていいと思うよ。ただ俺は誰にも強制はしていないよ。自然のままでいいかなと思っているんだ。莉子はどう思う?俺にやきもちを妬いて欲しいの?

「うう~んと、分かんない。でも妬いて欲しいかも......」よし分かった!ベッドで嫌というほど身体に分からせてやるよ。それでいいか?行くぞ!と俺は莉子を抱いてベッドに行った。
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